一人ひとりの可能性を信じ、それぞれの考え方や意見をリスペクトする気持ちがなければ「言える化」という土壌を育むことはできない (遠藤功、早稲田大学ビジネススクール教授)
◆イノベーションにとってもっとも重要な質問は?
一昔前ならイノベーションは、
「この技術で何ができるか」
「この技術がもたらすインパクトは何か」
といった質問から始まっていた。技術が主役だったわけだが、今はイノベーションの主役は技術ではない。では、技術に変わる主役は何か。顧客であり、ユーザーである。その意味で、イノベーションにとってもっとも重要な質問は「誰」という質問だ。
ここで言っているユーザーとは、顧客だけはなく
顧客、見込み客、ブランドのファン、パートナー、従業員、インフルエンサー
など自分たちとの交流を持つ人すべてを指している。これはアーロン・シャピロによる定義である。
アーロン・シャピロ(萩原 雅之監訳、梶原 健司、伊藤 富雄訳)「USERS 顧客主義の終焉と企業の命運を左右する7つの戦略」、翔泳社(2013)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4798130923/opc-22/ref=nosim
◆創造性を解放する
前回は、思い込みや暗黙の前提を打ち破る質問について考えてみた。
スタンフォード大学で、プロダクトデザインの名物講座を持つジェイムズ・アダムス教授は、人間は生まれつき創造力を持っているが発揮できない。その理由は、知覚、感情、文化、環境、知性、表現などのさまざまな心理的障壁であり、それを取り除いてやれば創造力は自然に発揮されるようになるということで、障壁を取り除くさまざまな方法を紹介した本を書いた。
「メンタル・ブロックバスター―知覚、感情、文化、環境、知性、表現」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4833420430/opc-22/ref=nosim
という本だ。この中でも質問が使われている。興味がある人はぜひ、読んでみてほしい。
イノベーションに質問を使う基本的な目的の2つ目は問題発見だ。
◆T型人材ではなく、Π型人材になれという教え
大学の同級生や新卒で就職した企業の同期がそろそろ、役職定年になっている。会うとまだあと10年と言う話しと同時に、やはり、人生を振り返って的な話になる。先日もあるIT企業で役員まで務めた友人Aと人生振返って的な話をしていた。そのときに、面白い議論になった。
大学(工学部システム工学科)を卒業するときに2つのことを言われた。ひとつは農耕民族ではなく、騎馬民族になれということ。もう一つは、T型人材ではなく、二つ以上の専門性を持つΠ型人材になれということだ。
面白い話しとは、後者に関わる話。それを紹介する前に、まずT型人材について少し論じておきたい。
システムエンジニアはT型の人材でなくてはならないというのはよく言われる。ひとつの柱になる専門の深いスキルと、複数の分野にまたがる浅く広い知識である。専門分野というのはどのようなものでもよい。たとえば、著者が卒業した大学だと、機械工学、流体工学、メカトロニクス、制御工学、情報工学、経営工学などの専門の先生がいた。これはいずれもシステムエンジニアとして柱になるスキルだ。
もちろん、工学である必要はない。これまで知り合った有能なシステムエンジニアで、文系の人は少なくないし、一番変わり種で司法試験を通っていてシステムエンジニアをやっているとおいう人もいる。
◆コンフリクトにどう対処するか
世の中は矛盾(コンフリクト)に満ちています。あなたのお客様も決して例外ではありません。時として、矛盾に満ち溢れたことを言ってきます。
たとえば、あなたの会社は顧客から技術力を買われて長く取引をしています。新しい技術の導入には理解を示し、多少割高になってもあなたの会社から新しい技術を導入した製品を購入してきました。そして、この顧客の存在はあなたの会社が業界で技術リーダーの立場を占めるのに存在してきました。
ところが最近役員が代わり、新しい役員は、コスト削減に強い関心を示す人でした。ここで2つの考え方が生まれてきました。
ひとつは従来の顧客はあなたの会社の技術力を評価してくれているので、あなたの会社が技術革新を続けていけば、顧客との取引は長く続けることができるだろう。そして技術革新をすることは他の顧客への競争力にもなる。よって、技術革新こそ追求すべき目標だという考え方です。
もうひとつはここにきて出てきた考え方で、顧客はコスト削減を気にしているので、今の価格では顧客を失うことになる。この顧客だけはなく、多くの顧客がコスト削減を重視しているので、多くの顧客を失うことになる。よって、コスト削減に努め、価格競争力をつけるべきだという考え方です。
◆データを言語化し、本質を表現する
コンセプチュアルという言葉からは概念的な表現を連想するかもしれないが、コンセプチュアルのひとつの軸は、データと言語表現である。
目標を立てて仕事をすると、目標は計測可能なものであることが望ましい。したがって、数値で表現され、データとして蓄積され、分析の対象になる。ここまではいいと思う。問題はこの後だ。
データから何かを考えたり、決めたりするときには、言語化しなくてはならない。つまり、データに隠されている本質を言葉で表す。そして、以降は言葉を使って思考を行う。その意味で、言葉として表現することはコンセプチュアルな仕事術の基本中の基本である。
コンセプチュアルスキルのことを概念化スキルということがあるが、概念化するとは、言語化することに他ならない。
◆イノベーションを起こす方法
たとえば、あなたは画期的なイノベーションを起こしたいと思っているとします。そのアイデア出しをどのようにしますか?
デザイン思考を活用し、イメージを形にしながら新しいアイデアを生み出していく方法もあります。自分が思い浮かべるテーマに関連する人たちを集めて対話を繰り返すのも一つの方法かもしれません。キラークエスションを使うと言う方法もあるでしょう。この方法ならいいアイデアが生まれるという方法があれば、誰も苦労しないと愚痴の一つをこぼす人もいるかもしれません。実際に、創造とか革新、イノベーションをキーワードとする思考法や、活動体系は試しきれないくらいの数がありますが、このこと自体が有効な方法がない証拠かもしれません。
その中で、多くの方法や活動の共通するのが、今回のテーマである、抽象的に思考し、具体的な行動に落とすという考え方です。もちろん、これだけではありません。たとえば、この前に、現象を観察するとか、現象を分析するなどが入ることもありますし、抽象的な思考と具体的な行動を繰り返す場合もありますが、コアになるのは抽象的な思考と、具体的な行動です。
冒頭の問題で、イノベーションにおいて、抽象的に考え、具体的に行動するというのがどういうことか、シミュレーションしてみましょう。
好川哲人
技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。
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