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2007年6月 8日 (金)

【補助線】問題はなかったことにしよう

毎日、ニュースや報道バラエティで年金問題をやっている。

自民党の議員や民主党の議員がいろいろと説明している。自民党は節操のない方針変更はともかくとして、一貫して、細かいことよりは「とにかく大丈夫だ、任せてくれ。民主党さん、不安をあおるのはやめてくれ」と一貫していっている。これに対して民主党はあくまでも論理的に整合しないと国民は納得しないだろうというスタンスを貫いている。

両政党の政治的に立脚するところの違いか、単なる選挙のためのスタンスかは分からないが、結果としてどちらの言い分が通るかは非常に興味深い。

確かに、民主党のいうように、倫理的に整理しないと納得しない層が一定の割合でいる。この問題の、もう一人のプレイヤーであるマスコミは、今のところ、ここにフォーカスして報道しているように見える。

しかし、問題をなかったことにしたいと思っている人たちがいることも間違いない。当事者であることが分かっていないわけではない。当然、年金制度が破綻すれば自分たちが困ることはよく理解している。しかし、どういう問題が起っているかを知りたくない。できれば知らないままで、丸く収まってくれれば、ありがたい。万一、税金の投入でもしないと収まらないとしても、仕方ないと思うことにしよう。こんなマインドの人は、きっと論理的に納得したい人に匹敵するくらいいると思う。

これを単に当事者意識がないと批判するのは短絡過ぎる。

「日本沈没」という小説があったが、その中で、日本列島が沈み始めたときに、何もしないで日本列島と一緒に沈んでいくことを選ぶ意見を持つ有識者たちがいるという話が出てきた。これも本質的に同じ話しだ。このようなことを書ききった小松左京の人間観は興味深い。

ちょっと前に、宮崎県の裏金発覚で、「知らなかったことにしてくれ」といった定年を控えた出先機関のトップがいた。どんなタイプの人か分からないので、なんともいえないが、ひょっとすると、このトップも自分からは間違っても言わないが、誰かがリークし、それが自分の身に降りかかってくるのは運命だと思うある種の潔さは持っているかもしれない。このマインドはおそらく日本人に染み付いているマインドだと思う。

別に、役所に限ったことではない。組織の中でもこんな話はいくらでもある。感覚であるが、民間企業の管理職の半分以上はこのタイプではないかと思う。

また、必ずしも、上の人間に限ったことではない。実は下の人間も「これは知らせるべきことではない、知りたくもないだろう」といった調子でこのマインドを持ち合わせている。日本組織のアカウンタビリティが低い背後には、この不思議な利害関係の一致があるのだ。

これは、ある企業でシニアマネジャー(部長)から聞いた話。プロジェクトマネジメントの導入ステップが進み、リスクマネジメントの導入をする段になって、リスク分析などいらないと本気で言い出した。いわく

「リスク分析などすると、自分が知らなかったではすまなくなる。リスクがあるのは分かっている。でも、それも含めて、プロマネに飲み込んで欲しい。プロマネの骨は拾うし、まあ、そうなると自分の骨もまた、上の人に拾ってもらうことになるだろう」

半分くらいはプロジェクトを失敗したところで個人的に責任追及されるはずがないと高をくくっていっているのは間違いないが、半分くらいは本音ではないかと思う。注目したいのは、この部長、社内でも結構切れ者で通っているらしいが、この発言からも分かるようにリスクマネジメントの本質を実に的確に理解していることだ。その上で、言っているのだ。

実際に、このマネジャーが主催するプロジェクトレビューのミーティングに参加したことがあるが、見事なものでこの本音を地でいっている。

通常のレビューミーティングはプロジェクトには少なからず問題があるという前提でやるが、このマネジャーは問題がないという前提でレビューミーティングをしている。

例えば、こんな感じだ。

スケジュールが遅れているとしよう。これ自体は誰がみても問題である。このマネジャーもこれを否定するわけではない。予実を目の前にして、これは遅れていないことにしようと言い出すわけではない。

ところが、彼の頭の中では、「プロジェクトには問題はない」と思っている(思いたい)ので、目の前の問題を潰すことに意識を集中する。

ここで、プロマネがひと言、本質を突いた原因を言えばいいのだが、上の利害関係一致の構図で、「どうも、見積もりが甘かったみたいです」と何の根拠のない原因を語った上で、「すみません。もう1人メンバーを追加してもらえないですか」と来る。

これで件のマネジャーの顔は立つ。喜んで(というか、渋い顔をしながら、内心ほっとして)プロジェクトにもう一人、リソースを工面する。

かくして、プロジェクトマネジャーとマネジャー(スポンサー)の見事な一致協力で、問題はなかったことになる。

もっといえば、多くの場合、そのプロジェクトで問題が再発する(笑)。そんなプロジェクトは、「問題対応も適切にしたし、君はよくやったよ。いい経験したね」とシニアマネジャーからプロマネへのひと言の振返りとともに終結する。

これですべてが丸く収まる。このシニアマネジャーはプロマネの人事考課者なのだ。

最初はよそ事だと思っていた人もここまでくれば、相当な確率で思い当たる部分があるのではないだろうか?

「問題をなかったことにしていないか」を一度、点検してみてほしい。

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ものすごく勉強になりました。ありがとうございました。

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。