顧客満足編 Feed

2008年5月19日 (月)

【補助線】持続的動機づけは可能か?

プロジェクトメンバーのモチベーションを気にするプロジェクトマネジャーが増えている。このテーマで話をしていると、2つのタイプがいることがわかる。

箱の中で満足させようとするタイプと、箱の外を見せて満足させようとするタイプだ。前者は、プロジェクトの作業内容であるとか、作業環境に気を配り、楽しく仕事をしてもらうタイプである。後者はプロジェクトの成果に対する評価を向上させることによって満足させうようとするタイプである。

あなたはどちらだろうか?

前者と後者の絶対的な違いは状況をコントロールできるかどうかである。担当させる仕事とか、環境というのは、上位組織との条件闘争が必要になるにせよ、コントロール可能である。ところが、外部の評価というのは結果と出さない限り得られないし、評価指標すら、状況に応じて変わってしまうことも少なくない。

このような背景があるのだが、「お客に評価されても仕方ない」、「営業に評価されても仕方ない」といった(捨て)セリフを吐くプロマネは意外なくらい多い。このブログを読んでいる方はそんな行動はしないと思うが、心の中ではそう思ったことがある人は多いのではないかと思う。

どちらがいいかは火を見るより明らかである。メンバーを箱の中で満足させて、気持よく仕事をしている、そしてそれが結果的に外部の評価を受けたとしても、持続性はない。この種のマネジメントは麻薬と一緒で、その満足感がなくなると、動機が失われてしまう。結果として何をやってきたかというと、箱の中でメンバーが満足できるロジックを顧客に押し付けるという行動である。過剰な機能の提供、必要性の根拠に乏しい技術開発や新規技術の適用など。この辺まではご愛敬であるが、ここにたとえば、専門性を盾にとった予算水増し、納期の延長などが入ってくるともはや愛嬌では済まない。いくつく先はコンプライアンスの欠如である。これでは持続的になりようがない。

プロジェクトメンバーの動機を持続的に維持するための方法は、顧客満足と連動させるしかない。顧客満足が高めることを動機にする。顧客は満足すれば、要求レベルが上がる。そこでその要求レベルを達成することを動機にする。

このロジックには欠かせない要素がある。顧客満足に対する上位組織(組織内評価者)の評価である。

理想的な企業像は組織がそのような価値観を持っており、従業員は顧客を満足させれば評価も高くなる。しかし、現実には絵に描いた餅である。顧客満足を優先すれば、顧客の言いなりにならざるを得ない。すると、上位組織からは何をやっているのだということになり、評価は逆に低くなることが現実だろう。

この悪循環を断ち切る切り口はどこにあるのだろうか?

「もの」信仰を捨てることだ。上に述べた機能第一主義も結局はここにあるのだが、この悪循環は

 よいものを提供すれば顧客は満足する
   → 欲しがるものを提供すれば顧客は満足する

といった変化はあるものの、もの(商品)で満足させようという発想は全く変わっていないのだ。これをやっている限り、顧客の言うことなど聞こうものなら、コストは青天井になる。

ここを離れて、結局、顧客は何を欲しいのだろうという本質を考え抜く、そこにだけ、問題解決の糸口があるのではないだろうか?

2008年4月30日 (水)

【補助線】ディライトを提供できるのはプレミアムはプロジェクト

◆プレミアムとは

先日、パソナテック様のITプレミアムという事業のオープニングのセミナーの講師をした。事業内容はパソナテックのホームページを見て戴きたいのだが、こういう分野にプレミアムという概念が持ち込まれるようになったかと思い、多少、驚いた。

ベンツに乗って99円ショップに行くという比喩ではないが、最近の消費財(BtoC)の市場傾向として、二極化と、高級(プレミアム)と低級の使い分けという消費者行動が見られるようになってきたという指摘がよくされる。その中で中級だけが苦戦している。

この市場傾向はしばらく続くと思われるが、問題はプレミアム市場で日本企業はまったくの無力だということだ。プレミアム市場を圧巻しているのは海外企業で、ついでにいえば低級品市場ではもう中国にかなわない。そんな市場構造の中で、中級品のニーズがある海外市場で好況感がでているというのが今の日本企業だろう。

そんな中で、昨年、ローランド・ベルガー会長と早稲田大学教授という二足のわらじをはく遠藤功さんが、「では、どうすれば日本発のプレミアム商品を作れるのか?」をテーマに「プレミアム戦略」という本を書かれた。

プレミアム戦略

この本の中で遠藤氏はプレミアムを

 「プレミアム」=「機能的価値」+「情緒的価値」

と定義している。

◆プレミアム商品の作り方

そして、海外のプレミアムブランドは、「物語」や「ストーリー」などを駆使し、情緒的価値を作り上げているのに対して、日本のブランドには情緒的価値が希薄であると指摘している。

これまで、中級市場をメインにやってきた企業がプレミアム市場で成功するのは至難の業であるが、今後はなんとかやりきらなくてはならないのだろう。最近の取組で、このような取り組みで最も目につくのはやはり、レクサスである。海外では中級ブランドとして成功を収めているLexusを2005年に日本ではプレミアムブランドとしての展開を始めた。競合ターゲットは、BMW、メルセデス、アウディといったところだ。この取り組みの中では、立派なショールームを作り、きちんとした対応をするととにも、従来にはないメンテナンスサービスを提供遠藤氏の指摘する物語を重視している。

さて、ここで注目したいのは、この情緒的価値は消費材に限ったことかという話だ。

◆生産財におけるプレミアム

生産財では、当然ながら、機能的な価値を徹底的に追及する。機能的価値がその商品を使う顧客のビジネスの生産性に直結するためだ。ところが情緒的価値がないかというと決してそんなことはない。たとえば、信用である。

みなさんの会社にもいると思うが、顧客からの指名されるプロジェクトマネジャーというのは必ずいる。これは機能的価値が評価されているようにも思えるが、マネジメントは技術と比べると複雑であり、技術者が指名されるよりははるかに情緒的価値が高い。

ある企業が、この点に注目をし、指名されるプロジェクトマネジャーのコンピテンシーやスキルに着目し、プロジェクトマネジメント標準の中にプロセス、および、コンピテンシーとして含めたところ、要件定義の問題が発生したプロジェクトが当初の70%から、20%まで削減できたという事例がある。

これこそ、プレミアムである。このシリーズでずっと述べてきているディライトとプレミアムというのは強い関係がある。

ディライトを提供できるのはプレミアムはプロジェクトなのだ。

2008年4月14日 (月)

【補助線】顧客が満足するには対話が必要

◆顧客が満足するには対話が必要

「顧客が満足する」にはどうすればよいか?プロジェクト要求定義をしっかりとして、顧客の要求を適切に把握するといったところにすぐに行きつくかもしれない。しかし、これは「顧客を満足させる」ための方法にすぎない。

顧客が満足するには、「対話」が必要だ。

対話とは何か?「コミュニケーション」だと答える人もいると思うが、一般的な意味でのコミュニケーションではない。古代ギリシア時代に多くの哲学者により、弁証法という方法が考えられた。弁証法は、テーゼ(正)、アンチテーゼ(反)、および、それらを本質的に統合したジンテーゼ(合)の3つで思考を深めていく思考方法である。

手軽に弁証法のことを知りたい人は、僕が大ファンである仲正昌樹先生の

4479391703 仲正昌樹「知識だけあるバカになるな!」、大和書房(2008)

をお勧めしておく。

◆弁証法とディライト

弁証法と顧客が満足するディライトはどう関係があるのか?特に、ディライトという場合、ベンダーが画期的なことを考えて顧客が感動を生めばよいのではないかと思いがちである。

ちょっと脱線するが、リッツカールトンはなぜ、あんなにすばらしいサービスを提供できるのだろうか?全従業員がクレド(credo:リッツカールトンのサービスの基本精神をかいたカード)を持ち歩いているからか?従業員の誰もに、スイーツの宿泊費に相当するような裁量を与えているからか?もちろん、これらの仕組みは大切だが、何よりも大切なのは、顧客が中心にいて、顧客とのやり取り(対話)によってサービスが向上していくからだ。

初回に、期待と実績の話をし、期待と実績をバランスよく向上させていくのが顧客が満足する方法であり、ディライトを提供する方法だと述べた。そのためには、対話が必要なのだ。違う言い方をすれば、サービスを顧客と一緒に作り上げていくことによって、ディライトの提供が可能になる。

◆ウォーターフォール(一方通行)プロセスでは対話はできない

さて、プロジェクトの話に戻ろう。プロジェクトにおいて顧客が満足するにはどうすればよいか?言い換えると対話をするにはどうすればよいか?

ここで必要なのは、ウォーターフォール型のプロセスの精緻化ではない。いくら頑張っても一方通行のウォーターフォールプロセスでは顧客との対話を深めていくことはできない。顧客との対話によってスコープが決まっていくスパイラルプロセスが必要である。

顧客との対話を重視する場合に、何が必要か?対話は顧客から聞き出すことではない。顧客がこうしたい(テーゼ)といえば、それにはこういう問題がある(アンチテーゼ)と反論をする。ここから始まり、プロダクトの利用者は何が欲しいのか?、そもそも、この機能を持つことはどういう意味があるのか?などといった問答を繰り返し、最初は持っていなかった結論を生み出していく。このプロセスが弁証法による対話である。

◆対話には顧客中心型チームが必要

顧客がプロジェクトチームの外部にいる限り、対話は成り立たないのではないかと思う。顧客をプロジェクトチームの中、それも中心に座らせる必要がある。そして、対話を行いながら、顧客がプロジェクトを動かしていけるようにサポートを提供する。

そんなフォーメーションが必要である。このようなフォーメーションはCDT(Customer Driven Term;顧客中心型チーム))と呼ばれ、今後、プロジェクトマネジメントのやり方の一つになっていくと思われる。

2008年4月 7日 (月)

【補助線】「顧客が満足する」のか、「顧客を満足させる」のか

◆プロジェクトマネジメントはディライトを目指す

プロジェクトマネジメントを競争力強化のために導入したのだとすれば、目指すものは極めて明確だ。顧客満足ではなく、カスタマーディライトである。追って説明していくが、プロジェクトマネジメントの目的から展開していくマネジメントの考え方はディライトを実現するために最適であるといってもよい。

この議論をする前に、前回定義した顧客満足について、もう少し、深堀しておきたい。

◆「顧客が満足する」のか、「顧客を満足させる」のか

品質マネジメントにおける顧客満足活動というのは「顧客を満足させる」ことである。顧客を満足させるというのはどこまでいってもサービスや商品の「提供者の視点」での活動である。品質マネジメントにおける顧客満足は基本的に提供者の視点からの品質の一要素であるので、これはある意味、当然のことだ。

極論すれば、どれだけ満足するかについては顧客の「勝手」であり、提供者側はできるだけよいものを提供するように努力する。「結果」として顧客が満足するということだ。ここで「よいもの」の指標の一つに顧客がどれだけ満足しているかがあるが、それは、約束した機能が提供されているとか、約束した性能が実現されているといった品質指標の一つでしかない。

つまり、「顧客が満足する」ものを提供することを目的とする活動ではない。

一方で、顧客満足というのは、顧客を満足させることではない。「顧客が満足する」ことである。まず、ここの意識を変える必要がある。そのためには、「顧客の立場」で考えることが重要だ。たとえ品質であっても、顧客の立場に立った品質を作りこんでいかなくてはならない。

◆品質絶対は思考停止

以前、

品質絶対は思考停止

という記事を書いたが、この話はまさにそうだ。

ベンダー側からみた最高の品質は欠陥ゼロ(ゼロディフェクト)である。しかし、顧客が本当にそれを求めているかどうかは別である。これは納期とのトレードオフとか、製品原価とのトレードオフといったプロジェクト品質の問題を言っているわけではない。顧客はベンダーの考える品質に関心のないと言った方が正確だろう。顧客の立場からの品質は調達している製品により顧客自身の提供するサービスや商品の品質が高くなることである。調達する製品の品質がよかろうと悪かろうと関心がない。

ここを掛け違えて、顧客に提供する製品の品質レベルを決めてもらっているようなベンダーが少なくないが、そのようなベンダーは永遠に顧客の要求を正しく把握して、提供することなどできないだろう。それを行う唯一の方法は顧客の立場で考えることだけだからだ。

プロジェクト品質の議論では、ここにさらに、サービス要求が絡んでくる。つまり、納期だとか、原価、あるいは、コミュニケーション、ライフサイクルマネジメントなどである。そうすると、ますます、顧客が満足するのは何が満たされたときかを考えることが重要さを持ってくる。

◆何のためのプロジェクトマネジメントか?

多くの組織は「顧客を満足させる」ためにプロジェクトマネジメントを行っているが、これではディライトを目指すプロジェクトマネジメントとしては不十分である。ディライトを目指すためには「顧客が満足する」ことを目的としたプロジェクトマネジメントを行う必要がある。

【補助線】顧客満足とは何か?

◆顧客満足の定義

ISO9000の2000年版から品質マネジメント活動の一環として顧客満足の把握が要求されるようになり、製造業やITにも顧客満足という考え方は一挙に浸透してきた。ISO9000がうたっている顧客満足とは、

  顧客の要求事項が満たされている程度に関する顧客の受けとめ方

と定義されており、かなり、狭い意味でつかわれている。もう一つ、多くの企業に顧客満足という方向づけをしている活動にボルドリッジ賞を手本にして作られたといわれる日本経営品質賞があるが、この活動では「顧客満足の明確化」が求められ、顧客満足を

  顧客に期待以上の価値が提供されたときの、顧客の心理状況

と広い意味で捉えている。経営管理と品質管理という違いがあるので、このような違いが出てきているものと思われる。

◆顧客満足の評価

顧客満足の評価としては、リチャード・オリバー(Richard L.Oliver)が提唱している「期待不確認モデル(expectation - disconfirmation model)」がもっともよくつかわれている。このモデルでは、期待(E)と実績(P)に注目し、その大きさで顧客満足を評価している。

すなわち、

 E<P 満足
 E>P 不満足

と定義し、顧客満足度の把握(顧客満足度調査)においては、この関係を調査することに主眼を置いている。

このモデルを使うと、定義のところで述べた品質における顧客満足と、経営(製品やサービス)に対する顧客満足が異なることがよく分かる。ISO2000における顧客満足(ISO9000の顧客満足)というのは、E<Pの状態ではなく、E=Pである。E<Pだといわゆる過剰品質ということになる。これに対して、日本経営品質賞では

 E≦P

の状態を顧客満足だと言っていることになる。

◆顧客満足の背景

さて、品質マネジメントにおける顧客満足にしろ、経営活動における顧客満足にしろ、その背景にあるのは、顧客が不満を持っているという前提である。ある意味で、これらの活動は顧客を満足させるための活動というよりは、顧客の不満を解消するための活動だといった方が適切である。

ところが、最近の傾向として、顧客満足を不満足の解消ではなく、満足を高めるととらえる考え方が普及してきつつある。これは従来の顧客満足と区別するために、カスタマーディライトと呼ばれる。カスタマディライトはオリバーのモデルでいえばE<Pを言っているわけだが、単なるE<Pではない。顧客が期待する以上の品質やレベルの製品やサービスを提供することで、顧客に「歓びや感動」を与えることだと定義される。

つまり、顧客満足におけるE<Pとディライトは似て非なるものだと考えた方がよい。そのポイントはEのレベルにある。

◆顧客の期待

オリバーモデルでE<Pを作る方法の一つは顧客に高い期待を抱かせないことである。特に日本においては競争が規制されていたため、実際にいまでもそのようなマーケティング戦略を取る企業は多い。また、品質の面から顧客満足をとらえていく場合には期待を大きくすること自体が好ましくないと考える。これでは、仮にE<Pが実現できても顧客の不満足心理は残る。

顧客はPに対する理想(あるべき姿)を持っているからだ。

これに対してディライトというときの期待Eは、文字通り、顧客自身の体験を通じて想像しうる目一杯の期待である。そのような期待に対して、E<Pのパフォーマンスを実現するのがディライトである。

違う言い方をすれば、よい意味で顧客の予想外のサービスや製品を提供することである。予想外であるゆえに感動するのだ。このように期待を位置づけるときの最大のポイントは、人間は「二度目は感動が薄くなる」ということである。つまり、一度、体験をすることにより、目一杯の期待値は高まる。

この関係をよく理解した上で、プロジェクトマネジメントやプロジェクト品質における顧客満足とは何かという問題を考えてみる。

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。