議論 Feed

2008年2月22日 (金)

【補助線】アジャイルの逆機能

◆マックス・ウェーバーが官僚制組織の定義

ムック執筆の機会があり、久しぶりにプロジェクトマネジメント入門のような記事を書いた。その中で計画重視型プロジェクトマネジメントと行動重視型プロジェクトマネジメントの比較を行うと重い、多少のインタビューをした。その中で気がついたことがあるので、雑誌には書かない話を書いておく。

そのまえにちょっとうんちくを。社会学者マックス・ウェーバーが官僚制組織の定義をした。それによると、官僚制組織には
 1.成員の行動や組織運営を規定している規則の体系がある
 2.指揮・命令の系統がはっきりしている
 3.職務が分業化され専門分化している
 4.情緒を排除した没人格的な役割行動が求められる
 5.公私の区別が明確である
 6.文書化されたものをベースに仕事がなされる
の6つの特徴があるというものだ。ウェーバーは官僚制組織の利点を中心に議論しているので、表現方法も肯定的なものになっている。官僚制が大企業において必であるように、、プロジェクト組織においても必須だと考える人もいるだろう。だいたい、PMBOKはこの6つの点をクリアすることを念頭につくられていると考えておけばよいだろう。

◆ロバート・キング・マートンが官僚制組織の逆機能

これに対して、ロバート・キング・マートンが官僚制組織についてのマイナス点を指摘した。

・規則万能(例:規則に無いから出来ないという杓子定規の対応)
・責任回避・自己保身
・秘密主義
・画一的傾向
・権威主義的傾向(例:役所窓口などでの冷淡で横柄な対応)
・繁文縟礼(はんぶんじょくれい)(例:膨大な処理済文書の保管を専門とする部署が存在すること)
・セクショナリズム(例:縦割り政治や専門外の業務を避けようとするなどの閉鎖的傾向)(出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)

などがあるという指摘だ。

マートンはこれらを官僚制の逆機能と呼んだ。つまり、自分の職務に熱心であろうとすればあろうとするほど、よい官僚であろうとすればあろうとするほど、このような現象が起こりやすくなるというのだ。

官僚主義というのはあまりよい意味では使われていないが、逆機能が起こった結果、悪いイメージができている。

さて、官僚組織に限らず、こういう逆機能はよくある。

◆アジャイルの逆機能

前置きが長くなったが、アジャイルプロジェクトマネジメントについて、何人かにインタビューしているうちに感じたのが逆機能。

アジャイルスタイルであろうとするために、スコープ変更は受け付けたくないとか、一緒に仕事をしたことのないメンバーは入れたくないとか、顧客に口出しをしてほしくないとか、アジャイルをやるには予算が足らないとか、結構、こういう指摘をたくさんの人から聞いた。一様に、「アジャイルは万能ではない」といった枕詞をつけながら、、、、

こうして、だんだん、アジャイルの存在価値をなくしているという現実があることに気がついた。難しいなあ、、、

ちなみに、なぜ、こういうことが起こるかということを合理的に説明できる法則に、「ピーターの法則」という有名な法則がある。これは

「人々はあるヒエラルキー(階層社会)のなかで、昇進していくうちに、いつか無能レベルに到達する傾向がある」

という法則である。これについては、「なぜ、優秀なプロジェクトマネジャーが少ないのか」という別の記事を書いているので、参照してほしい。

2007年12月25日 (火)

【補助線】人を好きになろう!~愛と真心のプロジェクトマネジメント

◆近藤さんの人間愛

先日、PMAJ(日本プロジェクトマネジメント協会)のITベンチマーキングSIG「プロジェクトマネジャーの成功条件」の活動で、有限会社ウィンアンドウィンの近藤哲生さんのお話を聞く機会があった。近藤さんは

実用企業小説 プロジェクト・マネジメント

という本で、なかなか、理論的な本では言いにくいさまざまな考えを発表されている方で、僕も注目しているプロジェクトマネジメントコンサルタントの一人である。近藤さんの本を読んでみると、できそうでなかなかできないことが結構書いてある。たとえば、できる人を重用するというのは口でいうのは簡単だが、いざ、やろうとするとさまざまな壁にぶつかる。どうやって評価するのか、評価されなかった人はどうやって動機付けするのか、などなど。

実際にお話を聞いてみると、この本に書かれているようなことをご自身実践されているとのころ。どうすればできるようになるのでしょう?とおたずねした。近藤さんの考えはある意味で単純だった。

「人間愛」

だと断言されたのが印象的だった。

◆愛のないヒューマンスキルなどあり得ない

実は、このSIGもヒューマンスキルに注目しているのだが、最近、プロジェクトマネジャーのヒューマンスキルに注目する人が増えてきた。それはそれでいいことなのだが、どうも釈然としないものがある。それが、近藤さんの言葉でいえば、人間愛があるかどうかだ。僕たちは人が好きかどうかという言い方をしている。

たとえば、メンバーに動いてほしいとしよう。動機付けの方法とか、チームの雰囲気を作るとかいろいろなことをする。しかし、「愛」のない人がいくらやってもあまりよい結果を生まないように思う。

この違いが出てくるところは、「相手を味方だと思えるか」どうかだ。メンバーに動いてほしい。このときに、自分の味方になって動いてくれるだろうと思えるかどうかだ。この点について懐疑的な人は、どうしてもスキルに頼って動かそうとする。

こういう言い方をすると、現実的ではないとか、裏切られるに決まっているという人が結構多い。そう思うこと自体が味方だと考えられない証しだといえよう。

◆ステークホルダを味方になると考えられるか?

これが顕著なのが、ステークホルダマネジメントである。上司や顧客を本当に動かしたいと思うのであれば、まず、すべきことは、味方になると信じることである。ハリネズミにようによろいを身にまとっている限り、交渉も説得もすべて不毛なもののような気がする。
リーダーシップに関心を持つ人であれば、ケン・ブランチャードの名前は聞いたことがあると思う。ワンミニッツ(1分間)シリーズが多くの人に支持されている組織とリーダーシップのコンサルタントである。そのブランチャードが中心になって書いた

新・リーダーシップ教本―信頼と真心のマネジメント

という本がある。この本は、専門経営者と教授と牧師の3人がじっくり考え抜き、議論し、煮詰めたキリストに学ぶリーダーシップ論である。

何人ものリーダーやマネジャーにこの本を紹介してきたが、どうしても宗教的なにおいに引いてしまうようだ。例外なく、これは宗教的だという。しかし、(他)人を愛したり、好きになったりすることは、宗教とは別の次元の話である。

プロジェクトマネジャーは人を動かさないと仕事にならない。そのためには、Win-Winのような論理的な価値交換が必要なことはいうまでもない。しかし、これは人を愛すること、あるいは、人を好きになるといった感情的な関係を基盤として初めて成り立つ関係である。ビジネスの世界の話なので、愛があれば、お金など関係ないなどというつもりはない。そうではなく、論理的な取引が効力を発揮するために愛が必要なのだ。

ビジネスに感情的な関係を持ち込むのはいやだという人も少なくないだろう。もし、論理的な関係だけで済むのであればそれもよい。しかし、済まないから、コミュニケーションであり、ヒューマンスキルが注目されているのだ。

この領域に足を踏み込むのであれば、人間を愛する、人を好きになるといったことを一度真剣に考えてみる必要がある。

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。