◆戦略とは
多くのプロジェクトリーダーは戦略は、あまり身近なものではないと感じている。それは正しい側面と、誤解している側面の両面がある。
この議論をするにあたっては、まず、戦略と戦略思考の違いを明確にしておかなくてはならない。
戦略とは、もともと、軍事用語であり、(戦争に勝つために)戦場に到達するまでの段階で用いる計画である。これに対して、戦場に部隊を送り込んだ後の段階は戦術と呼ぶ。戦術とは、戦場で部隊をどう運用するかである。
このレベルの戦略を考えると、プロジェクトは戦術であり、プロジェクトを立ち上げるまでの経営レベルの計画が戦略ということになる。ゆえに、プロジェクトは戦略上の必要性に基づいて目的が決定され、その目的を実現する活動として実施されることになる。
では、プロジェクトを立ち上げたのちはどうだろう。プロジェクトリーダーに求められるのは、基本的にはプロジェクトにおいて、人・モノ・カネのリソースをどのように活用するかに関わるものであり、プロジェクトマネジメント計画という戦術を作り、実行していくことが求められる。
◆「情報を集めれば真実が見える」は正しい?
プロジェクトマネジャーが上位管理者に対して持つ不満の一つに、報告は求めるが、フィードバックがないという不満がある。つまり、報告は求めるが、行動はしないということだ。実はメンバーの中にもプロジェクトマネジャーに同じような見方をしている人も結構、多い。
なぜ、上位管理者は情報を欲しがるのか。直接的な動機は、さらに上位に報告するために必要だということに尽きると思うが、それにしても、この行動にはある前提がある。それは、
情報を集めれば真実が見える
という前提である。ついでもいっておくと、この前提に基づく行動の中で、目につくのは、情報共有である。情報共有をすることが自分の仕事にどんなメリットがあるかを明確に説明できる人は多くないだろう。
ここで疑問に思うのは、この前提は本当に正しいのかということだ。ものを決めて、行動しなくてはならないときに、先送りするのは情報が不十分だからであることは間違いない。問題は、どの程度の情報があれば十分なのかである。
◆オーナーシップとは
オーナーシップという概念がある。辞書を引くと、所有権、持ち主といった説明がされている。オーナーシップはさまざまなレベルに適用される概念だ。会社、プロ野球球団などのオーナーシップもあれば、会社の業務レベルのオーナーシップもある。あるいは、作業レベルのオーナーシップもあるし、少し、視点を変えれば、問題のオーナーシップという考え方もある。
会社や組織のオーナーシップというのはイメージがあると思うので、それ以外について少し、触れておく。まず、業務のレベルのオーナーシップであるが、その業務の進め方に関する決定権を持つ人である。たとえば、人事や、ファイナンス、マーケティングなどのオーナーシップはどこの会社にいっても明確だ。最近では情報システムや技術についてもオーナーシップを明確にしている会社も増えてきた。オーナーシップを持つ人は、チーフオフィサーと呼ばれ、CHO(人事)、CFO(財務)、CMO(マーケティング)、CIO(情報)、CTO(技術)などのロールが決められている。
プロジェクトマネジメントについても、チーフオフィサーを定めている組織が増えており、CPOと呼ばれている。
【PMスタイル考】第13話:プロジェクトマネジメントのオーナーシップ
https://mat.lekumo.biz/pmstyle/2010/09/style13.html
◆リスクと不確実性
不確実性という言葉がある。リスクではない。リスクとはその事象の発生が想定されるが、本当に起こるかどうかはわからないことを言う。リスクマネジメントでは、どの程度起こりそうかを確率としてあらわす。不確実性というのは、この確率が分からないケースである。
たとえば、プロジェクトリスクとして、プロジェクトでやらなくてはならない作業は過去に経験のあるもので、計画に対してメンバーのスキルの問題で、スケジュールが遅れる可能性があったとしよう。これは、過去の経験から類似プロジェクト(あるいは、タスク)の生産性の変動が起こる確率は予測できるので、リスクである。
ところが、その作業は全く経験がないし、過去のそのようなプロジェクトは例がないとする。すると、なにかまずいことが起こるかもしれないが、それがどのくらいの確率で起こるかすらわからない。これは不確実性になる。
いま、イノベーションが求めらています。イノベーションを実現するポイントは
(1)トップやシニアのビジョンと熱意
(2)ミドルの創造力と行動力
(3)現場の創造力と実行力
の3つだと言われます。
イノベーションにおいて、ミドルマネジャーが中核になるのは間違いありませんが、その道は2つあると思われます。ポイントは創造です。
一つは、創造は部下に任してしまうという方法です。部下の創造力を引き出し、さらには、その実現においても部下に権限委譲し、やらせる。自分は、社内の調整や、部下の支援を中心に動く。この場合、ミドルマネジャーの創造活動は、「質問」で行われます。部下のアイデアを喚起する質問を投げていく。言い換えると、課題を見つけ、どんどん、部下に投げていき、アイデアを求め、よいアイデアにリソースを投入していきます。
もう一つは、ミドルマネジャー自身が創造の中心になることです。みずから、どんどん、アイデアを出していきます。そして、部下を巻き込みながら、そのアイデアを実現していきます。
どちらの方法がよいかは一概には言えません。管理者に求められているものによっても違いますし、業務によっても違うと思いますし、組織風土によっても違うでしょう。
立場的にいえば、前者はスポンサーです。これに対して、後者は「プロジェティスタ」と呼ばれます。
この連載のリードは、2つの連載のリードになっています。一つは、「プロジェティスタ養成講座」、もう一つは「イノベーションを生み出すマネジメント」です。
では、ぼちぼち、書いていきますので、お楽しみください。
好川哲人
技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。
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