新 将命「伝説の外資トップが公開する 世界標準のNEMAWASHI(ネマワシ)の技術」、CCCメディアハウス(2014)
日本人は根回しがうまいと多くの人が思っている。実際に根回しなしには動かないので、根回しの巧拙が仕事の成果を決めるといっても過言ではない組織は多くある。根回しができる人は仕事もできるというのも現実である。
一方で、日本人はロビー活動が下手だ。東京オリンピック招致でこそ溜飲を下げたが、スポーツにしてもルール変更に常に泣かされているし、政治や経済活動でも、いいようにルールを決められ、ロビー活動は下手だという印象がついて回る。
このギャップは何だろうとずっと思っていたが、伝説の外資系経営者といわれる新さんのこの本を読んで、よく理由が分かった。やはり、ここでも日本でだけ通用するガラパゴス・ルールがあるらしい。この本は、グローバルに通用する根回し(日本的な根回しと区別する意味でNEMAWASHIと表記されている)とはどんなものかを解説している。
パディ・ミラー、トーマス・ウェデル=ウェデルスボルグ(平林 祥訳)「イノベーションは日々の仕事のなかに――価値ある変化のしかけ方」、英治出版(2014)
イノベーションはその重要性は古くから言われているが、なかなか、うまく実現できない課題である。そのため、偶発性(セレンディピティ)の産物だとか、組織ではなく卓越した個人が実現するものだといった説さえある。
この本は、イノベーションは特別なことではなく、奇をてらってもうまくいかない。日常業務の一環として行うことが成功させる方法であるということを前提に、世界最高峰ビジネススクールIESEのイノベーション実践法を解説した一冊である。
ヘンリー・ミンツバーグ(池村 千秋訳)「エッセンシャル版 ミンツバーグ マネジャー論」、日経BP社(2014)
ミンツバーグを最初に知ったのは、神戸大学のMBAコースで金井壽宏先生のゼミで、「マネジャーの仕事」という本を、すばらしいエスノグラフィーだと紹介されたことだった(確か、この本を読んで、エスノグラフィーを書くという課題が出された)。
ヘンリー ミンツバーグ(奥村 哲史訳、須貝 栄訳)「マネジャーの仕事」、白桃書房(1993)
このエスノグラフィーは非常にインパクトがあった。マネジャーというと、じっくりと落ち着いて熟考し、重要な決断をする仕事のようなイメージがあったが、ミンツバーグのエスノグラフィーによると全く違い、30分もまとまった時間がない仕事だと分かった。
ビジャイ・ゴビンダラジャン、クリス・トリンブル(花塚 恵訳)「世界トップ3の経営思想家による はじめる戦略~ビジネスで「新しいこと」をするために知っておくべきことのすべて~」、大和書房(2014)
「リバース・イノベーション」で知られるのビジャイ・ゴビンダラジャン、 クリス・トリンブルのコンビが書いた「Beyond the Idea: How to Execute Innovation in Any Organization」という本がある。
日本では
として翻訳されている。
この本、イノベーションの実行に焦点を当てた類書のない素晴らしい本で、事例もふんだんに取り上げられているのだが、紹介した人からは事例を読んでもぴんと来ないという意見が多い。イノベーションの本は、一般のビジネス書のように事例を自分たちの仕事でイメージするのは難しいからだろう。
日本でイノベーションがなかなか進展しない理由の一つは、新しいことをしなくてはならないイノベーションではほかの分野のように模倣が難しく、事例が役に立たないからだ。これがイノベーションという仕事の特性だと思われるが、このハードルの解消策を本として考えると、同じ目線でその本の中に入っていろいろと考えるような作り方が必要なのだと思う。疑似エスノグラフィーと言ってもいいだろう。
そのような作り方の一つの方法はストーリーとケーススタディであるが、「イノベーションを実行する」のストーリー版の本が出た。
楠木 建「「好き嫌い」と経営」、東洋経済新報社(2014)
「ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件」で知られる楠木建先生の対談集。
企業の戦略ストーリーの創造は経営者の直観やセンスに大きく依存している。
その根底には、その人を内部から突き動かす「好き嫌い」があるというのが楠木先生の仮説で、その後、その仮説を実証すべく、東洋経済の季刊誌Think!で「楠木教授の好き嫌い対談」という企画で特徴のある経営者と好き嫌いを巡る対談をするという連載があった。
それをまとめたのが本書である。
オリヴァー・ガスマン、サシャ・フリージケ(山内 めぐみ、黒川 亜矢子訳)「33の法則 イノベーション成功と失敗の理由」、さくら舎(2014)
教授、学者として活躍する二人の著者が、BMW、メルセデス・ベンツなどのドイツ企業の実例、日本やアメリカ企業のイノベーション、その他グローバルに進化し続ける企業の成功の秘訣を分析した一冊。
大きなテーマは、なぜ、大抵の企業は、似たり寄ったりの製品を提供してしまうのか? イノベーションの失敗と成功を分けるものは何か?
伊藤 穰一(狩野 綾子訳)「「ひらめき」を生む技術 (角川EPUB選書)」、KADOKAWA/角川学芸出版(2013)
MITメディアラボで伊藤穣一所長が自分の人脈をつなぎ各界の第一線で活躍するスペシャリスト達を呼んで、学生たちの前でディスカッションする「カンバセーション・シリーズ」の中から、伊藤さん自身が対談した4名の対談録に、伊藤さんの解説をつけた本。
刺激を受けるという点においては、まれにみる一冊だ。
好川哲人
技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。
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