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2014年7月 4日 (金)

【ブックレビュー】「好き嫌い」と経営

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楠木 建「「好き嫌い」と経営」、東洋経済新報社(2014)

ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件」で知られる楠木建先生の対談集。

企業の戦略ストーリーの創造は経営者の直観やセンスに大きく依存している。

その根底には、その人を内部から突き動かす「好き嫌い」があるというのが楠木先生の仮説で、その後、その仮説を実証すべく、東洋経済の季刊誌Think!で「楠木教授の好き嫌い対談」という企画で特徴のある経営者と好き嫌いを巡る対談をするという連載があった。

それをまとめたのが本書である。

この本を読んで改めて思ったのは、楠木先生はセンスがいいということ。好き嫌いの対極に良し悪しを持ってきているのだ。つまり、

「良し悪しではなく、好き嫌い」

が問題だという。そのロジックは以下のようなものだ。

仕事には誘因(インセンティブ)と動因(ドライバー)がある。経営者になるまでは誘因があるが、一旦経営者になってしまうと誘因はその地位を保つくらいしかなくなる。つまり、状態のリーダーになってしまう。経営者は行動のリーダーでなくてはならないが、そのためにはこれをやりたいという動因が必要である。

そして動因を形成する要因は「好き嫌い」である。今の経営は良し悪しが幅を利かせすぎている。好き嫌いで経営はできないが、好き嫌いを抜きにして経営はできない。

というわけで、14人の経営者と対談をしている。以下に、経営者と企業、その好き嫌いをピックアップしてみる。

01 永守重信(日本電産)
・好き 何でも一番、整理整頓、始末、いけず、人間、やくざ映画、
・嫌い フィクション、過去を振り返る、虚業

02 柳井正(ユニクロ)
・好き デカい商売、生活必需品、みんながびっくりすること
・嫌い 接待業、ニッチビジネス、雑貨、成長しない起業家

03 原田泳幸(マクドナルド 当時)
・好き 雷、大雨、クライシス
・嫌い 理屈から入ること、単純に良い悪いを決めること、

04 新浪剛史(ローソン会長 当時)
・好き  「嫌いなやつに嫌われる」こと、ハンズオン、自分でやる、弱い馬にのる、
     くだらない人を飛び越える
・嫌い 小売りという言葉、ひらめかない人、言っていることとやっていることが違う人

05 佐山展生(インテグラル)
・好き 切羽詰まった状態、挑戦、勝負、個人の名前で仕事をすること
・嫌い 「偉そうにする」のが嫌い、肩書きで判断する人

06 松本大(マネックス証券)
・好き 小トルク・高回転、体制に正面から挑戦する、高リスク、人が避けること
・嫌い 体制、強者、政治的駆け引きをする人

07 藤田晋(サイバーエージェント)
・好き 今に見てろよ!、勝負事、文章を書くこと、ハンズオン、変化すること
・嫌い パーティー、既得権益、新卒をとって育てる

08 重松理(ユナイテッド・アローズ)
・好き 一番好きなことを最初にやる、海、
・嫌い 体育会的ノリ、人を従わせる

09 出口治明(ライフネット生命)
・好き 活字、歴史、自然な人、素直な人
・嫌い 根拠のない価値観の押し付け、品格を語る人

10 石黒不二代(ネットイヤーグループ)
・好き 理系のギーク、試合、シリコンバレー、機能的なものを隠す
・嫌い 接待、多角経営、ビジネス書、伝記、ロールモデルという考え方

11 江幡哲也(オールアバウト)
・好き 図面引き、工夫すること、料理、人に教えること、雑学、体系化
・嫌い 人間関係のごたごた、フレームワーク

12 前澤友作(スタートトゥデイ)
・好き 自分との闘い、人を喜ばせる、びっくりさせる、幕張
・嫌い 競争、ダイバーシティ

13 星野佳路(星野リゾート)
・好き  スキー、目標設定、スピード感、フラットな文化、旅
・嫌い 暑さ、待つこと

14 大前研一(経営コンサルタント)
・好き その瞬時をエンジョイする、原理原則をはっきりする
・嫌い チームスポーツ、実質を伴わないもの、結婚式、「ストーリーとしての競争戦略」


どうだろか。少なくともビジネス雑誌とか新聞で見るその企業のイメージというレベルでは、確かに企業のイメージと、経営の好き嫌いは合っているように思う。

最後の対談に大前研一氏を掲載しているが、大前氏は以前より、経営にストーリーはない、当事者はそのときは懸命にやっているだけでそんなことは考えていない。振返ってストーリー化しているだけだという論者である。

大前氏の指摘ではないが、この対談集の好き嫌いを読んでも、はやりそう感じる部分が多々あった。つまり、うまく行ったことから価値観が生まれている部分がある。それも含めて好き嫌いなのかもしれないが。

好き嫌いだけ抽出して紹介したが、このメンバーから分かるように錚々たる対談であり、楠木先生のインタビューもうまく、好き嫌い以外に、一つの対談に何か所も示唆に富んだところがある。ぜひ、読んでみてほしい。

※追記

最後に、楠木先生自身のインタビューが載っており、経営における直観の話とか、クオリティ企業とオポチュニティ企業の話が載っています。

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。