プロジェクトスポンサーの秘密 Feed

2007年11月27日 (火)

【補助線】ウォークマンを作った日本人は、なぜiPodが作れなかったか

◆日本人はアイディアを大切にする。

ジェームズ・アンドリュー、ハロルド・サーキン(重竹尚基、遠藤真美、小池仁訳)「BCG流 成長へのイノベーション戦略」、ダイヤモンド社(2007)4270002719

いわゆる日本的企業のいまだに多くのミドルマネジャーやシニアマネジャーは、建前はともかく、本音の部分ではプロジェクトマネジメントや、MBA流のマネジメントを否定している人が多い。

国民性だの、現場主義だのいろいろな理由が言われているが、今まで、どれもあまり納得のいく理由ではなかった。それについてこの本に書かれていることはかなり納得できた。

日本人はアイディアを大切にする。この本のテーマであるイノベーションのような分野だけではなく、日常業務の中でも常にアイディアを出し、改善をしようとする。創造性に富んでいる。

一方で、アイディアに頼りすぎる傾向がある。大したアイディアではないと思えば、アイディアが受け入れなければすぐにあきらめる。諦めて次のアイディアを探す。よく言えば潔さがある。国の政策などはこの典型かもしれない。逆に良いアイディアだと思えば、受け入れなれなくてもしつこく粘る。

◆ウォークマンを作った日本人は、なぜiPodが作れなかったか?

この発想の原点は、「よいものは売れる」とかいった発想があると思われる。「提供者が満足できないものを売るのは不道徳だ」という発想さえもあるし、これらが社会的価値観になっていると言ってもよいだろう。

実は、この本の中で、ひとつの問題提起がある。日本の会社はなぜ、iPodを作れなかったかという問題提起だ。アイディアもあった(ICオーディオを最初に世に出したのはソニーである)。開発する能力もあったし、実際にソニーなどいくつかのメーカはアップルより先行して開発していた。しかし、実際に、ICオーディオの「ドミナントモデル(普及モデル)」を作ったのはアップルだった。

この指摘はこの本で初めてされたというわけではない。いろいろな分析がされている。アップル社のコアコンピタンスである商品デザインやインタフェースデザインが日本の企業にはなかったという人もいる。ネットワークで音楽を提供するというビジネスモデルが日本の企業にはできなかったという人もいる。いずれもそういう一面はあったのだろう。

この本が指摘するのは、アイディアをお金に換えるまでのマネジメントの違いである。アイディア実現の戦略能力の違いだということもできる。ソニーがICオーディオで消費者に対してやってきたことは、アイディアを提案し、受け入れられなければ新しいアイディアを提案する。このパターンで成功したのが、ウォークマンだったのだろう。

◆良いアイディアが売れるのではなく、売れたものがよいアイディアだというパラダイムシフトがプロジェクトマネジメント成熟のカギ

日本の組織はこの部分のマネジメントを放棄している組織が多いように思う。商品であればアイディア勝負ということになるが、商品開発に限ったことではない。事業でも、プロジェクトでも、計画(アイディア)に対して、それを何とかしようと強く思わない。日本人は責任を取らないという。一方で責任感が強いという評価もある。

責任感は強いのだが、アイディアや計画がうまくいくかどうかは「風まかせ」なのだ。マネジメントをしてうまくいかなければ、マネジメントの責任ということになるが、風まかせであれば、ある意味で責任のとりようがない。

ここにどうしても抜けないプロダクトアウトの発想がある。そのアイディアがよいかどうかを決めるのは、発案者や開発者ではない。市場であり、顧客である。その意味で、アイディアを自身で評価するのは「不遜」ではないかと思う。価値がわからなければわかってもらうという謙虚な姿勢がないので、マネジメントがないのではなかろうか。

プロジェクトマネジメントはアイディアを実現するための手法である。

2007年11月11日 (日)

【補助線】逆ピラミッドのプロジェクトマネジメント

◆資生堂のビューティーコンサルタント

僕がいつも泊っている汐留のホテルは、資生堂から近いこともあって、資生堂のビューティコンサルタント(BC)が研修などので本社を訪れる際の宿泊先になっているようだ。このホテルではニューヨークスタイルの朝食のサービスがあるのだが、同じような雰囲気の服装の女性 数十名と遭遇すると圧倒されてしまう(笑)。

資生堂の中では、BCは最前線で顧客と接する。単に化粧品を売るだけではなく、文字通り、「美」についてのコンサルティングをする存在である。資生堂の興味深いのは、池田守男前社長の時代に、逆ピラミッド型組織というのを社長が自ら提唱し、その実現に力を尽くしていることだ。

◆資生堂の逆ピラミッドは店頭起点

資生堂の逆ピラミッドは

お客様>店頭>BC>営業担当>支社長>本社/研究所/工場>社長

であり、「店頭起点」という、企業としての活動はすべて店頭に集約されるというコンセプトを実現すべく、組織上、上の立場の人が下に対して献身的に奉仕し、彼らの活動をスムーズに進めるという考え方である。

池田社長がこのような感がけかを持ち出したのは、経営改革が必要だったためで、店頭起点を実現することによって経営を変えようとしたわけだ。

このような考え方はそんなに特別なものではない。軍隊のように平時は極めてピラミッド型の組織ですら、いざ、戦争となると如何に現場が作戦を実行できるかという視点から組織の機能が組み替えられ、作戦を実行するために上位組織が前線に尽くしていくのが普通である。

ビジネスの組織も改革や革新にような非常時には現場を中心にした動きが求められるわけで、資生堂のやり方はその意味で合理的だと言える。

◆逆ピラミッドの2つのポイント

このやり方には2つのポイントがある。まず、一つ目はビジョン(あるいは組織のミッション)が明確になっていることである。これがない限り、絶対にこんなやり方はできない。このやり方はある意味で現場にすべてを託すやり方であり、上位組織が自分たちはどこを目指したいということが明確になっている必要がある。

ここがなければ、多くのIT企業にみられるように単なる現場の暴走になってしまう。

次に、そのミッションの達成をすべて現場にゆだねてしまうことだ。ただし、一般的にいえば、上位組織が持っている権限をすべて現場に委譲することはできないし、無理にやるのは統制上の問題もある。何を委譲しているかというと、ミッションを達成するための方法である。その方法を現場に委譲した上で彼らに尽くし、ミッション達成を実現していく。この中には、当然、現場でもできないこともあるが、そのような意志決定もあくまでも現場の動きに合わせて行っていく。

口でいうほどやさしいことではないが、このようなやり方をすれば、ミッションの達成のためには何をすべきかを一番よく知っている現場に主導権を委ねながらも、組織のリーダーとしてリーダーシップを発揮しながら進めていくことができる。これが逆ピラミッド型組織の基本的な発想である。

◆逆ピラミッドのプロジェクトマネジメント

Photo_2この逆ピラミッド組織こそ、組織のプロジェクトマネジメントに必要な組織ではないだろうか?

プロジェクトマネジャーはプロジェクトミッションをプロジェクト目標に落とし込み、メンバーにその達成をゆだねる。その際には、メンバーに奉仕する。もちろん、メンバーは顧客に対して奉仕する。プロジェクトスポンサーはプロジェクトミッションをプロジェクトマネジャーにきちんと伝えた上で、プロジェクトマネジャーに奉仕する。シニアマネジャーはプロジェクトスポンサーに奉仕する。エグゼクティブはミッションを決めるとともに、シニアマネジャーに奉仕する。このような逆ピラミッドの関係があって初めて、プロジェクトによって成果をあげることができるのでないだろうか?

今、なぜ、うまくいかないかということを考えてみると、ピラミッド構造になっているために、顧客とメンバーの間の成果に対する合意が、組織の中で減退してしまうのだ。

つまり、ちょっと頑張ればできるようなことに対して、組織は収益性だとかリスクだとかいろいろな理屈をつけて、梯子を外して言うからできない。そんなことはしていないという人も多いと思うので、もっとはっきり言っておくが不作為という梯子のはずし方をしている。

月並みなことばで言えば、プロジェクトマネジャーが前線で苦労しているのに、上位組織は内向きで対応すべきかどうかの意思決定をしている。組織の論理を優先すれば、プロジェクトが始ってから出てくる顧客の要求など対応するいわれのないものばかりだそう。

これがすべてだ。これをひっくり返すための逆ピラミッドは有効な方法である。プロジェクト起点の逆ピラミッドのプロジェクトマネジメントを組立てよう!

逆ピラミッド型組織

◆資生堂のビューティーコンサルタント

僕がいつも泊っている汐留のホテルは、資生堂から近いこともあって、資生堂のビューティコンサルタント(BC)が研修などので本社を訪れる際の宿泊先になっているようだ。このホテルではニューヨークスタイルの朝食のサービスがあるのだが、同じような雰囲気の服装の女性 数十名と遭遇すると圧倒されてしまう(笑)。

資生堂の中では、BCは最前線で顧客と接する。単に化粧品を売るだけではなく、文字通り、「美」についてのコンサルティングをする存在である。資生堂の興味深いのは、池田守男前社長の時代に、逆ピラミッド型組織というのを社長が自ら提唱し、その実現に力を尽くしていることだ。

◆資生堂の逆ピラミッドは店頭起点

資生堂の逆ピラミッドは

お客様>店頭>BC>営業担当>支社長>本社/研究所/工場>社長

であり、「店頭起点」という、企業としての活動はすべて店頭に集約されるというコンセプトを実現すべく、組織上、上の立場の人が下に対して献身的に奉仕し、彼らの活動をスムーズに進めるという考え方である。

池田社長がこのような感がけかを持ち出したのは、経営改革が必要だったためで、店頭起点を実現することによって経営を変えようとしたわけだ。

このような考え方はそんなに特別なものではない。軍隊のように平時は極めてピラミッド型の組織ですら、いざ、戦争となると如何に現場が作戦を実行できるかという視点から組織の機能が組み替えられ、作戦を実行するために上位組織が前線に尽くしていくのが普通である。

ビジネスの組織も改革や革新にような非常時には現場を中心にした動きが求められるわけで、資生堂のやり方はその意味で合理的だと言える。

◆逆ピラミッドの2つのポイント

このやり方には2つのポイントがある。まず、一つ目はビジョン(あるいは組織のミッション)が明確になっていることである。これがない限り、絶対にこんなやり方はできない。このやり方はある意味で現場にすべてを託すやり方であり、上位組織が自分たちはどこを目指したいということが明確になっている必要がある。

ここがなければ、多くのIT企業にみられるように単なる現場の暴走になってしまう。

次に、そのミッションの達成をすべて現場にゆだねてしまうことだ。ただし、一般的にいえば、上位組織が持っている権限をすべて現場に委譲することはできないし、無理にやるのは統制上の問題もある。何を委譲しているかというと、ミッションを達成するための方法である。その方法を現場に委譲した上で彼らに尽くし、ミッション達成を実現していく。この中には、当然、現場でもできないこともあるが、そのような意志決定もあくまでも現場の動きに合わせて行っていく。

口でいうほどやさしいことではないが、このようなやり方をすれば、ミッションの達成のためには何をすべきかを一番よく知っている現場に主導権を委ねながらも、組織のリーダーとしてリーダーシップを発揮しながら進めていくことができる。これが逆ピラミッド型組織の基本的な発想である。

◆逆ピラミッドのプロジェクトマネジメント

この逆ピラミッド組織こそ、組織のプロジェクトマネジメントに必要な組織ではないだろうか?

プロジェクトマネジャーはプロジェクトミッションをプロジェクト目標に落とし込み、メンバーにその達成をゆだねる。その際には、メンバーに奉仕する。もちろん、メンバーは顧客に対して奉仕する。プロジェクトスポンサーはプロジェクトミッションをプロジェクトマネジャーにきちんと伝えた上で、プロジェクトマネジャーに奉仕する。シニアマネジャーはプロジェクトスポンサーに奉仕する。エグゼクティブはミッションを決めるとともに、シニアマネジャーに奉仕する。このような逆ピラミッドの関係があって初めて、プロジェクトによって成果をあげることができるのでないだろうか?

今、なぜ、うまくいかないかということを考えてみると、ピラミッド構造になっているために、顧客とメンバーの間の成果に対する合意が、組織の中で減退してしまうのだ。

つまり、ちょっと頑張ればできるようなことに対して、組織は収益性だとかリスクだとかいろいろな理屈をつけて、梯子を外して言うからできない。そんなことはしていないという人も多いと思うので、もっとはっきり言っておくが不作為という梯子のはずし方をしている。

月並みなことばで言えば、プロジェクトマネジャーが前線で苦労しているのに、上位組織は内向きで対応すべきかどうかの意思決定をしている。組織の論理を優先すれば、プロジェクトが始ってから出てくる顧客の要求など対応するいわれのないものばかりだそう。

これがすべてだ。これをひっくり返すための逆ピラミッドは有効な方法である。プロジェクト起点の逆ピラミッドのプロジェクトマネジメントを組立てよう!

2007年11月 8日 (木)

誰が誰のために存在するのか?

 メンバーはプロマネのために存在する
 プロマネはメンバーのために存在する

あなたはどちらがしっくりきますか?

もうひとつ、プロジェクトマネジャーとプロジェクトスポンサー(プロジェクトオーナー)。

 プロマネははプロジェクトスポンサーのために存在する
 プロジェクトスポンサーはプロマネのために存在する

これはどちらがしっくりきますか?

コメントをお待ちしています。

2007年11月 5日 (月)

【補助線】PMBOKではプロジェクトXはできない

仮説「プロジェクトXにはプロジェクトマネジメントはないが、スポンサーシップがあった」

メルマガで少し、触れたが、日経BP社の谷島さんにプライベートセミナーの講演をして頂いた後でお話をしているときにこんな話になった。PM業界では、「プロジェクトXになりたくなければ、プロジェクトマネジメントをやれ」という話をみんながしていたが、谷島さんの話によると、この話はプロシードの西野さんが言い出して、谷島さんがこれを記事で書いたので、あっという間に広まってしまったのだという。

 プロジェクトXになりたくなければプロジェクトマネジメントをやれ

という指摘は極めて正しいと思う。

ただし、プロジェクトXというのは本当に悪いのか?言い出した人たちは、プロジェクトXに取り上げられたプロジェクトなど、苦境の連続で、最後に何とか成功したのは、偶然にすぎないという思いがあるのだと思う。

実は、メルマガをはじめて2~3年目くらいに10回くらいメルマガの読者とのコミュニティセミナーを行ったが、このときに、好川はこの指摘をしていた。

プロジェクトXになりたくなければプロジェクトマネジメントをやれというが、PMBOKプロジェクトマネジメントをやるとプロジェクトXになれないというべきではないか

と何回か言っている。その頃は、何となくそのように感じていて、コミュニティセミナーの気楽さからそのような発言をしていたのだが、今、改めて考えてみると、その時に思っていたものが何だったかよくわかる。

プロジェクトXを支える一貫したマネジメントはプロジェクトスポンサーシップである。もちろん、スポンサーシップとは付随的なものである。スポンサーシップだけでプロジェクトが進められるわけではない。また、PMBOKにはPMBOKのプロセスを前提にしたスポンサーシップがある。

しかし、プロジェクトXのスポンサーシップは明らかにそのようなスポンサーシップとは異質なものである。PMBOKの世界のスポンサーシップはいかにすれば失敗プロジェクトをなくすことができるかという考え方で組み立てられている。失敗プロジェクトをなくすというのは、「如何に失敗しないプロジェクト目標を掲げるか」という意味である。プロジェクト要求(Project requirement)からすればそれは、100%の要求実現にならなくてもかまわないという考え方が背景にある。ビジネスプロジェクトというのはそういうものだ。

これに対して、プロジェクトXのスポンサーシップは、如何にプロジェクト要求を100%実現するかという考え方で組み立てられている。プロジェクトXで取り上げらている多くのプロジェクトは、PMBOKのような卓越したマネジメント手法ではなく、卓越したスポンサーシップでプロジェクト要求を完全実現しているのだ。

そして、これはPMBOK的なプロジェクトマネジメントでは正しい考えとはいえない。上に述べたようにあくまでも失敗しないような目標やスコープの設定をすることこそが正しいのだ。

ゆえに、PMBOKではプロジェクトXは実現できない。

2007年9月30日 (日)

【補助線】何が起こるかわからないプロジェクトではエンパワーメントが必要

エンパワーメント

プロジェクトをプロジェクトマネジャーに任せることは組織的にはどういうことかをしっかりと考えてみたい。「ひとつ上のプロマネ。」ブログにも書いたが、議論のポイントは、エンパワーメントか権限委譲かである。

※「孤立するプロジェクトマネジャー」
   https://mat.lekumo.biz/ppf/2007/09/post_9184.html

ブログ「ひとつ上のプロマネ。」にも書いたが、プロジェクトをプロジェクトマネジャーに任せることは組織的にはどういうことかをしっかりと考えてみたい。

『ウィキペディア(Wikipedia)』の説明の冒頭に以下のような説明がある。

◆エンパワーメントとは何か

さて、最初に、エンパワーメントとは何かについて説明しておく。

『ウィキペディア(Wikipedia)』の説明の冒頭に以下のような説明がある。

エンパワーメント (エンパワメントとも、Empowerment) とは一般的には、個人や集団が自らの生活への統御感を獲得し、組織的、社会的、構造に外郭的な影響を与えるようになることであると定義される。

このように、もともと、エンパワーメントという概念は、社会学者ジョン・フリードマンが提唱した個に着目したソーシャルスキルであり、コミュニティの根底をなすものであった。

このようなエンパワーメントを最初にビジネスに持ち込んだのは、米国経営学会の論文誌に発表されたConger, J.A.,& R.N.Kanungoの論文

Conger, J.A.,& R.N.Kanungo, "The Empowerment Process : Integrating Theory and
Practice", Academy of Management Review, Vol.13, 1988, 471-482

だといわれている。この論文をきっかけに定説といえるような流れができた。

◆エンパワーメント=自律性を促す+支援する

ビジネスにおけるエンパワーメントの特徴は、「自律性を促し」、「支援する」ことにある。

ここで、「自律性を促す」というキーワードは、業務の遂行に当たってマネージャーが業務目標を明確に示す一方、その遂行方法については構成員の自主的な判断に委ねることをさしている。これはいわゆる「権限委譲」である。

ところがエンパワーメントという概念には、「支援する」という活動がついている。「支援する」とは、部下に具体的な指示や解決策を与えるのではなく、部下自身が問題点を発見したり、不足する能力を開発したりする「環境」を整えることをいう。

さて、冒頭の問題に戻る。プロジェクトをプロジェクトマネジャーに任せるというのは権限委譲なのか、エンパワーメントなのか?

こういうロジックが多い。

当社にはプロフェッショナル認定制度があり、プロジェクトを任せるプロジェクトマネジャーはすべてプロフェッショナルとして認定されている。したがって、精神的な面はともかく、業務的な側面では支援を必要としていない

つまり、権限委譲さえすれば、十分であるという認識だという。この認識が適切であるかどうかは、事業や業務の特性によって変わってくると思われるが、ひとつだけ述べておきたことがある。

◆何が起こるかわからないプロジェクトではエンパワーメントが必要

プロジェクトとは何が起こるかわからない。したがって、どんな問題が起こるかわからない。まず、最初に引っかかることは、その問題の発見できるだけのプロジェクトマネジャーの能力があるかどうか。ここは疑問だ。

次に、発見できたとして、その問題を解決するだけの能力を持つかどうかだ。

だから、プロジェクトを立ち上げるときに、組織全体でリスク分析を行い、起こりそうなリスクはすべてつぶしているというマネジャーもいるだろう。そのとおりである。すでにここで、権限委譲という枠を超えて、支援に入っている。それ以外にもすべき支援がある組織も多いのではなかろうか?

その意味では、やはり、プロジェクトマネジャーにプロジェクトを任せるというのはエンパワーメントなのである。

【今回の課題】

プロジェクトマネジャーにプロジェクトを任せるにあたって、どんな支援をすればよいのだろうか?

2007年9月12日 (水)

【補助線】プロジェクト・エグゼクティブ

こういう言葉が、あちこちで見られるようになってきた。PM養成マガジンでも、「エグゼクティブ版」を作った。

非常に単純に定義すれば、プロジェクト(マネジメント)エグゼクティブは、経営的な立場、あるいは組織的な立場で、プロジェクトマネジメントやプロジェクトを統制する立場の人である。例えば、プロジェクト予算の決定権を持つ人、デッドラインに決定権を持つ人といった意味合いである。つまりは、上位組織のマネジャーだということになる。

しかし、そもそもエグゼクティブとは何かと考え出すと話はややこしくなる。ドラッカー博士の本に「経営者の条件」という本がある。多くの著作を残したドラッカー博士の代表作といえる論文集だ。この論文のオリジナルタイトルは「The effective executive」である。

日経BP社の谷島宣之さんにお聞きした話だが、多くのドラッカー作品を翻訳した上田 惇生先生によると、会社役員などをさす言葉ではなく、「人(上司)に言われたこと以上の仕事をする人は新人であろうとエグゼクティブという」というところにドラッカーの真意があるという。従って、日本語では、「できる人」という言葉が適切なのではないかというのが上田先生の解釈だそうだ。

コウビルドには、executiveは

An executive is someone is employed by a "business" at a senior level. Executives decide what the business should do, and ensure that is done.

と説明されている。この説明の中のキーワードはsenior levelである。同じく、

The senior people in an organization or profession have the highest and most important jobs.

とある。

この説明をみればドラッカー博士や上田先生の言っていることはよくわかる。

さて、では、プロジェクトエグゼクティブとはどういう人か?プロジェクトに関して、言われた以上のことをやる人ということになる。この意味は多様である。

 ・言われた目標以上の成果を達成する人
 ・言われたスコープの範囲を超えて活動する人

となる。プロジェクト作業はともかく、プロジェクトマネジメントの作業は自分が担当範囲だといわれている範囲を超えないとなかなかうまく行かない。一般的なプロジェクトにおいて、プロジェクトマネジメントを行っているのは、プロジェクトマネジャー、プロジェクトスポンサー、プロジェクトマネジメントオフィス、シニアマネジャー、プロジェクトメンバーである。プロジェクトマネジメントがスムーズにいくためには、これらのプレイヤーのそれぞれが、自分の担当範囲を超えて、言われた以上のことをやる必要がある。

そのような動きができるプロジェクトステークホルダ(PMBOKでいうところの意味)をプロジェクトエグゼクティブというのだろう。

2007年7月16日 (月)

【補助線】プロジェクトが満たすべき前提条件

PMBOKの概念の中にプロジェクトの「前提条件」というのがある。たとえば、

・プロジェクト計画書に定義されてる通りにプロジェクト組織が構成される
・顧客はプロジェクトの遂行に協力する
・組織や顧客に関する課題解決はタイムリーに行われる

といったものだ。実はこれらは、誰もが疑おうとしないが、多くのプロジェクトで成立していない前提条件である。最近ではだいぶ知恵がついてきたので、これらをリスクとして扱うことが多い。前提条件の崩壊というのはそれこそ、プロジェクトを崩壊するリスクになりかねない。

多くの場合、前提条件というのはプロジェクトマネジャーは無関係なところで構成される話だ。従って、成り立つかどうかも、ある意味でプロジェクトマネジャーはコントロールできないことが多い。せいぜい、リスク要因としてあげて、監視しておくことが精一杯であるが、監視したところでコントロールできないのだから、どうにかなるものでもない。

では、かくも重要なプロジェクトの前提条件に対してもっとも影響を与える人は誰か。上の例を見てもらうとわかると思うが、上位管理者、顧客、および、ステークホルダである。

さて、逆の視点でみてみよう。プロジェクトをうまく進めるためには、「常識的に考えて必要な前提条件」というのがある。例えば、「プロジェクト要員は必要に応じて確保できる」という前提条件がある。これもなかなか、成立が難しい前提条件の一つだが、このような前提条件が崩れてしまうと、PMBOKというプロジェクトマネジメントの手法そのものの有効性が崩れてしまう。

そんなことはない。リスクとして考えておくべきだという意見もあるだろう。確かに、「十分なスキルを持った要員が必要に応じて確保できる」ということを前提条件にするのであればそれは前提条件が成立しないことをリスクとして考えておくべきだ。しかし、上の例は、前提条件の不成立を受け入れるということはプロジェクトマネジメントをしないということに他ならない。

言い換えると、目標を設定し、目標を達成するためのマネジメントが機能するためには一定の条件がある。実は、一番の前提条件は、「目標が達成可能である」ということなのだ。ここすら前提条件になっていないプロジェクトがときどきある。この議論を見積もりの議論だと思うと間違いだ。背景にある程度の見積もりがあることは間違いないが、見積もりというのは所詮「過去の実績に基づく推定」に過ぎない。従って、目標が達成できるかどうかと、見積もり上のつじつまがあうかどうかはそんなに一致しているものではない。「一致しないのでプロジェクトだ」という言い方もできる。むしろ、重要なのは、できそうだという点について主要ステークホルダの合意があることだ。これが「目標が達成可能」という状態の他ならない。

そのような意味で目標を捉えたときに、「目標が達成可能である」は不可欠の前提条件である。

これ以外の前提条件は、むしろ、不成立があったときにカバーすべき条件だといえなくもないが、ただ、プロジェクトマネジメントではやはり、前提にしているものがある。例えば、
 「計画書は実行されるようにメンバーも含むすべてのステークホルダが努力する」
 「計画通りに実行されればプロジェクトは企業に利益をもたらす」
といった前提条件がある。これが成り立たなければ、PMBOK流のプロジェクトマネジメントなど成り立たない。こういうのがマネジメントが機能するための一定の条件であり、マネジメントが機能しないというのはリスク以前の問題だ。

そのように考えると、このような前提条件のかなりの当事者は「プロジェクトスポンサー」や「組織の上位管理者」である。交渉責任や指導責任までを入れると、ほぼ、すべてについて責任を持つべきなのはこの2者になるだろう。例えば、SIの受注プロジェクトで当初から顧客に全く協力の意志がないとすればこれはプロジェクトマネジャーの責任とはいえない。受注をしてきた組織の上位管理者の責任である。

このようにマネジメント上、不可欠だと思われる前提条件をクリアするのがプロジェクト環境創りである。ここをしっかりとやっていくようなプロジェクト支援体制を作ることが急務である。

2007年7月 9日 (月)

【補助線】祇園・「置屋」のマネジメントに学ぶ

◆はじめに

2年くらい前に、ある講演でしゃべって、後日、主催者に電話で抗議をしてきた聴講者が出てきたので、封印している話がある。

 置屋発想で、プロジェクトマネジメントはうまく行く

という話。このメルマガの発刊を機に、封印を説きたい。

◆置屋とは何か

置屋というのは祇園にいけば普通に使っている言葉だが、一般にはなじみがないかもしれないので、ちょっと説明しておく。

置屋とは芸者が生活する場所である。置屋は部屋と食事を提供する「おかみ」と呼ばれる女主人によって仕切られている。芸者は15歳くらいでこの世界に入ってくると、まずは置屋に身を置き、そこで生活をしながら、芸や座敷でマナーを身に付けていく。置屋に入り、1年くらいたつと、舞妓になる。舞妓になると、先輩である芸子(芸妓)と一緒にお茶屋に呼ばれてお座敷に出て、お座敷での振る舞いを覚えると同時に、お客さんに顔を覚えてもらう。そして、5年もすれば芸子になっていく。

この過程で、舞妓時代の生活費、稽古代などを一切合財面倒を見るとともに、芸子になった後のマネジメントをするのがおかみである。特に芸子になったあとは、おかみは芸子の付加価値を高めることに全力を尽くすそうである。お客を選ぶ、お客や御茶屋との間にトラブルが発生すれば仲裁すると同時に、芸者としてのあり方を指導し続けていくらしい。

芸子全員というわけではないが、芸子の中には、いずれは自身の置屋を持って生きてこの世界で生きていく人もいる。つまり、次世代のおかみの育成に全力を尽くすそうだ。もちろん、そのことが自身の利益を最大化する方法に他ならない。

◆日本型経営は置屋経営である

日本組織では、従来、置屋のような経営が行われてきた。それが人を育て、また、事業や企業の成長、利益をもたらしてきた。高度成長期という構造的な成長時期が終わった際にこの経営の弊害が強調され、否定してきた。しかし、冷静に考えてみれば、単なる疲労制度であって、それが経営環境の変化と同時にやってきたのではないか?ここをもう一度、考え直してみる必要がある。

そのような思いが強くなってきたのは、米国式の経営の中で、スポンサーシップがだんだん重視されるようになってきたからだ。リーダーシップからスポンサーシップに重心が移ってきているといっている人も少なくない。日本企業ではリーダーシップの不足が叫ばれ、この10年くらい急速に関心が高まってきたが、置屋を見ればわかるように、日本の社会はリーダー社会ではなく、スポンサー社会である。リーダーシップよりスポンサーシップを重視してきた社会だ。今後、欧米型の経営もこちらに進んでいくのではないかと思われる。

置屋システムを

  芸者=プロジェクトマネジャー
  おかみ=プロジェクトスポンサー

と考えてみると、まさに、これからのプロジェクトマネジメントの考え方そのものだ。

◆置屋システムは専門力を高めるシステム

こういうスポンサーシップを中心にしたやり方は生ぬるいと思う人もいるかもしれない。しかし、それは大きな間違いだ。プレジデント社の「ビジネススクール流知的武装講座」の中に、神戸大学の加護野忠男教授の「京都・祇園に学ぶアンバンドリングという手法」という記事がある。これによると、多くの花街が衰退していく中で、祇園が残っているのは2つの秘密があるという。

ひとつは加護野先生がアンバンドリングと呼ぶコンセプトで、接客のサービスを徹底的に分解(アンバンドリング)し、アウトソーシングしている。京都は大阪や東京とは違って、御茶屋と置屋を分離している。一緒にすると一流の料亭に所属している芸子は芸を磨かなくても客が来るので、芸を磨かなくなる。ところが分離されていると、御茶屋(料亭)から声をかけてもらうために芸子でいるうちはずっと芸を磨くというのだ。

そして、もうひとつの秘密が、教育、特に基礎教育の充実だという。教育の中心におり、継続的に芸を磨くための支援をするのがやはりおかみである。舞やお囃子、お茶などのお稽古に行って夜はお座敷を務める忙しく動き回る芸子や舞妓の時間管理や雑務の代行などをしているのだ。

米国型の経営を見ていると、勝つまでは努力するが、勝ってしまえば果実の摘み取りにかかる。これも製品開発競争など全うな手段で行われている分にはよいが、M&Aでどんどんやっていると顧客には全く利益がない。ゆえにいつかは見捨てられる。この典型が自動車業界だろう。これに較べるとスポンサーシップを基盤として、常に顧客の方を向いている日本型経営はより進んだ経営だといえよう。

◆芸者遊びでベンチマーキングしてみよう!

このほかにも置屋にはプロジェクトマネジメントの成熟のために学ぶべきマネジメントがたくさんある。

例えば、置屋にはメンタリング制度があることだ。舞妓にはめいめい、修業中に手助けをしてくれる「姉さん」がついている。こうして芸者としての伝統的な知識は受け継がれていくのである。これも置屋という母娘、姉妹といった家族制度を基礎とした関係でもって成り立つ組織ならではのことだといえる。プロジェクトマネジャーはこのように育てたいものだ。

もうひとつ、置屋には面白い要素がある。幇間(「たいこ」)もやはり、置屋で属している。幇間は宴席やお座敷などの酒席において主や客の機嫌を取り、自ら芸を見せ、さらに芸者・舞妓を助けて場を盛り上げる専門職。これをPMOだといったら怒られるだろうか?
興味があれば、ぜひ、一度、祇園で遊んでみましょう。ちなみに、京都のしきたりで有名な「一見さんお断り」というのは、御茶屋の文化です。紹介者が必要です。

2007年6月11日 (月)

【補助線】人だけが成長し、組織が成長しないと、人はジレンマに陥る

ビジネスでは、「最後はひと」とか、「結局はひと」とかとよくいう。

いくら仕組みやルール、環境を作ってみてもそれを活用するのは人なので、人がそれらをうまくできるようにならないと何の意味もないという意味の言葉である。特に、人材育成の重要性を指摘する言葉として言われることが多い。

ところが、プロジェクトマネジメントの世界を見ていると、しばしば、十分な仕組み、ルール、環境を整えない中で、「最後はひと」だと言っているケースがある。

とりあえず、戦う武器(仕組み、環境など)がない。ひとこそ、それを補う存在である。そんなニュアンスで使われている。まるっきり、特攻隊である。

ビジネスにおいてひとが重要であることは間違いないが、ひとに対する過剰な依存は禁物である。マネジメントの放棄に繋がる。組織としての活動はよい仕組みや環境があって、はじめて、人が能力を発揮し、また成長する。そして、その成長がより仕組みや環境をよいものにする。この循環をつくることこそ、マネジメントの責任である。

ここで大切なポイントは

 ・人だけが成長し、組織が成長しないと、人はジレンマに陥る

ことである。このような状況はいたるところにある。つい最近も、知り合いがやっている中堅のSI企業で、この5年くらい一生懸命にプロジェクトマネジメントに取り組んできた部長が、会社をやめるという出来事が起り、社長から相談されたことがあった。

その社長の話はざっと以下のようなものだ。やめた部長(A部長)は、自社の成長のためにはプロジェクトマネジメントの定着が必要だと考え、取り組んできた。自身はいろいろと勉強し、PM手法を導入し、メンバーにもいろいろと教えて、ツールも自分なりに作ってきた。

その会社では、役員と部長がほとんどのプロジェクトのマネジャーを担当している。最近では、A部長に感化されて、一部の部長もプロジェクトマネジメントを行うようになってきたし、役員の一部も興味を持ち出した。ところが、一部の役員はまったく必要性を感じておらず、無関心。

A部長のプロジェクトのメンバーになったら、スケジュール以外にもいくつかの計画書を作り、それを使いながら、やっていく。メンバーも徐々にではあるが、計画してプロジェクトを進めることの重要性がわかってきだした。ところが、何人かの役員がプロマネを務めるプロジェクトに入ると、そんなものに時間を割いている時間があれば、開発作業をしろといわれる。かといって、そのようなプロマネのプロジェクトが必ず失敗するわけでもない。成功しているものも多い。

これでメンバーがジレンマに陥り、やめたり、部長に相談するという状態が続いたが、ついに、部長自身もイヤになったようで、やめていった。どうすればいいだろうか?

という相談だった。典型的な「人だけが成長し、組織が変わらないとジレンマに陥る」というケースだ。

なぜ、変わらないかという部分で、この社長自身のリーダーシップの問題は大きいと思われる。しかし、それ以上に大きいのは、役員や部長といったあたりが、組織が変わらなくても、個人が変われると思っている点だろう。これを変えなくてはならない。社長には変えていくためのリーダーシップが必要だ。

そんなことを思わせる話だった。では、社長はどういうリーダーシップを持てばよいのか?これについては別の記事に書くことにする。

2007年6月 8日 (金)

【補助線】問題はなかったことにしよう

毎日、ニュースや報道バラエティで年金問題をやっている。

自民党の議員や民主党の議員がいろいろと説明している。自民党は節操のない方針変更はともかくとして、一貫して、細かいことよりは「とにかく大丈夫だ、任せてくれ。民主党さん、不安をあおるのはやめてくれ」と一貫していっている。これに対して民主党はあくまでも論理的に整合しないと国民は納得しないだろうというスタンスを貫いている。

両政党の政治的に立脚するところの違いか、単なる選挙のためのスタンスかは分からないが、結果としてどちらの言い分が通るかは非常に興味深い。

確かに、民主党のいうように、倫理的に整理しないと納得しない層が一定の割合でいる。この問題の、もう一人のプレイヤーであるマスコミは、今のところ、ここにフォーカスして報道しているように見える。

しかし、問題をなかったことにしたいと思っている人たちがいることも間違いない。当事者であることが分かっていないわけではない。当然、年金制度が破綻すれば自分たちが困ることはよく理解している。しかし、どういう問題が起っているかを知りたくない。できれば知らないままで、丸く収まってくれれば、ありがたい。万一、税金の投入でもしないと収まらないとしても、仕方ないと思うことにしよう。こんなマインドの人は、きっと論理的に納得したい人に匹敵するくらいいると思う。

これを単に当事者意識がないと批判するのは短絡過ぎる。

「日本沈没」という小説があったが、その中で、日本列島が沈み始めたときに、何もしないで日本列島と一緒に沈んでいくことを選ぶ意見を持つ有識者たちがいるという話が出てきた。これも本質的に同じ話しだ。このようなことを書ききった小松左京の人間観は興味深い。

ちょっと前に、宮崎県の裏金発覚で、「知らなかったことにしてくれ」といった定年を控えた出先機関のトップがいた。どんなタイプの人か分からないので、なんともいえないが、ひょっとすると、このトップも自分からは間違っても言わないが、誰かがリークし、それが自分の身に降りかかってくるのは運命だと思うある種の潔さは持っているかもしれない。このマインドはおそらく日本人に染み付いているマインドだと思う。

別に、役所に限ったことではない。組織の中でもこんな話はいくらでもある。感覚であるが、民間企業の管理職の半分以上はこのタイプではないかと思う。

また、必ずしも、上の人間に限ったことではない。実は下の人間も「これは知らせるべきことではない、知りたくもないだろう」といった調子でこのマインドを持ち合わせている。日本組織のアカウンタビリティが低い背後には、この不思議な利害関係の一致があるのだ。

これは、ある企業でシニアマネジャー(部長)から聞いた話。プロジェクトマネジメントの導入ステップが進み、リスクマネジメントの導入をする段になって、リスク分析などいらないと本気で言い出した。いわく

「リスク分析などすると、自分が知らなかったではすまなくなる。リスクがあるのは分かっている。でも、それも含めて、プロマネに飲み込んで欲しい。プロマネの骨は拾うし、まあ、そうなると自分の骨もまた、上の人に拾ってもらうことになるだろう」

半分くらいはプロジェクトを失敗したところで個人的に責任追及されるはずがないと高をくくっていっているのは間違いないが、半分くらいは本音ではないかと思う。注目したいのは、この部長、社内でも結構切れ者で通っているらしいが、この発言からも分かるようにリスクマネジメントの本質を実に的確に理解していることだ。その上で、言っているのだ。

実際に、このマネジャーが主催するプロジェクトレビューのミーティングに参加したことがあるが、見事なものでこの本音を地でいっている。

通常のレビューミーティングはプロジェクトには少なからず問題があるという前提でやるが、このマネジャーは問題がないという前提でレビューミーティングをしている。

例えば、こんな感じだ。

スケジュールが遅れているとしよう。これ自体は誰がみても問題である。このマネジャーもこれを否定するわけではない。予実を目の前にして、これは遅れていないことにしようと言い出すわけではない。

ところが、彼の頭の中では、「プロジェクトには問題はない」と思っている(思いたい)ので、目の前の問題を潰すことに意識を集中する。

ここで、プロマネがひと言、本質を突いた原因を言えばいいのだが、上の利害関係一致の構図で、「どうも、見積もりが甘かったみたいです」と何の根拠のない原因を語った上で、「すみません。もう1人メンバーを追加してもらえないですか」と来る。

これで件のマネジャーの顔は立つ。喜んで(というか、渋い顔をしながら、内心ほっとして)プロジェクトにもう一人、リソースを工面する。

かくして、プロジェクトマネジャーとマネジャー(スポンサー)の見事な一致協力で、問題はなかったことになる。

もっといえば、多くの場合、そのプロジェクトで問題が再発する(笑)。そんなプロジェクトは、「問題対応も適切にしたし、君はよくやったよ。いい経験したね」とシニアマネジャーからプロマネへのひと言の振返りとともに終結する。

これですべてが丸く収まる。このシニアマネジャーはプロマネの人事考課者なのだ。

最初はよそ事だと思っていた人もここまでくれば、相当な確率で思い当たる部分があるのではないだろうか?

「問題をなかったことにしていないか」を一度、点検してみてほしい。

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。