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2007年7月 9日 (月)

【補助線】祇園・「置屋」のマネジメントに学ぶ

◆はじめに

2年くらい前に、ある講演でしゃべって、後日、主催者に電話で抗議をしてきた聴講者が出てきたので、封印している話がある。

 置屋発想で、プロジェクトマネジメントはうまく行く

という話。このメルマガの発刊を機に、封印を説きたい。

◆置屋とは何か

置屋というのは祇園にいけば普通に使っている言葉だが、一般にはなじみがないかもしれないので、ちょっと説明しておく。

置屋とは芸者が生活する場所である。置屋は部屋と食事を提供する「おかみ」と呼ばれる女主人によって仕切られている。芸者は15歳くらいでこの世界に入ってくると、まずは置屋に身を置き、そこで生活をしながら、芸や座敷でマナーを身に付けていく。置屋に入り、1年くらいたつと、舞妓になる。舞妓になると、先輩である芸子(芸妓)と一緒にお茶屋に呼ばれてお座敷に出て、お座敷での振る舞いを覚えると同時に、お客さんに顔を覚えてもらう。そして、5年もすれば芸子になっていく。

この過程で、舞妓時代の生活費、稽古代などを一切合財面倒を見るとともに、芸子になった後のマネジメントをするのがおかみである。特に芸子になったあとは、おかみは芸子の付加価値を高めることに全力を尽くすそうである。お客を選ぶ、お客や御茶屋との間にトラブルが発生すれば仲裁すると同時に、芸者としてのあり方を指導し続けていくらしい。

芸子全員というわけではないが、芸子の中には、いずれは自身の置屋を持って生きてこの世界で生きていく人もいる。つまり、次世代のおかみの育成に全力を尽くすそうだ。もちろん、そのことが自身の利益を最大化する方法に他ならない。

◆日本型経営は置屋経営である

日本組織では、従来、置屋のような経営が行われてきた。それが人を育て、また、事業や企業の成長、利益をもたらしてきた。高度成長期という構造的な成長時期が終わった際にこの経営の弊害が強調され、否定してきた。しかし、冷静に考えてみれば、単なる疲労制度であって、それが経営環境の変化と同時にやってきたのではないか?ここをもう一度、考え直してみる必要がある。

そのような思いが強くなってきたのは、米国式の経営の中で、スポンサーシップがだんだん重視されるようになってきたからだ。リーダーシップからスポンサーシップに重心が移ってきているといっている人も少なくない。日本企業ではリーダーシップの不足が叫ばれ、この10年くらい急速に関心が高まってきたが、置屋を見ればわかるように、日本の社会はリーダー社会ではなく、スポンサー社会である。リーダーシップよりスポンサーシップを重視してきた社会だ。今後、欧米型の経営もこちらに進んでいくのではないかと思われる。

置屋システムを

  芸者=プロジェクトマネジャー
  おかみ=プロジェクトスポンサー

と考えてみると、まさに、これからのプロジェクトマネジメントの考え方そのものだ。

◆置屋システムは専門力を高めるシステム

こういうスポンサーシップを中心にしたやり方は生ぬるいと思う人もいるかもしれない。しかし、それは大きな間違いだ。プレジデント社の「ビジネススクール流知的武装講座」の中に、神戸大学の加護野忠男教授の「京都・祇園に学ぶアンバンドリングという手法」という記事がある。これによると、多くの花街が衰退していく中で、祇園が残っているのは2つの秘密があるという。

ひとつは加護野先生がアンバンドリングと呼ぶコンセプトで、接客のサービスを徹底的に分解(アンバンドリング)し、アウトソーシングしている。京都は大阪や東京とは違って、御茶屋と置屋を分離している。一緒にすると一流の料亭に所属している芸子は芸を磨かなくても客が来るので、芸を磨かなくなる。ところが分離されていると、御茶屋(料亭)から声をかけてもらうために芸子でいるうちはずっと芸を磨くというのだ。

そして、もうひとつの秘密が、教育、特に基礎教育の充実だという。教育の中心におり、継続的に芸を磨くための支援をするのがやはりおかみである。舞やお囃子、お茶などのお稽古に行って夜はお座敷を務める忙しく動き回る芸子や舞妓の時間管理や雑務の代行などをしているのだ。

米国型の経営を見ていると、勝つまでは努力するが、勝ってしまえば果実の摘み取りにかかる。これも製品開発競争など全うな手段で行われている分にはよいが、M&Aでどんどんやっていると顧客には全く利益がない。ゆえにいつかは見捨てられる。この典型が自動車業界だろう。これに較べるとスポンサーシップを基盤として、常に顧客の方を向いている日本型経営はより進んだ経営だといえよう。

◆芸者遊びでベンチマーキングしてみよう!

このほかにも置屋にはプロジェクトマネジメントの成熟のために学ぶべきマネジメントがたくさんある。

例えば、置屋にはメンタリング制度があることだ。舞妓にはめいめい、修業中に手助けをしてくれる「姉さん」がついている。こうして芸者としての伝統的な知識は受け継がれていくのである。これも置屋という母娘、姉妹といった家族制度を基礎とした関係でもって成り立つ組織ならではのことだといえる。プロジェクトマネジャーはこのように育てたいものだ。

もうひとつ、置屋には面白い要素がある。幇間(「たいこ」)もやはり、置屋で属している。幇間は宴席やお座敷などの酒席において主や客の機嫌を取り、自ら芸を見せ、さらに芸者・舞妓を助けて場を盛り上げる専門職。これをPMOだといったら怒られるだろうか?
興味があれば、ぜひ、一度、祇園で遊んでみましょう。ちなみに、京都のしきたりで有名な「一見さんお断り」というのは、御茶屋の文化です。紹介者が必要です。

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私は十四歳です。中卒と同時に置屋で住み込みで芸者修行したいのですが、どうすればいいでしょうか。教えて下さい。

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。