◆イノベーションを起こす仕組みづくりとその限界
いろいろとイノベーションを起こす仕組みづくりが模索されている。最近、高い関心を集めているものを挙げても、プロジェクトやプログラム、チーム、対話(弁証法)やフューチャーセッション(コラボレーション)、デザイン思考ワークショップ、ビジネスモデルキャンバスなどがある。一方で、これらの仕組みは形はできるのだが、限界を感じることが多い。
たとえば、プロジェクトやプログラムであればイノベーションが起こりそうな目的が設定できない。フューチャーセッションであればさまざまな属性を持つ人たちの話がうまく進んで行かない。デザイン思考であれば観察したものからアイデアを生み出すところがうまくいかない。ビジネスモデルキャンパスであればキャンパスに適切な内容の記述をしていくこと自体が難しい。
◆なぜ、「足らない」のか
イノベーティブであるためのもっとも基本的な考え方は「捨てる」こと、「止める」ことから始めることだ。
イノベーションへの取り組みの議論をすると必ずでてくるのが、今やっていることで手がいっぱいで、「時間が足らない」、「やる人がいない」、「予算が出ない」といった意見である。
現実はその通りなのだろうが、しかし、イノベーションに対する認識が誤っている。ドラッカーが、マネジメントの中で
イノベーションの戦略の第一歩は、古いもの、死につつあるもの、陳腐化したものを計画的、かつ体系的に捨てることである
といっている。捨てることを忘れ去ったままでイノベーションへの取り組みの議論をするのはナンセンスである。新しいものを生み出し、経営の中で活用していくということは、古くない経営的な価値のなくなったものは捨てるということである。これは、事業レベルだけでなく、市場、製品、機能はもちろん、サプライチェーンなどあらゆる経営資源について言えることだ。
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◆リーダーというのはイノベーティブなものではないのか
これまで、最初にリスティングした項目を適当にまとめながら、6回にわたって、イノベーティブリーダーの思考法を書いてきた。これからも思いついたら書いてみたいと思っているが、一旦、この辺で手じまいしたいと思う。最後にこれを書いて置きた
い。
このメルマガの公式グループとして、facebookに「イノベーティブ・リーダーへの旅」というグループを作っている。
このグループを作ったときに鋭い指摘があった。それは
リーダーというのはイノベーティブなものではないのか
という指摘だ。
◆組織の掟
イノベーターの思考法として、重要だと言われながら、なかなか実行できないのが、「試行」や「失敗」に関する思考である。失敗への思考のむずかしさは、そもそも、失敗とは何かというところか始まる。
イノベーションは誰が行うのかという議論があるように、失敗というのは誰にとっての失敗かという話がある。組織というのは本質的に手柄は上司、失敗は部下という世界である。イノベーションはこの典型で、うまく行けば上司の手柄で、失敗すれば部下の失態になる(責任と書こうとしたのが、ちょっと違う)。
だからイノベーションは実態がどうれあれ、上司が知らないところで部下がやるという構図が美しいのだ。そして、うまく行きそうになれば上司が口を出してくる。悪いといっているわけではなく、スカンクワークでイノベーションを起こそうとしてもどこからかは組織が絡まないと日の目は見ない。その意味で組織とはそういうものなのだ。
現実には多くの場合、組織が絡んで、商品としての「コンセプト」ができることが多い。その意味で、上司の手柄というのもまんざら嘘ではない。順序の問題にすぎないともいえる。
◆「点と点をつなげる」
イノベーション・リーダーの思考法の中で、やはり、大切だと思うのは組合せである。組合せをいろいろと考えられる。これが大切だ。
スティーブ・ジョブズがスタンフォード大学の卒業式のスピーチ「ステイ・ハングリー、ステイ・フーリッシュ」で、真っ先に「点と点をつなげる」という話をしたのは有名だが、組合せの重要性を真っ先に言っているわけだ。実際に、アップルのiPodやiPhoneはいくつもの点と点をつないでできた商品である。
全文を読んでみたい方はこちらにある。
「ハングリーであれ。愚か者であれ」 ジョブズ氏スピーチ全訳 (日本経済新聞)
また、イノベーションという言葉を作ったシュンペーターもイノベーションは新結合、つまり、新しい組合せを見つけて、新しい価値を創り出すことであるといっている。
◆イノベーションには主観が不可欠
いろいろな人たちと話をしていて、イノベーションは起こせないだろうなと思わせる共通 の特徴がある。それは、論理性や客観性へのこだわりだ。理由を抽象的にいえば、論理性や客観性は底上げの道具であって、競争の道具ではないからだ。これ は、オペレーションの道具であっても、イノベーションの道具ではないことを意味している。
もちろん、論理性や客観性が不要などと言っているわけではない。
論 理的に考えて全く市場がない商品を直感だけで開発してみてもうれない。過去にはこれで痛い目にあった人は少なくないだろう。自分がこんな商品が欲しいと 思って開発しても、他の人がまったく欲しがらなければ商品は売れない。この手の話、直感とか自分が欲しかったとかいう話は当たれば目立つし、大ヒットする 傾向もあるのでもてはやされるが、冷静に考えれば、失敗の率は高くなることはすぐに分かる。
魚のいないところに釣り糸を垂れても大物どこ ろか、魚は釣れないわけで、大物を釣ろうとおもえば、まず、魚がいそうなところを探す必要がある。これが、論理性や、客観性の役割である。問題は、ここか らで、どんな餌をつけるのか、どのあたりの深さを狙うのかは論理的に考えていても人と同じ答えしか出てこない。ここで、必要なのは直感であり、主観であ る。
つまり、イノベーションには客観と主観、論理と直感のいずれもが必要なのだ。
◆スポーツではルール変更で痛い目にあってきた日本
日本のスポーツは強くなって、国際ルールが変更になり、まったく勝てなくなったという経験を何度と持つ。よくたとえに出されるのがスキーのジャンプ競技である。ジャンプ競技ではスキー板の長さを決める方法を変えられて、身長の低い日本人は全く勝てなくなった。複合では、ジャンプと距離の点数を変えられ、勝てなくなった。
こんな例がいくつもあるのだが、日本人はルールを決めることに無頓着である。ルールがどう変わっても、その中で最高の成績を出せるようになることに美意識を持つ。まあ、この手の話は政治的な要因が絡むのでそれも一つの考え方だろう。たとえば、こんな話はどうだろうか?
久しぶりのイノベーション・リーダーシップ。今回から少し、イノベーティブ・リーダーの思考法について考えてみたい。思考法という場合、2つの意味合いがある。
一つは文字通り「思考法」で、頭の使い方だ。イノベーティブ・リーダーの代表的な思考法というと、ラテラル・シンキング(水平思考)と呼ばれるものだが、それ以外にもクリティカルシンキングやコンセプチュアルシンキングなども有効である。実は、これらの思考法の体系というのはMECEにはなっておらず、たとえば、前提を疑うという思考様式は3つのいずれでも言われている。そこで、ここでは、これらの思考法の枠を設けずに、思考の原則について述べていく。
もう一つの思考法の意味合いは、リーダーシップの意味合いで、イノベーションを実行する、あるいはイノベーションを推進するリーダーとしてどのように考えるかである。こちらの思考法は、マネジメントの議論であるのでイノベーションマネジメントの連載で取り上げていくこととし、ここでは取り上げない。
◆イノベーティブリーダーの思考様式
さて、イノベーティブリーダーの思考様式としてよく見かけるものを思いつくままに挙げてみると
・前提を疑う
・ルールを変える
・視点を変える
・質問をする
・組み合わせを変える
・失敗を歓迎する
・試して評価する
・アイデアを改良する
・アイデアを増やす
・抽象と具象を考える
といったものがある。
これらについて、説明をしていく予定である(増えたり、減ったするかもしれない)。
好川哲人
技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。
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