【イノベーション・リーダーシップ】第13話 イノベーティブ・リーダーの思考法(5)~失敗を歓迎する
◆組織の掟
イノベーターの思考法として、重要だと言われながら、なかなか実行できないのが、「試行」や「失敗」に関する思考である。失敗への思考のむずかしさは、そもそも、失敗とは何かというところか始まる。
イノベーションは誰が行うのかという議論があるように、失敗というのは誰にとっての失敗かという話がある。組織というのは本質的に手柄は上司、失敗は部下という世界である。イノベーションはこの典型で、うまく行けば上司の手柄で、失敗すれば部下の失態になる(責任と書こうとしたのが、ちょっと違う)。
だからイノベーションは実態がどうれあれ、上司が知らないところで部下がやるという構図が美しいのだ。そして、うまく行きそうになれば上司が口を出してくる。悪いといっているわけではなく、スカンクワークでイノベーションを起こそうとしてもどこからかは組織が絡まないと日の目は見ない。その意味で組織とはそういうものなのだ。
現実には多くの場合、組織が絡んで、商品としての「コンセプト」ができることが多い。その意味で、上司の手柄というのもまんざら嘘ではない。順序の問題にすぎないともいえる。
◆失敗を部下にせいにすると、部下は失敗しなくなる
この構図がやっかいなのは、部下が失敗しなくなることだ。正確にいえ ば、失敗しそうなことをしなくなる。これは新しいことはできない。では、上司が部下の失敗は自分の失敗だと言ってくれればいいのかというと話はそう単純で もない。部下の失敗は自分の失敗だと言っても見ても、部下のマイナスはなくなるかと言うとなくなるはずはない。上司がそんなことを言おうものなら、2人と もマイナス評価をされるのがオチだ。その意味でも、上司は部下に責任を押し付けるのは正しいといえる。
しかし、新しいことをやるには失敗は不可欠である。ちょっとずつ前進するインクリメンタルイノベーションだって失敗することが多い。もっといえば、「カイゼン」も失敗することが少なくない。ものごとを変えるというのはそういうことだ。
では、どうすればよいのか?
◆基準を変える
成功と失敗の基準を変えることだ。新しいことをやるときには、失敗することも成功だと考える。ここで成功とか失敗といった言葉を使うと言葉の遊びになってしまうが、何か新しいことをやるには多くの方法が考えられる中で、立派な仕事なのだ。
たとえば、製品を設計する。設計であれば概念設計を終われば一つの成果になる。機能設計が終わったらまた、一つの成果になる。このように徐々に進捗していく。これらの成果は評価に反映されるケースが多い。
ここで注意しておいてほしいことは、たとえば機能設計を終わったからといって、それが必ず製品に反映されるということではない。試作をしてみて、だめならやり直しということになる。
極 論すれば、設計した製品がよかったかどうかは売れたかどうかでした判断できない。それでは困るので、設計の各段階で「組織」が基準を決め、基準をクリアす れば成果とみなす。繰り返すが、設計基準を満たしたからといって製品が成功するとは限らない。あくまでも組織が成果として認定しているだけなのだ。
で あれば、いわゆる失敗もそのように考えればよいだけの話だ。たとえば、失敗によって新しい知見が得られたら(この材料ではだめだとか、この構造ではだめだ とか、このビジネスモデルではだめだというものあるかもしれない)、それは成果として評価する。これも組織が決めればいいだけの話である。
◆イノベーションは成功と失敗の繰り返しから生まれる
実際にイノベーションの進捗というのはそういうものだ。成功と失敗を繰り返しながら進んでいくのだから、成功も失敗もゴールにたどり着くための貢献度は変わらない。
ここの部分を乗り越えるといろいろないいことがある。まずは、失敗するスピードが速くなる。成功しか評価されないと、なかなか手を離せない。重箱の隅をつつくような検討を延々とやり出す。こんなことは無駄だ。一区切りついたら、さっさと評価してそれを活かす。
認識しておかなくてはならないのは、評価を遅らせて失敗を抱えていると、当人はそれでもいいかもしれないが、他の部分を担当している人はしなくていい作業(失敗)をしているかもしれないことだ。こうなってくると、無駄以外の何物でもない。
実際にイノベーションの生産性は、失敗のスピードに依存する。イノベーションの生産性を上げるには、失敗を歓迎し、失敗までの時間を短縮し、失敗という結果そのもの、失敗で得られた知見をすばやく展開する必要がある。
こういう思考がイノベーティブ・リーダーには必要である。
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