☆戦略ノート Feed

2011年4月11日 (月)

【戦略ノート227】プロジェクトの成果物と組織の成果

◆プロジェクトの成果について考える2つの事例

プロジェクトで成果を上げるとはどういうことだろうか?こんな基本的な話題を改めて考えて見た。

わかり易い話から入ろう。SIベンダーは得意先からある業務システムの受託開発プロジェクトを受注した。SIベンダーは得意先の要求通りのシステムを開発し、引き渡した。しかし、得意先は満足しなかった。システムの仕様は自分たちの指定した通りであることを認めつつも、できあがったシステムでは自分たちの狙っていた効果を出すことがないないと主張。全面的な改定を要求した。長年のつきあいは何のためだとまでいった。これに対して、SIベンダーは契約を楯にとって自分たちの仕事の正当性を主張。結局、得意先はSIベンダーとの取引を打ち切るという事態に発展した。

議論したいことは、どちらに非があるかではない。非があろうが無かろうか、SIベンダーが得意先を一つ失い、年間数億円の売上げを失ったことは紛れもない事実である。仮に顧客に非があるとしても、失ったものを取り返すことはほとんど不可能だろう。

もうひとつ、今度は多少複雑な話。あるメーカでは、新商品の開発プロジェクトを実施した。そして、開発部隊はコンセプト通りの商品を開発した。企画者はコンセプト通りだと評価し、品質レベルも上々だった。ただ、不幸なことにまったく売れなかった。売れない商品を作ると振り返りという名の犯人捜しが始まる。犯人捜しの中で、開発リーダーがこの仕様では売れないということを指摘していたことが判明した。当然、なぜ、その意見を企画担当に伝えないかという議論になった。聞いてみると一度伝えたが、歯牙にもかけられなかったというのが真相らしい。

ここでも議論したいことはどちらに非があるかではない。いまさらそんな議論をしても手遅れだ。

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【戦略ノート226】ガラパゴス化について考えてみた

◆ガラパゴス化とはなにか

10月28日に実施するプロジェクトマネジメント無料特別セミナー「PMO2.0」の副題に、「ガラパゴス型からの脱出」というタイトルをつけたところ、何人もの方からどういう意味ですかという問いを受けることになった。

もう少し、一般化した言葉だと思っていたので、意外だった。この言葉を最初に使ったとされている野村総研のNRI未来ナビに収録される論文「「ガラパゴス化」する日本」
では、以下のように説明されている。

技術やサービスなどが日本市場で独自の進化をとげて、世界標準からかけ離れてしまうという現象が起こっています。このような現象は、生物の世界でいうガラパゴス諸
島における現象にたとえられて「ガラパゴス化」といわれています。

もともとは国内でどんどん高機能化するのに、海外に展開できない携帯電話に対する言及から出てきた言葉であるが、こういう例は今に始まったことではない。呼び名は
ともかく、我々がこの問題を最初に意識し出したのは、パソコンではないかと思う。
一時は、国内で80%以上のシェアを持ったNEC製のパソコンPC-98が、やがて、コストパフォーマンスに優れたグローバル標準PC/AT互換機の上陸とともに、終焉した。

最近では、携帯電話、電子マネーといったハードウェアだけではなく、医療サービスや大学、会計基準などでもガラパゴス化という言葉が使われるようになっている。

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【戦略ノート225】コミュニケーションマネジメント2.0~横のコミュニケーションから縦のコミュニケーションへ

◆コミュニケーションマネジメント1.0

218回でPM2.0宣言をした。今回は、PM2.0におけるコミュニケーションマネジメントについて考えて見たい。

プロジェクトマネジメントの問題点としてコミュニケーションの問題がよく取り上げられるが、特に問題意識が高いのは顧客をはじめとするプロダクトスコープに影響のあるステークホルダとのコミュニケーションである。重要だと捉えていればこそだろう。実際に、スコープマネジメントの問題はコミュニケーションの問題だと言ってもよい。コミュニケーションの質によって、スコープに対する目標達成のレベルが変わってくるし、それがプロジェクトの成否に関わってくる。このように顧客も含む現場の中でのコミュニケーションで、スコープを決めて行く。

この場合、上位組織とのコミュニケーションは与えられた目標の達成度の報告が基本になる。いわゆる進捗報告だ。そこでは、進捗が芳しくない場合の問題解決は話合われることがあるが、目標設定のイニシャティブは上位組織が持ち、その「妥当性」について話合われることはまずない。目標は妥当であり、進捗が芳しくないのは目標達
成の方法が適切ではないからだという前提で考える。この前提が崩れた場合は「トラブル」になる。

このコミュニケーションのマネジメントをPM1.0に擬えてコミュニケーションマネジメント1.0と呼ぶことにしよう。

これはあくまでも上位組織から目標が与えられた場合の話、つまりPM1.0におけるコミュニケーションマネジメントになる。

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【戦略ノート224】ドラッカー考~ドラッカーはなぜ心に響くのか

◆ドラッカーブーム来る

今年は史上空前のドラッカーブームのようだ。報道バラエティはもちろん、お笑いのメッカ・関西では、お笑いバラエティでもドラッカーが取り上げらている。

きっかけになったのは昨年発売された1冊の本だ。通称「もしドラ」、「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」という小説である。高校野球が真っ盛りだが、この小説は弱小野球部の「女子マネジャー」がマネジャーの仕事を知りたくて、ドラッカーのマネジメントを読み、野球部を改革していくというストーリー。

岩崎 夏海「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」、ダイヤモンド社(2009)
https://mat.lekumo.biz/books/2010/01/management.html

ドラッカーといえば、ほとんどの出版を手がけているのがダイヤモンド社だ。ダイヤモンド社は大正2年の創業以来、ハーバードビジネスレビューを始め、マネジメント分野で大きな影響を与える出版活動を多数手がけている。もちろん、ドラッカーの著作物の翻訳出版もそのひとつだ。

そのダイヤモンド社が「もしドラ」で創業以来初めてのミリオンセラーを達成したのだ。今起こっているドラッカーブームがどれだけ凄いかよく分かる。

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【戦略ノート223】「シンプル」考(1) 顧客とユーザ

◆複雑化する成果物と厳しくなる制約

今、多くのプロジェクトが頭を抱えている非現実的ともいえる制約条件の根源にあるのが、成果物の複雑さである。複雑な機能の商品に複雑さを実現している組み込みソ
フトウエア、複雑な情報システムなどだ。

この問題の本質は、ユーザはほとんど使わないだろうと思える機能を追加することにより、プロジェクトの制約が厳しくなっていることだ。なぜそのようなことをしているかというと、誰も「意思決定」をする人がいないからだ。言いかえると、戦略的な発想がないからである。

もう少し異なる視点でみると、顧客の声を聞きながら、顧客のことを考えていない。
顧客に言われる通りに作る。それが不便であろうが、使わないものであろうが、顧客が望んだ機能だ。そこにはユーザという視点がない。

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【戦略ノート222】戦略類型とプロジェクトマネジメント

◆プロジェクトの2つの側面

プロジェクトには2つの側面がある。ひとつはビジネスであり、ひとつはオペレーションである。プロジェクトマネジャーはこの両方をマネジメントすることを求められる。これがプロジェクトマネジメントの難しさの本質でもあり、品質管理とプロジェクト管理は違う理由でもある。

PMIでは、オペレーションのマネジメントをプロジェクト(プログラム)マネジメントとして行い、ビジネスのマネジメントはポートフォリオマネジメントなどの経営システムの中で行うように整理している。したがって、プロジェクト(プログラム)マネジメントはプロジェクトポートフォリオなどの形で表明された経営の意図を正確に実現することが求められる。

P2Mでは、オペレーションとビジネスのマネジメントの両方をプログラムマネジメントとして行う。プログラムの中に経営があるといってもよい。

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【戦略ノート221】モチベーション3.0とプロジェクト課題

◆モチベーション3.0

最近、モチベーション3.0という言葉をよく見かけるようになってきた。東洋経済で3月27日に「新しいやる気のかたちモチベーション3.0」という特集が組まれ
たのが火付けになったように思う。このあと、この言葉をよく目にするようになった


最近では、「フリーエージェント」という著作が日本でも注目されたダニエル・ピンクの「Drive」という本が日本では、大前研一氏の訳で「モチベーション3.0」とい
うタイトルで出版されて注目を浴びている。

東洋経済3月27日「新しいやる気のかたちモチベーション3.0」(この特集号はアマゾンでは売り切れている)

ダニエル・ピンク(大前 研一訳)「モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか」、講談社(2010)


まず、ダニエル・ピンクのいう、モチベーション3.0とは何かを説明しておこう。
ピンクによると

モチベーション1.0:生存を目的とするモチベーション
モチベーション2.0:信賞必罰に基づく与えられた動機づけによるモチベーション
モチベーション3.0:自分の内面から湧き出る「やる気」に基づくモチベーション

とされる。

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【戦略ノート220】ポジティビティがプロジェクトをドライブする

◆ポジティブであることを求められるアメリカ人

米国人と一度でも仕事をした経験がある人はお分かりだと思うが、米国人は常にポジティブであることを求められる。日本人だと、例えば「みんなで仲良くやりなさい」
と求められるのと同じような感覚だと言えよう。

バーバラ・エーレンライクというジャーナリストが、この問題を指摘した本がある。

バーバラ・エーレンライク(中島由華訳)「ポジティブ病の国」、河出書房新社
(2010)


多少、風刺的ではあるが、この本を読むと、米国人のポジティブであることに対する執念のようなものを感じ取れる。もちろん、その効用についても多くの指摘がある。

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【戦略ノート219】意思決定としてのリスクマネジメント

◆AさんとBさんの予備時間のマネジメント

リスクマネジメントはプロジェクトマネジメントの中でもっとも進んでいる分野であるが、理解されているようで意外と理解されていないことがある。それは、リスクマネジメントは「意思決定」であるということだ。今回は、このテーマについて考えて見たい。

まず、一つ考えて見て欲しいことがある。

T1~T10までのタスクがある。番号の小さい方から順番に行うタスクである。作業時間の見積もりは500時間だとする。

Aさんは、500時間に対して、10%となる50時間の予備時間をとり、全部で50時間の見積もりをした。これに対して、Bさんはそれぞれのタスクの内容を考え、T1~T10までの仕事に別々に予備時間を割り付け、トータルで50時間の予備時間をとった。トータルの予備時間は双方とも50時間であるが、どう異なるのだろう。

まず、Aさんのやり方だと、問題が起こるごとに予備時間を費やしていく。最終的に予備時間が足らなくなったところで、やり方を変えたり、成果目標を変えたりする。
仮にT1より、T10の方が成果として重要であれば、満足な成果は得られない。

逆にBさんのやり方だと、個別のタスクで予備時間がオーバーしたら、全体をどうするかを考えることになる。たとえば、T1が80時間で、予備時間を10時間とっていたとしよう。すると、T1に90時間を費やしたところで、T1をどうするかと同時に、T2~T10をどうするかを考えることになる。当然、どのタスクが重要かを考え、T1よりT10が重要であれば、T1に費やす時間を極力小さくなるように成果目標を変える。逆にT1が他のタスクより重要なタスクであれば、T1にもう少し時間を費やし、予定した成果を得るまで続けることもある。

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【戦略ノート218】PM2.0宣言

◆プロジェクト2.0

プロジェクトマネジメントの世界的な標準であるPMBOKの第1版が出て、15年になる。ここにきて大きな変容が見られる。個別のプロジェクトの管理から、経営上関連する複数のプロジェクトの一括管理へと視野が広がってきたことだ。これは、PMOだけではなく、欧州を中心に利用されている標準であるICBやPRINCE2にも見られる傾向である。さらに、日本で2001年に独自のプロジェクトマネジメント標準として誕生したP2Mにおいては当初から複数プロジェクトの管理を前提にしたものになっている。P2Mは先進的だということで、国際的な評価が高いのはこのためである。

このような変容が意味することは、プロジェクトそのものが現場のオペレーションから、経営のオペレーションに重心が移っていることである。PMstyleでは、経営(あるいは戦略)オペレーションとしてのプロジェクトを第2世代の位置づけのプロジェクトという意味でプロジェクト2.0と呼んでいる。

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。