2007年8月10日 (金)

PMサプリ87:リスク管理と危機管理

リスク管理は事故を未然に防止する「予防安全の行動」である(石橋明ヒューマンファクター研究所)

【効用】
・PM体質改善
  問題解決能力向上、リスク管理力アップ、バランス感覚の洗練
・PM力向上
  リスク対応力向上
・トラブル緩和
  チームの士気向上

【成分】
◆リスク管理は予防行動、危機管理は事後行動
◆なぜ、大きなトラブルはなくならないのか?~あるシニアマネジャーの指摘
◆リスク管理と危機管理のバランスが重要

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2007年8月 7日 (火)

【補助線】「万人の万人による戦い」は不要か?

学習院大学の内野崇先生の著書「変革のマネジメント」の中に次のような指摘がある。

組織における階層、ルール、ならびに、ルーチン等によって人間は自然状態における「万人の万人による戦い」をまぬがれ(内外のリスクを回避)、その時々の状況および偶発性のみに左右される意思決定を行うことが可能になります

表現が難しいが、難しいことを言っているわけではない。要するに、組織の階層がなかったり、あるいはルールがなければ、組織の成員はすべてのことを全部自分で処理し、問題を解決しなくてはならないが、組織階層やルールによってこれが回避され、節目のところだけをマネジメントしておけば済むようになっているというのが内野先生の言われていることだ。

これは、組織に標準を導入する最も本質的な目的である。

ところが、必ずしも、これを良しとしない文化がある組織が多い。組織も、その成員も、「万人の万人による戦い」をしなくては気がすまないのだ。これはルールに限らず、ものづくりなどでも同じような文化があることが多い。原理的な部分から検証していかないと気がすまない。「使えるものは使う」というのは最終手段であって、できるだけ自力で作ってみる。したがって、恐ろしく時間がかかる。

ただし、これを非効率的だといって否定するというのは少し、違う。トップダウンですべてをものごとを動かしていく覚悟であれば、それでもよいが、このやり方を否定するとボトムアップ力が弱ってくる。つまりは足腰が弱ってくるのだ。

バブル経済の時代にこのようなやり方を否定してきた。ちょうど、今、否定してきたツケが回ってきている時代だと思うが、やはり、機運としては、もう一度、再構築する必要があるという認識が強い。

ちょっと河岸を変えて、ITの世界に目を移すと、この議論は米国でパッケージソフトウエアが登場してきた80年代から延々と続いている。パッケージを使うか、一から作るかという議論だ。この議論にしても、一から作る、あるいはカスタマイズをすることへの非難めいた意見の矢面に立ちながら、カスタマイズをすることをやめようという気配はない。

この議論の本質は、何を目的にしているかにある。米国人にとってはソフトウエアは単なる道具である。問題は道具を使ってどのくらいの付加価値を生むかにあると考えている。

しかし、日本人は「使いこなす」ことを目的にしている。神は細部に宿るという発想があるのだ。つまり、細部にこだわらない限り、価値創造はできないと思っている。この違いはどちらが正しいという次元の違いではない。両方ともそれで成果をあげているからだ。

マネジメントでも同じだ。神は細部に宿ると考えている人は多い。そのような人は、標準に乗っかることは良しとしない。というよりも、「万人の万人による戦い」によって初めて価値創造ができると考えているのだ。

あなたはどう思いますか?

2007年8月 6日 (月)

【補助線】チェンジモンスター

今日はちょっと軽めの話題。

松本人志の初監督作品「大日本人」を見られた方は多いと思う。ビジネスの世界にも、怪獣とその怪獣の退治方法を書いた本がある。

ジーニー・ダックが書いた「チェンジモンスター」にチェンジモンスターという本だ。変革を実現しようとしたときに、抵抗する、新しい動きをぶち壊すといった「活躍」をするモンスターの退治方法を書いた本だ。日本語でいえば、さしむき、「抵抗勢力」といったところだろう。

パロディーではないが、プロジェクトマネジメントの導入、定着化をするときに登場してくるチェンジモンスターの行動を整理してみた。

Monster PMOがプロジェクトに対して、支援、指導をしようとしたときに、こんなチェンジモンスターに出会うことはないだろうか?ちなみに、ジーニー・ダックはボスコンのコンサルタント(出版当時)。論理的なアプローチの一方で、感情的・心理的なアプローチもしなくては変革は成し遂げられないということなのだろう。

■タコツボドン
得意技:自分の担当を超えた視野を持つことを拒否し,「よそ者」の関与を否定する
叫び声:「プロジェクトマネジメント自体がプロジェクトの仕事ではない」、「標準を使えというご忠告はありがたいですが、我々もプロジェクトの成功を第一に検討してみますので、後はお任せください」

■ウチムキング
得意技:社内で何が評価されるかを重視し,顧客等の外部ではなく社内にすべての行動の焦点をあわせ,社内外のズレに目を閉ざす
叫び声:「顧客はいろいろと言っていますが、社内の雰囲気は悪くないし、協力的ですので、このままでうまく行きます!」

■カコボオウレイ
得意技:従来のやり方はどんなに効率が悪くても中止をできない,決断できない
叫び声:「これまでのやり方で、うまくやってきたのだから、直すべきところは直し、このやり方でやるほうが顧客も社内も安心だよ」

■ミザル・キカザル・イワザル
得意技:3匹セットになって,見ざる,聞かざる,言わざるを通し,嵐が過ぎるのを首をすくめてやり過ごす
叫び声:「また、PMOが新しい仕組みを作ろうとしているけど、どうせ今回もまた掛け声だけだ。しばらくすれば、忘れてしまう。動くだけ損に決まっている。様子見だ」

■ノラクラ
得意技:様々な言い訳を使いあの手この手で変革を回避しようとする
叫び声:「顧客の進捗を管理するというのは前例がない。前例のないやり方をすると、社内も顧客も混乱するだけだ。それで協力を得られなくなったらどうする。百歩譲って、社内や顧客が受け入れるとしても、うちのプロジェクトは人手がたりない」

■マンテン
得意技:すべての可能性をリスクを潰して100点満点の報告書がないと動き出せず,結局,具体的なアクションは取れない,あるいは遅れてしかとれない
叫び声:「本当にリスクはこれだけだろうか?まだ検討不足じゃないだろうか?プロジェクト開始前にもう少しじっくり検討しなくては!」、「この計画で絶対に失敗しないといえるだろうか?やるからにはパーフェクトでなければ!」

■カイケツゼロ
得意技:課題の指摘やできない理由の説明は巧みだが,解決策の提言は出せない
叫び声:「協力会社以外からのリソースの調達は何度も検討したが無理なんです。その理由は5つあって...」

【参考資料】
モンスター名は「チェンジモンスター―なぜ改革は挫折してしまうのか? 」が出典。
得意技は「チェンジモンスター―なぜ改革は挫折してしまうのか? 」を一部編集。

2007年8月 3日 (金)

PMサプリ86:メンバーシップ

リーダーシップからメンバーシップへ(チームハックス、大橋悦夫&佐々木正悟)

【効用】
・PM体質改善
  アカウンタビリティ向上、リーダーシップ発揮、アナロジー思考力アップ
・PM力向上
  ピープルマネジメント力向上、チームをまとめる力の向上
・トラブル緩和
  モチベーション向上、チームの士気向上

◆ストレスフリーの原則はチームに管理してもらうこと
◆従来の進捗報告に足らないもの
◆学習機会としての進捗ミーティング
◆チームビルディングの事例

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2007年7月30日 (月)

【補助線】価値観はあるか

◆クールビズはなぜ、難しいか

チェンジマネジメントの難しさを例えるのによく使われる例がある。みなさんの会社でもクールビズをやっている会社は多いと思うが、「冷房を入れる」のと、「冷房を切る」という2つの行動の違いである。単純な話だが

 暑い
  → 冷房を入れる
      → 涼しくなって気持がよい
         ⇒ 【繰り返し行われる】

 涼しい
  → 冷房を切る
      → 暑くなって能率が下がる
         ⇒ 【やらなくなる】

という話で、冷房を入れる習慣(?)はすぐに身につくが、冷房を切る習慣はなかなか身につかないということを示す例だ。チェンジマネジメントとは、冷房を切るような習慣を作るマネジメントであることが多い。

このためには「クールビズ」といったルール(仕組み)を作ることも必要だが、ルールだけでは不十分で、地球環境を守ろうといった「価値観」が定着されて始めて冷房を切る習慣ができるという話だ。この価値観の定着にこそ、チェンジマネジメントの本質がある。

Kati
◆プロジェクトマネジメントが定着しない2つの理由

これをプロジェクトマネジメントに例えてみると、なぜ、定着しないかがよくわかる。大きな理由は2つある。

一つ目は、繰り返しが行われるループの経験、つまり、成功経験がないことだ。プロジェクトマネジャーのA氏は、プロジェクトマネジメント批判の先鋒だった。しかし、あるプロジェクトでしぶしぶやったリスク識別と、リスク対策の策定が、窮地を救った。この中で、リソース調達のリスクについて言及しており、その計画をレビューした上司が密かに根回しをしていてくれた。これで、実際にショートし、相談したら、すぐに「Bさんに相談しろ」といわれ、簡単にリソースが確保できた。これまでだと、期待せずに一応相談はするといった感じだったのだが、目からウロコだったそうだ。これを契機にAさんは、計画の共有を主眼にきちんとした計画を書き、いろいろな人の意見を聞くようになった。

もう一つはやらなくなるループがあること。例えば、「作っても使わない」というのが多い。苦労して計画書を作るにも関わらず、自らも含めてほとんど計画書を使うことはない。実際にスケジュールがずれてもマイルストーンでつじつまを合わせればよいし、上司もそれ以外のタイミングではプロジェクトの状況を聞くくらいで、進捗として計画を使うことがない。それでも最初はルールがあるので形式的にも計画書を作っているのだが、顧客の都合ですぐにプロジェクトを立ち上げたいといった状況に遭遇するのを機に、計画を作るのをやめてしまった。

◆問題を解決するには

うまく一番目のような成功経験ができれば、二番目の問題は解決する。というか、実際に計画を使っていることが実感できる。しかし、成功経験がないと、二番目の問題を解決するのは冷房の例と同じくやっかいである。プロジェクトマネジメントを行うことへの価値が必要だ。

このためにはまず、価値観を明確にする必要がある。プロジェクトマネジメントを行うことが自社や自組織にとってどういう意味があるかを明確にし、それをやらないと何が起こるかを明確にする。

できれば、これを支持するストーリーなどがあるとよい。

その上で、7月9日のコラムで述べた定着化のサイクルの中で、「教育」と「奨励」の中で、価値観を実感できるような工夫をしていく。教育では、特にトラブルマネジメントの教育を価値観を埋め込んで行うことが効果的である。奨励では、価値観に沿った行動をとった人を誇らしい気持にさせるような報奨を与えるといった方法が考えられる。

2007年7月27日 (金)

PMサプリ85:不文律と戦う

規則で縛るより「現場の判断」を大切にする(インジョイグループ創始者 ジョン・マクスウェル)

【効用】
・PM体質改善
  リーダーシップ発揮、リスク管理能力アップ、アカウンタビリティの向上
・PM力向上
  ピープルマネジメント力向上、チームをまとめる力の向上、リスク対応力向上
・トラブル緩和
  モチベーション向上、チームの士気向上

【成分】

◆コンドミニアムとノードストローム

マクスウェルはリーダーシップ開発の大家で、欧米で年間に2万5千人以上の教育をしているといわれている人だ。「世界一のメンター」といった称号まで持っている。彼の著書を読んでいると本当に人間の本質をよくわかった言葉がたくさん出てくるが、ちょっと異色なのがこの言葉。

彼の著書でこのテーマのエピソードとして出てくるのが、コンドミニアムの話。

ずっと愛用しているコンドミニアムでチェックアウトの段になって鍵を忘れた。とりに戻っていると飛行機の時間に間に合わない。従業員にその旨を話すと、鍵の紛失は25ドルの追加料金になるという。紛失ではなく、コンドミニアムに忘れたのだといっても取り合わない。結局、25ドルの追加料金を払って、それまでに10万ドル以上を使ったコンドミニアムに二度と来ることはなかったという話。

これと対照的な話としてノーを言わない百貨店ノードストロームのサービスの話が書いてある。子供のズボン1本を買って、明日の早朝、旅行に出発するというと、その晩のうちに届けてくれたというのだ。入社時に「現場の判断に任せる」という経営方針を渡されるというノードストロームのこの手の話は枚挙に暇がない。違う話を聞いても驚かない。これが「知覚品質」というものだろう。余談だが、僕は伊勢丹でほとんど同じような経験をしたことがある。伊勢丹も現場の判断に任せているデパートだと思う。

◆不文律という厄介な存在

あなたのプロジェクト環境はコンドミニアムとノードストロームのどちらだろうか?プロジェクトワークの基本は、「現場の判断を大切にする」ことである。プロジェクトというスタイル自体がそのような目的のためにあるといってよいだろう。しかし、一方で、プロジェクトが守らなくてはならない(と思っている)ルールが多くある。

この矛盾の原因は「不文律」にあることが多い。日本では特に「不文律」が多いとよく言われる。不文律とは書いてなくてもルールとして明記されなくても、ルールとして機能するものだ。例えば、調達先の選定をプロジェクト(と資材部門)に一任している組織は多い。しかし、そのような組織においても、不文律として、ラインマネジャーに相談する人は少なくない。不文律を守らないとどうなるのか?失敗したときに徹底的にたたかれる。「任せているとはいえ、なぜ、ひと言、相談しないんだ?最終的に責任を取るのはオレなんだ」とくる。この繰り返しによって、どんどん、不文律は強化されていく。

本来、権限委譲とは、上司の責任で行い、委譲した権限範囲について責任を取るのは上司である。これが権限委譲の意味であるが、妙な公平さを持ち込んで上のような論理を振り回す人が多いのも事実だ。

要するに、マネジャーの器の問題なのだが、この不文律というのが権限委譲の中では極めてやっかいな問題になっていることが多い。

組織に不文律があるためか、どうも、プロジェクトの行動や意思決定というのはルール待ちや指示待ちになることが多い。

◆プロジェクトマネジャーとして不文律と戦うことが期待される

上に述べたように組織はある程度不文律があることを前提にして権限委譲をしている部分がある。権限委譲した範囲であっても、失敗すれば責め立てる。このような不文律の強化を何とかしてやらないと、現場の判断を大切にするといってみても、マルナゲして、気に食わなければ、ひっくり返す。これでは埒が明かない。

どうすればよいのか?ここはプロジェクトマネジャーに期待されるところだ。ある意味で、もっとも期待されるのはこの部分かもしれない。ここでプロジェクトマネジャーがとりうる対応は2つある。一つは、上司のこのような態度を部下にところてん式に押し付けていくという対応。つまり、自分もプロジェクトメンバーに対して、君に任せたといいながら、失敗したら、自分の意見を聞かなかったからだと怒る。もう一つは、組織の不文律からの防波堤になることだ。

◆不文律とどう戦うか?

後者はそんなに簡単な話ではない。上からはそのような態度で来るし、場合によっては、プロジェクトの中に手を突っ込んで、プロジェクトマネジャーの頭越しに不文律を押し込んでくるのような上司もいるだろう。しかし、プロジェクトをうまくやるには、後者のような態度が望まれる。もちろん、上司が反省し、態度を改めてくれればその限りではないのだが、、、

実は、この構図にプロジェクトマネジメントとして唯一対抗する方法がチームビルディングである。組織の文化を変えるような振る舞いを一人でやるのはつらい。しかし、プロジェクトチームが一丸となってそのような振る舞いができれば、徐々に組織が変わってくる可能性がある。プロジェクトマネジャーはこの可能性を求めていくべきではないだろうか?

    (2007年7月26日 PM養成マガジンプロフェッショナルより抜粋)

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2007年7月20日 (金)

PMサプリ84:人とつながる力

リーダーというのは「人とつながる能力」のある人間である(ルノー会長兼CEOカルロス・ゴーン)

【効用】
・PM体質改善
  リーダーシップ発揮
・PM力向上
  ピープルマネジメント力向上、チームをまとめる力の向上
・トラブル緩和
  モチベーション向上、チームの士気向上

【成分】

◆ゴーン流「リーダーになれる人」
◆人心掌握=人とつながる
◆プロジェクトマネジャーの努力
◆「話を聞こう」という気にさせるには?

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2007年7月17日 (火)

プロジェクトマネジメント導入の落とし穴

◆いくつ、当てはまるだろうか?

Ana ・プロジェクトマネジメントを導入すれば、プロジェクトマネジャーの行動が変わると思っている
・プロジェクトマネジメントを導入した後に、適応するようにプロジェクトマネジャーを教育している
・プロジェクトへのインセンティブ制度により、プロジェクトマネジャーやメンバーのモチベーションが高まると思っている
・事業部長がプロジェクトマネジメントにコミットしている姿勢をみせれば、プロジェクトマネジャーやメンバーはついてくると思ってる
・プロジェクトマネジメント制度の運用に対して、プロジェクトメンバーの抵抗に合う
・プロジェクトマネジメントルールの推進は問題が見つかったときにモグラ叩き的にやっている

こう書くと何かあるんと思うだろうが、ひとつひとつを見ていくと、そんなにおかしなことではない。

これらは、著者がこれまでプロジェクトマネジメントの導入の中で見てきた典型的な落とし穴である。このような考え方、やり方をしていると、いずれもうまく行かない。

◆当事がいない!?

プロジェクトマネジメントの導入においてもっとも問題なのは、「当事者意識を持った人」いないケースが多い人だ。

一応、PMOがプロジェクトマネジメント推進の掛け声をかけている。しかし、PMOがプロジェクトマネジメントの当事者意識を持っていることはあまり多くない。他人事というと語弊があるかもしれないが、やっぱり、やるのは自分たちではないという意識はあることが多い。プロジェクトマネジャーの負荷だとか、心情的な点は考える。しかし、逆にいえば、これこそ、当事者意識以外の何者でもない。負荷がかかってもうまく行くと思っていればその通りにやらせるだろう。

プロジェクトマネジャーに当事者意識があるかというと、そうでもないことが多い。プロジェクトマネジャーにしてみれば、ルールに従ってやればうまく行くという確信を持っていないことが多い。

◆「上がやれといっている、、、」

では、なぜ、やるのか?PMOとプロジェクトマネジャーの結節点にあるのが、プロジェクトスポンサーであったり、シニアマネジャー、組織によってはエグゼクティブマネジャーである。PMOは彼らがやれといっているからやってくださいという。テクニカルな部分、つまり、どのような手法を導入するか、あるいはどのようなメトリクスを設定するかという部分では、一定の責任を取らざるを得ないとは思っている。しかし、それを推進していることについては、自分たちが結果に対して責任をとろうなどとは微塵も思わない。

つまり、商品の品質の責任は自分たちにある。しかし、商品を使うのを決めたのは自分たちではないので、使った結果に対しての責任は取れない。こんなPL法も真っ青な恐ろしい話がまかり通っている。

プロジェクトマネジャーも自分たちがよいと思ってやっているわけではない。上がやれというからやっている。やり限り最善は尽くすが、責任は取れないとくる。

では、そこで結節点になっている人たちは責任を持つのか?ここで多くの人はコミットすらしようとしない。が、コミットをしていても、細かいことはわからない。現場に任せるとなる。つまり、責任は取らない。

◆定着化が先決

ただし、事業責任はあるので、プロジェクトが行き詰まってくると、介入する。ところが、その介入はプロジェクトマネジメントのような合理性がある方法ではなく、過去の経験に基づいた腕力にモノを言わせる方法であることが多い。これを何回かやっていると、プロジェクトマネジメントって本当に役に立つのかという疑念が湧いてくる。

それが、プロジェクトマネジャーにも伝播し、PMOが導入したものに対するサポタージュが正当化される。すると、PMOは何か手を打つ必要性に迫られ、定着もしていない手法の問題点をあげつらい、新しい取り組みを始める。

この悪循環があちこちの組織に渦巻いている。この悪循環を作り出しているのが冒頭に述べたような落とし穴である。

このような落とし穴に陥ることなく、定着化を図るのが、チェンジマネジメントである。定着化のためには、冒頭に述べたような落とし穴に陥ることなく、着実に、全員がコミットする普及活動を行っていかなくてはならない。

◆もう一つの課題

もう一つの課題がある。それは上に述べたような悪循環が起っている最大の理由であるプロジェクトスポンサーや組織マネジャーの関与の方法を変えることである。実は上のようなケースは、そもそも、彼らがプロジェクトマネジメントの効果を信用していない。

だんだん、わかってきたのではないかと思う。要するに、プロジェクトマネジメントが効果的かどうかというのは、自分たちの問題である。そして、いくらプロジェクトマネジャーが思っても、いくらPMOが思ってもそれだけではダメだ。組織の一人ひとりがそのように思って初めて効果が出るのだ。

この中で、特に組織のリーダーである人たちの役割は大きい。この人たちが「コミットする姿勢を見せるだけではく、支援する」ことによって初めて全体が動き出す。ここをよく押さえておく必要がある。

2007年7月16日 (月)

【補助線】プロジェクトが満たすべき前提条件

PMBOKの概念の中にプロジェクトの「前提条件」というのがある。たとえば、

・プロジェクト計画書に定義されてる通りにプロジェクト組織が構成される
・顧客はプロジェクトの遂行に協力する
・組織や顧客に関する課題解決はタイムリーに行われる

といったものだ。実はこれらは、誰もが疑おうとしないが、多くのプロジェクトで成立していない前提条件である。最近ではだいぶ知恵がついてきたので、これらをリスクとして扱うことが多い。前提条件の崩壊というのはそれこそ、プロジェクトを崩壊するリスクになりかねない。

多くの場合、前提条件というのはプロジェクトマネジャーは無関係なところで構成される話だ。従って、成り立つかどうかも、ある意味でプロジェクトマネジャーはコントロールできないことが多い。せいぜい、リスク要因としてあげて、監視しておくことが精一杯であるが、監視したところでコントロールできないのだから、どうにかなるものでもない。

では、かくも重要なプロジェクトの前提条件に対してもっとも影響を与える人は誰か。上の例を見てもらうとわかると思うが、上位管理者、顧客、および、ステークホルダである。

さて、逆の視点でみてみよう。プロジェクトをうまく進めるためには、「常識的に考えて必要な前提条件」というのがある。例えば、「プロジェクト要員は必要に応じて確保できる」という前提条件がある。これもなかなか、成立が難しい前提条件の一つだが、このような前提条件が崩れてしまうと、PMBOKというプロジェクトマネジメントの手法そのものの有効性が崩れてしまう。

そんなことはない。リスクとして考えておくべきだという意見もあるだろう。確かに、「十分なスキルを持った要員が必要に応じて確保できる」ということを前提条件にするのであればそれは前提条件が成立しないことをリスクとして考えておくべきだ。しかし、上の例は、前提条件の不成立を受け入れるということはプロジェクトマネジメントをしないということに他ならない。

言い換えると、目標を設定し、目標を達成するためのマネジメントが機能するためには一定の条件がある。実は、一番の前提条件は、「目標が達成可能である」ということなのだ。ここすら前提条件になっていないプロジェクトがときどきある。この議論を見積もりの議論だと思うと間違いだ。背景にある程度の見積もりがあることは間違いないが、見積もりというのは所詮「過去の実績に基づく推定」に過ぎない。従って、目標が達成できるかどうかと、見積もり上のつじつまがあうかどうかはそんなに一致しているものではない。「一致しないのでプロジェクトだ」という言い方もできる。むしろ、重要なのは、できそうだという点について主要ステークホルダの合意があることだ。これが「目標が達成可能」という状態の他ならない。

そのような意味で目標を捉えたときに、「目標が達成可能である」は不可欠の前提条件である。

これ以外の前提条件は、むしろ、不成立があったときにカバーすべき条件だといえなくもないが、ただ、プロジェクトマネジメントではやはり、前提にしているものがある。例えば、
 「計画書は実行されるようにメンバーも含むすべてのステークホルダが努力する」
 「計画通りに実行されればプロジェクトは企業に利益をもたらす」
といった前提条件がある。これが成り立たなければ、PMBOK流のプロジェクトマネジメントなど成り立たない。こういうのがマネジメントが機能するための一定の条件であり、マネジメントが機能しないというのはリスク以前の問題だ。

そのように考えると、このような前提条件のかなりの当事者は「プロジェクトスポンサー」や「組織の上位管理者」である。交渉責任や指導責任までを入れると、ほぼ、すべてについて責任を持つべきなのはこの2者になるだろう。例えば、SIの受注プロジェクトで当初から顧客に全く協力の意志がないとすればこれはプロジェクトマネジャーの責任とはいえない。受注をしてきた組織の上位管理者の責任である。

このようにマネジメント上、不可欠だと思われる前提条件をクリアするのがプロジェクト環境創りである。ここをしっかりとやっていくようなプロジェクト支援体制を作ることが急務である。

2007年7月13日 (金)

PMサプリ83:成果より、成果意識を求める

「単に成果を求めるのではなく、成果意識を高める仕組みを作る」(ピープルファク
ター・コンサルティング代表 高橋俊介)

【効用】
・PM体質改善
  リーダーシップ発揮、問題解決能力向上
・PM力向上
  ピープルマネジメント力向上、チームをまとめる力の向上
・トラブル緩和
  モチベーション向上、チームの士気向上

◆人が育つ会社

ヒューマンリソースマネジメントの大家・高橋俊介氏が「人が育つ会社をつくる」で述べているフレーズ。この本は、キャリア創造を基本テーマとしているので、コーチング的な手法がベースになっており、高橋氏の提案する仕組みも

(1)チャレンジングな仕事が日常的に与えられる環境を作る
(2)コーチング的マネジメントスタイルがとられている
(3)健全な成果プレッシャーが与えられる

といったものになっている。また、このような仕組みをチームに埋め込んでいくべくだと述べられている。

◆PMは浸透してきたが、成果意識が下がってきた!?

今回、高橋氏のこの言葉を取り上げたのはきっかけがある。先日、某SI企業のK事業部長から、

プロジェクトマネジメントに全社で取り組みだしてから5年が経ち、自分の事業部でも制度としては定着してきたように思う。失敗や無駄が少なくなったという意味では生産性も上がっていると思うし、メトリクスを見てもこれは証明されている。ただ、エンジニアの成果意識が下がってきたように思う、あくまでも感覚的なものだが、、、

という相談を受けたのだ。K部長さんはどういう意味で「成果意識」という言葉を使っているのだろうと思い、聞いてみた。すると、どうも、成果に対する内発的動機のような意味だとわかった。

◆成果を管理する仕組み

この会社には以下のような仕組みがあるという。

・プロジェクト目標は失敗しないようなものになっている。昔のように、プロマネやメンバーから文句が出るような納期というのがいまはまずない。

・計画書はPMOが中心になって徹底的にレビューする。レビューに合格しないとプロジェクトには執行予算がつかない。決済もできない。計画レビューが3回以上になったものは、「監察」プロジェクトに指定される。

・通常月に1回レビューがある。2ヶ月続いてスケジュール遅れがあると、「監察」プロジェクトになる。

・「監察」プロジェクトは2週間に一度のレビューがある

・バリアンスの許容値を超えると、「入院」プロジェクトになる。「入院」プロジェクトになると、プロジェクトマネジャーは上位管理者の配下に入り、指示を受けながら進めていく。

・進捗はPMツールで毎日入力され、集計され、次の日には結果を見ることができる

あるコンサル会社のコンサルを受けながらこの仕組みを作っていったらしいが、統制としてはかなりよくできたシステムである。

話を聞いているうちに、高橋氏の言葉を思い出した。この会社の仕組みをみていると、高橋さんの3つの仕組みのいずれも逆をやっている。

◆成果意識を高める仕組みがない

つまり、成果を管理する仕組みはばっちりあるのだが、成果意識を高める仕組みというのが全くといってよいくらいない。成果を高める仕組みと、成果意識を高める仕組みというのは、外発的動機付けと、内発的動機づけである。一般に、両者は適度なバランスが保たれているときに動機がもっとも大きくなるといわれている。

中でも難しいのが、高橋氏の提案の3番目のプレッシャーである。適度なプレッシャーは内発的な動機を呼び起こすが、度を超えると外発的な動機にしかならない。それで、高橋氏の話をしたところ、今の問題が腑に落ちたそうだ。

◆成果意識を高める仕組みのポイントは管理と自律のバランス

どうすればよいと思うかと聞かれた。仕事というより友人と食事をしながらという立場だったので、「プロジェクトを形容している言葉を変えてはどうですか」などといい加減なことを行って分かれたが、実はこの問題は難しい。この仕組みを可能にしているのはPMツールである。PMツールが入っていなければ、プロジェクトマネジャーのレベルで、プロジェクトの重要性やメンバーの顔を見ながら柔軟に運用すればよいと思うが、そういうわけにも行かない。PMツールが入っている中で下手にやるとガバナンスそのものを壊してしまう危険性もある。

PMOスタッフの問題がなければ、計画レビューでリスク識別を徹底し、多少、無理をした計画を推奨する。レビューの性格をコーチング的なものに変えるといったことで問題は緩和されると思うが、この手の管理をきちんとしているスタッフのやり方を変えるのは意外と難問である。K部長の話を聞くと、既に、組織全体よりも自分自身の所属する利益が優先されて全体の利益につながらないとか,組織の力と自分の力を混同し,外部に対して威圧的な行動をとるとか,規則の客観的な適用が重視され,人間的な配慮が足りないといった逆機能が起っているように思える。

そのように考えると、一度、制度を潰すしかないのかもしれない。制度の問題だけではなく、プロジェクトマネジメントを行う際には、この内発的動機と外発的動機、言い換えると、成果意識と成果のバランスを取っていくように配慮することの必要性を教えられる話しだ。

    (2007年7月12日 PM養成マガジンプロフェッショナルより抜粋)

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。