2008年3月 2日 (日)

松岡正剛と物語編集

「遊」の時代から松岡正剛氏のファンである。とんでもない編集人である。どんな著作を読んでもうっとりするような物語を楽しむことができる。

2000年に自らの方法論を伝えるイシス編集学校を設立された。いつか参加したいと思っているのだが、知人で何人か参加している人の話を聞くにつけ、深みにはまりそうな気がして、躊躇している。

そうこうしているうちに、この学校で教えていると思われる編集の本質を垣間見せる本が出てしまった。この本だ。

4478003866 松岡正剛「物語編集力」、ダイヤモンド社(2008)

この本は、物語の5大構成要素としている

ワールドモデル(世界構造)
キャラクター(登場人物)
シーン(場面)
ストーリー(スクリプト・プロット)
ナレーター(語り手)

の5つを各章とし、[破]師範(番匠)と講評をするととにも、学衆がつくりあげた27篇の物語エチュードが紹介する作りになっている。物語エチュードは、アリスとテレス賞(コンテスト)入賞作のなから選び抜かれた作品だそうだ。

12人の師範は、

今井歴矢/奥野博 /太田眞千代/森美樹/林十全 /野嶋真帆/小池純代/高柳康代/田中俊明/古野伸治/倉田慎一/赤羽卓美

の12名。すごいメンバーである。

ちなみに、[破]というのは[守]の後の応用コース。詳しくはこちらを参照してほしい。

http://es.isis.ne.jp/

物語、ストリーテリングの有用性について書いた本は少なくない。たとえば、このブログでも紹介したことがあるが、

4478732809 田坂 広志「企画力 「共感の物語」を伝える技術と心得」、ダイヤモンド社(2004)

4837921795 平野日出木「「物語力」で人を動かせ!―ビジネスを必ず成功に導く画期的な手法」、三笠書房(2006)4837921795

など、とてもわかりやすく、印象深い本である。また、最近、翻訳された本で、

4495376012 ジョン・ブラウン(高橋正泰、高井俊次訳)「ストーリーテリングが経営を変える―組織変革の新しい鍵」、同文館出版(2007)4495376012

はかなり、マネジメント手法として突っ込んだ本である。もう物語が有用であることは定着してきたといってよいのかもしれない。

ただ、これは物語が語れる、書ける、編集できるという前提で有用であるという話であって、物語を語ることは非常に難しい。経験があってもケースを作るのは難しいが、これも同じ難しさだ。

実際にコンサルティングの中で物語を入れてみると、効果があることに驚かれると同時に、うまく物語を使うことが難しいことを痛感する。

僕がイシス編集学校に行きたいと思っているのは、この壁を感じているからだ。

この分野の本がかけるのは、ひょっとして日本で松岡正剛しかいないのかもしれないが、今回の物語編集力はその一端を垣間見せてくれる。こんな本がもっと出ないかなと思う。

それから、松岡正剛ファンの人は、この本を読んだ後で、比較的明確で、広範なテーマについて書いた本、たとえば、

4122043824 4122045592 松岡 正剛「花鳥風月の科学」、中央公論新社(2004)

松岡 正剛「ルナティックス - 月を遊学する」、中央公論新社(2005)

などを合わせ読むと、編集という概念がすっきりとするのではないかと思う。お薦め!

2008年2月29日 (金)

プロジェクトを救済する体系的方法

4320097505 E.M.Bennatan(富野壽、荒木貞雄)「ソフトウェアプロジェクトの救済入門―危機的状況に陥ったプロジェクトを救う実践的アプローチ」、共立出版(2008)

お薦め度:★★★★1/2

ソフトウエアプロジェクトのレスキューについて、そのプロセスとポイントをまとめた一冊。本書で紹介しているプロセスは

段階1:プロジェクトの中断
段階2:評価者の人選
段階3:プロジェクトの評価
段階4:チームの評価
段階5:最小ゴールの定義
段階6:最小ゴールは達成可能か?
段階7:チーム再構築
段階8:リスク分析
段階9:計画の改訂
段階10:早期警告システム
の10段階からなるプロセス。

ポイントは早期警告システム(EWS)と呼んでいるシステムにある。このシステムのツールは
「開発データの収集」
「定期的なプロジェクトステータスのレビュー」
「警告の発動」
「是正行動の開始」
「フォローアップ活動」
で、これらのツールより、早期のプロジェクトトラブルの発見、迅速な対応、および、再発防止が可能になるというストーリーである。そして、これらのツールを使って、以下の段階を踏んだ体系的なアプローチによりレスキューを実行することがプロジェクトの確実な救済につながっていくというのが本書の趣旨だ。

リカバリーやレスキューというのはややもすると特効薬があるように思いがちだが、どんな本を読んでも特効薬はないと書かれている。唯一できることは、トラブルにおいて、体系的に丁寧に対応をすることで、それによってのみ、レスキューが可能になると言ってもよいだろう。そのための体系的アプローチとして極めてわかりやすく、実践的な体系が示されているので、実務的に非常に役立つ本だといえる。

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2008年2月25日 (月)

職場の機嫌を直そう!

4062879263 河合 太介、高橋 克徳、永田 稔「不機嫌な職場~なぜ社員同士で協力できないのか」、講談社新書(2008)

お薦め度:★★★★1/2

・直接対話しようとしない
・関心を持てくれない、協力してくれない
・調整がうまくできない、連携できない
・かかわってくれない、放任されているだけ
・仲間になれない、仲間にしてもらえない

といったことが職場で頻繁に起こるようになり、職場がおかしくなり、人が壊れつつある。
そんな問題意識から「協力関係」を考えるフレームを定義し、職場が不機嫌になった理由を説明している。

この本で提案している協力のフレームワークとは

・役割構造
・インセンティブ
・評判情報

の3つであり、職場が不機嫌になった理由をこのフレームワークを使って

・組織のタコツボ化
・評判情報の流通と情報共有の低下
・インセンティブ構造の変化

を上げ、それらを解消する工夫をすることによって、協力関係の構築ができるとしている。さらに協力をうまくやっている組織として、、グーグル、サイバーエージェントやヨリタ歯科クリニックという3つの事例を使って、協力関係の構築がいかに業績に寄与しているかを説明するとともに、工夫のベストプラクティスの抽出をしている。

今、本当に多くの人が困っている問題に対して、シンプルなフレームワークを示すとともに、事例により対応方法のプラクティスを教えてくれる大変よい書籍である。最近、多く見られるEES(従業員満足)をあつかった書籍の中でもよい本である。

ただ、プラクティスはいずれもカリスマ的な経営者が存在する企業であり、一般的な企業で適用できるプラクティスかどうかは若干気になるところだ。この点は割り引いて読んだ方がよいかもしれないが、

・一方的な指示を出してきて、こちらの対応が遅いとキレる。
・隣の席にいる人とも、やりとりはメールのみ。
・「おはよう」等の挨拶がない。
・派遣社員、パート社員を名前で呼ばない。
・誰もきちんと対応してくれない。

こんなことの起っている職場のリーダーは一読をお勧めする。

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2008年2月20日 (水)

ドラッカーを実践する

4478003343 ピーター・ドラッカー (著)、ジョゼフ・マチャレロ(上田惇生訳)「プロフェッショナルの原点」、ダイヤモンド社(2008)

紙版><Kindle版

お薦め度:★★★★★

原題:The Effective Exective in Action

ドラッカーの最大の理解者であり、ドラッカーの教えを30年に渡り、教えてきたジョゼフ・マチャレロ教授がドラッカーの言葉を原題のテーマで、95のアドバイスに再構成した本。

この本を理解するためには、この本で最初の項目に取り上げられているドラッカーの言葉を知っておくとよい。

「経営者の条件」に書かれている言葉で

今日の組織では、自らの知識あるいは地位ゆえに組織の活動や業績に実質的な貢献をなすべき知識労働者は、すべてエグゼクティブである

という一節である。エグゼクティブという言葉は、通常、組織上の役職を示す言葉として使われるが、ドラッカーは上の抜粋の通り、別の意味で使っており、そこにこの本全体を貫くスタンスがある。このような前提で読むべき本である。

さて、本書は成果を上げる人のバイブルとしてまとめられたもので、

(1)時間をマネジメントする
(2)貢献に焦点を合わせる
(3)強みを生かす
(4)重要なことに集中する
(5)効果的な意思決定を行う

という5つの習慣を身につけるために書かれている。ゆえにこれまで、何冊かある、ドラッカー語録のような本とは多少違った趣がある。

それは上の5つについていくつかのポイントが示されている中で

 ・とるべき行動
 ・身につけるべき姿勢

の2つの視点から、コンピテンシーの強化についての記述があり、これを意識することによって習慣化できるようなつくりになっている点だ。これこそ、マチャレロ教授がドラッカー学を教えてきたノウハウだといえよう。

ひとつ例をあげておく。上にのべたようにこの本の第1章の1項目目は

「なされるべきことをなす」

というエグゼクティブであれというアドバイスなのだが、ここでの行動と姿勢は

【とるべき行動】
 自らの組織においてなされるべきことは何か?自らがなすべきことは何か?
【身につけるべき姿勢】
 常になされるべきことから考えることを癖にする。手本となる人はいるか?

といったもの。

ドラッカーの膨大な著作は秀逸なものばかりだが、実践ということでいえば、この一冊に勝る本はないだろう。購入し、擦り切れるまで使いこんでほしい!

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2008年2月17日 (日)

あなたはだらしな系、それとも、きっちり系?

4163695206 エリック・エイブラハムソン、デイヴィッド・フリードマン(田村義進訳)「だらしない人ほどうまくいく」、文藝春秋(2007)

お薦め度:★★★★

著者のひとり、エリック・エイブラハムソンは名門ビジネススクール、コロンビア大学ビジネススクールの教授である。そのエイブラハムソンが、きっちり系、だらしな系を事例をあげ、対比しながらながら、「だらしない」ことのメリットを解説した一冊。ただし、だらしないのには病的なものもあり、それは除いて議論している。

本書でだらしな系のメリットの根拠となることは、コストと柔軟性である。最初に、トランプのメタファが紹介されている。2組のトランプがある。1組はよく切ってある。もう1組は絵柄ことに数字の順に並べられている。それを2人の人間に渡し、特定の4枚のカードの絵柄と数字を告げてどちらが早く見つけ出せるかを競わせる。当然、並べてある方だ。並んでいるなかから探し出すのに16秒、並んでいない方から探し出すには35秒かかった。

ここで面白い指摘をする。並んでいないトランプをトランプ愛好家に協力して並べてもらうと140秒かかるというのだ。

つまり、トランプは並んでいないという日常的な状況を前提にすると、結果が逆転するというのだ。

さらに、面白いのは、抜いた4枚のカードを並べている組の元の位置に戻すには16秒かかるという。つまり、並んだ状態を前提にしても、35秒と32秒ということで、ほとんど変わらない。

このように完全性を保つにはコストがかかり、必ず、きっちりとしている方がよいということはないというのが本書の主張。これを事例、歴史、だらしな系の組織など、いろいろな視点から体系的に250ページにもわたり書いているのだ。

本書で指摘されているだらしな系とキッチリ系の比較は以下のようなものだ(前者がだらしな系、後者がキッチリ系)

・素早く、劇的に、多様に、より少ない労力で状況に適応し、変化することができる
vs 需要の変化や予期せぬ出来事、新たな情報に対して融通がきかず、対応が遅れがちである

・異質なものを簡単に内側に取りこむことができる
vs 内に含めるものの量や種類を制限する。有益なものや、不可欠なものも排除してしまうことがある

・環境や情報や変化となじみ、そこから有益な影響を受けられる
vs 外部からの影響を遮断して、決して相容れることがない

・さまざまな要素に触れ、変化を促し、問題を顕在化させ、新たな解決策を導き出してくれる
vs 未知の存在や不測の事態を嫌い、それが現れると、即座に排除しようとする

・比較的少ない労力で目標を達成することができる。労力の一部をアウトソーシングすることができる
vs システムを維持するために常に大きな労力が必要になる。その労力はすべて自分で背負いこまなければならない

・大きく異なる要素でも内に組み込むことができるため、攻撃や妨害や模倣に対する抵抗力がある
vs 強さと弱さを併せ持ち、たやすく破壊されたり、失敗をおかしたり、混乱したり、模倣されたりする

若干、ものの言いようだという気もしなくはないが、確かにこう考えると、だらしな系が効果を発揮すビジネスやマネジメントというのは思い当たるものがあるだろう。もちろん、本書の中にも、運行スケジュールのない航空会社、POS管理しない書店、設計図なしでビルを建てる建築家など、いろいろな事例が紹介されている。

ただし、この本の結論は、だからだらしな系ということではない。バランスが重要だというある意味で当り前の結論だ。当たり前ではあるのだが、意外とこのバランスというのは考えられないことが多い。どこまでやるかという判断は難しいからだろう。その点について明確な示唆はない。この点が多少不満であるが、ビジネスマンとしてもマネジャーとしてもこのような視点を持つことは重要だろう。

エイブラハムソンも指摘しているように、整理整頓をするというのは思考停止を引き起こす。つまり、何も考えずに、きっちりした方がよいと無条件に考えがちである。この点について考えなおすきっかけになるだけでも貴重な本だ。

特に、マネジャーには一読をお勧めしたい。

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2008年2月14日 (木)

女性化しているビジネスマン

4478731209 エイドリアン・メンデル(坂野尚子訳)「女性(あなた)の知らない7つのルール―男たちのビジネス社会で賢く生きる法」、ダイヤモンド社(1997)

お薦め度:★★★★1/2

原書:How Men Think: The Seven Essential Rules for Making It in a Man's World

珍しく、10年以上前に出版された本を紹介したい。今、企画中のセミナーのために読みなおして、意外な感想をもったからだ。

内容は、ビジネスは男中心のゲームであり、女性はそれを理解しないためにずいぶんと損をしているというもの。あまり記憶が確かではないが、この本を最初に読んだのは1999年だと思うが、米国でもそうなんだと、結構、新鮮な衝撃を受けた覚えがある。

改めて何を感じたかというと、米国の状況はよくわからないが、日本ではビジネスでの女性の活躍は当り前のことになってきた。おそらく、最初にこの本を読んだ頃には、活躍する女性は目立っていた。しかし、今は目立たない。たとえば、仕事がら、大手の企業の部長クラスとお会いすることが多いが、女性は珍しくない。

そして、その人たちは女性独特の世界を作り上げているかというとそうではない。もちろん、女性ならではのものの見方、考え方はあると場面場面である思うが、大きな流れは男性が作ったビジネスのルールに従って堂々と自らの地位を築き上げている。これは、この本が啓蒙していることでもある。

この本ではビジネスというゲームには7つのルールがあるとしている。

ルール1:できるふりをする
ルール2:自分を強く見せる
ルール3:つらくても継続する
ルール4:感情的にならない
ルール5:アグレッシブになる
ルール6:戦う!
ルール7:真のプレイヤーになる

という7つだ。そして、このビジネスゲームを楽しむには、女性には3つの欠点があるというのがこの本の指摘。その3つとは

欠点1:失敗を恐れすぎる
欠点2:消極的すぎる
欠点3:優先順位をつけられない

の3つ。

さて、なぜ、この本を紹介したか。上に述べたように女性がこのビジネスゲームのルールに適応してきたのに対して、キャリアの浅い年代を中心に、ビジネスマンが女性化してきたのではないかと思う。

この本の中に男女の行動特性の違いを説明するためにこんな実験が紹介されている。

ハインズ夫人は病気で特別な薬を飲まないと死んでしまうかもしれない。しかし、その薬はとても高い。夫にハインズ氏には薬を買うお金がなく、薬屋さんも安くは売ってくれない。

この状況で「ハインズ氏は薬を盗んでもよいでしょうか?」という質問を男の子と女の子に別々にこの質問をした。

多くの男の子は「大切なものは何か」という問題に置き換え、命よりも大切なものはない以上、ハインズ氏は薬を盗んでもよいという結論を導ける人が多いそうだ。したがって、問題解決ができる。

ところが女の子は、薬を盗んだら、人との関係にどう影響するかを考える。そして、財産と命を比較するのではなく、薬を盗まずにハインズ夫人を助ける方法はないかと考え始める。当然、そんな方法はなかなか、見つからない。銀行でお金を借りてこのジレンマを解消しようとする。

つまり、男の子はものを盗んではならないというルールは受け入れた上で、ルールの抜け道を探す。この場合だと、捕まったとしても裁判官が理由をつけて無罪にする方法はないかと考える。

女の子はルールをそのまま受け止め、場合によっては使えないと判断し、ルールを無視してしまう。このケースだと銀行は返済能力のある人にのみお金を貸すというルールを無視する。

このエクスサイズを読んでいると、男女をとわず、ビジネスマンが女性かしているのではいかとつくづく思うのだ。

ルールがあるからビジネスである。男女とも、本書を読んでもう一度、原点に戻ってはどうだろうか?

ただし、ビジネスのルールそのものが変わってきたと指摘する人もいる。たとえば、週刊東洋経済2008年2月9日号では、「働きウーマン~世界は女性を中心に回りはじめた! 」という特集を組んでいる。これを読んでいると、男性の作ってきたビジネスゲームのルールが変わってきたので、それに対するしがらみのない女性が台頭してきたと感じなくもない。

その意味でこの本でメンデルが示しているルールそのものが変わってきているような気がしないでもない。あるいは、近い将来変わるような気もする。

4063289990 この特集号で表紙に使っている「働きマン」の主人公・松方弘子は思いっきり男キャラで、それに時々女性目線が入って活躍するという話なので、今、求められているのは、まさに、そんな人材なのかもしれない。

その点も含めて、ルールがあるからビジネスなのだというこの本の指摘そのものは普遍性のあるもので、ゆえにゲリラはゲリラで、ゲリラがビジネスを支配することはないだろう。そして、そのルールに対して適合できるものが生き残るという指摘も、またただしいと思う。その意味でも、読んでみる価値のある一冊だ。

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2008年2月11日 (月)

メンタルヘルスと経営学の統合

4478003378 佐藤隆(グロービス経営研究所監修)「ビジネススクールで教える メンタルヘルスマネジメント入門―適応アプローチで個人と組織の活力を引き出す」、ダイヤモンド社(2007)

お薦め度:★★★★

メンタルヘルスマネジメントは検定試験もでき、社会的に関心が高まってきている。書籍出版も増えてきたが、この本はちょっと変わっている。

まず、構成が
・基礎編
・状況把握編
・ソリューション編
の3つにわかれている。

基礎編では、メンタルヘルスの基礎知識ということで、今、世の中で起こっていること、メンタルヘルスとはどのようなものか、この本のスタンスである適応アプローチとは何かといったことが解説されている。また、ストレスとは何かということについても説明されている。どんな本にも書かれているような内容だが、マネジャーやリーダーが何をすべきか、何を知っておくべきかという点にも言及されており、ちょっと一味違っている。

次は状況把握編で、自己のストレス特性や状況の把握、組織のストレス状況の把握方法について説明されている。

この本のメインは次のソリューション編である。この本のスタンスは上に書いたように適応型アプローチで、これは、世の中の変化についていけずストレスが発生している状態を、変化に適応するように変えてやるというアプローチだ。

この変化への適応に関して、

・セルフケア
・リーダーシップ
・人的資源管理

の3つの視点から、マネジメントとしてどのようなことができるか、どのようなことをすべきかについて体系的に述べられている。また、そのための施策についてもオリエンタルランドやTISなどの事例を紹介している。

最初はもっとプロアクティブなアプローチが書かれていると期待しながら読んだのだが、結局は組織による定期的なチェック、および、その結果からの全体的な傾向の把握、そして、個人も組織もコーピング(ストレス対処行動)というところを中心に対処をしていくという受け身のマネジメントという印象がぬぐえない。問題の性格上仕方ないかもしれないが、マネジメントとしては、まだまだ、大きな課題があるようにも思う。

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2008年2月 7日 (木)

Win-Winの関係づくりのバイブル

4426104432 鈴木有香「コンフリクト・マネジメント入門-人と協調し創造的に解決する交渉術」、自由国民社(2008)

お薦め度:★★★★★

最近、ネゴシエーションがマネジメントの一つの要素として、意見の対立があると、以下に勝つかということに関心が高まってきている。確かに、Win-Winといった概念があり、それを目指そうとするのだが、多くの人はできればそうそこに落としたい。しかし、時間がないなどの理由で一方的に相手をやっつけようとしたり、あるいは、痛み分けのような結論を求める。

特に、エンジニアというのは好戦的な人が多い。特に、仕事に熱心な人ほど、好戦的な傾向があるように思う。この本を読んでみると、そのようになる理由がわかってくる。白黒をはっきりとさせる、短期的な決着や成果を求めるという技術者魂(?)がなせる技かもしれない。

この本は最初から最後まで、独特の考えも基づいたコンフリクトマネジメントスキルが展開されている。

第1章では、まず、コンフリクトにはネガティブな面だけではなく、肯定的な面なあるというところから始まる。これが全体のコンテクストになっている。なかなか、こうは思えないものだ。

そして、コンフリクトの解消には協調的アプローチと競合的アプローチがあり、協調的なアプローチの方が将来的な好結果を生むことを指摘し、そのためのスキルについての解説に入る。

最初はコンフリクト分析のポイントで、
・ぶつかり合う立脚点
・見えていないニーズ
・絶対譲れない世界観
・双方で解決に取り組み問題を再焦点化する
・よりよい解決策をつくるための建設的提案
・破壊的提案は人間関係を終わらせる
の6つを上げ、細かく説明している。納得!

次に、協調型交渉のプロセスを具体的に説明している。さらに、次の章では、コミュニケーションの取り方と感情の関係について整理して解説されている。

これらの準備の後に、実践のためには、どのようなトレーニングをすればよいかを提案している。これも納得性が高く、また、ポイントが絞られているので個々のトレーニングは容易に、反復的に取り組むことができる。

最後に、ハードスキルとして、
・目標設定と行動計画
・フィードバック
・怒りへの対処とクレーム処理
・コーチング
・ミディエーション
の6つを取り上げ、解説している。

全般的に結構難しい話をしているようにも思うのだが、解説は平易で、わかりやすく、さらに、ふんだんにケースを使って説明されているので応用もききやすいように思う。素晴らしい本である。

Win-Winの関係づくりのバイブルといっても過言ではないだろう!

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2008年2月 4日 (月)

シンプルだから強い

北欧が注目されている。

ビジネス誌でも特集が組まれ、いろいろな点で注目されているようだ。昨年、出版された本で、北欧出身でライフバランスのコンサルティングをやっている著者が書いた

4072568341 ランディ・ノイス(椿正晴訳)「北欧流スローライフ・コーチング」、主婦の友社(2007)

を読んでみて、なぜかわかった。一言でいえば、生活も仕事も質が高いのだ。一昨年くらいからデザイン・マーケティング業界で「ひとつ上」というのが流行語になったが、まさにひとつ上のなのだろう。

北欧企業というとノキア(フィンランド)、IKEA(スウェーデン)、ボルボ(スウェーデン)、ABB(スイス)などが頭に浮かんでくる。これらの企業は、

4860290690 オッレ・ヘドクヴィスト、可兒 鈴一郎「ノルディック・サプライズ―北欧企業に学ぶ生き残り術」、清流出版(2004)

で取り上げられているので、興味があれば読んでみるとよいだろう。

いずれも、グローバルな大企業であるが、特徴はレバレッジの効いた経営にある。ゆえにシンプル、機能美、・・・といった言葉が思い浮かぶ。北欧の一つの面は、大きな政府だが、シンプルで効率的な考え方ができるからこそ、大きな政府が可能になるのだと思う。

北欧は、アメリカ信奉のアンチテーゼだという人もいるが、やはり、何か、生活や文化に根ざした独特の思考法なりがあるのではないかと思う。いろいろと本を探していると、こんな本があった。

4478760969 フレドリック・ヘレーン(中妻美奈子監訳、鍋野和美訳)「スウェーデン式 アイデア・ブック」、ダイヤモンド社(2005)

たとえば、こんな話が載っている。アインシュタインが、「博士と私たちのようなその他大勢の違いはなんでしょうか?」と聞かれてこう答えた。

たとえば、干し草の山から針を探さなくてはならないとします。あなた方はたぶん、針が1本見つかるまで探すでしょう。私は針が全部、見つかるまで探し続けると思います」

こんな話がエッセイとして30書かれた本だ。この本を1冊読み終わると、ノキアやIKEAの企業イメージが頭に浮かんでくるので不思議だ。きっと、何かDNA的なものがあるのだと思う。

1 針を探す
2 はてなタクシー
3 世界初の創造性テスト
4 メタファーで表現する
5 エジソンのアイデア・ノルマ
6 組み合わせの妙
7 いつものやり方
8 アイデアは潰されやすい
9 満腹病
10 メキシコ・オリンピック
11 バグを探す
12 囚人用ベビーフード
13 混ざらないものを混ぜる
14 失敗するほどいい
15 裸の王様
16 「絶対」はない
17 「もし・…・・」と考える
18 アイデアメーション
19 「メトロ」の裏話
20 考える人、考えない人
21 青いライトと赤い車
22 創造性の4B
23 発想のもと
24 それ、捨てるんですか?
25 暗黙の掟
26 チャレンジャーになる
27 テレポーテーション
28 「イエス」より「ノー!」
29 将来のシナリオ
30 素晴らしき未来

この本が訴えているのは、リラックスがアイディアを生むということだ。これが、スローライフにフィットしているのかもしれない。とりあえず、このあたりから北欧を感じてみよう。

2008年2月 3日 (日)

「打たれ強さスイッチ」を入れる!

4413009371 岡本正善「打たれ強さの法則―心のスイッチを入れる実践トレーニンク」、青春出版社(2008)

お薦め度:★★★1/2

著者の岡本正善氏はプロゴルファー、プロ野球選手などの能力を引き出しているメンタルトレーナー。原理は自分の弱さを認めることによって、本当の強さを見つけることにある。応用範囲は広く、ビジネスの中でも

・肝心なところで力を出したい
・目標をもって仕事をしたい
・上司や部下との人間関係をよくしたい

といった応用範囲について述べられている。この弱い自分を否定しないという考え方はトレーニングに対して強い動機づけになるだろう。

この本は、以前出版された

4413017986「逆境を生き抜く「打たれ強さ」の秘密―タフな心をつくるメンタル・トレーニング」、青春出版(2000)

のトレーニングを強化したような内容になっている。本書の出版の影響か、あるは、何かを耐えなくてはならない世の中だということなのか、8年前のこの本が今、たいへん、売れているそうだ。ちなみに、この記事を書いた時点で、アマゾンでは、450位だった。

さて、本書で紹介されているトレーニングはシンプルである。ベーシックとアドバンスに分かれ、ベーシック編では

・強くなる呼吸法(メンタルリズムを作る)
・思ったことを次々に実現するイメージ力

の2つのテーマでいくつものトレーニング法が紹介されており、また、ツールも紹介されている。また、アドバンス編では

・動じない心をつくる自分のリズム
・よろ自分らしく生きる目標の作り方

の2つのテーマで、同じくトレーニングとツールが紹介されている。トレーニングはシンプルであり、日常的に取り組むことができるだろう。たとえば、イメージ力を鍛えるトレーニングで、五感を鍛えるトレーニングでは、「いちばん敏感な感覚」を考えさせる、「風呂で一つ一つの感覚をトレーニングする」などだ。

さらに、この本の特徴は「スイッチ」というメタファを使って、打たれづよいスイッチを入れるという方法を推奨している。これが一番のみそ。つまり、トレーニングで潜在能力を開発し、スイッチメタファでその潜在能力を引き出す。こんなロジックだ。

個人的な感覚だが、スイッチメタファは打たれ強さということに対して、非常に強力な方法ではないかと思う。ぜひ、本を読み、気にいったら試してみてほしい。

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2008年1月29日 (火)

カテゴリーに「★★★★★」を作りました

ある人に、

★★★★★

って何冊くらいつけていますかって聞かれた。

それですぐにわかりようにカテゴリーを作りました。

https://mat.lekumo.biz/books/cat2392454/index.html

今まで15冊でした。エントリーが530くらいですので、まあ、僕が相当に気にっている本ってことですね。

(2008.01.30 追記)

指摘があり、再度見直したところ、18冊ありました。浅海さん、わざわざ、全部の記事に目を通して下り、ありがとうございました。謝々!

20+1の悪癖を修正するコーチを受けよう!

4532313562 マーシャル・ゴールドスミス、マーク・ライター(斎藤 聖美訳)「コーチングの神様が教える「できる人」の法則」、日本経済新聞社(2007)

お薦め度:★★★★★

1 極度の負けず嫌い。
2 何かひとこと価値をつけ加えようとする
3 善し悪しの判断をくだす
4 人を傷つける破壊的コメントをする
5 「いや」「しかし」「でも」で文章を始める
6 自分がいかに賢いかを話す
7 腹を立てているときに話す
8 否定、もしくは「うまくいくわけないよ。その理由はね」と言う
9 情報を教えない
10 きちんと他人を認めない
11 他人の手柄を横取りする
12 言い訳をする
13 過去にしがみつく
14 えこひいきする
15 すまなかったという気持ちを表さない
16 人の話を聞かない
17 感謝の気持ちを表さない
18 八つ当たりする
19 責任回避する
20 「私はこうなんだ」と言いすぎる。

これはエグゼクティブ・コーチとして全米ナンバーワンといわれ、ジャック・ウェルチのコーチもしたマーシャル・ゴールドスミスが指摘する、リーダーとしての能力を発揮できなくする対人関係に関する20の悪癖である。

さらに、ゴールドスミスは21番目の悪癖で、

21 目標に執着し過ぎる

という悪癖も指摘する。

この21のうち、ひとつでも当てはまっていれば、ぜひ、この本を読んでほしい。自らのコーチングで、これらの悪癖を修正し、リーダーとして能力を発揮するための方法を極めて具体的に書いている。

その方法とは

・フィードバック
・謝罪する
・公表する。宣伝する
・聞く
・「ありがとう」と言う
・フォローアップ
・フィードフォワードを練習する

の7つである。

これを見てよくあるコーチングの話だと思った人は、4、6、10、11はきっと該当していると思われる(笑)。確かに、コンセプト自体はコーチングでよくある話なのだが、その深さが違う。すごいものだと思った。

さらに、この本のすごさはそのあと。自分を変えるときのルールということで、コーチング効果の持続について述べている。そして、最後は、悪癖を修正した上で、部下にどのように接するかという問題で終わっている。

この本を読み、実践できた人は確実に、B級管理職から、A級マネジャーに変身できるだろう!

<独り言>
最近、5つ星を連発しているなあ、、、まだ、書評を書いていないものも1冊ある。まあ、よい本にあたっているということか、ポジティブに考えよう!

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2008年1月26日 (土)

スターバックスの44のベストプラクティス

4887595743 ジョン・ムーア(花塚恵訳)「マジマネSPECIAL スターバックスに学べ」、ディスカヴァー・トゥエンティワン(2007)

お薦め度:★★★★

2年半前に、このブログでスターバックスの人材育成について書いた本を紹介した。

当時は、スターバックスの事業展開については数冊の書籍があったが、マネジメントについて書かれた書籍が少なかったのだが、この1年くらいの間は、結構、本屋で新刊書を目にするようになった。

その中で、お勧めなのが本ブログでも何冊か紹介した「マジマネ」シリーズのスペシャルとして出されたこの1冊。

スターバックスの中で語り継がれている独自の成功のノウハウ(ベストプラクティス)を44個、公開している。ベストプラクティスは

・ブランディングとマーケティング
・サービスマネジメント
・人材育成

の3つに分けて整理している。ブランディングとマーケティングでは、
【ノウハウ1】事業を築く過程からブランドは生まれる
【ノウハウ4】真摯な姿勢が人々から信頼を生む
【ノウハウ14】言葉よりも行動!
など15個。サービスマネジメントでは、
【ノウハウ16】注目に値することが注目される
【ノウハウ18】顧客が笑顔になるサービスを心掛ける
【ノウハウ25】旅行者は土産を持ち帰り、探検家は土産話を持ち帰る
など14個。人材育成では
【ノウハウ30】強い企業は、従業員との間に信頼がある
【ノウハウ35】ブランドは人の情熱によってつくられる
【ノウハウ36】リスクをとり、謙虚さを忘れず、新しいことに挑戦する
など13個。これ以外にプラスアルファとして
【ノウハウ43】利益は副産物である
【ノウハウ44】高い志と情熱を持つことが、競争社会で勝ち抜く唯一の方法
の2つで全部で44だ。
読んでいて、ひとつひとつの項目から、スターバックでの店頭での対応やメニューが目に浮かぶ。つまり、実行されているのだ。なんと素晴らしいことだろう!

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2008年1月21日 (月)

ステークホルダマネジメントのバイブル

4760826149 星野欣生「職場の人間関係づくりトレーニング」、金子書房(2007)

お薦め度:★★★★★

以前、星野欣生先生の

人間関係づくりトレーニング

を紹介したが、続編で、職場に焦点を当てた本が出た。それがこの本。

自分探し
関係的成長
きき方とかかわり
言葉の使い方(1)
言葉の使い方(2)
フィードバックは成長の鏡
コンセンサスと人間関係づくり
リーダーシップはあなたのもの
リーダーはファシリテーター
チームワークを考える
成熟したグループづくりのために
体験学習と日常生活

といった内容。前書と同じく、最初にコンセプトを説明し、エクスサイズ、そしてエクスサイズの結果を踏まえた理論の説明という流れで楽しみながら自己啓発としてトレーニングを進めていけるような構造になっている。

言葉の使い方あたりまでの内容は、若干、前本と被るが(解説やエクスサイズは書き下ろしであるが、内容が似ている)、フィードバック以降は純粋にビジネスの場面を想定したものとなっている。前にも書いたが、この本はハウツー本ではなく、エクスサイズを通して体験学習をすることを狙った本である。合意形成、リーダーシップ、ファシリテーション、チームワームなど個々の分野ではそのような本を見かけるが、まとめてこのようなトレーニングを念頭に置いた本はないと思う。

これらの専門のテーマの本を読むと、関連が出てきて混乱したり、あるいは不自然に無視したりしているケースが多く、全体が見えにくい。その点、この本は「人間関係」という切り口で全体を見ながらトレーニングを進めていけるので、バイブルといってもよいような本である。

また、ヒューマンスキルトレーニングや新入社員研修を担当している人材開発の方にもぜひ、目を通して戴きたい。特にエクスサイズが練れていて、非常に参考になる。

余談になるが、星野先生はプロフィールを見ると80歳近い方だ。この年齢になってこの内容の本が書けるというのは本当にすばらしいと思う。

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2008年1月20日 (日)

ビジネス書の杜Award2007「このビジネス書がすごい!2007」

1 「ビジネス書の杜」主宰者 好川哲人が選ぶ2007年のベスト1は

アラン・コーエン、デビッド・ブラッドフォード(高嶋薫、高嶋成豪訳)「影響力の法則―現代組織を生き抜くバイブル

です。実は最後まで、どちらにしようかと悩んだ本があります。それは峯本展夫さんの

峯本展夫「プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル―論理と知覚を磨く5つの極意

です。少なくとも、アラン・コーエン、デビッド・ブラッドフォードさんの本が11月に出るまでは今年は峯本さんの本と思っていました。そこに、アラン・コーエン、デビッド・ブラッドフォードさんの本が出てきて、悩み出したわけです。

最後は「ビジネス書の杜」ということでどちらを多くの「ビジネスマン」に読んでほしいかと考えたときに、やっぱり、アラン・コーエン、デビッド・ブラッドフォードだと思い、こちらにしました。

本の出来の差ではなく、分野の差だと思います。

さて「影響力の法則」を評価している理由ですが、ブログ記事にも書いていますが、「ハウツー」と「考える」ことのバランスです。分野にもよると思いますが、僕はリーダーシップのハウツー本はあまり評価しません。しかし、一から自分で考えて下さいといってもほとんどの人ができないというのも現実です。

このジレンマは結構根が深いものです。というのは、特にリーダーにおいては今日昨日に始まったことではなく、極論すれば小学校からハウツーを求め、考える習慣を持たずにそこまで来てしまった人が少なくありません。その人たちにいきなり、考えることを求めても現実的ではないことは否めません。このジレンマは我々もリーダーシップ開発や研修の中でも常に感じている点です。

このジレンマに対して、アラン・コーエン、デビッド・ブラッドフォードの本は枠組みをハウツー的に示し、その実践においては考えさせるというハイブリッドな方法をとっています。これはたいへん高等な方法で、有効だと思われます。

もちろん、この本で示されている

法則1:味方になると考える
法則2:目標を明確にする
法則3:相手の世界を理解する
法則4:カレンシーを見つける
法則5:関係に配慮する
法則6:目的を見失わない

の6つの法則からなるフレームも非常にすぐれものです。特に、冒頭に「味方になると考えよ」いうポジティブシンキングの法則をを入れているというのは、目から鱗です。これができるようになれば、どれだけ人に影響を与えることができるか! 想像に難くありません。

一人でも多くの方に本書を読んで頂ければと思います。

というわけで、とりあえず、この本の翻訳をされた高嶋成豪さんをお招きして、講演をして戴くことになりました。

演題:プロジェクトリーダーと影響力
日時:2月18日 19:00~21:00
講師:高嶋成豪(インフルーエンステクノロジー)
参加費:5千円(税別)
主催:ビジネス書の杜、有限会社プロジェクトマネジメントオフィス

です。詳細、お申し込みはこちらになります。
 
クリック → ビジネス書の杜 2007 Awardセミナー 
 

2008年1月17日 (木)

「変人力」が改革の決め手

4478000832_2 樋口泰行「変人力~人と組織を動かす次世代型リーダーの条件」、ダイヤモンド社(2007)

お薦め度:★★★1/2

ダイエーの再建のリーダーとして乞われた樋口泰行氏が1年半にわたる活動から得られた変革型リーダーの在り方をまとめた本。エピソードを中心につづられており、リアリティのある話で、物語としても面白く読める。

ダイエーがどのような状況だったかを示すエピソードがある。ダイエーはかつて、野菜に強かったが、いろいろな問題で、その強みをなくしていた。ヒューレットパッカード社の社長だった樋口氏は、HP社の送別会で、いろいろな店で買ってきた野菜を並べ、どれがダイエーのものかを当てるというゲームをやらされる。もっとも鮮度が悪いのがダイエーのものだった。それが原因でもないのだと思うが、まずは、野菜改革に取り組み、一定の成果を出す。これを契機にして、風土改革を行い、ダイエーをなんとか再建のめどがつくところまでひっぱていく。

その際に、樋口氏が再建(変革)プロジェクトのリーダーとして必要だと思った力が

・現場力
・戦略力
・変人力

だという。現場力とは、「現場の創意を最大限に引き出す力」である。戦略とは「人や組織をただしい方向に導く力」である。そして、この本のタイトルでもある変人力とは「変革を猛烈な勢いでドライブする力」である。

これらの定義はこの本のそれぞれの章の副題として書かれているものなのだが、僕自身は本文中にもっと強烈なインパクトのあるフレーズがあった。特に変人力では、本文中にその定義として

エモーション
周囲が何を言おうとも自分の信念を貫きとおす力
底知れない執念で変革をやり遂げようとする力

といった表現があるが、エモーションとか、信念とか、執念といったキーワードの方がぴったりとする。

この本を読んでいると、タイトルにあるとおり、やっぱりキーになっているのが変人力である。もちろん、方向が間違っていたり、現場がしらけていたりしたのでは話にならないが、逆にいえば、このあたりはそれなりにできる人が多い。特に、樋口氏の、松下電器、ボスコン、HPというキャリアをみれば不思議ではない。

ダイエーでこの時期に樋口氏が果たした役割に対して、本当の意味での評価がされるのはもっと後だと思うが、丸紅という会社の支援を受けることができるようになったのは大きな成果だ。その意味で、成功したプロジェクトだと言えると思うが、樋口氏でなくてはできなかったとすれば、エモーショナルに動くことができたことではないかと思う。本として見れば、現場力に最も力が注がれていて、変人力のあたりが薄いのは多少物足りないなと思った(ただ、主役は現場なので、書いているうちにそのようになったのだろうというのは容易に推測できる)。その点で★を3つ半とした。内容的にはもうひとつ★を増やしてもよい本だ。

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2008年1月14日 (月)

途方もない問題に対処する思考法

4492555986 細谷功「地頭力を鍛える 問題解決に活かす「フェルミ推定」」、東洋経済新報社(2007)

お薦め度:★★★★

「マンホールのふたはなぜ丸いのか」「鏡が上下でなく左右を逆転させるのはなぜか」「ビル・ゲイツの浴室を設計するとしたらどうするか」

これらの質問に答えられますか?これらの問題(クイズ)は

4791760468_2 ウィリアム パウンドストーン(松浦俊輔訳)「ビル・ゲイツの面接試験―富士山をどう動かしますか?」、青土社(2003)

に掲載されているもので、マイクロソフトが入社の際の面接で実際に使っている問題だそうだ。

では、次の問題はどうだろうか?

日本全国に電柱は何本あるか?

このように途方もない問題に対して有効だとされる思考方法が「フェルミ推定」である。この本は、フェルミ推定について解説した本である。この本では、まず、この問題を例にとりながら、フェルミ推定の方法について説明している。本書で説明している方法は以下の通り。
(1)アプローチ設定
まず、この問題に対するアプローチを決定する。たとえば、
「単位面積当たりの本数を市街地と郊外に分けて総本数を算出する」
ことにする。
(2)モデル分解
対象をモデル化して単純な要素に分解する。この例ではポイントは市街地と郊外では電柱の密度が違うことである。そこで、それぞれのエリアの「単位面積当たりの本数」とそれぞれの「総面積」からそれらの積で総本数が算出するというモデルにする
(3)計算実行
実際に計算を実行する。ここで、まず、市街地を「50平方メートルに1本」、郊外を「200平方メートルに1本」としてモデル化する(この設定はセンス)。これで、もし、日本の面積が38万平方キロメートルだと知っていれば使える。もし、知らなければ、また、別のフェルミ推定を行う。そして、市街地と郊外の面積比については日本の国土の四分の三が山間部と言われているので、20%を市街地とする。
(4)現実性検証
もし、部分的にデータが取れれば、そこで検証する
本書では、フェルミ推定がうまくできるのが地頭が強いとし、フェルミ推定の「結論から考える」、「全体から考える」、「単純に考える」の3つを合わせた思考プロセスを強化する方法を述べている。

この種の思考能力が必要だという人とそうではないという人がいると思う。マイクロソフトが試験に使っていることからも分かるように、創造的な仕事、構成的な仕事をしようとすると必ず必要になってくる能力である。たとえば、コンサルタントには必ず必要な能力だとよく言われる。

ということで、必要だと思う人には大変よい本である。ぜひ、読んでみてほしい。

ちなみに、巻末には、「シカゴにピアノ調律師は何人いるか?」、「世界中で1日に食べられるピザは何枚か」、「琵琶湖の水は「何滴」あるか」の3つの問題について解答付きで掲載してある。同時に、10個以上の練習問題が掲載されている。クイズとしてチャレンジするのもよいかもしれないが、クイズとしての興味なら、ビル・ゲイツの面接試験の方がよいかもしれない。

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2008年1月 7日 (月)

本物のプロフェッショナルとは

4901491687 松本 整「勝負に強い人がやっていること―ここぞという時に結果を出す考え方・行動の仕方」、ナナ・コーポレート・コミュニケーション(2007)

お薦め度:★★★★1/2

著者の松本整氏は競輪の世界で最年長のG1タイトル取得の記録を持つ競輪の名選手でありながら、現役時代から自分のトレーニングジムを開設し、独自のメソッドによるアスリートのトレーニングを行っているという変わったキャリアの持ち主。その松本氏が、自身のメソッドをまとめた本。

いくつもはっとするところが多い。

この本では最初にプロフェッショナルの定義から始まる。プロフェッショナルの定義はビジネスの世界ではいくつもあるし、わかったような概念になっているが、松本氏の定義はいたってシンプル。プロとは

 「常に勝ち続けることのできる人」

だという。この定義は「が~ん」という感じだ。人材育成の仕事をしていながら、なんとなくプロフェッショナルの定義はよくわからないという思いを持ち続けてきたが、これで納得。この定義は単純なようで、極めて深い。

おそらく、僕が知っているすべてのプロフェッショナルの条件はこれで片付く。

プロフェッショナルの条件でおそらくもっとも多くの人が納得しているのはドラッカー博士の定義だと思う。

プロフェッショナルの条件―いかに成果をあげ、成長するか

での定義は

「成果をあげる」という絶対目標を持ち、自らの行動に「責任」を持つ人材

である。この本の定義はイメージしにくい。何がイメージしにくいかというと、ドラッカー博士のいうところの「成長」というキーワードだ。成長するというのはどういうことか?

たぶん、ここに松本氏のいう「続ける」というキーワードがくっついていることに気付かされた。

松本氏のメッセージは、スキルだけでいえばアマチュアの方が強い場合もある。プロフェッショナルとはその職業としてトップランナーとして継続的に食っていける人だという明確なメッセージ。特に、成果を上げることができるようになってからの継続が難しい。

一つの仕事で成果を上げることもそんなに簡単なことではない。しかし、継続するのはその何十倍も難しい。だから、(特に日本人は)長くやっていることを評価する。

ビジネスでいえば、マーケティングのプロフェッショナルといえばどんな状況で売れる商品を企画できる人。プロジェクトマネジメントのプロフェッショナルというとどんなプロジェクトでもそのプロジェクトに収益をもたらすことができる人のことだ。この状況では、売れなくても仕方ないとか、プロジェクトが成功しなくても仕方ないといっている間はアマチュアっていうことだ。

この本は、このプロフェッショナルにどのようになっていくかを「一般論」として論じている。たとえば話に自身の競輪の経験を使っているケースが多いが、スポーツ一般に通じる話だと思うし、僕の読む限りではビジネスにも通じる話だ。

前半は比較的ロジカルにかかれており、後半は読者に発破をかけるような記述が多い。これも意図したものだと思われる。本物のプロフェッショナルを目指す人、元気になりたい人にお勧めしたい一冊。

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2008年1月 4日 (金)

2007年ベストセラー

Owl_2  昨年度は、ビジネス書の杜をご愛顧いただき、ありがとうございました。本年もよろしくお願い致します。

2007年にビジネス書の杜で売れた本のベスト10は以下のようになりました。2007年はPMBOKガイドと「プロジェクトマネージャーが成功する法則」の販売数が同数でした。「プロジェクトマネージャーが成功する法則」の方がコンバージョンレート(訪問者数に対する購入率)が高かったので、こちらを1位にしました。

1~3位については、個別にコメントしてありますので、下をお読みください。

4位~6位は、いずれもメルマガで書籍プレゼントをしていただいた本です。はやり、効果があるようです。

第1位
プロジェクトマネージャーが成功する法則―プロジェクトを牽引できるリーダーの心得とスキル

※この本はメルマガ「プロジェクトマネージャー養成マガジン」の最初の2年間の記事を整理した本です。もう出版から3年以上たっていますので、市中にはあまり、在庫がありません。内容は古くありませんが、次の展開をにらんで増刷しないことになりましたので、お持ちではない方は、急いでお買いもとめください!(好川哲人)

第2位
A Guide To The Project Management Body Of Knowledge: Official Japanese Translation

※いよいよ、今年は、第4版が出る予定です。聞くところによると、現在、出版されている国(13カ国?)で同時発売する段取りだそうです。

第3位
世界一わかりやすいプロジェクト・マネジメント

※昨年末のビジネス書の杜アンケート第1位の本です。ビジネスマンにも役立つとてもよい本ですが、ビジネス書の杜の売れ行きでは第3位でした。
アマゾンは年間ベストセラーが出ませんが、プロジェクトマネジメントの本の中ではたぶん、この本が1位だと思います。常に高い順位にいます。

第4位
プロダクトマネジャーの教科書

第5位
プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル―論理と知覚を磨く5つの極意

第6位
25の目標

第7位
アート・オブ・プロジェクトマネジメント ―マイクロソフトで培われた実践手法

第8位
一日5分奇跡を起こす4行日記―成功者になる!「未来日記」のつくり方

第9位
コンサルタントの道具箱

第10位
リーダーシップの旅 見えないものを見る
最強集団ホットグループ奇跡の法則―成果を挙げる「燃えるやつら」の育て方
Microsoft Projectでマスターするプロジェクトマネジメント 実践の極意

ちなみに、ビジネス書の杜も5年になります。5年間の総合ランキングは

第1位 PMBOK2000ガイド
第2位 プロジェクトマネージャーが成功する法則
第3位 PMBOK2004ガイド

となっています。過去4年間のランキングは以下の通りです。

2006年ベストセラー

2005年ベストセラー

2004年ベストセラー

2003年ベストセラー

ここで、お年玉クイズです。

上のランキングの通り、「ビジネス書の杜」開設以来、一番たくさん売れた本はPMBOKガイドですが、そのPMBOKガイドは、2003年1月1日から2007年12月31日までに何冊売れたでしょうか?2000年版、2004年版を合わせて、日本語版と英語版を含む数を当ててください。

正解に近い方、5名に

 特定非営利活動法人 現代経営学研究所(神戸大学大学院経営学研究科の外郭団体)

が発行している機関誌(ムック)ビジネスインサイトの別冊で

   「MBA解体新書」(ビジネスインサイト別冊)

を差し上げます。このムックは、神戸大学のMBAコースを卒業した人の中から20名ほどが、キャリアマネジメントや自分のビジネストピックスについて寄稿をし、構成されたものです。好川も寄稿しています。

2007年の秋に官公庁出版物として刊行されていますが、ビジネスインサイトは一部売りをしていないため、事実上の非売品です。著者分で何冊かいただきましたので、興味のある皆様にプレゼントします。特に、これからMBAコースへの進学を考えていらっしゃる方にはたいへん役に立つ内容だと思います。

ふるってご応募ください。

クイズへの参加はこちらです。

2008年1月 3日 (木)

専門家はコンピュータに勝てるのか?

4163697705 イアン・エアーズ(山形浩生訳)「その数学が戦略を決める」、文藝春秋社(2007)

お薦め度:★★★1/2

山形浩生さんの訳書を紹介するのは、これで2冊目だと思うが、実は結構読んでいる。テーマや著者で読むというよりも、山形さんが目をつけて翻訳をする本というので読んでいる。

山形さんを有名にしたのはたぶん

ポール・クルーグマン「クルーグマン教授の経済入門」、メディアワークス(1998)

ではないかと思うが、僕が山形浩生にはまったのは、これではなく、

エリック・スティーブン レイモンド 「伽藍とバザール―オープンソース・ソフトLinuxマニフェスト」、光芒社(1999)

である。

昨年もこの本以外に、2冊ほど読んだ。

ジョージ・エインズリー「誘惑される意志 人はなぜ自滅的行動をするのか」、NTT出版(2006)

ポール・ポースト「戦争の経済学」、バジリコ(2007)

とにかくインパクトが大きい。新しいトレンドを鋭く見つける。この本もそうではないかと思う。

さて、前置きが長くなったが、この本は「絶対計算」について書かれた本である。絶対計算という言葉はあまりなじみがないが、要するに、回帰分析やニューラルネットワークによって、実績として残っているすべてのデータを分析し、それから統計的法則を導き出す「数学」である。

最初の4章程、いやというほど、絶対計算により、人間より適切な判断ができたという事例を挙げている。象徴的なものとして、ヴィンテージワインの価格予測、最高裁判事の違憲判断の予測、野球選手の実績評価など、結構、どぎつい例を挙げた上で、まずは、マーケティングの分野での実績に触れている。

・アマゾンのリコメンド
・お見合いサイトのマッチング
・カジノ

などである。次に取り上げられているのは、政策決定において、ある政策が政策目標の実現に役立つかどうかを判断するのに、絶対計算が役立ち、防犯、貧困対策などでの実績を紹介している。

さらには、医療の世界でも同じことが起こっていると紹介している。

この本が興味深いのは、この後で、なぜ、人間はうまく判断できないのかを分析した部分。結論は、主観の混入により、統計でいうところの信頼区間がうまく設定できないことが原因だという。ここで面白いクイズがある。( )を埋めるというクイズ。

1.マーチン・ルーサー・キング牧師の死亡時年齢は( )歳から( )歳
2.ナイル川は全長何キロ?( )キロ~( )キロ

といったクイズが10問ある。これにたいして、まったくわからないというのはダメ。たとえば、1.であれば、1歳から200歳とすれば必ず正解になる。これが信頼区間だ。これに対して、正答を9個以上含む範囲を挙げた人は1%。99%は判断にバイアスが乗っていることになるという。

つまり、正解があるところをはずして、そこでいろいろな分析をするので、人間はうまく判断できないのだという。絶対計算は信頼区間を広くとり、手当たりしだいに分析していくので答えを見逃さないというのだ。

ただ、どんな問題でもそのような分析を行おうとすると、無限の因子が出てきて、不可能であることが多い。そこで、その信頼区間の絞り込みは人間(専門家)が行うべきであり、それを適切にできるためには、仮説立案が重要であると結論する。

そして、人間にそのような役割をさせるための教育のあり方にまで言及している。

日本ではビジネスの中にこのような絶対計算を取り入れることに遅れているが、そろそろではないかと思う。一度、このような世界を知っておくことはどのような仕事をしていても意味のあることだろう。

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