VUCA時代に活躍できる人材になる
お薦め度:★★★★
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コーン・フェリーのコンサルタントの書いたVUCA時代のキャリアマネジメントの本。業務をベースに書かれており、非常に実践的な内容になっている。20代、30代の人には、非常に役立つ本だと思う。特に、考えさせられる部分の多い、数多くのケーススタディーが掲載されており、ケースとケースの解説を読むだけでも十分に主張は理解できる。
同時に、VUCA時代の企業や経営の特徴、および、求められる人材の整理などもされており、VUCA時代にビジネスに携わる人であれば、50代でも、60代でも参考になる本でもあると思う。
本書ではまず、VUCAで何が変わるか、そしてその中で生き残るのはどういう人かを述べている。その中で強調されているのは企業の存続性である。これまでの時代は、企業は「永続的に存在する」ということが暗黙の前提になっていたが、VUCAの中ではそうはならないと指摘している。
そして、このような環境で、キャリアを企業に依存するのは非常にリスクが高く、求められるのは、
「主体的にキャリアを描き、勝ち残っていく人材」
だとして、これを本書全体の仮説としている。
この議論の中で本書が焦点を当てているのは、ジェネラリストとスペシャリストという2つのキャリアである。終身雇用の崩壊と同時にジェネラリスト型のキャリアは崩れつつあるが、それとは別の本書が指摘するのは、従来のジェネラリスト型のように「会社任せのキャリア形成」はリスクが高く、生き残ることができないだろうということ。キャリアを勝ち取ることが重要だと述べている。
このように考えたとき、解決すべき問題は「会社任せのキャリア」からの脱却であり、そのための方法を2つ提案している。一つは企業を自分のキャリアを輝かせるための舞台の一つと考えて、活用していくこと。もう一つは副業やパラレルキャリアを経験することだという。
一方で、スペシャリスト型のキャリアにもリスクがある。AIによる代替である。
また、スペシャリスト型キャリアを歩む人は、AIに代替されるような知識の提供ではなく、専門性を武器にした問題解決をできることが重要だと指摘している。
このような方向性でVUCAの時代を歩んでいくに当たって、成功する要件は何か。これまでの時代においては、検討を尽くした戦略や将来予測が重要であったが、VUCAの時代にや役に立たない。必要なのは、「アジリティ」の高さだとしている。
そして、高いアジリティを実現するための秘訣として以下の3つを上げている。
(1)外に出て、視野を広げる
(2)アイデアをたくさん出す
(3)アイデアをすぐに試してみる
(2)アイデアをたくさん出す
(3)アイデアをすぐに試してみる
このような行動の中で、直感の重要性、および、論理とのバランスの重要性を示しているのは興味深い。
このようなVUCA時代に活躍できる人材に成長していくためには、どのような条件が必要かを言及している。以下の7つだ。
1.学びのアジリティ
2.修羅場経験の幅
3.客観的認識力
4.パターン認識力
5.リーダーの役割を担う内発的動機
6.リーダーに適した性格特性
7.自滅リスクを回避する力
2.修羅場経験の幅
3.客観的認識力
4.パターン認識力
5.リーダーの役割を担う内発的動機
6.リーダーに適した性格特性
7.自滅リスクを回避する力
本書のメインの部分であり、7つの条件それぞれについて詳細に説明するとともに、ケーススタディーにより、イメージを明確にしている。納得できる内容である。それぞれの条件を見ていると、大局とか、直感とか、抽象など、コンセプチュアルスキルに関連する条件が多いのは興味深い。
これらに基づいて、最後に相当具体的なキャリアの歩み方を提案している。この部分は若い人には非常に参考になるだろう。
全体的に、これまでの時代とVUCAの時代に求められる人材の違いについて述べられているが、VUCA時代の経営の仕方はがらりと変わり、必要な人材も変わる。一言でいえば、これまで出る杭だった人材を活用すればよいという話だ。
人が変わっていくのと組織の文化が変わっていくには密接な関連性がある。本書ではその議論が行われておらず、時代が変わって、企業が生き延びるためには、経営や企業文化を変え、新しい人材を充実していかなくてはならないというストーリーになっている。確かに、論理的に考えればその通りである。
ただ、今までの日本企業の進化を見ていると、第3の道を探すような気もしている。例えば、トヨタがやってきていることはおそらくこの本のロジックでは説明しきれないように思う。このあたりが今後興味深い限りである。
この本を読んで感じたことを書いておく。
コーン・フェリーのコンサルタントが書いた本だけあって、VUCAの時代にはジェネラリスト指向は完全に終焉しているという分析のもとに、「キャリアを会社任せにするな」という非常に適切な提言をしている。
なぜ、この書き込みをしたかというと、本書では大学の問題をあまり議論していないが、本書で指摘している問題の本質の一つは大学の教育にあるように思う。これを書きたかったからだ。
今の大学の教育は、卒業後の勤務先がジェネラリスト指向であることを前提にしている。だが、本書で指摘するようにジェネラリスト指向は崩壊しはじめている。大学の教育内容が「ジェネラリスト型」を脱すべく、大きく変わるまで、大学はキャリア形成に役に立たない時代が来るように思える。
ただし、脱ジェネラリスト=スペシャリストではない。単なるスペシャリストはAIに代替される。
これには大学の教員の革新が必要だし、そのためには大学自体の社会的な位置づけの変化が必要なので、意外と時間がかかるように思う。
形態的には、総合大学が多すぎる。総合大学にはジェネラリスト指向の教育しかできない。だからといって、単純な単科大ではAIに代替されるようなことしか身につかない。
総合大と単科大を統合したような教育機関が必要だが、これを考えられた大学が生き残る。
投稿: 好川哲人 | 2019年11月22日 (金) 19:06