2008年5月 5日 (月)

フィードバックを極める

4903241858 ジェイミー・ハリス(松村有晃監訳、柴田 さとみ、上坂 伸一訳)「フィードバックの技術で、職場の「気まずさ」を解消する」ファーストプレス(2008)

お薦め度:★★★★★

上司による部下の指導方法としてコーチングや対話が注目をされているが、もっと、基本的な指導方法として古くからあるのがフィードバックである。フィードバックというと、ちょっとした注意をするとかで、単純なものだと思われているが、この本は新書とはいえ、100ページ以上にわたり、フィードバックという比較的、地味なテーマについて書いた本である。著者は組織変革のコンサルタント。

著者は、フィードバックがうまくいかないのは、知識とスキルの欠如だと言い切り、それを補う一冊として位置づけている。まず、著者が指摘するのは、フォードバックの位置づけで、フィードバックと「審判」を混同し、受ける側は否定的なメッセージを遮断しようとし、与える側は健全な職場環境を壊したくないと考え、それでうまくいかないと指摘する。

フィードバックを正しく行うためには
・必ずしも否定的なものではない
・一方的な独白ではない
・取っ組み合いのけんかではない
・個人を攻撃する手段ではない
・それだけが唯一正しい意見というわけではない
を念頭におき、好ましい行動や問題解決を推奨、強化する(ポジティブフィードバック)、あるいは、望ましくない行動、問題解決を修正・改善し、新しい行動パターンへの対処を学ばせるために行うものだというのが著者の主張である。

さらに重要なのは、フィードバックは部下に対するものではなく、同僚、上司などすべての人に対して有効であることを指摘している。

この本では、このようなフォードバックを可能にするための、考え方、ポイント、ツールなどをふんだんに紹介している。また、巻末には自己診断のテストもあるので、自分の傾向をつかみ、自分に適したツールを使って、フォードバックスキルを向上させることができる素晴らしい本である。

冒頭に書いたように、フォードバックを100ページも使って説明しているというのは、逆にいえば、非常に詳しい。実践的であり、なおかつ、具体的である。また、単調なフィードバックの説明ではなく、最近、問題になっている職場の雰囲気の改善に当てているので、飽きずにさっと読めるのもよい。

本書は、パーバード・ポケットブック・シリーズの第8巻である。地味なテーマであるが8冊の中でもっともお薦めできる本だ。

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2008年5月 1日 (木)

シンプルは売れる

4492556079 ジョン・マエダ(鬼澤 忍訳)「シンプリシティの法則」、東洋経済新報社(2008)
お薦め度:★★★★★
原著:The Laws of Simplicity

世の中がだんだん複雑になっていく中で、複雑性への対処方法の本は花盛りである。ビジネス書の杜で取り上げている範囲でも、システム論、編集、データマイニング、シナリオプラニング、心理学、など、科学、人文社会にまたがって多くの手法の活用が見られる。

そんな中で、この本は一読の価値がある。この本は、複雑さを引き起こさないために、製品デザインや組織デザイン(制度デザイン)は何を考えればよいかを、「シンプル」に100ページで考察した本である。著者は、MITメディアラボ教授である、ジョン・マエダ。2006年に話題になった本だが、やっと翻訳された。

ジョン・マエダの言うシンプルの法則とは

1.削除 シンプリシティを実現する最もシンプルな方法は、考え抜かれた削除を通じて手に入る。
2.組織化 組織化は、システムを構成する多くの要素を少なく見せる。
3.時間 時間を節約することでシンプリシティを感じられる。
4.学習 知識はすべてをシンプルにする。
5.相違 シンプリシティとコンプレクシティはたがいを必要とする。
6.コンテクスト シンプリシティの周辺にあるものは、決して周辺的ではない。
7.感情 感情は乏しいより豊かなほうがいい。
8.信頼 私たちはシンプリシティを信じる。
9.失敗 決してシンプルにできないこともある。
10.1.シンプリシティは、明白なものを取り除き、有意義なものを加えることにかかわる。

の10個だ。これに合わせて、この法則によりシンプリシティ達成のための3つの鍵を提示している。

1.アウェイ:遠く引き離すだけで、多いものが少なく見える
2.オープン:オープンにすれば、コンプレクシティはシンプルになる
3.パワー:使うものは少なく、得るものは多く

このためのシンプルプロセスのコアコンセプトは、「SHE」
1.縮小(SHRINK)
2.隠蔽(HIDE)
3.具体化(EMBODY)

この本のもっとも重要なメッセージは、「シンプルは売れる」ということだろう。本ではiPodだとか、googleなどを例示しているが、この本に書かれている法則は複雑化し過ぎた世の中で真に求められている。

ぜひ、一度読んで、自分たちに求められているシンプリシティ、その実現について考えてみてほしい。薄い本であるが、議論の奥行きは極めて深い。これこそが、シンプリシティの持つパワーなのだろう。

訳はよいと思うが、この本は英語の単語のニュアンスにも奥行きがある。その意味で、英語で読んでみるのもよいのではないかと思う。

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2008年4月28日 (月)

クソッタレ本?!

4062141361 ロバート・サットン(矢口誠訳)「あなたの職場のイヤな奴」、講談社(2008)

お薦め度:★★★★1/2
原題:No Asshole Rule

この10年間で僕が影響を受けた本の1冊は、ロバート・サットンの「The Knowledge Doing Gap」である。この本は、組織における成員の知識と行動のギャップについて問題指摘をし、解決方法を提案したものである。日本では、この本は2000年に一度、「変われる会社、変われない会社―知識と行動が矛盾する経営」として流通科学大学出版より出版され、2005年に講談社から「実行力不全」のタイトルで復刊されている。

言行一致の組織を作る

専門は組織行動論、組織管理論、イノベーション理論などを専門とするサットン教授が、心理的な側面から描いた組織論である。

そのサットンの新作がこの本。実行力不全よりももう少しミクロな視点で、個人の行動と人間関係に注目してどのように対処するかを通じて、組織をどのように運営していけばよいかを語っている。

たとえば、こんなひとがでてくる。

・人の神経を逆なでするひと
・いるだけでまわりにダメージを与えるひと
・自分より弱い相手をいじめる
・ときには取引先にも被害をおよぼす

誰もが、自分のことも含めて、心当たりがあることばかりではないかと思う。その意味で、平社員は自身の行動マニュアルとして読むことができ、管理職は組織運営マニュアルとして読める本である。

組織行動論には、ステファン・ロビンスの

4478430144 ステファン・ロビンス(高木晴夫、永井 裕久、福沢 英弘、横田 絵理、渡辺 直登訳)「組織行動のマネジメント―入門から実践へ」、ダイヤモンド社(1997)

という名著がある。この本はマクロアプローチもミクロアプローチの両方について解説しているし、実務家にも研究者やコンサルタントにも支持されている本だ。

サットンの本はもちろん、単独で読んでも役立つが、余裕があればステファン・ロビンスの本を読んでみて、ミクロアプローチのヒントとしてサットンの本を読んでみると一段とサットンの本の価値が上がるように思う。

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2008年4月22日 (火)

上司とケンカしても勝てない?

4887596154_2 トム・マーカート(青木 高夫訳)「外資のオキテ どこが違って、どこが同じか」、ディスカヴァー・トゥエンティワン(2008)

お薦め度:★★★★1/2

原著:You Can't Win a Fight With Your Boss(上司と戦っても勝てない)

著者はシティコープ、P&G、ACニールセンなどで経営スタッフとして活躍していたビジネスマン。いわゆる外資系の企業でビジネスピープルとして活躍する(昇進する)ための経験的にまとめたと思われる58のオキテを書いた1冊。参考までにオキテ10までは以下のようなものが並んでいる。

外資のオキテ1 ハードに、そしてスマートに働け
外資のオキテ2 結果を出さなければクビだ
外資のオキテ3 強靭な意志を持て
外資のオキテ4 時間を酷使せよ
外資のオキテ5 仕事は何としてもやり遂げよ
外資のオキテ6 誠実かつチャーミングであれ
外資のオキテ7 よい上司を見つけよ
外資のオキテ8 上司を尊敬せよ
外資のオキテ9 上司と喧嘩するな
外資のオキテ10 上司についてよく知っておけ

この本の編集者は、自社のホームページに

「これって、ほとんど日本と同じじゃないか!」と訳稿を一読して思いました。

と書いている。実は僕はこのコメントを見てびっくりした。僕はこの会社の創業者を尊敬している。直接面識があるわけではないが、メルマガなどでそれなりに影響を受けている。この本に書かれているような会社ではないと思っていた。

出版社はともかく、読んだときに、まったく同じだとは思わなかった。逆に似て非なる部分が多いなと思った。同時に、日本の多くの会社もだんだん、こういう組織文化になっているなとは思った。この本の出版社もそうなのかもしれない。

そもそも、本書の原題である「You Can't Win a Fight With Your Boss」というのは日本ではあり得ない。日本企業の良い点の一つは堂々と上司とケンカできることだ。これは、欧米(特に米国やフランス)のように白黒をはっきりさせないのでできるのだ。日本でもWin-Winという言葉が普及してしまったが、本来、日本人にはWinという考えはなかったのではないかと思う。当たり前だったのだ。

こんな違いが並んでいる。

この本が非常によいと思うのは、オキテを通じて、欧米企業の組織や文化、マネジメント、従業員の価値観というのが垣間見れること。今、マネジメントの手法はほとんど欧米発である。ところが日本ではたいていうまくいかない。日本には向かないとよく言われる。ただ、グローバル化の中で、対応せざるを得ないような手法も多い。

この議論が不毛なのは、なぜ、日本に向かないかという分析がないままで済ましていること。これがこの本を読むと、マネジメント、組織、人、などで、どのような前提にして手法が生まれているのかがよく分かる。これはたいへん、貴重なことである。

その意味で、マネジャー必読の一冊だといえる。

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2008年4月21日 (月)

段取りとはサービス精神である

4534043252 藤沢晃治「頭のいい段取りの技術」、日本実業社(2007)

お薦め度:★★★★

「段取り」をテーマに、ビジネスの中でのさまざまな活動の効率的な進め方を解説した一冊。

この本が何より素晴らしいのは、段取りを効率化の手段だと考えずに、

 「サービス精神」

だと言い切っていること。トヨタの次工程はお客様という例を引き合いに出し、段取りは周囲の人に満足を与えようとすることの結果だと述べている。この考え方は、ゴール(製品)として何が欲しいか(どうすれば最終顧客が満足するか)を明確にし、そのためには、その前工程は何が必要かを考え、その考えに基づいて、次工程にうまく渡すにはどのように作業し、どのような品質を作りだせばよいかという連鎖を作り、すべての工程の段取りをすれば、結果として、スケジュールが効率的になり、同時に適正な品質が実現されるというものだ。

この基本的な考え方に基づいて、2章以下では、いろいろな段取りについて考えている。まず最初はスケジュール。ここでは、スケジュールの問題を同期のまずさ、つまり、必要なときに必要なものがないことだと整理し、それを確保するために、各工程にバッファをつけ、余裕を持たせることを提案している。

第3章は環境・情報整理の段取りの話で、バックアップにより時間をさかのぼるバックアップ術、ワークスペースをきれいにしておく「クリアスペース」などを提案している。

第4章は企画やプレゼンなどといった知的作業の段取りを考えている。そして、第5章ではその中からコミュニケーションに的を絞り、アポイントの精度を高める、デフォルト設定によるコミュニケーションの単純化といった提案をしている。

第6章は実践編ということで、プロジェクトのような複雑な仕事に、この本で述べてきたことを適用するにはどうすればよいかを解説している。

本書で示されているうまく段取りをするための主要な視点は4つあるように思う。

ひとつ目は、段取りを周囲に対するサービスだと考えること。第2章、第4章や第5章は、このような視点を持つだけとよく理解できると思う。

二つ目は確実性の確保。ここが一番、この本で力を入れているところで、スケジュール的な確実性だけではなく、さまざまな視点から確実性を確保することが段取りにつながる。バッファ、フェイルセーフによって冗長性を持たせて、確実性につながるというもの。2章や3章はこのような視点を持つことにより可能になる。これはスケジュールだけではなく、環境や情報管理にも適用されている。

三つ目は目標(ゴール)の明確化である。ゴールを明確にすることによって、段取りができるとともに、その段取りを実行するための動機が生まれるというもの。

四つ目は、本書の中ではあまり大きく取り扱われていないが、他人の力をうまく使うことだ。この本では、段取りをサービスだと定義することと他人の力をうまく使うことの関係は直接的には触れられていないのが残念だ。

全体的に段取りという視点から、まんべんなく、洗い出されている本なので、いろいろな使い方ができると思うが、冒頭にも述べたように、段取りに対する哲学のようなものを読み取り、自分なりのやり方を考えるためには、とても良い本である。

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2008年4月17日 (木)

プロアクティブマネジメントのノウハウ満載!

4534043708 村中 剛志「 「先読み力」で人を動かす~リーダーのためのプロアクティブ・マネジメント」、日本実業出版社(2008)

お薦め度:★★★★

プロアクティブという概念はプロジェクトマネジメントで真っ先に出てくる概念である。にもかかわらず、説明に苦労する。日本語では、この本でつかわれている「先読み」とか、「先手必勝」とか「用意周到」とかそんな言葉を当てている人が多いが、ピンとこないという人が多い。

この本は、それを見事に、(一般的な)リーダー向けの行動レベルで書き切っている。特に、個人レベルの話もさることながら、チームマネジメントの方法を述べた第3章は非常に参考になる。プロアクティブとは何かという以前に、この本に書いてあるようにやることがプロアクティブだと言えるようなレベルまで落とし込んであるのは素晴らしい!

本書では、まず、最初にプロアクティブ(先読み)するというのはどういうことかを業務効率やコストなど、いろいろな視点から説明している。

第2章以降は、たいへん、具体的だし、著者の持つノウハウを惜しみなく出してあり、分かりやすい。第2章は個人レベルのタイムマネジメントを具体的なツールとともに、示している。基本は段取り変えを如何になくすかにある。それを著者の独特のノウハウとツールで説明するとともに、実行する際にポイントになるところを丁寧に解説している。

第3章は冒頭にも書いたチーム編である。ここでは、3週間スケジュールとTOP5というツールを使い、チームでの情報共有によって、プロアクティブな段取りのコントロールを行う方法を説明している。さらに、原理を示すだけではなく、実践編として、実際にチームとしてそのような活動に取り組んでいく際の普及ステップまで示されており、たいへん、実践的である。

4章はミーティングマネジメントを如何にプロアクティブにしていくかについて、これまた、さまざまな工夫が紹介されている。基本的にはアジェンダ管理をプロアクティブに行うような仕組みになっている。

第5章はステークホルダマネジメントをプロアクティブに行う際の留意点。内容的には相手に求められる前に対応することが基本。レポートマネジメント、事前相談などについて述べられている。こちらは2~4章と比べると若干、Tips的である。

第6章ではリーダーのこころということで、「リードする」、「援助する」、「感謝する」という3つのこころがプロアクティブな行動を可能にするという著者の信念のようなものを書いている。

最後のまとめとして、村中さんはプロアクティブとは、思考法でも、マインドでも、リスク回避でもない。考え方、心構え、スタイル、姿勢であると書いている。結局、プロアクティブとは、個別の行動や思考、思考にたいして、これはプロアクティブ、これはリアクティブという風に考えていくものなのだろう。そういう意味で、プロアクティブとは何かという根本的なもやもやは消えないかもしれないが、すっきりするのではないかと思う。

最後に一つ、よけいなことを書いておく。この本で、プロアクティブの必要性として例に使っている例え話を僕もよく使う。野球で守備位置をバッターによって変え、常に真正面で捕球する野手と、常に横っとびで派手に捕球する野手はどちらがファインプレイをしているかという話だ。セミナーなどのつかみでこの話をすると、必ず、出てくる意見は「評価されるのは後者」とおうものだ。

もちろん、おかしいのだが、プロフェッショナルでない多くの日本組織では、この話は個人とかチームだけで切り離しできる話ではないのだ。組織もプロアクティブという「価値観」を持ち、顧客もまた同じ価値観を持っていないと、ジレンマが起こりかねない。非常に実践的な本なので、すぐにやってみる人もいると思うので、あえてその点をコメントしておきたい。特にチームマネジメントの中で実践する際には要注意だ。もちろん、その覚悟を持って実践してほしいという意味である。

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2008年4月14日 (月)

課長の教科書

4887596146 酒井穣「はじめての課長の教科書」、ディスカヴァー・トゥエンティワン(2008)

お薦め度:★★★★1/2

この本を本屋でタイトルを見たときに、おっ!と思った。

手にとり、目次を見たら、期待したとおりのものだった。本書は、スキルと問題解決、社内政治とキャリアの4つを軸に、課長の活動のノウハウを書きあげている。

まず、最初の章は課長の定義をしている。経営的意思決定に対する関与、業務にたいする関与、リーダーシップと管理などの観点から課長とはこういうものであることを説明している。そして、日本の企業では組織の原動力だった課長が、成果主義の普及に伴う組織のフラット化の中で存在が薄くなっていき、今日、また、成果主義の揺り戻しの中で再び重要な役割になってきたという経緯を述べている。まさに同感である。

そして、次の章は課長に必要なスキルということで
・部下を守り安心させる
・部下をほめ方向性を明確に伝える
・部下を叱り変化をうながす
・現場を観察し次を予測する
・ストレスを適度な状態に管理する
・部下をコーチングし答えを引き出す
・楽しく没頭できるように仕事をアレンジする
・オスサイト・ミーティングでチームの結束を高める
の8つが必要だとし、これらについてポイントを解説している。
次に、課長が巻き込まれる非合法なゲームということで
・ポストと予算をめぐる社内政治
について述べて述べ、これを切にけて行くにはどうすればよいかを解説している。

そして、次に課長が直面する9つの問題ということで、問題社員への対処、部下のリテンション、部下のメンタルケア、ダイバーシティ、自身へのヘッドハンティングへの対処、海外駐在とその後のキャリアマネジメント、コンプライアンス、部下の人事評価への対処、ベテラン社員への対処といった問題について処方箋を示している。

そして最終章では、自身のキャリアマネジメントとして、自身の弱点を知る、英語力の強化、緩い人的ネットワークの構築、部長を目指す、課長で骨を埋める、社内改革リーダーになる、起業を考える、ビジネス書を読むといった戦略を示している。

これらの4本の柱は適切だと思うし、その内容もいいことがたくさん書いてある。何よりも、こういう形で課長の活動を体系化した点に価値があると思う。特に、スキルにおいては、課長になって身につけるというものではないと思うので、課長にはこんなスキルが必要だと定義したというのは画期的なことではないかと思う。

また、もう一つ、日本ではあまり社内政治を書いた本がないが、そんなに多くの分量ではないが、課長がもっとも悩む社内政治についての1章を設けているのはたいへん、素晴らしいと思う。

ひとつだけ物足りなさがあるのは、キャリアの扱い方である。スキルにしろ、問題解決しろ、社内政治にしろ、課長レベルになると、キャリアを背景に行わざるを得ない。この点があまり明確にかかれておらず、4つの柱の項目間の関連づけがあまり明示されていない。たとえば、どの部下を評価するなどは、自身のキャリアをかけた判断だし、問題解決の多くは係長のように単に答えを出せばよいという立場にはなく、キャリアをかけた答えを出さなくてはならないことがほとんどではないかと思う。

そう考えると、課長のキャリア戦略というのはもっと奥の深いものがあるように思う。企画意義もあり、内容もよくできた本だし、部分的には著者のそのような意識も垣間見れるので、よけいに残念だ。

ちなみに、僕が15年前に神戸大学の金井壽宏先生のMBAコースのゼミでクラスメートと話をしたときに、三分の二くらいの人は中間管理職のマネジメントについて学びたいと話をしていたのをいまでもよく覚えている。当時、ミドルの問題に強い関心を持つ唯一の先生が金井先生だった(今は、先生の教え子をはじめとして多少増えたが、それでもマイナーだな、、、)

ということで、実は昔から非常に関心の高いテーマ。この本を契機にこのようなニーズにこたえる出版がもっとされるとよいなと思う。本書の著者も書いているが、海外では中間管理職などマネジャーの範疇にないので、この分野の本は日本人が書くしかないな。とりあえず、酒井氏の第2作に期待!

最後に、もう、課長の人はこの本を読めばいいと思うが、これから課長を目指す人は、とりあえず、この本を先に読んでみてはどうかと思う。

4822243788 重松 清「ニッポンの課長」、日経BP社(2008)

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創造力を生かす

4422100432 アレックス・オスボーン(豊田晃訳)「創造力を生かす」、創元社(2008)

お薦め度:★★★★★

アレックス・オズボーンの名前は一度くらい聞いたことがあるのではないだろうか?オズボーンの名前を聞いたことがなくても、ブレーンストーミングという発想法であればだれでも知っているだろう。ブレーンストーミングは、1938年、当時、広告代理店の副社長だったオズボーンが考案した発想法である。ちなみに1938年は昭和13年である。

そのオズボーンが、創造力の発揮をテーマに1948年に書いた本がある。「Your Creative Power」という本。この本は日本では、1969年に創元社から「創造力を生かせ」というタイトルで紹介された。

この本、筆者が大学の専門課程の最初の年に教科書として使ったのが出会いで、それ以来だから30年近いファンということになる。今年になって、この本の新装版が出た。今までも、この本はよく紹介していたが、よい機会なので、ブログで取り上げておきたい。実は、もう、どんな本をブログで取り上げたかはっきりとした記憶がないのだが、おそらく、この本がブログで取り上げた本の中で、もっとも古い本だと思う。

分野を問わず、行動原則についてまとめて書いた本でもっとも多くの人に読まれているのは、デール・カーネギーの「人を動かす」、比較的、新しいところでは、スティーブン・コヴィーの7つの習慣だと言われている。

4422100513 4906638015デール・カーネギー(山口 博訳)「人を動かす 新装版」、創元社(1999)

スティーブン・コヴィー、ジェームス・スキナー(川西 茂訳)「7つの習慣―成功には原則があった!」、キングベアー出版(1996)

この2冊はリーダーシップに関する行動原則について書いた本である。

オズボーンの本は、これらの匹敵するくらい多くの人に読まれている本である。これを見ると、やはり、組織にとっての2大課題がリーダーシップと創造であることを物語っているように思え、興味深いところだ。

しかし、日本でオズボーンの名前を知る人はそんなに多くないと思う。オズボーンの名前を知らなくても、ブレーンストーミングを知っているのは日本くらいではないかと思うが。

そんな本であるが、創造についてすべてが書かれている本といっても過言ではない。内容をおおまかに分けると、まず、創造力が何をもたらすか、そして、創造力とはどのようなものなのかといったあたりを中心にした概論が述べられている。具体的な構成でいえば

アラジンのランプは今も輝く
創造的努力の報いは大きい
創造力を持たぬものはない
創造力は教育や年齢には関係がない
創造力は場所を選ばない
イマジネーションの種類
創造的イマジネーションの種類
創造力のランプを満たす油

といったあたりである。

そして、次に、創造力を高めるためのさまざまな工夫や手法、テクニックについて述べられている。ここには

連想力は記憶とイマジネーションを結ぶ
創造力を推進する感情的な力
意志のあるところアイディアあり
判断力はアイディアを殺すことがある
自己の創造力をそこなわないこと
創造的な努力は賞賛を好む
創造力の訓練は楽しい
まず肚をきめること
目標を定めよう
問題を分析し事実を挿入する
試案を得る
利用法を考える
借用を翻案
一ひねり変化させてみよう
拡大しよう
縮小しよう
置き換えてみよう
配置換え・再調整をしよう
反対を考えてみよう
結合させる
心の窓をあげて精神を遊ばせよう
幸運の女神は絶えず追う者にほほえむ

のようなタイトルが並んでいる。さらには、チームや組織による創造についても言及をしている。また、社会的な扱いについても触れている。

アイディアはアイディアの上に成り立つ
「三人寄れば文殊の知恵」か?
アイディア創造のふさわしいチームの作り方
提案制度
創造的力は人生を明るくする
統制における創造力
科学における創造力
教育界への要望

ということで、よいとか、悪いとかいう次元の本ではないので、書評は避けるが、とにかく、この本をきっちり一冊読めば、上にあげた本と同じく、間違いなく、世界が変わる本であることは間違いない。

もちろん、ブレーンストーミング(この本ではブレーンストーム会議)についてもたびたび、言及されているし、ブレーンストーミングとはそもそも何なのかということを感じることができるので、そのようなニーズで読んでいるものいいだろう。

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2008年4月11日 (金)

力学で情をレベルアップする

4408411280 林 衛「情のプロジェクト力学」、日本実業出版社(2008)

お薦め度:★★★★

プロジェクトマネジメントというのはマネジメントであり、経験的なアプローチや体系的なアプローチではだめで、そこに人がリーダーシップとコミュニケーションをうまく作用させる必要があることを読み物的に書いた一冊。

こういう話というのは誰も感じていないわけではなく、プロジェクトマネジャーが何人か集まれば、必ずといってよいくらいそんな話になる。井戸端会議的なアジェンダ設定で議論するのは楽しいテーマなのだが、これまで本がなかったのは体系的に整理することが難しいからだと思う。それを見事にやってのけた林衛さんに拍手したい一冊だ!

林さんの考えは、この問題の本質は人であり、人が作る組織である。したがって、如何に人が成長し、それによって組織が成長するかか、プロジェクト成功のカギになるというもの。この体系の中で、プロジェクトの本質を考え抜けとか、丁寧に訊けとか、技術センスを身につけろなどといったさまざまな要素を実にうまく整理している。

その際に、「情」が必要だと言っているところが林さんの真骨頂ではないかと思う。

「これからのビジネスパーソンは、論理を身につけた上で、情の大切さを知り、柔軟な思考で行動することが大切だ」

と言っている。そして、日本人は元来、論理と情をうまく使い分けできるのではないかと言っている。そして、システムが複雑になってくると論理だけではうまくいかなくなると言っている。

頭の中ではこの話は分かる。要するに大規模、複雑化してくると、論理的な整合性を保つのが難しくなるからだ。この下りを読んでいてふと、思ったことがある。それは問題が複雑になってくると、論理と情というマネジメントスキームそのものより、アーキテクチャー(制度、戦略)の問題の方が重要になってくるのではないかということ。

それを痛感するのが今、世の中をにぎわしている道路の問題とか、高齢者医療の問題など。かつてこの種の問題は、官僚が論理を担当し、政治家が情を担当することで全体としてうまくバランスが取れてきた。また、国民もその落とし処に理解を示してきた。ところがうまくいかなくなっている。

たとえば、地方の交通量の少ないところに道路をつくるかどうかという議論はまさにこの典型だ。論理的にいえば、「使われない道路をつくるのは税金の無駄遣いだ」、「今まで税金をプライオリティをつけて使ってきたのだからこれからも粛々とつくるのが正しい」の2つの論理が衝突している。

マネジメントとはこういった対立の解消をしていく仕事である。そこで、政治家が情をばらまく。道路ばかり作っていて病気の人や勉強したい人が困ってもよいのか」、「今までじっと黙って待っていた地域住民の思うがわからないのか」などなど。よけい話がややこしくなる。このような本質的な矛盾はマネジメントでは解決できない。

なぜ、こうなるんだろうと考えてみると、思い当たるのが制度設計(戦略)のまずさである。上のような本質的な論理的な矛盾が起るのは、時間の経緯とか、環境変化によるものではない。道路特定財源制度というのができたときから発生が予想できた問題である。つまり、このコンフリクトの解消はマネジメントではできない話で、制度設計として考えるべき話なのだ。

もう一度、本の話に戻るが、林さんはこの本の第2章で設計センスの話をしている。つまり、マネジメントというのはマネジメントする対象のアーキテクチャー(林さんの本ではシステム、道路の場合は道路特定財源制度)がセンスよく作られていることを前提にして述べているのではないかと思い至った。大賛成である。

であれば、論理と情を使い分けるというのは相当、高度なマネジメントだと言える。特に、相当、質の高い情を持つ必要がある。リーダーはこういうことができるようになりたいものだなと思うが、この本にはそのためのヒントが満載である。

特に、この本のタイトルにある「力学」を使って、「情」のレベルアップをしようという林さんの提案は素晴らしい!ぜひ、読んでみてほしい。

それから、著者へのお願いは、最後にドラッカーのマネジメント論との関係に触れているが、ぜひ、これを一冊の本にしてほしい!

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2008年4月10日 (木)

「経営の神様」松下幸之助の物語

4478003122 ジョン.コッター(金井 壽宏監修、高橋 啓訳)「幸之助論―「経営の神様」松下幸之助の物語」、ダイヤモンド社(2008)

原書:MATSUSHITA LEADERSHIP(1997)
邦訳版:「限りなき魂の成長―人間・松下幸之助の研究」、飛鳥新社(1998、絶版)

お薦め度:★★★★

4870313456 リーダーシップの世界的な権威であるジョン・コッターが10年前に松下幸之助のリーダーシップについて書いた本の翻訳。監修者の解説によると、コッターが書いた唯一の分析的伝記だそうだ。リーダーシップのケースドキュメントとして、秀逸の一冊。

この本では、松下幸之助のリーダーシップを、松下幸之助自身、および、松下電器の成長段階に応じて

起業以前:故郷を失い、新興産業へ入って、活躍するまで
起業時期:夢を持ち、独特の経営戦略を持ち、成長する
成長:カリスマ性を発揮し、組織が発展し、BU制度を作るも、戦争が起こる
発展:世界の松下になっていく時期の総合的リーダーシップ
成熟:理想的なリーダーシップを求め、後継の育成をする

という段階で、松下幸之助がどうかわり、それによって松下電器がどのようになっていったかが述べられている。キーワードは「素直な心」。

経営の神様トム・ピーターズが提唱したビジネス慣習を戦後すぐに実践しているのは経営の神様たるゆえんだろう。

松下幸之助の経営リーダーとしての

 利益をあげているということは、社会に奉仕、貢献できている証である

という独自の哲学は、米国では過去のものになりつつある。80年代からの金融工学を応用し、実態経営と利益がかけ離れてきたためである。それが定着してきた90年代にこの本が出版されたのは興味深い。また、5年くらい前から日本でもこのような経営が普及の兆しが見られ、企業から松下の名前も消えようとしている。この時期にこの本が翻訳されるのも大変意義があると思う(1997年に一度出版されて、絶版されているらしい)。

もう一度、幸之助が唱えた企業活動の原点に戻るようなリーダーとリーダーシップの再生を願っている人は多いのではないだろうか?そのためには、「素直」な心が重要だということだろう。素直な心を失うと、利益を上げることが自社の利益にしからないことを教えてくれる一冊である。

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2008年4月 7日 (月)

顧客満足からディライトへ!

顧客循環力という言葉を聞かれたことがあるだろうか?一言でいえば、CS(顧客満足)とES(従業員満足)のシナジーによる顧客サービス品質のスパイラル的向上を実現する組織力といえる。

顧客満足が大切だという考え方の背景にあるのは、「サービス品質が悪い」という認識である。ゆえに、品質向上の一環として顧客満足度を把握し、向上していくことに力を注いできた。

この分野はISOをはじめとして、マネジメントが相当体系化されており、書籍などでもよいものがたくさんある。お薦めの一冊はこれだ。

4820744208 日本能率協会コンサルティング、永川 克彦、蛭田 潤、江渡 康裕、渡邊 聡「お客様に対応する業務の品質管理」、日本能率協会マネジメントセンター(2007)4820744208

顧客満足というと、どうやって計測するかが問題になるが、顧客満足の評価の指標としてもっとも一般的に使われているのは、リチャード・オリバーが提唱している「期待不確認モデル」である。このモデルは、期待(E)と実績(P)に注目し、その大きさで顧客満足を決めるものである。期待と実績を比較し、実績が期待より大きいなら、顧客満足が達成していると考えるモデルだ。実績が期待を下回っている場合には、それ自体が競争力を欠いており、実績を向上させる必要がある。これが上に述べた話である。

しかし、ここで考えなくてはならないのは、期待が低ければ、いくらリチャード・オリバーモデルで顧客満足が大きくなっても競争力にはならないことだ。

したがって、期待と実績の差を小さくすると同時に、期待そのものを大きくしなくてはならない。つまり、差を小さくしながら、期待を大きくしていくというスパイラルが求められる。

最近、顧客満足度に代わって、(カスタマー)ディライトという言葉が使われるようになってきた。JTの「私たちはディライトを提供します」という見て、ディライトって何だろうって思われた方もいらっしゃると思う。妙にインパクトのあるCMだ。別のキーワードは感動である。

たとえば、顧客満足向上のコンサルティングを専門とするJ.D.パワーなどの事例を見ていると、顧客満足の向上活動が、最終的には「感動を生み出す」活動になっていくケースが多いようだ。

クリス・ディノーヴィ、J.D.パワーIV世「J.D.パワー 顧客満足のすべて 4478375208」、ダイヤモンド社(2006)

口で感動を与えるというのは簡単だが、問題は如何に実現するかである。

この方法として、3つのキーワードがあるように思う。

ひとつ目はホスピタリティである。この分野は山ほど、本がある。昔から、

4478330247ヤン・カールソン(堤 猶二)「真実の瞬間―SAS(スカンジナビア航空)のサービス戦略はなぜ成功したか」、ダイヤモンド社(1990)

のような名著が多い分野なのだが、この2~3年、ホテルサービスのベストプラクティスを応用しようといった趣旨の本がたくさん見られるようになってきた。たとえばこの本だ。
林田 正光「図解版 ホスピタリティの教科書」、あさ出版(2007)4860631978

また、ここに、最近、日本流の「おもてなし」本が出てきている。おもてなし本でお薦めは

4862760333 リクルートワークス編集部「おもてなしの源流 日本の伝統にサービスの本質を探る」、英治出版(2007)

である。この本は、おもてなしは「主客の立場が入れ替わることさえ許容し、主と客が共にその場をつくる「共創」の関係を持つことを基本としている」という視点を置き、うまくまとめている本だ。

二番目は感動だ。これも多い。上に紹介したJ.D.パワーの本もお薦めだが、最近、読んで「感動」した本がこれ。

4532313767 ロビン・レント、ジュヌヴィエーヴ・トゥール(フローレンス ミエット 石坂訳)「超高級ブランドに学ぶ感動接客」、日本経済新聞社(2008)

ホスピタリティにしろ、おもてなしにしろ、あるいは感動にしろ、その実現のメカニズムというのがもう一つの問題である。ホスピタリティであれば、「ホスピタリティマネジメント」といった形でいくつかのフレームワークが提案されている。たとえば、

4820117319 中村 清、山口 祐司「ホスピタリティマネジメント―サービス競争力を高める理論とケーススタディ」、生産性出版(2002)

などがある。しかし、あまりとっつきやすいものではなかったが、最近、「満足循環」という概念を中心にまとめた本が出版された。

4054036783 志澤秀一「ディズニーに学ぶ満足循環力―「お客様満足」+「社員満足」の秘密」、学習研究社(2008)

志澤秀一氏は東京ディズニーランドの立ち上げから人材育成にかかわってこられ、今はコンサルタントとして活躍されている方だ。

この本では、ディズニーランドにおいて、育成プログラムのバックボーンとなっている理論を紹介されている。この本で述べられているのは

(1)すべてのゲストはVIPという個性化されたメッセージの発信と、その実現の
ために必要なプロフェッショナルな仕事の定義
(2)期待を上回るサービス提供ができるような仕込みをする
(3)期待を上回るサービスを実現し、評価を受ける
(4)社員は評価に満足し、さらなる向上を図るモチベーションとする
(5)会社は発展し、より明確な個性化されたメッセージを発信する
(6)リピートが増え、さらに大きな満足をえる

というCSとESの循環(スパイラル)を作れといことだ。最近、顧客満足というより、カスタマーディライトの実現のためにESの果たす役割の議論が盛んになっているが、結局、この満足循環につきるのではないかと思う。

顧客満足は百歩譲れば現場でできるかもしれない。しかし、ディライトは千歩譲っても経営と現場の協調がない限り実現できない。それをわかりやすく説明してくれている本は、まさにこれからの経営者も現場リーダーも必読の一冊だといえる。

この本を読んでいると、どうしてもディズニーランドは特別だという人も少なくないだろう。よく聞く話で、東京ディズニーランドやJTBを目指す人は、入社試験に落ちても業界他社は受験しないという話がある。どの程度信憑性があるかはしらないが、納得できる話ではある。そこで、もう少し、一般化された話を求めている人もいるかもしれない。そんな人には、この本をお勧めしておく。

最後に、従業員満足に対して、より体系的なアプローチを探している人には、この本をお薦めしておきたい。

4818526142 吉田 寿「社員満足の経営―ES調査の設計・実施・活用法」、日本経済団体連合会出版研修事業本部(2007)

2008年4月 1日 (火)

BMWができるワケ

4478082790 トーマス・アレン、グンター・ヘン(日揮株式会社監修、糀谷利雄、冨樫経廣訳)「知的創造の現場―プロジェクトハウスが組織と人を変革する」、ダイヤモンド社(2008)

お薦め度:★★★★★

なぜ、BMWはあんなに革新的で、ドライバーをわくわくさせ、美しい車を作れるのであろうか?著者もそのひとりであるが、こんな疑問を持っている人は多いと思う。

その答えがこの本の中にある。

この本は、組織内でのコミュニケーションパターンが、「組織構成」と「空間構成」の2つの相互作用によって決まるのではないかという仮説のもとに、MITスローンの教授で技術系組織のコミュニケーション手法を専門とする研究者トーマス・アレンと、ドイツの著名な建築家であるグンター・ヘンがコラボレーションした本。

この本の中心をなすのは「スパイン(背骨)」というコンセプトである。スパインは文字通り、背骨のような形をしたオープンスペースであり、ここで組織を超えたコミュニケーションが行われ、気づきが生まれ、イノベーションが起こる。

グンター・ヘンはBMWにスパインを応用したプロジェクトハウスを作った。BMWのプロジェクトハウスでは、スパインが垂直に立っているが、ここに試作車を置き、さまざまな活動の中心となり、プロジェクトにかかわる人々の流れや活動は自然とここに引き寄せられるような設計になっている。さらに、プロジェクトハウスの周辺部門からもブリッジを渡って参加でき、プロジェクトに参加できる(連絡調整、情報収集)。このようにして、他のプロジェクトや製品にかかわるメンバーとの出会いも生まれ、インスピレーションを誘発するコミュニケーションが生まれる。

この状況はトーマス・アレンが専門とするコミュニケーション手法を実現することになる。このように、建築(プロジェクトハウス)と組織構造を組み合わせることによって、高い成果が生まれることを具体的な事例を分析しながら、述べた本。

プロジェクトワークプレイスというのは重要であるという認識はあるが、せいぜい、コロケーション(同一場所でプロジェクト作業をする)くらいで、一方で、マトリクス組織のコンフリクトに悩むという図式がある。

そろそろ、こんなことを考えてみる時期に来ているのではないだろうか?BMWのような車を作りたければである。

ちなみに、京都に本社のある企業で、スパインコンセプトだと思われる研究所を作っている企業がある。組織構造やプロジェクトマネジメントがどうなっているかは知らないが、公開情報で知る限り、かなり、創造的な成果を上げているようだ。やはり、このコンセプトは一定の効果があるのだろう。

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2008年3月31日 (月)

WBSを極める

4820118889 大川 清人「WBS構築―プロアクティブなプロジェクトマネジメントを支える技術」、社会経済生産性本部(2008)

お薦め度:★★★★

プロアクティブなプロジェクトマネジメントの実現方法を、WBSというツールに注目して、解説した一冊。

前半は、WBSの基本についてかなり丁寧に解説されれいる。多くの人が断片的に知っているということを、体系的に解説しているので、一度読んで、自分の持っている整理をしておくことをお勧めしたい。

後半は、プロジェクトマネジメントに対する考え方を、作り方と、使い方というところでノウハウの形に落としている。解説が若干難しいような気がするが、非常に参考になる内容である。

最終章は、著者のオーソリティであるEVMSを有効に活用するためには、WBSをどのように作り、どのように使っていけばよいかを解説している。

WBSは非常に奥の深いものだ。プロジェクトマネジメントの研修を一度受ければそれなりに作れる一方で、何度作ってみても本当に満足するものを毎回つくるのは難しい。その理由もこの本を読んでみればよく分かる。一言でいえば、WBSは自身のマネジメントの流儀があって、プロジェクト観、あるいは、段階的詳細化まで含めて考えればマネジメント観を表現するものだからだ。この本は、その部分にEVMSを活用したプロアクティブプロジェクトマネジメントを置き、実践的にまとめられている。この流儀に共感できる人には、相当、参考になる本だと言える。

この本を読んだだけで、著者のレベルのWBS使いになることは難しいと思うが、WBSの深さを知り、WBSを中心にしたプロジェクトマネジメントに取り組んでいくには、必読の一冊だといえよう。

なお、WBSについては、定番本

Gregory T. Haugan(伊藤衡)「実務で役立つWBS入門」、翔泳社(2005)

がある。併せて読まれることをお勧めしたい。

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2008年3月27日 (木)

下士官にみる現場リーダーのベストプラクティス

4569654029 日下公人「現場指揮官の教訓―強い現場リーダーとは何か」、PHP研究所(2007)4569654029

お薦め度:★★★★1/2

軍事や宇宙開発において膨大な国家予算を費やして開発された技術が、やがてビジネスにおいて活用され、競争優位源泉になっているものは多い。意外と目立っていないのだが、戦争の背骨になる戦略と組織(マネジメント)に対しても膨大な投資が行われており、それもビジネスの世界で活用されているものも多い。

ところが日本の軍隊は敗戦を契機に、よくないマネジメントの引き合いに出されることがあっても、よいマネジメントの引き合いに出されることはない。

この本は、多くのエピソードに基づき、日本組織の特徴を下士官に注目してまとめた本である。

この本を読んでみると、戦争というと上意下達、指揮命令系とがビシッとしている軍隊が最適だと思ってしまうが、実際にはそうではなく、下士官という「現場リーダー」がいるからこそ、「現場が動く」という現実があり、また、現場が独自の判断で行った行動に対して上官は見て見ぬふりをするという組織が意外と強いというのがよく分かる。

確かに、戦隊をどう展開するかといった戦略は現場ではどうしようもないのだろうが、現場の見えていない組織(上官)が、戦略ありきで決めたオペレーションをその通りにやるとどうなるかは大体予想できるというものだ。

欧米の軍隊だと、にもかかわらず、そこまできちんと意思決定をすることが求められ、多くの兵士の死と引き換えに上官は地位を失うのに対して、日本は現場がオペレーションの中で現場が調整をしていく。上司は日常はあまり仕事をしていないが、失敗したら責任をとる。このような組織で勝ってきた戦局が多くあることを指摘し、今、組織が機能しなくなってきたのは、下士官の存在がなくなったからだという。

下士官をビジネス組織でいえば、係長、主任、プロジェクトリーダーといったあたりの役回りである。どのような役回りか。この本の中で、米国の研究を紹介した適切な説明がある。

米国のビジネスパースンは1マス、つまり、自分の職務という「縦のライン」で、かつ、1等級分の仕事しかしていない。日本のビジネスマンは自分の職務に隣接する多種類の仕事をしているばかりか、自分の所属等級を含めて上下に三マス分の仕事をしている。つまり、九マス分の仕事をしていることになる。

隣接の仕事はさておき、上下三マスということろがミソである。少なくとも自分の領域では、自分の上と自分の下の役割も兼ねる。多能工ならぬ、多層工である。

これが日本型マネジメントの本質である。もちろん、これは「ホンネ」の部分の話であって、この本の著者も指摘しているように「タテマエ」では上のマスは上司がやっていることになっていなければならないことは言うまでもない。このあたりのヒューマンスキルをどのように軍隊の中で作り上げていたかも紹介している。

その意味で、日本型組織のベストプラクティスを紹介した非常に貴重な1冊だといえる。係長、課長クラスのマネジャーにぜひ読んでいただきたい。

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2008年3月24日 (月)

プロジェクト成功の第4の軸(こっちが第一か?)

441680802x プロデューサーズ制作チーム、佐野 一機、インパクト・コミュニケーションズ編「プロデューサーズ―成功したプロジェクトのキーマンたち」、誠文堂新光社(2008)

お薦め度:★★★★1/2

プロジェクトがうまくいくには何が必要か?当然ながら、これだという答えはない。体系的なアプローチと、継続的な地味な努力、これに尽きる。

その上でという議論をするなら、意見は分かれるのではないかと思う。一般には3つあるといわれている。

・プロジェクトリーダー(プロジェクトマネジャー)
・プロジェクトスポンサー
・プロジェクトマネジメントオフィス

ここの第4の軸として、プロデューサーという存在があることに気付かせてくれる一冊。

成功を収めたプロジェクトのキーマン(プロデューサー)とインタビュー形式で、そのプロジェクトのベストプラクティスを抽出しようとしている本。

読んでみて、すごいなあ~と思うのは、やはり、「現場力」。プロジェクトマネジメントでも、現場の感覚がいかに大切かがよく分かる。たとえば、一番目のエビスの立川さんの話。

エビス<ザ・ホップ>を出すのに一番反対したのは実は社内なんです。我々が一番心配したのは、エビスビールが好きで、エビスを信奉してくださるコアなお客様が離反することでした。

これは、マーケティングの教科書にあるような話。ところが、

エビスを選んでいる人は、「自信をもって、エビスを選んでいる自分がかっこいいと思うから」という気持ちがあるのではないかと想像するわけです。

と考えたという。これは現場ならではの感覚だと思う。この手の話が山ほどある。企画というのは本質的にこういうものかもしれない。

僕はマネジメントが現場から乖離してくるのは、宿命的なものだと思っているが、こういう本を読んで、現場への思いをリマインドすることはとても大切ではないかとも思う。

プロジェクトとプロデューサーは以下の通り。

・ヱビスビールヱビス“ザ・ホップ 立山正之
・映画「鉄コン筋クリート」 田中栄子
・ソフトウェア開発digitalstage 平野友康
・感動食品専門スーパーオイシックス・高島宏平
・Xbox 360「ブルードラゴン」プロモーションBIG SHADOW 内山光司
・絵本シリーズ「くまのがっこう」 相原博之
・クリエイティブスタジオSAMURAI 佐藤悦子
・都市再生プロジェクトR‐Investment&Design 武藤弥
・りそな銀行コラボレーションプロジェクトREENAL 藤原明

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2008年3月20日 (木)

マネジメントの奥儀

4492556001 リアズ・カデム、ロバート・ローバー(小林薫訳)「1ページ・マネジャー」、東洋経済新報社(2008)4492556001

お薦め度:★★★★1/2

ケン・ブランチャードの「1分間マネジャー」は多くの人は一度は読んだことがある本だと思う。

4478350094ケン・ブランチャード、スペンサー・ジョンソン(小林薫訳)「1分間マネジャー―何を示し、どう褒め、どう叱るか! 」、ダイヤモンド社(1983) この本に実践編があることを知っている人はどのくらいいるだろうか?

4478350132 ケン・ブランチャード、ロバート・ローバー(小林薫訳)「1分間マネジャー実践法―人を活かし成果を上げる現場学」、ダイヤモンド社(1984)実践法はタイトルの通り、1分間マネジャーの実践法について書いている。この本は、1分間マネジメントの実践として、目標設定、称賛、叱責を体系的に行うという方法を紹介したものであり、

部下を生かすABC法:目標、実践、事後方策
部下を伸ばすPRICE方式:目標を明確にする、実践行動を記録する、部下を参画させる、部下を教育指導する、評価する

の2つのメソッドが中心になっている。

この方法を実践するために、著者の一人であるロバート・ローバーが、

・説明責任
・データ収集
・フォードバック
・認識
・訓練

の5つのシステム作りが重要であるという主張の本を出版した。ロバート・ローバーは1分間マネジャーのコンセプトに矛盾しないようにこれを1枚(1ページ)の書類でやるという考えとしてまとめたのが、本書。

本としては1分間シリーズと同じくストーリー形式で、苦境に陥ったエックス社の組織復活のストーリーとして書かれている。

読んでいて興味深かったのは、普通、業績が悪くなると、人は「過剰管理」に走る。これは企業でも、事業でも、プロジェクトでも同じだ。それは決してよい結果を招かないのは皆さんもご承知の通りだが、このような状況で1ページというコンセプトは非常に理にかなっているということだ。

マネジメントの本質が書かれているといってもよいだろう。

なお、この本とは関係ないが、

0470052376 Clark A. Campbell「The One-page Project Manager: Communicate and Manage Any Porject With a Single Sheet of Paper」、John Wiley & Sons Inc(2006)0470052376

という本がある。PMBOKをどのように適用しようかというときに大変、役立つ本である。書名のみ、ご紹介しておく。

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2008年3月16日 (日)

仕組みで考える

4887596111 泉正人「最少の時間と労力で最大の成果を出す「仕組み」仕事術」、ディスカヴァー・トゥエンティワン(2008)

お薦め度:★★★★1/2

作業系と考える系を区別、仕組みにより作業系の生産性を上げることにより考える時間を作り、仕事の質を上げることを推奨する一冊。

本書の前半は仕組みとはどういうものかを例をあげながら、なぜ、仕組みづくりが重要かを簡潔に述べている。

それによると、仕組みづくりは

・才能に頼らない
・意志の力に頼らない
・記憶力に頼らない

の3つを原則(黄金律)とし、仕組みによって、作業だけではなく、マネジメント(チームを動かす)こともできると指摘する。

考え方として面白いのは、失敗への対処を仕組みかする、続けることを仕組みで実現するなど、広い範囲で仕組みをとらえていること。本質はルーチンワークを仕組みにするということではなく、考えることが価値を生まない仕事はルーチンワーク化し、仕組みを作ることによって合理的に実行していくことにあるといったことだろう。

後半は自身の取り組んでいる事例で、具体的な方法を述べている。ひとつはチェックリスト。もう一つはOutlookをうまく使う方法。いずれも、ポイントは一元化にあるとしている。つまり、チェックリスト化することにより、重複を防ぐ。また、メール、仕事などの各種の情報を一元管理する。

実例だけに、説得力がある。

この本で一番印象に残ったのは、失敗を仕組みで考える(改善する)ということだ。仕組みにより考えることにより、同じ(類)の失敗を繰り返すことがなくなる。これは改善の原点でもあるが、これにより実現される効率化は大きいのはないかと思う。

最後に仕組みで考える人の7つの習慣というのが示されている。これがなかなか深い。深いから、極める価値があるのだろう。

(1)楽することにこだわる

(2)シンプルに考える

(3)記憶せずに、記録する

(4)わからないことは聞く

(5)自分の時間を時給で判断する

(6)うまくいっている人の真似をする

(7)自分を型にはめる

この本を読んで、似通った発想だと思ったのが、この本。

三田紀房「個性を捨てろ!型にはまれ! 」、大和書房(2006)

併せて読んでみよう。

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2008年3月11日 (火)

対話により描かれたプロジェクトマネジメントの暗黙知

4883732533 中村 文彦「ITプロジェクトを失敗させる方法―失敗要因分析と成功への鍵」、ソフトリサーチセンター(2008)

お薦め度:★★★★1/2

著者の中村さんとは、日本プロジェクトマネジメント協会の研究会で、PMコンピテンシーの開発方法の研究に一緒に取り組んだことがある。そのときは、習慣化という方向にまとめていったが、こういう方法もあるんだなということを認識させてもらった一冊。

プロジェクトを提案・受注、立ち上げ・計画、実行、終了に分け、あとから振り返ると、分岐点だったなというようなプロジェクトの場面を切り出し、そこで、失敗の原因になるような意思決定や行動を「対話」の形で描いている。

そして、それに対して、どうすればよいかを簡潔に説明した上で、今度は、よい意思決定や行動を「対話」の形で描いている。

対話はテンポがよく、言外のニュアンスもうまく描いてあり、参考になる。解説は簡潔で読みやすく、ポイントも適切だと思うので、全体としてコンパクトなのだが、かなりのことが伝えられる一冊である。

また、これ以外にコラムがあり、コラムでは比較的トピックス的な話題をこれまた、簡潔に説明している。

読み方としては、まず、悪い事例で、どこが問題かを考え、その上で、著者の考えを書いた解説を読んで確認する。そして、自分ならどう行動修正するかを考えてみて、よい事例を読んで確認するという手順で読んでいける。

考えながら、気づきながら読んでいくことで、かなりのコンピテンシーの開発ができると思う。

また、対話することそのものへの暗黙知も描かれているように思う。これが結構重要ではないかと思わせる本である。読んでいるうちに、仮に、悪い対話であったとしても、対話をすることが重要だと思ったのだ。うまくいかなければ、なぜ、うまくいかないかを考え、そこからさらにうまくいく方法を模索していくという行動学習が行われる第一歩は対話である。その意味で、悪い事例からよい事例へどのように推移していけるかというのがポイントかもしれない。

最後に、この本と直接関係ないが、僕の経験でよい使い方があるので、提案しておく。プロジェクトチームでのチーム育成やチームビルディングのエクスサイズに使うと有益である。1回のミーティングで1例取り上げ、悪い事例をプロジェクトチームで読んでチームで議論する。それで、よい事例を配る。そこでどこが違うかを議論し、そのあと、プロジェクトマネジャーが著者の言っているポイントを中心にしてこういう風にしようとまとめると有効である。

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2008年3月 8日 (土)

リストフリークの作った本

4777108805 堀内浩二「リストのチカラ」、ゴマブックス(2008)

お薦め度:★★★★

なかなか、よいタイトルの本だ。確かにリストというツールには、何か特別なパワーがあるように思う。パワーではなく、チカラかもしれない。

みなさんは、リストというと何を思い浮かべるだろうか?僕が最初に覚えたリストは社是だ。みなさんも経験があると思うが、会社に入るとまず、しつこく感じるくらいに唱和させられるのが社是だろう。わたしたちのクライアントの中でも、研修の場などでも、毎朝、社是を唱和している会社がある。

僕がいた三菱重工の社是は

一、顧客第一の信念に徹し、社業を通じて社会の進歩に貢献する。
一、誠実を旨とし、和を重んじて公私の別を明らかにする。
一、世界的視野に立ち、経営の革新と技術の開発に努める。

である。

僕が三菱重工を退社して、もう20年近い時間が経つが、この3つは今でも僕の価値観になっているし、何より、まだ、唱和できる!これがリストのチカラではないかと思う。

さて前置きが長くなったが、具体的にリストが持っているのはどんなチカラだろうか?それを教えてくれる本である。

著者の堀内さんがlistfreakというサイトを作られて、活発に活動されていた。なかなか、ユニークな命名である。

そのサイトがついに本になった。拍手!

本書は、大きく2つのパートにわかれている。前半は、listfreakから堀内さんが選び抜いた50のリストが、コメントとともに5つのカテゴリに分けて紹介されている。カテゴリはコメントとともに5つのカテゴリに分けて紹介されている。カテゴリは、「まるごと覚えてしまいたいリスト」、「日々使いこなしたいリスト」、「月に一度は目を通したいリスト」、「いざというときに頼りたいリスト」、「折に触れ、じっくりと読み返したいリスト 」の5つだ。

そして後半はリストを使う方法、作る方法について述べている。僕は以前、ある会社の社是を作った経験がある。その経験に照らし合わせてみると、若干、物足りない部分があるが、なるほどと思うことの方がはるかに多い。堀内さんの「リスクフリーク」の本領発揮っていうところだろう。

この本の何より素晴らしい点は最後の2章に述べられている「リスト力」なるものだ。たとえば、ワークショップをするとかのときに、重要なものを3つあげてくれとか、結構、リストを使っている。何か意図があってやっているのだと思うが、その意味を8つのステップに分けて見事に整理している。また、編集力に通じるところで、リストをどのように編集すればよいかについても解説してくれている。

ありそうで、なかった素晴らしい本だ。

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2008年3月 7日 (金)

「やる気要塞」を攻略しよう!

4903908046 金井壽宏「やる気!攻略本」、ミシマ社(2008)

お薦め度:★★★★

実務家向けのMBAコースではケースメソッドが中心になるが、リーダーシップやモチベーションなどのヒューマン系のケースとして最も意味のあるのが、すぐれたリーダーやマネジャーの「持論」であるというのがこの本の著者である金井壽宏先生の考えで、その考えの中で、このブログでも紹介した「働くみんなのモティベーション論」が書かれている。

やる気を自己調整する

この本は、その続編として位置づけられた本である。最後に述べるようにこの本の制作過程に多少かかわったのだが、そのときは、そういう話だったので、結構、固めの本だと思っていたのだが、出来上がりを見てびっくりした。

内容的には

(1)モチベーションのケースとしての持論の紹介
(2)持論に関係する理論の紹介

を金井先生自身の経験と、インタビューに基づいてまとめているのだが、それらをロールプレイングゲーム風に見ていきながら、区切り区切りでやる気TIPS(あなたはここでこのような視点を手にいれました)を得るという形で整理しながら、まとめられている。また、最後に、やる気語録が掲載されている。

僕はハウツー本が嫌いなので、ほとんど読まないし、このブログでもほとんど取り上げない。仮に、金井先生が書かれた本でもハウツー本であれば取り上げない。この本をハウツー本だと読んでしまう人もいると思うが、そのように読んでほしくない。この本はやる気を探す旅を本というメディアの中に構築した本だ。TIPSは一種のハウツーだと見えなくもないが、思考のもとであり、それを得たことにより、また、違った視点を持って次の旅に出る。そんな本である。

この本の特徴は、この構成にあるように思う。

モチベーションの本というのはリーダーシップと同じように恐ろしくたくさん出ている。本がたくさん、出ている分野というのは、いろいろな考え方がある分野であると同時に、これといった決定打がない分野でもある。モチベョンもそんな分野である。

この本のアプローチがすべての人に有効だとは思わないが、いろいろなアプローチがあるのなら、こんなアプローチにはまる人もいると思う。

その意味でよい本だと思う。もちろん、内容そのものはフィールドワークでは日本の第一人者の金井先生の作られた本であるので、文句なくよい。エピソードの切り込み方は絶品である。

最後に、この本を作るにあたって、金井先生からの依頼でインターシビューイの1人にならせて戴いた。編集者の方とライターの方が来られ、

人と組織の活性化研究会、加護野忠男、金井壽宏 「なぜあの人は「イキイキ」としているのか―働く仲間と考えた「モチベーション」「ストレス」の正体

で提案されている「イキイキ・サイクル・チャート」(この本では「やる気チャート」と呼んでいる)を書いてくれと言われて、書けなかった。デコボコがないのだ。

「イキイキ・サイクル・チャート」で落ち込んでいるところから立ち直るまでのところを分析したかったのだと思うが、僕の持論はプロフェッショナルは「やる気に左右されない」ということに尽きるので、やる気を意識しないようにしている。無駄足にしてしまったなと、そんな贖罪の思いを持ちながら読んだ。

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