「経営の神様」松下幸之助の物語
ジョン.コッター(金井 壽宏監修、高橋 啓訳)「幸之助論―「経営の神様」松下幸之助の物語」、ダイヤモンド社(2008)
原書:MATSUSHITA LEADERSHIP(1997)
邦訳版:「限りなき魂の成長―人間・松下幸之助の研究」、飛鳥新社(1998、絶版)
お薦め度:★★★★
リーダーシップの世界的な権威であるジョン・コッターが10年前に松下幸之助のリーダーシップについて書いた本の翻訳。監修者の解説によると、コッターが書いた唯一の分析的伝記だそうだ。リーダーシップのケースドキュメントとして、秀逸の一冊。
この本では、松下幸之助のリーダーシップを、松下幸之助自身、および、松下電器の成長段階に応じて
起業以前:故郷を失い、新興産業へ入って、活躍するまで
起業時期:夢を持ち、独特の経営戦略を持ち、成長する
成長:カリスマ性を発揮し、組織が発展し、BU制度を作るも、戦争が起こる
発展:世界の松下になっていく時期の総合的リーダーシップ
成熟:理想的なリーダーシップを求め、後継の育成をする
という段階で、松下幸之助がどうかわり、それによって松下電器がどのようになっていったかが述べられている。キーワードは「素直な心」。
経営の神様トム・ピーターズが提唱したビジネス慣習を戦後すぐに実践しているのは経営の神様たるゆえんだろう。
松下幸之助の経営リーダーとしての
利益をあげているということは、社会に奉仕、貢献できている証である
という独自の哲学は、米国では過去のものになりつつある。80年代からの金融工学を応用し、実態経営と利益がかけ離れてきたためである。それが定着してきた90年代にこの本が出版されたのは興味深い。また、5年くらい前から日本でもこのような経営が普及の兆しが見られ、企業から松下の名前も消えようとしている。この時期にこの本が翻訳されるのも大変意義があると思う(1997年に一度出版されて、絶版されているらしい)。
もう一度、幸之助が唱えた企業活動の原点に戻るようなリーダーとリーダーシップの再生を願っている人は多いのではないだろうか?そのためには、「素直」な心が重要だということだろう。素直な心を失うと、利益を上げることが自社の利益にしからないことを教えてくれる一冊である。
目次
MATSUSHITA LEADERSHIPの復刊に寄せて――苦難がリーダーを強くする(金井壽宏)
プロローグ――奇妙な偶然
序 章 経営の神様
第1章 偉業の源泉(明治27年~大正6年)
第2章 企業家の誕生(大正6年~昭和6年)
第3章 独創的カリスマ(昭和6年~昭和21年)
第4章 総合的リーダーシップ(昭和21年~昭和45年)
第5章 理想のリーダーシップへ(昭和45年~平成元年)
エピローグ――松下幸之助から何を学ぶか
コメント