「変人力」が改革の決め手
樋口泰行「変人力~人と組織を動かす次世代型リーダーの条件」、ダイヤモンド社(2007)
お薦め度:★★★1/2
ダイエーの再建のリーダーとして乞われた樋口泰行氏が1年半にわたる活動から得られた変革型リーダーの在り方をまとめた本。エピソードを中心につづられており、リアリティのある話で、物語としても面白く読める。
ダイエーがどのような状況だったかを示すエピソードがある。ダイエーはかつて、野菜に強かったが、いろいろな問題で、その強みをなくしていた。ヒューレットパッカード社の社長だった樋口氏は、HP社の送別会で、いろいろな店で買ってきた野菜を並べ、どれがダイエーのものかを当てるというゲームをやらされる。もっとも鮮度が悪いのがダイエーのものだった。それが原因でもないのだと思うが、まずは、野菜改革に取り組み、一定の成果を出す。これを契機にして、風土改革を行い、ダイエーをなんとか再建のめどがつくところまでひっぱていく。
その際に、樋口氏が再建(変革)プロジェクトのリーダーとして必要だと思った力が
・現場力
・戦略力
・変人力
だという。現場力とは、「現場の創意を最大限に引き出す力」である。戦略とは「人や組織をただしい方向に導く力」である。そして、この本のタイトルでもある変人力とは「変革を猛烈な勢いでドライブする力」である。
これらの定義はこの本のそれぞれの章の副題として書かれているものなのだが、僕自身は本文中にもっと強烈なインパクトのあるフレーズがあった。特に変人力では、本文中にその定義として
エモーション
周囲が何を言おうとも自分の信念を貫きとおす力
底知れない執念で変革をやり遂げようとする力
といった表現があるが、エモーションとか、信念とか、執念といったキーワードの方がぴったりとする。
この本を読んでいると、タイトルにあるとおり、やっぱりキーになっているのが変人力である。もちろん、方向が間違っていたり、現場がしらけていたりしたのでは話にならないが、逆にいえば、このあたりはそれなりにできる人が多い。特に、樋口氏の、松下電器、ボスコン、HPというキャリアをみれば不思議ではない。
ダイエーでこの時期に樋口氏が果たした役割に対して、本当の意味での評価がされるのはもっと後だと思うが、丸紅という会社の支援を受けることができるようになったのは大きな成果だ。その意味で、成功したプロジェクトだと言えると思うが、樋口氏でなくてはできなかったとすれば、エモーショナルに動くことができたことではないかと思う。本として見れば、現場力に最も力が注がれていて、変人力のあたりが薄いのは多少物足りないなと思った(ただ、主役は現場なので、書いているうちにそのようになったのだろうというのは容易に推測できる)。その点で★を3つ半とした。内容的にはもうひとつ★を増やしてもよい本だ。
目次
はじめに
第1章 泥沼のリーダーシップ論――ダイエー再生にかけた499日の苦闘
第2章 現場力――現場の創意を最大限に引き出す力
第3章 戦略力――人と組織を正しい方向に導く力
第4章 変人力――変革を猛烈な勢いでドライブする力
エピローグ ダイエーからマイクロソフトへ
おわりに
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