★補助線 Feed

2007年6月21日 (木)

【補助線】なぜ、日本には女性PMが少ないのか(その2)

PMI東京の女性事務局長・永谷裕子さんに先月からメルマガの記事を書いていただいている。

ITプロジェクトでのDiversity
http://www.pmstyle.biz/column/list.htm

今月の記事の中で、ご自身の欧米でのコミュニティの参加経験から、日本は女性プロジェクトマネジャーが少なく、それを増やすにはどうすればよいかを提案されている。

第2回「ジェンダー(男性・女性)の課題」
http://www.pmstyle.biz/column/diversity/diversity2.html

実は、永谷さんにこの連載をお願いしたきっかけは、1年くらい前になにかの打ち合わせのついでに、ジェンダーダイバーシティの話をしたことだった。

その後で、ブログにこんな記事を書いていた。

なぜ、日本には女性PMが少ないのか
https://mat.lekumo.biz/ppf/2006/08/post_08b3.html

記事は単なる問題提起だが、この問題に対する見解を書いてみる。

プロジェクトマネジャーが少ない原因は大きく分けると2つある。ひとつは、そもそもプールにいないことであり、もうひとつはプールにいても選ばれないことである。永谷さんも書かれているが、前者の問題は組織としての問題であり、現場マネジメントとしては人事施策の効果を待つしかない。

ここでは、後者の選ばれないという問題について考えてみる。女性がプロジェクトマネジャーに選抜されない理由は大きくは3つあると思われる。

(1)プロジェクトスポンサーが使わない
(2)本人がやりたがらない
(3)顧客やエグゼクティブが歓迎しない

の3つ。

(1)はまさにジェンダーダイバーシティの問題であるが、プロジェクトマネジメントにおいては、この問題は解消されている。プロジェクトマネジャーの選抜の仕組みができていれば、これは問題にならない。むしろ、(2)や(3)の問題が絡むのでややこしい。

(2)の問題が意外と多い。ただし、この問題も女性だから云々という問題ではない。男性でもプロジェクトマネジャーになりたがらない人は少なくない。その意味で、これも男女に関係なく、プロジェクトマネジャーになりたいような環境を作っていくことが先決である。これも、まずは、プロジェクトマネジメントをプロジェクト、組織ともきちんと行うことが先決であろう。

もちろん、その段階で女性特有の問題が出てくる可能性がないとはいえないが、今はその段階ではない。

(3)もっとも厄介なのは、実は(3)ではないかと思う。このような場面に今まで何度も遭遇してきた。この問題は根が深い。実は、組織のダイバーシティが最も問われるのはこのような局面ではないかと思う。ダイバーシティのある組織は、顧客やエグゼクティブに対して、リスクをとってでもスポンサーシップを持ってサポートしていく。

そう考えると、結局のところ、現場でのダイバーシティの問題は、リスクをとりたがらないという問題に帰着するのではないかと思われる。

今日は、こんなところにしておく。

2007年6月19日 (火)

【補助線】延期戦略のプロジェクトマネジメント

プロジェクトは有期である。ものごとの先送りはダメ。プロアクティブに取り組みなさい

プロジェクトマネジメントの教科書にもこのようなことが書いてある。できているかどうかは別にして、いまや、常識になっているといってもよいだろう。さらには、

分からないこと、決まらないことがあれば、仮説を作って進めていきなさい。

といったことを書いている本も少なくない。

昨日のPM養成マガジン戦略ノートに「プロジェクトにおける投機と延期」について書いた。この視点でいえば、プロジェクトマネジメントはできるだけ投機的にやりなさいということになる。これは本当に正しいのだろうか?これがこの記事のテーマ。

ただし、裏記事。表記事は、来週の戦略ノートで書く。

プロジェクトマネジメントには2つの顔(視点)がある。ひとつはガバナンスマネジメントであり、もうひとつはチームマネジメントである。

プロジェクトマネジメントは投機的であるべきだというのは、ガバナンスマネジメントの視点から発想である。ガバナンスマネジメントを中心にプロジェクトマネジメントを捉えると、アカウンタビリティの実行がもっとも重要になる。

アカウンタビリティは事後報告では達成できない。アカウンタビリティの実行は手が打てるうちに報告する場合にはじめて意味を持つ。従って、報告も含めて、すべてのプロジェクトマネジメントアクティビティをプロアクティブに実行することが非常に重要になる。

プロジェクトは有期である。ものごとの先送りはダメ。プロアクティブに取り組みなさい

つまり、これは、ガバナンスマネジメントを前提にしたものである。また、仮説は、リスクとして管理できるので、

分からないこと、決まらないことがあれば、仮説を作って進めていきなさい。

という話になる。

しかし、チームマネジメントの視点からいえば、延期が正しい選択であることは十分に考えられる。その典型的なケースが、戦略ノートで書いている顧客のニーズを中心にプロジェクトを進めていく場合である。この場合には、延期戦略をとり、段階的な詳細化を行っていくことが望ましい。

「段階的詳細化はプロジェクトマネジメントの基本じゃないか」と思われた方も多いだろう。段階的詳細化というのは、投機戦略の苦肉の策である。しかし、ここで言いたいのは、延期戦略としての段階的詳細化、つまり、詳細化を意図的に遅らせるというプロジェクトマネジメントである。

一般的な段階的詳細化は戦略的ではない。しかし、詳細化を意図的に遅らせることは戦略的である。

別の言い方をすると、決めないことにより、スコープに対する自由度が上がる。これがプロジェクトにおける延期の意味である。

ガバナンスを重視するか、チームを重視するかによって、延期戦略の是非は変わるのだ。

2007年6月18日 (月)

【補助線】マクドナルドに学ぶ「価値」の標準化

マクドナルドが地域別の販売価格の導入をする。

改めて説明をするまでもないと思うが、マクドナルドは標準化をコアコンピテンシーにする企業である。ぼくは仕事柄、あちこちに行くが、マクドナルドほど均質なサービスを提供している外食チェーンやファーストフードはないと思う。特に、カウンターでの対応と、デリバリーの時間の均質さは凄いと思う。

そのマクドナルドが自ら標準を破った。表向きの理由は、コストの違いだという。店舗の維持費、労働コストなどが都会と地方では違うので、変えるとのこと。まあ、こういう言い方がもっとも当たり障りがないのだろう。

標準もある程度成熟してくると、高度化させていく必要がある。最初は、材料であり、プロセスであり、デリバリ時間であり、価格であり、コストであった。しかし、これらはいずれも内部要因に起因するものであるので、自分たちは標準的だと思っていても、外からはそうは見えないケースが多い。

プロセスの標準化をみているとすぐに分かるが、プロセスの標準化を阻害するものは外部要因である。ビジネスプロセスであれば、顧客、地域、調達などが問題になることが多い。しかし、これを公式に扱うことは非常に難しい。それゆえに、各部門で実情に併せて、カスタマイズして使ってくれという話になる。標準化という名をとって、実を捨てた格好になる。

なぜ、難しいのだろうか?標準から外してよいものと、残すものが分からないのだ。

標準化が一定の浸透をしてきた際には標準化されるべきものが変わる。最初は外面的、具体的なものであるが、それがだんだん、内面的、抽象的なものに変わって行く。これがプロセスが成熟するという意味だが、新たに標準化すべき対象を見つけるのが難しいのだ。

このマクドナルドの動きを見ていると、さすがに標準化のチャンピオンといった感じを受けた。

マクドナルドが標準として残しているものは、顧客とっての価値の標準化ではないかと思う。今回の地域別価格でそれがすべて実現できるかどうかは微妙だ。むしろ、テスト的な意味合いがあるのだと思うが、価格といった外形的なものではなく、顧客にとっての価値という抽象的なものを標準化するという発想は素晴らしいと思う。

もっとも、今までもマクドナルドは、「スマイル0円」という価値の標準に先鞭をつけていた。これは、ウィットだと捉えられていたと思うが、今度はいよいよ、価値の問題の本丸に手をつけた。成功するかどうか、見ものである。

さて、我々のビジネスに戻るが、カスタマイズというのは本来、部門に任せるものではない。マクドナルドでも、地域別にするというのだけを決めて、価格は地域で決めてくれというと大混乱が起るだろう。

標準に対するオーナーシップは、標準を策定する部門が持ち続ける必要がある。その中で、ユーザにとっての価値のメトリクスを導入し、そのメトリクスが、フェアになるようにカスタマイズを仕切っていくことが重要である。

2007年6月11日 (月)

【補助線】人だけが成長し、組織が成長しないと、人はジレンマに陥る

ビジネスでは、「最後はひと」とか、「結局はひと」とかとよくいう。

いくら仕組みやルール、環境を作ってみてもそれを活用するのは人なので、人がそれらをうまくできるようにならないと何の意味もないという意味の言葉である。特に、人材育成の重要性を指摘する言葉として言われることが多い。

ところが、プロジェクトマネジメントの世界を見ていると、しばしば、十分な仕組み、ルール、環境を整えない中で、「最後はひと」だと言っているケースがある。

とりあえず、戦う武器(仕組み、環境など)がない。ひとこそ、それを補う存在である。そんなニュアンスで使われている。まるっきり、特攻隊である。

ビジネスにおいてひとが重要であることは間違いないが、ひとに対する過剰な依存は禁物である。マネジメントの放棄に繋がる。組織としての活動はよい仕組みや環境があって、はじめて、人が能力を発揮し、また成長する。そして、その成長がより仕組みや環境をよいものにする。この循環をつくることこそ、マネジメントの責任である。

ここで大切なポイントは

 ・人だけが成長し、組織が成長しないと、人はジレンマに陥る

ことである。このような状況はいたるところにある。つい最近も、知り合いがやっている中堅のSI企業で、この5年くらい一生懸命にプロジェクトマネジメントに取り組んできた部長が、会社をやめるという出来事が起り、社長から相談されたことがあった。

その社長の話はざっと以下のようなものだ。やめた部長(A部長)は、自社の成長のためにはプロジェクトマネジメントの定着が必要だと考え、取り組んできた。自身はいろいろと勉強し、PM手法を導入し、メンバーにもいろいろと教えて、ツールも自分なりに作ってきた。

その会社では、役員と部長がほとんどのプロジェクトのマネジャーを担当している。最近では、A部長に感化されて、一部の部長もプロジェクトマネジメントを行うようになってきたし、役員の一部も興味を持ち出した。ところが、一部の役員はまったく必要性を感じておらず、無関心。

A部長のプロジェクトのメンバーになったら、スケジュール以外にもいくつかの計画書を作り、それを使いながら、やっていく。メンバーも徐々にではあるが、計画してプロジェクトを進めることの重要性がわかってきだした。ところが、何人かの役員がプロマネを務めるプロジェクトに入ると、そんなものに時間を割いている時間があれば、開発作業をしろといわれる。かといって、そのようなプロマネのプロジェクトが必ず失敗するわけでもない。成功しているものも多い。

これでメンバーがジレンマに陥り、やめたり、部長に相談するという状態が続いたが、ついに、部長自身もイヤになったようで、やめていった。どうすればいいだろうか?

という相談だった。典型的な「人だけが成長し、組織が変わらないとジレンマに陥る」というケースだ。

なぜ、変わらないかという部分で、この社長自身のリーダーシップの問題は大きいと思われる。しかし、それ以上に大きいのは、役員や部長といったあたりが、組織が変わらなくても、個人が変われると思っている点だろう。これを変えなくてはならない。社長には変えていくためのリーダーシップが必要だ。

そんなことを思わせる話だった。では、社長はどういうリーダーシップを持てばよいのか?これについては別の記事に書くことにする。

2007年6月 9日 (土)

【補助線】メンバーのスキルの低いチームをどう運営していくか

チームをマネジメントするとはどういうこと?

の中で、僕自身、このテーマは後で書くといったことをすっかり忘れていた。コメントを貰って思い出した。ありがとうございました。

この話は本質的な解決というのはないと思っている。それは多くの人が感じていることだろう。ぼくが言いたいのは、パラダイム(ものの見方)を変えようということだ。

たまたま、昨日、「問題はなかったことにしよう」という記事を書いたが、実は、メンバーのスキルの問題もここから始まる。多くの人がプロジェクトには問題がないと思いたい。だから、スキルの低いメンバーなどいるはずはないし、いたとしてもそれは一時的なことであって、変わっていくと考えたい。こういう話になる。

このような問題を直面しないままにこの問題を考えてみても、解決策はおろか、問題への応急処置をして前に進んでいくことすら難しくなる。

まず、最初にすべきことは、それを問題としてみるのではなく、現実として認識することである。その人はそれだけのスキルかないと認め、スキルそのものを想定に近づけようとは思わないことだ。

つまり、想定している生産性で仕事が進むことなどありえないと考える。ここが受け入れられるかどうかが最大のポイント。そして、育成は別の問題だと考える。

これがパラダイム転換。

念のために言っておくが、想定納期ではできないとステークホルダに対して開き直れといっているわけではない。この現実を認めた瞬間に、想定納期は「ストレッチされた目標」になる。これをスキルの低い人に責任をおっかぶせるではなく、チームとして計画的に対処する方法を考える。これがマネジメント。

すると、仕事の進め方が変わってくる。PMBOKで、WBSOBSでフォーメーションを設計し、RAMで統制するという考え方はリソースの能力が均質で、スキルセットが揃っていることが前提になっている。ゆえに、スキルセットが揃っていなかったり、能力にでこぼこがあるとすれば、このようなスキームは使えない。

工数見積もり(生産性の調整)でカバーできると思う人がいると思うが、もし、できるならそれでOK。パフォーマンスの違いは生産性で調整できても、スキルセットのギャップは調整できないケースが多いので、みんなが頭を悩ましている。

スキルの低い人がいることを前提として考えると、仕事の分解の際に仕事そのものにグレードをつける必要がある。例えば、スキルレベルをA、B、Cとすれば、生産性ではなく、仕事の内容で、Aランクの仕事、Bランクの仕事、Cランクの仕事とする。

ITであれば、テスト、コーディング、プログラム設計、システム設計といった業務セグメントの難易度ランクはすでにあり、この範囲ではスキルレベルを調整している(現実には人手不足でできていないとしても、そういう考え方になっている)。

ここでさらに、それぞれの仕事の中を分解して、グレードをつける。例えば、テストであれば、テストのロジック設計をする人、テストのドキュメントを書く人、実際のテストをする人、環境設定をする人といったグレーディングをする。そして、グレードにあった人を割り振っていく。スキルレベルが揃っていれば縦割りの分担をするが、それを横割りにして分担をする。

こういう風に仕事を分解すると、実は、技術的な意味での専門性が必要になるのは、各セグメントでトップ、あるいは、2番目くらいまでのグレードである。それ以下のグレードは、技術的な専門性よりも、ドキュメントを書けるとか、正確に仕事をできるとかいったコンピテンシーの方が重要である。

ということは、セグメントに横断的に人材を活用できる。これにより、Bランクや、Cランクの仕事の一部を経験しながら、いろいろな仕事を見ることができる。これがひとつ、育成的視点からは重要なところだ。単に技術を覚えさせるだけではなく、仕事をするというのがどういうことかについて多様な経験をする機会になる。

技術的なスキルについては、そのような仕事をしながら、アシスタント的な仕事をする中で覚えさせればよい。これを下手に、専門性などで担当を決めて、設計者の仕事は設計をすることであって、ドキュメントを作ったりすることではないなどとやっていると、ロクな人材が育たない。下積みとして、自分の仕事に関連することを全て経験するというのは、日本型経営の優れた点だと思うし、今後も維持し続けるべき点だと思う。

こういう工夫をしているプロジェクトは結構ある。うまく行っているところも多い。繰り替えになるが、日本の組織というのはかつてはこういうやり方をしていたのだ。それをもう一度、プロジェクトマネジメントの枠組みを使って、体系的に実行してみようという話だ。

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2007年6月 8日 (金)

【補助線】問題はなかったことにしよう

毎日、ニュースや報道バラエティで年金問題をやっている。

自民党の議員や民主党の議員がいろいろと説明している。自民党は節操のない方針変更はともかくとして、一貫して、細かいことよりは「とにかく大丈夫だ、任せてくれ。民主党さん、不安をあおるのはやめてくれ」と一貫していっている。これに対して民主党はあくまでも論理的に整合しないと国民は納得しないだろうというスタンスを貫いている。

両政党の政治的に立脚するところの違いか、単なる選挙のためのスタンスかは分からないが、結果としてどちらの言い分が通るかは非常に興味深い。

確かに、民主党のいうように、倫理的に整理しないと納得しない層が一定の割合でいる。この問題の、もう一人のプレイヤーであるマスコミは、今のところ、ここにフォーカスして報道しているように見える。

しかし、問題をなかったことにしたいと思っている人たちがいることも間違いない。当事者であることが分かっていないわけではない。当然、年金制度が破綻すれば自分たちが困ることはよく理解している。しかし、どういう問題が起っているかを知りたくない。できれば知らないままで、丸く収まってくれれば、ありがたい。万一、税金の投入でもしないと収まらないとしても、仕方ないと思うことにしよう。こんなマインドの人は、きっと論理的に納得したい人に匹敵するくらいいると思う。

これを単に当事者意識がないと批判するのは短絡過ぎる。

「日本沈没」という小説があったが、その中で、日本列島が沈み始めたときに、何もしないで日本列島と一緒に沈んでいくことを選ぶ意見を持つ有識者たちがいるという話が出てきた。これも本質的に同じ話しだ。このようなことを書ききった小松左京の人間観は興味深い。

ちょっと前に、宮崎県の裏金発覚で、「知らなかったことにしてくれ」といった定年を控えた出先機関のトップがいた。どんなタイプの人か分からないので、なんともいえないが、ひょっとすると、このトップも自分からは間違っても言わないが、誰かがリークし、それが自分の身に降りかかってくるのは運命だと思うある種の潔さは持っているかもしれない。このマインドはおそらく日本人に染み付いているマインドだと思う。

別に、役所に限ったことではない。組織の中でもこんな話はいくらでもある。感覚であるが、民間企業の管理職の半分以上はこのタイプではないかと思う。

また、必ずしも、上の人間に限ったことではない。実は下の人間も「これは知らせるべきことではない、知りたくもないだろう」といった調子でこのマインドを持ち合わせている。日本組織のアカウンタビリティが低い背後には、この不思議な利害関係の一致があるのだ。

これは、ある企業でシニアマネジャー(部長)から聞いた話。プロジェクトマネジメントの導入ステップが進み、リスクマネジメントの導入をする段になって、リスク分析などいらないと本気で言い出した。いわく

「リスク分析などすると、自分が知らなかったではすまなくなる。リスクがあるのは分かっている。でも、それも含めて、プロマネに飲み込んで欲しい。プロマネの骨は拾うし、まあ、そうなると自分の骨もまた、上の人に拾ってもらうことになるだろう」

半分くらいはプロジェクトを失敗したところで個人的に責任追及されるはずがないと高をくくっていっているのは間違いないが、半分くらいは本音ではないかと思う。注目したいのは、この部長、社内でも結構切れ者で通っているらしいが、この発言からも分かるようにリスクマネジメントの本質を実に的確に理解していることだ。その上で、言っているのだ。

実際に、このマネジャーが主催するプロジェクトレビューのミーティングに参加したことがあるが、見事なものでこの本音を地でいっている。

通常のレビューミーティングはプロジェクトには少なからず問題があるという前提でやるが、このマネジャーは問題がないという前提でレビューミーティングをしている。

例えば、こんな感じだ。

スケジュールが遅れているとしよう。これ自体は誰がみても問題である。このマネジャーもこれを否定するわけではない。予実を目の前にして、これは遅れていないことにしようと言い出すわけではない。

ところが、彼の頭の中では、「プロジェクトには問題はない」と思っている(思いたい)ので、目の前の問題を潰すことに意識を集中する。

ここで、プロマネがひと言、本質を突いた原因を言えばいいのだが、上の利害関係一致の構図で、「どうも、見積もりが甘かったみたいです」と何の根拠のない原因を語った上で、「すみません。もう1人メンバーを追加してもらえないですか」と来る。

これで件のマネジャーの顔は立つ。喜んで(というか、渋い顔をしながら、内心ほっとして)プロジェクトにもう一人、リソースを工面する。

かくして、プロジェクトマネジャーとマネジャー(スポンサー)の見事な一致協力で、問題はなかったことになる。

もっといえば、多くの場合、そのプロジェクトで問題が再発する(笑)。そんなプロジェクトは、「問題対応も適切にしたし、君はよくやったよ。いい経験したね」とシニアマネジャーからプロマネへのひと言の振返りとともに終結する。

これですべてが丸く収まる。このシニアマネジャーはプロマネの人事考課者なのだ。

最初はよそ事だと思っていた人もここまでくれば、相当な確率で思い当たる部分があるのではないだろうか?

「問題をなかったことにしていないか」を一度、点検してみてほしい。

2007年6月 2日 (土)

【補助線】プロマネ屋

昨日のメルマガの編集後記に技術屋と技術者(エンジニア)の違いを書いた。

技術屋と技術者(エンジニア)の違いは、技術に対するスタンスの違いではなく、経
営に対するスタンスの違いです。

 技術屋は技術に貢献します
 技術者は事業に貢献します
 これはいずれも、最終的には経営に貢献します

技術畑ではない人は、業務という言葉で置き換えてください。開発、企画、マーケテ
ィング、総務、人事など、なんでも結構です。

というフレーズだ。数通、個人的なご意見を戴いたので、ブログで再度、コメントしておく。

メルマガでははっきり書かなかったのだが、この後記で書きたかったのは、技術者のことではなく、プロジェクトマネジャーに対すること。

最近、気になっているのがプロマネ屋というのができつつあるのではないかということだ。上の言い方をすれば、

 プロジェクトマネジャーは事業に貢献します
 プロマネ屋はプロジェクトマネジメントに貢献します

という感じである。ただし、プロマネ屋は経営には貢献しない。ここが問題。

もちろん、全面的に否定しているわけではない。いまだに、プロジェクトマネジメントというのものに興味を示さない人も多く、その人たちと較べるとプロジェクトマネジメントという点からは進化している人たちだ。ただ、一皮、むけて欲しいなと思っており、そういうニュアンスのコメントです。

このブログでは、何度か、「隠すというスタイル」について書いてきた。その中でも書いたが、プロジェクトの情報をプロジェクトスポンサーやその代理人であるPMOにすべて開示すると、プロジェクトの進行に影響が出てくる。干渉されることもある。従って、隠すことは必要だという考えは一定の合理性があるようにも思える。

こういうプロジェクトマネジャーが「プロマネ屋」である。

昨日の編集後記に対して、技術屋では経営に貢献できないのではないかという意見を戴いた方がいる。これは微妙なところがあるが、僕自身は貢献できると思う。企業が持つ技術ポテンシャルを大きくすることは、かりにそれが戦略との整合性がないとしても貢献だと思う。それは技術というものの性格によるものであり、技術というのはお金(事業)や人材と同じくらい普遍的な資産であると思うし、現に、経営戦略と無関係に、企業の資産価値を高めているからだ。

要するに経営というのは、出資者から集めた資金、あるいは、その組織が持っている資源を活用して如何に収益を上げるかという活動であるが、その資源のひとつが技術であり、それゆえに技術屋は資源を増やすという意味で経営に貢献している。

ただし、これは原則的な議論であって、現実の経営ではここに評価期間の議論が絡んでくる。従って、最近の経営のように、顧客価値より、株主価値を重視して考え、四半期ごとに収益を重視するような戦略の中では、技術のようにキャッシュサイクルが長いものは低い評価をされる傾向がある。ただ、これも企業価値という議論においては、さほど、本質的な話しではない。企業価値の評価の中では、株主(ステークホルダ)の評価もされるからである。

さて前置きが長くなったが、問題のプロマネ屋。プロマネ屋は技術屋のように経営に貢献できない。プロマネ屋は、自らのプロジェクトの目標を達成するために全力を尽くす。それはいいのだが、アカウンタビリティを考えないのがプロマネ屋の特徴だ。

こうなってくると、プロマネ屋は百害あって一利なしだ。プロマネ屋というのはスタンスの問題である。だから、技術屋がプロジェクトマネジメントに「はまる」とプロマネ屋になる傾向があるようだ。

プロマネ屋のプロジェクトマネジメントスキルは高いことが多い。そのスキルをプロジェクトマネジャーとして活かすことで、どれだけ経営にとって貴重な存在になるか。プロマネ屋になっている人は、ぜひ、早くこのことに気がついてほしい。

もっと現実的に言えば、プロジェクトで業績を残した人が、ラインマネジャーとして出世できるかどうかはこの点にかかっているといっても過言ではない。まあ、これは別の議論だが。。。

最後に、ひとつ。僕は技術コンサルティングをやっていた時期に、マネジメントチームを作って、何度か、数億~数十億規模のSIプロジェクトの「雇われ」プロマネをやった経験がある。これは純然たるプロマネ屋仕事だ。要するに、自分の任されたプロジェクトが成功すればよいのだ。当然だが、組織の中に入り込み、人脈を使い、結構、えげつないリソースの取り込みとかをするし、ベンダーもその組織の付き合いとは関係なしに決める。当然だが、覚悟が要る。この覚悟ができるのであれば、プロマネ屋で生きていくというのもひとつの選択だとは思う。

当時、ある人に、プロジェクトマネジメントという刀一本で組織に切り込んでいくといわれたことがあるが、母体組織も含めて力で動かすしかないわけで、まあ、しんどい。ちなみに、5年くらいこういう仕事をしていた。プロジェクト予算の10%程度で契約するので、それなりに儲かるが、それ以上続けようとはおもいませんでした。経験談。

2007年5月28日 (月)

【補助線】「正しいプロジェクト」とは何か

重要なことは、正しいプロジェクトを正しく行うことだ。

このような認識が日々、強くなってきている。正しく行うというのはプロジェクトマネジメントをきちんとすることとイコールだと考えてよいだろう。では、正しいプロジェクトとは何か。

例えば、どう考えても無理なスケジュール目標(納期)を決めてしまえば、いくらプロジェクトマネジメントをきちんと実施してもプロジェクトは成功しないし、それはプロジェクトマネジメントの問題ではない。どう考えても赤字になるような金額で受注してくる場合も同じ話しだ。

つまり、プロジェクトの目的に対して、その目的を達成できる範囲で、実行可能な目標を設定したプロジェクトが正しいプロジェクトというわけである。

ちなみに、今までは、プロジェクトマネジメントがあまりきちんと行われておらず、プロジェクトの「正しくなさ」の責任もすべて現場(プロジェクトマネジメント)に転嫁されていたが、プロジェクトマネジメントの普及により、ここにきて、この転嫁ができなくなり、この問題を直視せざるを得なくなってきたという事情があることも忘れないでおきたい。

ところが、ちょっと考えてみると、この話は不可解な点があることがすぐに分かる。「なぜ、明らかに無理な納期を設定するのか」、「なぜ、最初からオーバーすると分かっているような予算を設定するのか」といった疑問が生じる。この理由はそんなに難しいものではない。

SIプロジェクトだと例えばこうなる。

「戦略計画達成のためにはこのお客さんからの受注を取ることは必須だ。他にも2社、引き合いをしている。うちとしては、多少、納期もお客さんの準備している予算も厳しいが、提案せざるを得ない。外注を駆使して乗り切ろう」

商品開発プロジェクトだと例えばこうなる。

「戦略計画達成のためには、この商品はこの時期までに上市をせざるを得ない。これより遅れると競合商品が出てきて、売上げ目標が変わってしまう。まだ、未解決の技術問題があるが、それはなんとかお金で解決しよう」

これから分かるように、「正しいプロジェクトを行う」ためには、戦略計画を達成するためのアプローチが大問題になってくる。例えば、上のSIの例であれば、「このプロジェクトは諦めよう。その分のリソースを他に転用して利益を作ろう」と考えることが必要である。

言い換えると、戦略計画達成のためには、どのプロジェクトをやるかが大きな問題になってくる。ただし、ここに、単に戦略計画達成の視点以外の要素が入ってくる。つまり、正しくないものを正しくする方法がある。それは組織としての生産性をあげることである。あるいは、技術力をあげることである。

プロジェクトレベルの生産性の向上はチームマネジメントなどで取り組んでいくが、組織レベルの生産性の向上は戦略課題である。戦略計画の実行に併せて、この戦略課題の解決によって、「正しいプロジェクトを行うこと」と、「正しく行うこと」のバランスが取れてくる。

これをわれわれは、「正しいプロジェクトを正しく行う」に加えて、「正しい組み合わせをする」といっている。

正しい「組み合わせ」ができてはじめて、「正しいプロジェクト」を立ち上げていくことが可能なのだ。このためのマネジメントが必要である。これがポートフォリオで取り組んで行きたい部分である。これを積み上げだけでやっていると、プロジェクトの優先順位が考慮することができない。

結果として戦略計画が達成できればいいじゃないかと考える人もいるかもしれない。これは間違い。リスクに対する配慮が足らない。

また、ここで、戦略そのものが上げ底である可能性もあるので、注意を要する。例えば、引き合いのある仕事をすべてとっても達成できないような戦略計画を作るケースだ。まあ、これはそもそも戦略計画とはいえないが、売上げ絶対時代の名残で今でもこのような経営計画を作っている組織は少なくない。これは論外。収益率を高めて、人を育てることという視点からもう一度、戦略の見直しをすべきである。

2007年5月21日 (月)

【補助線】プロジェクトマネジャーとMBA

プロジェクトマネジメントにどのような知識が必要かと聞くと多くの人は、

・プロジェクトマネジメントの知識
・業務(技術)の知識

の2つをあげる。最近では、さらに、ここに

・ヒューマンスキル(人間系)
・チームマネジメント

というをあげる人も増えてきた。

本当に、これだけでいいのだろうか?

これが問題提起だ。

結論を述べておこう。これだけでは足らない。いわゆるMBAの知識が必要である。それはどのようなものか?

(1)経営戦略
(2)マーケティング
(3)コスト
(4)ファイナンス

の4つがその代表である。これらの知識がないとプロジェクトマネジャーは務まらない。

もっとも、プロジェクトマネジャーをどう位置づけるかという問題もある。プロジェクトマネジャーを工場長、つまり、現場マネジメントの責任者だと位置づけるのであれば、これらはそんなに重要でないかもしれない。しかし、ビジネスのマネジャー、すなわち、経営側のマネジャーだと位置づけるのであれば、MBAの知識は不可欠である。

実は多くの企業はこの問題に明確な答えを出していない。というよりも、この問題は考えないでおこうとしているように見える。

一方で、プロジェクトマネジャーのキャリアパスというのが問題になってきている。日本でこの問題を白昼にさらけ出したのは日経コンピュータだったと思う。IBM社のキャリアパスで、プロジェクトマネジャーで突き抜ける、すなわち、役員まで昇進するキャリアパスがあるという記事を発表した。この辺りから、急にプロジェクトマネジャーのキャリアパスに関心が高まったように思う。

プロジェクトマネジャーが現場マネジャーでキャリアを終えるのであれば、それはそれで構わない。しかし、役員になる、つまり、経営側に入っていくとなると、経営の視点は不可欠なのはいうまでもない。やはり、MBA的な視点が必要になってくる。

では、MBA的視点とはどういうものか?上の4つについて、ひと言ずつ、以下に述べておく

(1)経営戦略
経営戦略の適切さが最大のプロジェクトの成功要因であることを理解する

(2)マーケティング
プロジェクト期間中、プロジェクトの成功のためにどのようなマーケティング活動が行われているかを理解する

(3)コスト
プロジェクト期間中のコストは重要であることはいうまでもないが、成果物のライフサイクルコストも同様に重要であることを理解する

(4)ファイナンス
プロジェクトが企業価値に貢献するためには何が重要であるかを理解する

といった視点を持てることが必要である。視点として書くと簡単そうにみえるが、これらはいずれもそれぞれの分野で本質的な問題である。

さらに、MBAという場合に欠かすことのできないのが、組織・人材マネジメントである。これについては、プロジェクトマネジメントプロセスの問題として定義でき、スケジューリングプロセスだけが重要なのではなく、組織行動プロセス(リーダーシップ、チームなど)の重要性をきちんと理解することが必要である。

さて、あなたはどのくらいMBA的だろうか?

2007年5月14日 (月)

【補助線】PMOモデル

◆プロジェクトマネジメントオフィスの3つのモデル

プロジェクトマネジメントオフィスの役割にはどういったものがあるのだろうか?この議論は2つの視点からする必要がある。ひとつは、プロジェクトマネジメントに対して、どのようなスタンスをとるかという議論である。もうひとつは、どのような機能を果たすかである。今回、したいのは前者に対する議論である。

プロジェクトマネジメントオフィスのプロジェクトに対する関わり方は一般に、PMOモデルと呼Model1 ばれれ、2種類、あるいは3種類ある。

◆ストロングモデル

ひとつは、ストロングモデルと呼ばれる強い関わり方である。ストリングモデルでは、組織のプロジェクトマネジメントの実行そのものにPMOがコミットする。場合によっては、プロジェクトが行うプロジェクトマネジメントにコミットする場合もある。

一般にはストロングモデルのPMOは、標準化や機能の導入以外に、バーチャルチームの形成、計画書のレビューや、プロジェクト監査、リカバリーマネジメントなどの形で、プロジェクトの外部からプロジェクトマネジメントを支援していくことが多い。

また、いわゆるプロジェクトオフィス機能としてプロジェクトマネジャーの行うプロジェクトマネジメントの一部を引き受けるケースもある。例えば、プロジェクトマネジメント計画書の作成、上位組織への報告書の作成、会議体の運営、ファシリティの手配などを行う。また、プロジェクトマネジャーに代わって、メンバーの教育・指導などをすることもある。

◆コンサルティングモデル

これに対して、コンサルティングモデルと呼ばれるモデルはプロジェクトマネジメントに対してあくまでもコンサルティング的な立場で接していく。自発的に何かサービスを提供するということより、あくまでもプロジェクトや組織から相談があったときに出動し、相談された問題を解決していくというスタンスだ。支援内容的にはストロングモデルと重複する部分も多い。例えば、計画書のレビューをしたり、監査を行ったり、リカバリーを行う場合もあり、スタンスの違いだと考える方が分かりやすい。

ストロングモデルと異なるところは、自らが計画を作ったり、あるいはリカバリーに入ったり、あるいは、プロジェクトマネジメントをしたりということはない点である。

PMOの戦略の中でもっとも重要な部分はこのどちらのスタンスをとるかであり、これによって、PMOの性格も変わるし、必要なリソースも大きく変わってくる。

Model
◆ブレンドモデル

ストロングモデルとコンサルティングモデルの折衷で、ブレンドモデルというスタンスの取り方もある。これは、例えば、プロジェクトトラッキングとリカバリーについてのみ、ストロングモデルを採用し、それ以外の部分ではコンサルティングモデルを採用するというようなものだ。

PMOとしては、もっとも力量が必要になるのが、ブレンドモデルであろう。

このようなスタンス(タイプ)分類でキーになっているのは、前回述べたプロジェクトマネジメントのオーナーシップである。ストロングモデルは基本的にはオーナーシップを持とうとするスタイルであり、コンサルティングモデルはオーナーシップを持たないスタイルである。どちらを選ぶかというのはプロジェクトマネジメントの成熟度によっても変わってくるし、また、企業の姿勢によっても変わってくるだろう。

プロジェクトマネジメントに人間的要素を強く求める企業はコンサルティングモデルを採用し、オーナーシップを重視しない傾向がある。プロセスや標準を重視する企業は、オーナーシップを重視し、ストロングモデルを採用する傾向がある。

特に、企業の姿勢の中で、押さえるポイントだけは押さえたというのがブレンドモデルということになる。日本企業では、ブレンドモデルが多いようである。

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。