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2012年5月15日 (火)

【インターパーソナルスキル・エンジン】第4回(その1) リーダーシップ(1)~4つのリーダーシップの役割

Leadership

(その2)リーダーシップの活動

(その3)リーダーシップの行動

◆はじめに

インターパーソナルスキルエンジンのセッション1はリーダーシップ。

リーダーシップは「おばけ」概念だとよく言われる。実際に、リーダーシップの本を読むと体系化されていても、ビジョン型とか、命令型とか、職人型とか、ファシリテーション型、コーチ型、サーバント型とか、いろいろな名称で、区分が書かれていることが多い。このような方の違いは言ってしまえばコミュニケーションのスタイルが違うということであって、リーダーシップに期待されている役割がそんなに大きく異なっているわけではない。

もっと重要なことは、リーダーシップは属性ではなく、行動であるということだ。結果として役割が実現される。

このことを前提にして、プロジェクトマネジャーに求められるリーダーシップについて考えてみたい。


◆プロジェクトマネジャーの特殊性

プロジェクトマネジャーのリーダーシップと、ラインマネジャー(※)のリーダーシップには、前提の違いがある。それは、プロジェクトという組織・業務スタイルに異存するものである。ここでは、2点、挙げておきたい。

一つ目は、プロジェクトマネジャーのリーダーシップは、権限なしに人を動かすために必要である。ラインマネジャーは権限(管理)によって人を動かし、その成果を高める補完的な意味あいでリーダーシップが重要になる。これに対して、プロジェクトマネジャーのリーダーシップは人を動かすための生命線である。この点をよく認識しておく必要がある。
この問題にはさらに尾びれがある。それはプロジェクトメンバーは所属する組織を持っているということだ。そして、所属組織では、ラインマネジャーの指揮命令系統の元にいる(というか、最終的な人事評価はラインマネジャーの手でなされる)。このことが、プロジェクトにおけるプロジェクトマネジャーとの関係に微妙な影を落としている。プロジェクトマネジャーはこの問題も乗り越えなくてはならない。

二つ目は、ステークホルダとの関係である。ライン組織のステークホルダは、安定的である。定常業務を行っているので、ある日、突然、利害関係が変わるというのは考えにくい。あるとすれば、人事などの余波である。

これに対して、プロジェクトのステークホルダは、プロジェクトの状況によって利害関係が変わることが多い。たとえば、商品開発をするのに、協力的であった営業が、仕様が明確になってくると同時に、売りにくいと感じ、防御的になっていくというのはよくある。さらには、ステークホルダそのものが変わってしまうことも少なくない。

この2点を考えたときに、プロジェクトマネジャーのリーダーシップの役割として重要だと思われるのは、

(1)ステークホルダを特定する
(2)組織と指揮系統を整理する
(3)リソースのテコ入れをする
(4)動機づけを行う

の4つである。


◆ステークホルダの特定

ステークホルダの特定は、プロジェクトマネジメントの活動としておこなわれることが多い(たとえば、PMBOK(R)はマネジメントプロセスとして明記されている)。リーダーシップ行動として求められるのは、どのようなステークホルダが、プロジェクトにどのような要求と期待をもっているかを常に、気を配っておくことである。

つまり、以下のような行動が必要になる。

・ステークホルダを素早く見つけ、プロジェクトへの要求と期待を常に把握しておく
・ステークホルダとの間に人間的な信頼関係を築く
・個々のステークホルダの流儀に合せて、コミュニケーションをとっていく
・問題に遭遇したとき、よりよい解決策を探して、多様なステークホルダの意見を、自発的に取り入れていく。


◆指揮系統の問題

プロジェクトを実行する際に、もっとも厄介な問題は、組織の問題かもしれない。組織の問題はプロジェクト側の関心としてはメンバーの時間の使い方、それも、月間の時間とかではなく、日々の時間の使い方であり、その背景にあるのが所属組織の指揮系統の問題や、複数のプロジェクトに参加している場合の輻輳の問題である。

基本的にこの問題の特効薬はない。リーダーシップとしてまず考えるべきことは、「曖昧さに対して、寛容になる」ことだ。よくよく考えてみると、「管理」的な視点からみれば、非常に深刻な問題なのかもしれないが、仕事という面から見れば、そんなに深刻な問題ではない(所属元が悪意を持って統制していない限り)。そう考えれば、放っておけばよい。自信がないプロジェクトマネジャーは動く。動くとややこしくなるばかりだ。マトリクス組織で、どちらの業務の優先するかなど、答えはないからだ。

その中で、メンバーに対して

・メンタリングをする
・日常業務に対して、ボランティア的な支援をする
・適切な業務の進め方に対して、率直な意見を述べる

といったくらいはしてもよいかもしれない。ただし、良かれと思ってしたことに、背びれ尾びれがついて、揉め事になることもあるので、細心の注意が必要だ。


◆リソースのテコ入れ

プロジェクトマネジャーには基本的にリソースに関する権限がないことが多い。多くのプロジェクトマネジャーがこの点に不満を漏らしているが、実は、プロジェクトマネジャーの優劣を決める人とのポイントはここにある。

優れたプロジェクトマネジャーはリーダーシップを発揮し、ラインマネジャーと交渉し、希望にかなうリソースを確保する。

このリーダーシップ行動は、一見交渉力によるもののように見えるかもしれないが、実はそうとばかりは言い切れない。ラインマネジャーの意見を聞くと、リソースを出したいプロジェクトマネジャーと、出したくないプロジェクトマネジャーがいるという人が圧倒的に多い。その違いが出てくるのが、リソースを獲得した後の行動である。

プロジェクトマネジャーは獲得したリソースに対して、以下のようなリーダーシップ行動をとらなくてはならない。

・メンバーの強みと弱みを素早く見つける
・メンバーの弱みの改善や、長期的な育成には関わらず、強みを活かす
・一度、決定したロール&レスポンシビリティをむやみに変更しない
・チームの成果と個人の貢献については、認め、報奨する


◆動機を高める

時代が変わってきたとはいえ、ラインマネジャーにとって部下を動機付ける最大の武器は評価である。その意味で、あまり、難しくはない。というと怒られそうだが、プロジェクトマネジャーとの対比でいえばそういえるだろう。プロジェクトマネジャーにとって、メンバーの動機づけは極めて難しいテーマである。

この点において優れたプロジェクトマネジャーの多くはそのパーソナリティによるところが大きい。

プロジェクトマネジャーがメンバーの動機づけをするとすれば、

・このプロジェクトに参加することのキャリア上の意味を話し合いする
・対人的コミュニケーションを通じて、メンバーに動機を与える

といったことである。

ここで、注意しておいてほしいのは、プロジェクトのゴールを明確にするとか、自分の貢献が分かるようにするといった類の話は有効な場合もあるが、万能ではないということだ。これらの手法には、メンバーがやる気があることが前提になっている。しかし、多くのメンバーは、自分の意にそぐわないプロジェクトであったり、意にそぐうかどうかすらよく分からないままにプロジェクトに配属され、仕事が始まる。このような前提で動機づけを考える必要がある。

※この連載で、ラインマネジャーという言葉は、ファンクショナルマネジャーと、オペレーショナルマネジャーの両方を指す言葉として使う。日本語でいえば、組織職、あるいは組織マネジャーという言葉が近い。

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。