プロジェクトマネジャーの秘密 Feed

2007年11月16日 (金)

【補助線】常に計画は常に守られるべきか?

PMBOKを知ると

 計画は常に守られるべき

という思ってしまうが、これは錯覚である。計画が常に正しいとは限らない。ゆえに、正しい行動をするためには時として計画を無視する必要がある。

この錯覚は根が深い。一つは計画という言霊の問題だ。内部統制とか、コンプライアンスとかいうよりも、言霊の方が強烈だと思う。計画とか、ルールとかいうと、守らなくてはならないものという言霊ができてしまっている。

もう一つは、少なくともプロジェクトにおいては、計画は目安に過ぎない。PMBOKはここの扱い方がよくできていて、段階的詳細化により、計画は可能になった時点で行えばよいとしている。そして、さらに、「リスク計画」なる計画を持ち込み、計画に対して予想外の状況も「計画をしておけ」と言っている。そして、段階的詳細化にしろ、リスクマネジメントにしろ、変更管理をきちんとして、常に、計画と行動を合わせるべきだといっている。

これで完璧なのように思えるかもしれないが、それは錯覚だ。PMBOKは計画は段階的詳細化も含めて常に作れるという前提に立っている。しかし現実にはリスク計画など、完璧なものが作れることはないだろう。

PMBOKではここに組織成熟度なるものを持ち込んできて、組織としてリスクマネジメントに対する知見が蓄積されていくことにより、完璧なリスク計画が作れると言っているが、これはレトリックである。完璧な計画というのがありうるとすれば、確かにそうなのだが、完璧な計画などあり得ないという考え方もある。その前提に立つとPMBOKのロジックは崩れ去る。

現実には完璧な計画などあり得ない。

それゆえに、計画の実行が大切になってくる。つまり、計画の実行の際に、一人一人のメンバーが計画にないことまでやっていかないとプロジェクト成功はおぼつかない。

このためにはメンバーのスキルやマインドが大切になってくる。これがチームビルディングの議論であり、また、コミュニケーションやヒューマンスキルの議論である。

また、リスク計画が完璧ではないとすれば、計画を無視する必要も出てくる。その時の状況を想定内だと言えなくなるために、担当者が独自の判断を迫られるのだ。

このように議論していくと難しいのだが、もっと単純にいえば、以下の命題に対して、どういう答えができるかということだ。

 計画通りにやっていて、もし、結果が好ましくない場合には、誰の責任か

計画を作るというのは、責任を明確にするということに他ならない。どうも、あまり、細かな計画を作りたがらない背景には責任を明確にしたがらない文化が見え隠れするというのは考えすぎだろうか?

2007年11月13日 (火)

【補助線】リスクマインド

◆リスクマインド

リスクマネジメントの環境整備が進んでいる。たとえば、IT系だと日本プロジェクトマネジメント協会(PMAJ)が標準的なリスクマネジメントマニュアルの頒布をはじめているし、企業独自でリスクチェックリストを準備している企業も増えている。PMOのメインの役割がリスクのチェックだという企業も少なくない。

さて、そんな中で考えておきたいことがある。それは、リスクマネジメントというのは統制では実現できにくということだ。統制というのは確定的なことがらに対して威力を発揮するものである。

◆リスクマインドがあって初めてリスクマネジメントが活きる

一例としてこんなことを考えてみよう

(1)スケジュールが遅れそうであれば、できるだけ早く申し出てくれ
(2)スケジュール遅れが、各アクティビティに対してベースラインの10%を超えたら、その日のうちに報告してくれ

いずれも、プロジェクトマネジャーがメンバーに対して出す指示としてはありそうな話だ。ところが、(2)は実効的であり、統制しているといえるのに対して、(1)はほとんど実効力がなく、統制しているとは言い難い。聞き流して終わりだろう。リスクマネジメントというのは本来は(1)のようなことをやりたいのだ。

もし、メンバーがこのスケジュールが遅れたら、仲間に迷惑をかけるとか、顧客に迷惑をかけるといった「危機感」を持っていたとしたらどうだろうか?まずいことが起こったらちょっとでも早く相談しようと考えるだろう(もっともプロジェクトマネジャーの対応の仕方にもよるが)。

これがリスクマインドである。メンバーやステークホルダがリスクマインドを持っていなければ、リスクマネジメントは機能しない。

◆リスクマインドの診断

さて、では、あなたのプロジェクトリスクマインドの診断をしてみよう。

プロジェクトマネジャーの方は今、あなたがプロジェクトマネジメントを担当しているプロジェクトを思い浮かべて欲しい。PMOの方は、あなたの組織の代表的なプロジェクトを思い浮かべてみて欲しい。

そして、「あなたのプロジェクトにどのくらい当てはまるか?」について、以下の点数をつけていただきたい。

まったく当てはまらない 1点
しばしばあてはまる 2点
かなりあてはまる 3点

(1)計画を無視して作業をすることはまずない
(2)直面する状況、課題はこのプロジェクトでも他のプロジェクトでも起こっているものだ
(3)作業に必要な情報の全てはメンバーの手に入りにくい
(4)プロジェクトマネジャーやメンバーは業務遂行にあたり、特定の方法の遵守を求められる
(5)納期、予算、収益において厳しい計画が課せられる
(6)メンバーは計画の達成のためにしばしば近道となる案を採ろうとする
(7)プロジェクトにミスの報告を躊躇させる雰囲気がある
(8)リスク事象が発生した際に、メンバーに対策を実行する権限を与えられていない
(9)リスク事象に対処するのに必要なスキルや専門知識に欠けるメンバーが多い
(10)問題の討議の中で、議論の前提に疑問を投げかける発言がメンバーからでくることはほどんどない
(11)ミスをすると責められる
(12)他のメンバーに助けを求めにくい雰囲気がある

12の質問の合計点数はいくらになっただろうか?

[1]13点以下の場合
あなたのプロジェクトは高いリスクマインドがある。リスク計画を十分に立てれば、リスクをうまくコントロールすることができる

[2]14~23点の場合
あなたのプロジェクトはリスクマインドが十分とはいえず、リスク計画を作っていても、リスク事象の発生により、致命的なダメージを負う可能性がある。リスクトラッキングをしつこく実行する必要がある

[3]24点以上の場合
リスク計画を作ってもあまり効果がない。リスクマネジメント以前に、リスクマインドの向上策をとるべき。

2007年11月11日 (日)

【補助線】逆ピラミッドのプロジェクトマネジメント

◆資生堂のビューティーコンサルタント

僕がいつも泊っている汐留のホテルは、資生堂から近いこともあって、資生堂のビューティコンサルタント(BC)が研修などので本社を訪れる際の宿泊先になっているようだ。このホテルではニューヨークスタイルの朝食のサービスがあるのだが、同じような雰囲気の服装の女性 数十名と遭遇すると圧倒されてしまう(笑)。

資生堂の中では、BCは最前線で顧客と接する。単に化粧品を売るだけではなく、文字通り、「美」についてのコンサルティングをする存在である。資生堂の興味深いのは、池田守男前社長の時代に、逆ピラミッド型組織というのを社長が自ら提唱し、その実現に力を尽くしていることだ。

◆資生堂の逆ピラミッドは店頭起点

資生堂の逆ピラミッドは

お客様>店頭>BC>営業担当>支社長>本社/研究所/工場>社長

であり、「店頭起点」という、企業としての活動はすべて店頭に集約されるというコンセプトを実現すべく、組織上、上の立場の人が下に対して献身的に奉仕し、彼らの活動をスムーズに進めるという考え方である。

池田社長がこのような感がけかを持ち出したのは、経営改革が必要だったためで、店頭起点を実現することによって経営を変えようとしたわけだ。

このような考え方はそんなに特別なものではない。軍隊のように平時は極めてピラミッド型の組織ですら、いざ、戦争となると如何に現場が作戦を実行できるかという視点から組織の機能が組み替えられ、作戦を実行するために上位組織が前線に尽くしていくのが普通である。

ビジネスの組織も改革や革新にような非常時には現場を中心にした動きが求められるわけで、資生堂のやり方はその意味で合理的だと言える。

◆逆ピラミッドの2つのポイント

このやり方には2つのポイントがある。まず、一つ目はビジョン(あるいは組織のミッション)が明確になっていることである。これがない限り、絶対にこんなやり方はできない。このやり方はある意味で現場にすべてを託すやり方であり、上位組織が自分たちはどこを目指したいということが明確になっている必要がある。

ここがなければ、多くのIT企業にみられるように単なる現場の暴走になってしまう。

次に、そのミッションの達成をすべて現場にゆだねてしまうことだ。ただし、一般的にいえば、上位組織が持っている権限をすべて現場に委譲することはできないし、無理にやるのは統制上の問題もある。何を委譲しているかというと、ミッションを達成するための方法である。その方法を現場に委譲した上で彼らに尽くし、ミッション達成を実現していく。この中には、当然、現場でもできないこともあるが、そのような意志決定もあくまでも現場の動きに合わせて行っていく。

口でいうほどやさしいことではないが、このようなやり方をすれば、ミッションの達成のためには何をすべきかを一番よく知っている現場に主導権を委ねながらも、組織のリーダーとしてリーダーシップを発揮しながら進めていくことができる。これが逆ピラミッド型組織の基本的な発想である。

◆逆ピラミッドのプロジェクトマネジメント

Photo_2この逆ピラミッド組織こそ、組織のプロジェクトマネジメントに必要な組織ではないだろうか?

プロジェクトマネジャーはプロジェクトミッションをプロジェクト目標に落とし込み、メンバーにその達成をゆだねる。その際には、メンバーに奉仕する。もちろん、メンバーは顧客に対して奉仕する。プロジェクトスポンサーはプロジェクトミッションをプロジェクトマネジャーにきちんと伝えた上で、プロジェクトマネジャーに奉仕する。シニアマネジャーはプロジェクトスポンサーに奉仕する。エグゼクティブはミッションを決めるとともに、シニアマネジャーに奉仕する。このような逆ピラミッドの関係があって初めて、プロジェクトによって成果をあげることができるのでないだろうか?

今、なぜ、うまくいかないかということを考えてみると、ピラミッド構造になっているために、顧客とメンバーの間の成果に対する合意が、組織の中で減退してしまうのだ。

つまり、ちょっと頑張ればできるようなことに対して、組織は収益性だとかリスクだとかいろいろな理屈をつけて、梯子を外して言うからできない。そんなことはしていないという人も多いと思うので、もっとはっきり言っておくが不作為という梯子のはずし方をしている。

月並みなことばで言えば、プロジェクトマネジャーが前線で苦労しているのに、上位組織は内向きで対応すべきかどうかの意思決定をしている。組織の論理を優先すれば、プロジェクトが始ってから出てくる顧客の要求など対応するいわれのないものばかりだそう。

これがすべてだ。これをひっくり返すための逆ピラミッドは有効な方法である。プロジェクト起点の逆ピラミッドのプロジェクトマネジメントを組立てよう!

逆ピラミッド型組織

◆資生堂のビューティーコンサルタント

僕がいつも泊っている汐留のホテルは、資生堂から近いこともあって、資生堂のビューティコンサルタント(BC)が研修などので本社を訪れる際の宿泊先になっているようだ。このホテルではニューヨークスタイルの朝食のサービスがあるのだが、同じような雰囲気の服装の女性 数十名と遭遇すると圧倒されてしまう(笑)。

資生堂の中では、BCは最前線で顧客と接する。単に化粧品を売るだけではなく、文字通り、「美」についてのコンサルティングをする存在である。資生堂の興味深いのは、池田守男前社長の時代に、逆ピラミッド型組織というのを社長が自ら提唱し、その実現に力を尽くしていることだ。

◆資生堂の逆ピラミッドは店頭起点

資生堂の逆ピラミッドは

お客様>店頭>BC>営業担当>支社長>本社/研究所/工場>社長

であり、「店頭起点」という、企業としての活動はすべて店頭に集約されるというコンセプトを実現すべく、組織上、上の立場の人が下に対して献身的に奉仕し、彼らの活動をスムーズに進めるという考え方である。

池田社長がこのような感がけかを持ち出したのは、経営改革が必要だったためで、店頭起点を実現することによって経営を変えようとしたわけだ。

このような考え方はそんなに特別なものではない。軍隊のように平時は極めてピラミッド型の組織ですら、いざ、戦争となると如何に現場が作戦を実行できるかという視点から組織の機能が組み替えられ、作戦を実行するために上位組織が前線に尽くしていくのが普通である。

ビジネスの組織も改革や革新にような非常時には現場を中心にした動きが求められるわけで、資生堂のやり方はその意味で合理的だと言える。

◆逆ピラミッドの2つのポイント

このやり方には2つのポイントがある。まず、一つ目はビジョン(あるいは組織のミッション)が明確になっていることである。これがない限り、絶対にこんなやり方はできない。このやり方はある意味で現場にすべてを託すやり方であり、上位組織が自分たちはどこを目指したいということが明確になっている必要がある。

ここがなければ、多くのIT企業にみられるように単なる現場の暴走になってしまう。

次に、そのミッションの達成をすべて現場にゆだねてしまうことだ。ただし、一般的にいえば、上位組織が持っている権限をすべて現場に委譲することはできないし、無理にやるのは統制上の問題もある。何を委譲しているかというと、ミッションを達成するための方法である。その方法を現場に委譲した上で彼らに尽くし、ミッション達成を実現していく。この中には、当然、現場でもできないこともあるが、そのような意志決定もあくまでも現場の動きに合わせて行っていく。

口でいうほどやさしいことではないが、このようなやり方をすれば、ミッションの達成のためには何をすべきかを一番よく知っている現場に主導権を委ねながらも、組織のリーダーとしてリーダーシップを発揮しながら進めていくことができる。これが逆ピラミッド型組織の基本的な発想である。

◆逆ピラミッドのプロジェクトマネジメント

この逆ピラミッド組織こそ、組織のプロジェクトマネジメントに必要な組織ではないだろうか?

プロジェクトマネジャーはプロジェクトミッションをプロジェクト目標に落とし込み、メンバーにその達成をゆだねる。その際には、メンバーに奉仕する。もちろん、メンバーは顧客に対して奉仕する。プロジェクトスポンサーはプロジェクトミッションをプロジェクトマネジャーにきちんと伝えた上で、プロジェクトマネジャーに奉仕する。シニアマネジャーはプロジェクトスポンサーに奉仕する。エグゼクティブはミッションを決めるとともに、シニアマネジャーに奉仕する。このような逆ピラミッドの関係があって初めて、プロジェクトによって成果をあげることができるのでないだろうか?

今、なぜ、うまくいかないかということを考えてみると、ピラミッド構造になっているために、顧客とメンバーの間の成果に対する合意が、組織の中で減退してしまうのだ。

つまり、ちょっと頑張ればできるようなことに対して、組織は収益性だとかリスクだとかいろいろな理屈をつけて、梯子を外して言うからできない。そんなことはしていないという人も多いと思うので、もっとはっきり言っておくが不作為という梯子のはずし方をしている。

月並みなことばで言えば、プロジェクトマネジャーが前線で苦労しているのに、上位組織は内向きで対応すべきかどうかの意思決定をしている。組織の論理を優先すれば、プロジェクトが始ってから出てくる顧客の要求など対応するいわれのないものばかりだそう。

これがすべてだ。これをひっくり返すための逆ピラミッドは有効な方法である。プロジェクト起点の逆ピラミッドのプロジェクトマネジメントを組立てよう!

2007年11月 8日 (木)

誰が誰のために存在するのか?

 メンバーはプロマネのために存在する
 プロマネはメンバーのために存在する

あなたはどちらがしっくりきますか?

もうひとつ、プロジェクトマネジャーとプロジェクトスポンサー(プロジェクトオーナー)。

 プロマネははプロジェクトスポンサーのために存在する
 プロジェクトスポンサーはプロマネのために存在する

これはどちらがしっくりきますか?

コメントをお待ちしています。

2007年11月 5日 (月)

【補助線】PMBOKではプロジェクトXはできない

仮説「プロジェクトXにはプロジェクトマネジメントはないが、スポンサーシップがあった」

メルマガで少し、触れたが、日経BP社の谷島さんにプライベートセミナーの講演をして頂いた後でお話をしているときにこんな話になった。PM業界では、「プロジェクトXになりたくなければ、プロジェクトマネジメントをやれ」という話をみんながしていたが、谷島さんの話によると、この話はプロシードの西野さんが言い出して、谷島さんがこれを記事で書いたので、あっという間に広まってしまったのだという。

 プロジェクトXになりたくなければプロジェクトマネジメントをやれ

という指摘は極めて正しいと思う。

ただし、プロジェクトXというのは本当に悪いのか?言い出した人たちは、プロジェクトXに取り上げられたプロジェクトなど、苦境の連続で、最後に何とか成功したのは、偶然にすぎないという思いがあるのだと思う。

実は、メルマガをはじめて2~3年目くらいに10回くらいメルマガの読者とのコミュニティセミナーを行ったが、このときに、好川はこの指摘をしていた。

プロジェクトXになりたくなければプロジェクトマネジメントをやれというが、PMBOKプロジェクトマネジメントをやるとプロジェクトXになれないというべきではないか

と何回か言っている。その頃は、何となくそのように感じていて、コミュニティセミナーの気楽さからそのような発言をしていたのだが、今、改めて考えてみると、その時に思っていたものが何だったかよくわかる。

プロジェクトXを支える一貫したマネジメントはプロジェクトスポンサーシップである。もちろん、スポンサーシップとは付随的なものである。スポンサーシップだけでプロジェクトが進められるわけではない。また、PMBOKにはPMBOKのプロセスを前提にしたスポンサーシップがある。

しかし、プロジェクトXのスポンサーシップは明らかにそのようなスポンサーシップとは異質なものである。PMBOKの世界のスポンサーシップはいかにすれば失敗プロジェクトをなくすことができるかという考え方で組み立てられている。失敗プロジェクトをなくすというのは、「如何に失敗しないプロジェクト目標を掲げるか」という意味である。プロジェクト要求(Project requirement)からすればそれは、100%の要求実現にならなくてもかまわないという考え方が背景にある。ビジネスプロジェクトというのはそういうものだ。

これに対して、プロジェクトXのスポンサーシップは、如何にプロジェクト要求を100%実現するかという考え方で組み立てられている。プロジェクトXで取り上げらている多くのプロジェクトは、PMBOKのような卓越したマネジメント手法ではなく、卓越したスポンサーシップでプロジェクト要求を完全実現しているのだ。

そして、これはPMBOK的なプロジェクトマネジメントでは正しい考えとはいえない。上に述べたようにあくまでも失敗しないような目標やスコープの設定をすることこそが正しいのだ。

ゆえに、PMBOKではプロジェクトXは実現できない。

2007年10月29日 (月)

【補助線】リーダーシップの旅

すごいマネジャーの続編。

「すごい人」がリーダーになるのではなく、「すごいことを考えた・した人」がリーダーとなってゆくと考え、その過程を旅になぞらえる「リーダーシップの旅」と呼ぶ考え方がある。

例えば、野田智義先生、金井嘉宏先生の「リーダーシップの旅 見えないものを見る」では、リーダーシップを、「見えないものを」を見通す能力であると捉えている。ある種のビジョンである。そして、そのビジョンを実現するために、まず自分で自分自身のリーダーとなることから旅が始まるとしている(リード・ザ・セルフ)。

次に、そしてそのビジョンに対して周囲の人に共鳴しする(リード・ザ・ピープル)。それが次第に社会全体に広がってゆく(リード・ザ・ソサイエティ)。このような過程でリーダーが生まれていくと述べている。

また、最近、出た本で、「シンクロニシティ 未来をつくるリーダーシップ」というリーダーシップの名著がある。

この本も著者である社会起業家ジョセフ・ジャウォースキー氏が、自身のリーダーシップの旅の様子を書いた自叙伝である。リーダーシップの旅を知るには、このあたりの本を読まれるとよいだろう。

先日、PMstyleプライベートセミナーで、「できる組織の条件」という議論をした。好川が考えているできる組織の条件は、新入社員も含めて、一人ひとりの社員(組織のメンバー)がリーダーシップの旅をしていることではないかと思う。

先日、あるコンシューマー商品メーカの社長から面白い話を聞いた。商品開発のプロジェクトに新入社員を「馴らす」つもりで突っ込んだ。もちろん、戦力になろうなど期待していない。ところが、その新入社員は偶然にもその商品の長年のユーザであった。なんと、プロジェクトの誰よりも使用経験が長かったそうだ。

普通であれば、プロジェクトの中の誰かが彼からうまく意見を引き出し、進めて行くのだろうが、この新入社員は明確な夢を持ってこの会社に入ってきたそうだ。そして、どんどんと自分の意見をプロジェクトリーダーにぶっつけた。最初は、疎んじられていたが、だんだん、プロジェクトがその新入社員のペースに巻き込まれていき、結果的に、その新入社員の発案した主だった意見はほぼ商品に採用された。さらには、商品コンセプトそのものがクリープして変わってしまったことに気がついた。

これを契機に、この社長はプロジェクトリーダー制を廃止し、チームが動かない場合にを動かすことに責任を持つチームリーダーだけを残して、フラットな開発組織に変えていく決心をしたそうである。

野田先生たちの考えに沿うと、この新入社員はすでにリーダーシップの旅にでている。おそらく、数年後にはたいへんなリーダーになっていると思われる。

あなたはこの新入社員の話をどう思うだろうか。

★「シンクロニシティ 未来をつくるリーダーシップ」は、今、読者プレゼント中(11月7日まで)

PMstyle.jp読者プレゼント

  http://www.pmstyle.jp/honpo/present/20071028.html

2007年10月22日 (月)

【補助線】多様性を否定するロジック

8チャンネルで日産のゴーン社長をゲストに招いて、スカイラインGT-Rの話題をやっていた。この車、突拍子もなく出てきたように見えるが、実はゴーン氏の就任当時からの「公約」であった。2001年の東京モーターショーでゴーン氏は

「世界的に有名な3つのアルファベットがあります。G、T、Rです。私はここでお約束いたします。必ずGT-Rは復活します」

という名演説とともに、「CT-Rコンセプト」を出品、2007年の東京モーターショーでの新型CT-Rの発表を宣言した。実は、この翌年、当時のGT-Rは排ガス規制の不適合により生産中止になる。当時、何かのインタビューで、日産の本当の復活は新型GT-Rが成功したときに終わるといっていたような記憶がある。

いよいよ、この車がスカイラインの冠をとり、日産GT-Rとしてベールを脱ぐ。我々の世代の車好きなら、羨望の車である。

さて、そのテレビ番組の中で、キャスターとのやり取りで興味を引いた部分がある。

・みんなが手が届く車ではないと思うが(700万円台後半)
・環境問題をどう捉えているのか

ゴーンの答えは、いずれも、ドイツあたりの同カテゴリーのスポーツカーと較べれば価格優位性があるし、環境性能も高いという答え。質問者は納得しない。

まあ、質問キャスターにもテレビ番組としてのパフォーマンスがあるのだろうけど、

 ・そうは言っても、みんなが手が届かない車は高い
 ・排気量の大きい車は環境によくない

という発想といったコメントを繰り返す。まず、GT-Rという車の個性を認めた上で議論しなくては話しにならない。

実に日本はこのパターンのロジックが多い。いろいろな機会でチームビルディングのアンケートをとると、メンバーの個性を大切にしているという答えをする人が圧倒的に多い。しかし、それは、「(既存の)組織、あるいは社会的に許せる個性」であれば、認めるという。

上のキャスターのように、それが如何に環境に優れた車であっても、コンパクトカーより排気ガスを吐き出しているのはけしからんというロジックで個性を否定しにかかる。つまり、「どれだけパワーがあってもよいし、高級志向でもよい、それも個性だろう。ただし、コンパクトカーとしての枠の中でね」という話になる。

チームマネジメントでいえば、どういうやり方をしようとそれは個性なので認めよう。ただし、「わたしが理解できる範囲でね、でないとフォローできないから」という話になるのだ。お釈迦様と孫悟空みたいな話しだ。

これが、一様主義、ダイバーシティを認めない日本の組織や社会の構造だというと言葉が過ぎるだろうか?

個性を認めるというのは、「組織、あるいは社会的に許せる」範囲を広げることである。もちろん、一定の制限は必要だろうけど。

2007年10月15日 (月)

【補助線】すごいマネジャー

金井先生の「組織変革のビジョン」という本はチェンジマネジメントだけではなく、多くのリーダーシップに関するインプリケーションを含む本である。中でも「組織変革のリーダーシップ」の中で、大規模なフィールド調査に基づく優秀なリーダーとマネジャーの関係に関する話が出てくるが、これはプロジェクトのマネジメントを考える上で興味深い。

まず、面白いのは、リーダーには「すごい(outstanding)」という形容詞をつけ、マネジャーには「できる」という言葉を使っている。

金井先生の調査では、すごいリーダーとできるマネジャー像として

すごいリーダーは、大きな絵(ビジョン、ロマン、夢)を熱っぽく語り、フォロワーの感情に訴え、しばしばバランスを欠いたり、抜けがあったりする。また、ときには他者を攻撃するけれども、語る絵が本質的に正しく納得のいくものなので、周りの人がついつい応援してしまうタイプである。

できるマネジャーは、システムや仕組みをうまく活用し、データを冷静に分析し、安定したオペレーションを生み出すために欠かせない。

という人材像を浮かびあがらせている。あなたはどちらのタイプだろうか?

組織側の人材マネジメントの論理としては、例外的な1~2割の人を除くと、リーダーとマネジャーの共存は難しく、ゆえに、必要に応じてそのような人材を開発していくということになる。

今、プロジェクトマネジャーの育成に取り組んでいる企業のほとんどは、できるマネジャーを育成しようとしている。また、進んでいる企業が、マネジャーに多少なりともリーダー的な特性が発揮できるような人材開発に取り組んでいる。

ただ、この認識はそんなに適切だとはいえないのではないかと思う。マネジャーは金井先生の説明にあるように、「システムや仕組み」の中で仕事する。しかし、プロジェクトマネジャーという仕事は必ずしもそういう仕事でもない。たとえば、調達ひとつとってみても、新しい調達方法や調達先を開拓しなくてはならないことは少なくない。

つまり、プロジェクトをやっていく上で、システムや仕組みを作っていかなくてはならないことが少なくない。

しかし、実際には、マネジメント業務に追われて、リーダーとしての活動が二の次になっている。実は、僕がPMOにずっとこだわっている理由は、マネジメント業務はPMOを中心にしてプロジェクトマネジメントチームを作り、そこでやればよいと思っているからだ。そして、プロジェクトマネジャーはリーダー業務に専念すればよいと思っている。

ただし、条件がある。小さなプロジェクトにおいては、マネジメントができるくらいのスキルは持っている必要がある。というよりも、いやでも両方をやらざるを得ない。つまり、プロジェクトマネジャーが目指すべきなのは、

 最低限のマネジメントスキルを持った「すごいリーダー」

なのではないかと思う。プロジェクトの成功を顧客満足で捉えるならば、これしかないだろう。われわれはこれを「すごいマネジャー」と呼ぼう。

金井先生が上の本で

 王たるもの、大海の水を飲み干すくらいの気持ちと、同時に砂浜の砂粒が一粒ずつ見えることの両方が必要

というシェークスピアのフレーズを取り上げているのがなんとも印象的である。

2007年10月 5日 (金)

【補助線】プログラムマネジメントはコペルニクス的転回である

◆プログラムマネジメントはなぜ、普及してきたのか?

この1年の間に、プログラムマネジメントに対する関心が急速に高まってきた。その背景には、PMIによるプログラムマネジメント標準の発表、プログラムマネジメントプロフェショナル認定制度の開始、日本でもPMAJによるプログラムマネジャー試験の開始など、さまざまな要因があると思われるが、必ずしもそのような話だけで
はないように思える。

プログラムマネジメントはある種のパラダイム変換である。たとえば、プロジェクトとして実行しようとしている投資計画があったとする。これをプログラムとして扱っていくのかは、コペルニクス的転回なのだ。

つまり、地球中心説から太陽中心説に変えるようなものだ。ものの見方が変わるだけで、やるべきことが変わるということではない。そして、ものの見方が分かるので、マネジメントが変わるだけである。

◆プログラムマネジメントへの移行はコペルニクス的転回である

プログラムによる業務運用に急速に関心が高まってきた背景には、このコペルニクス的転回ともいえるようなパラダイム変換が起こってきているのではないかと思う。これまで全体を決めてから実行する方が効率がよく、合理的であると考えてきたのだが、変化の激しい時代を迎え、その変化に対応するためには逆に効率が悪くなってきた。プロジェクトを実行しているうちに、次から次に状況が変わる。それに追従していかない限り、プロジェクトとしての成果は小さくなる。

これに対して、プロジェクトマネジメントは、変更管理で対応しようとする。プロジェクトマネジメントは決めたもの(要求)が「変わらないという前提」で進めているためだ。段階的詳細化といっても、どのような分野でも、全工程の20%が終わったくらいであらかたゴールを決めている。

◆変わった場合の変更管理ではなく、変化を前提にしたマネジメントパラダイム

これに対して、プログラムマネジメントは「変わることを前提」としている。したがって、業務の目的は決めるが、その手法、アプローチは決めない。個々のプロジェクトを小さくしておいて、柔軟に変更しながら、全体のバランスをとって、業務の目的を達成しようとする。

つまり、業務の前提として、実施期間中要求が変わらないという前提で行っていたのが、変わるという前提で行われるようになってきた。これが、コペルニクス的転回が起こった理由でもあり、パラダイム変換でもある。

今後、プロジェクトはどんどん、プログラムとして実行するようになってくるものと思われる。現に、今、IT系を中心にプロジェクトといいながら、プログラムとして運営されている。このようなプロジェクトの運用形態に対して、「プログラムマネジメント」という新しいツールを手に入れたプロジェクトマネジャーはプロジェクトの成功確率が格段に高くなっていくことが予想される。

2007年10月 1日 (月)

【補助線】マネジメントの業績とは何かを理解しているか?

日本ハムが優勝した。球団初の連覇だそうだ。監督はヒルマン監督。新庄や小笠原がいた昨年と比べるとスター選手がいない。ニュースでは「全員野球」だと言っていた。

日本という国はこのパターンが多い。現場を重視する。現場にスター選手がいればそこを持ち上げる。いなければ、全員が一致団結して高いパフォーマンスを発揮したと考える。

「マネジメントの業績」が掲げられることはほとんどない。よくも悪くも、現場中心である。マネジャーは業績が評価されることもないし、逆に、マイナスの業績評価されることもあまりない。

このこと自体が悪いことではない。現場を重視するのは日本型経営の強みだと思うし、現場の動機は上がり、パフォーマンスも高くなる。

問題は、マネジメントの業績が何かを理解していない点。マネジメントの業績をよく理解した上で、やっぱり、比較として現場の功だというのであれば、文句はない。しかし、マネジメントの業績を理解せずに、現場、現場といっているのであれば、ナンセンスだ。

この問題意識を持ってほしくて、セミナーの中では

・PMBOKではマネジメントプロセスとプロダクトプロセスは別物だ。
・マネジメントがなくても、プロダクトはできる。
・現にピラミッドの建立はマネジメントなしに、あんなに立派なものができた。
・原子爆弾だってできたと思う。月にいくこともできただろう。

という意見についてどう思うか

という質問をすることにしている。みなさんならどう答えるか?

ここで、もうひとつ理解していく必要があるのは、これらの意見に反論するだけの「マネジメント」というのはそんなに容易なことではない。

マネジメントで業績を上げるのは難しいことも同時に理解しておく必要がある。しかし、マネジメントで業績を上げるための第一歩はマネジメントの業績は何かをきちんと理解することであることは間違いない。

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。