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2006年10月20日 (金)

【補助線】プロジェクトマネジメントはサイエンスか、アートか

プロジェクトマネジメントはサイエンスかアートか。あまり議論されない問題である。

おそらく議論されない理由はみんながサイエンスだと思っているからだろう。

確かに、プロジェクトマネジメントの系譜をたどれば、少なくとも近代プロジェクトマネジメントはORなどの経営工学に立脚しており、まさしくサイエンスである。

しかし、マーケティングがアート50%、サイエンス50%といわれるように、マネジメントには何がしかにアートの要素がある。

では、一般的なマネジメントとプロジェクトマネジメントを比較したときに、どちらがアートの要素が大きいのか?これは明らかにプロジェクトマネジメントである。なぜかというと課題解決の不確実性の大きさが異なるからだ。

マーケティングにアートの要素が多いのも同じ理由だ。3Cとか、4Pのような分析をして、予測をして、満を期して上市した商品が外れる。と思えば、とりあえず、穴埋めに出しておけといった感じの商品が大ヒットする。

この不確実性の要因の多くは市場を形成する消費者の行動にある。一言でいえば、人は思わぬ行動を取る。良いと思っていない商品でも、友達が持っていればほしくなる。三重だけで消費をする、などなど。

プロジェクトマネジメントにおける不確実性も同じような構造をしている。大半の不確実性は「人に纏わること」から生まれている。

メンバーが気まぐれ、顧客がわがまま、上司は自分の出世しか考えていない、などなど。この不確実性をマネジメントするのはサイエンスだけでは無理だ。

アートが必要である。

2006年9月12日 (火)

【補助線】泥臭さの消えたプロジェクトマネジャー

PM養成マガジンを始めたころに、

 「PMBOKは叡智か陰謀か」

  http://www.pmos.jp/honpo/note/note3.htm

という記事を書いたことがある。この記事についてはおそらく、メルマガセミナーなどの機会に10人以上の人と議論をしたと思う。

この記事は競争という視点で書いているのであまり理解してもらえないままだったような印象があるが、この記事を書いたときに漠然と思っていたことが現実になってきたように思う。

この記事を書いたときに思っていたのは、日本の産業は泥臭さを捨てたらおしまいだということだった。PMBOK導入にその危険を感じていた。

そもそも論を言えば、日本人はこの種の形式化をするのが下手である。というよりも、したがらないといった方が正しいかもしれない。よい例がトヨタのカンバンだ。この仕組みを、技術的に捉えなおしたのは、日本の研究者でなく、アメリカの研究者だった。

日本人の研究者の能力が云々というよりも、社会的にこの部分は守らなくてはという意識が研究者に二の足を踏ませているように思う。平たくいえば、そんな研究をしても、産業界から支援を受けることはできない。

理論化をすることは素晴らしいことだが、同時にそれは誰にでもできるようになることを意味している。ここに突入することは自殺行為だと直感的に分かっているのだ。

プロジェクトマネジメントで起こっていることはまさにこれだ。確かに、組織としての能力は上がってきたと思う。しかし、泥臭く、すごいことをやってくれるプロジェクトマネジャーが少なくなってきている。

プロジェクトXにならないように、プロジェクトマネジメントをしましょうはいいのだが、プロジェクトXができなくなっては話にならない。これも何度か議論した。

 「PMBOKではプロジェクトXはできない、いや、できる」

アニメーションの例を引き合いに出すまでもなく、日本の強い産業は職人的なところである。思いっきり泥臭いところである。

すごいことをしてくれるプロジェクトマネジャーがなくなったことはかまわないといえばかまわない(産業的には大問題だが、、、)

しかし、プロジェクトマネジメントを生命線とする企業で起こっているもう一つの問題は、問題は、プロジェクトに現場感がなくなってきたことだ。プロジェクトマネジャーがデスクワークを重視し、泥臭さがなくなってきた。これはいくつもの組織で感じている。

泥臭さが消えたプロジェクトマネジャーにはメンバーはついてこない。それどころか、メンバーの泥臭さを否定するようなプロジェクトマネジャーすら出てきた。

そろそろ、「是正」の時期に来ているように思うが、みなさんはどう思われるだろうか?

2006年9月11日 (月)

【補助線】続・なぜ、プログラムマネジメントか?

◆フェーズマネジメントによる不確実性への対処

PMBOKをよくご存知の方なら、フェーズという概念があることはご承知の通りだろう。例の立ち上げ、計画、実行、統制、終結というプロジェクトマネジメントライフサイクルはフェーズにFukakujitu 対するものである。したがって、一般的には一つのプロジェクトにおいては複数のフェーズが存在し、フェーズを実行する中で次のフェーズにおける不確実さを拭い去っていき、状況を(前提条件、制約条件など)を明確にし、徐々に進めていくことになる。

逆にいえば、プロジェクトの最初の段階でゴールまでの計画ができるものにはプロジェクトマネジメント的手法はあまり必要ないともいえる。

◆商品開発プロジェクトにおけるフェーズ

例えば、商品開発のプロジェクトを例にとれば、最低2つはフェーズが存在する。一つは商品企画である。戦略上(経営上)の課題から開発する商品のコンセプトや機能仕様を明確にする。企画フェーズ開始の段階では、どのような商品を作るかはぼんやりしている。企画フェーズを通じて、だんだん、それを明確にしていく。明確になったものを次のフェーズである商品開発フェーズに渡す。

商品開発フェーズでは、企画フェーズからきたコンセプトや機能仕様を実現する商品を設計し、開発をする。開発フェーズの最初の段階では、実装仕様も決まっていないが、設計作業を通じてそれをだんだん明確にしていき、設計が終われば試作やフィールドテストを行い、企画フェーズで決められたコンセプトや機能仕様を満足しているかどうかを確認する。

Bunsan商品企画から商品開発に進む際に、技術的な裏づけができていないケースがある。この場合ような場合、企画の後、あるいは、企画と並行して技術検証(技術開発)フェーズを設けることが多い。

SIでいえば、要件定義 → 基本設計 → 詳細設計・開発といったフェーズを設定することが多いが、意図するところは商品開発を同じである。

◆フェーズマネジメントの限界とプログラムマネジメント

フェーズマネジメントの考え方は製品開発マネジメントの基本であるが、ここでやっかいなことがある。それはフェーズというのは(IT系の用語でいえば)ウォーターフォールを前提にしている点だ。上の商品開発でいえば、企画フェーズが終わって、その成果をインプットとして開発フェーズに渡し、開発フェーズに渡し、開発フェーズの作業を始めるという点である。このようなやり方は長時間かけて、じっくりと商品開発を行う際にはあまり問題にならないが、短期間で開発する、あるいは、商品への戦略的ニーズそのものが比較的に短期間に変化するようなケースは難しい。このようなケースでは、商品開発によるベネフィットの維持が最大の課題になる。企画フェーズである程度、設計との調整を取りながら進めていくことが要求されるし、開発中もある程度企画変更に対応しながら進めていくことが要求される。

この問題を解決するためのポイントは、各プロジェクトを独立にマネジメント(decentraized management)することである。この独立性を保証しないと、設計やデザイン、あるいは、技術的な制約に必要以上に引っ張られる。

その上で、各プロジェクトの目標を一段上から調整していくことにより、全体のベネフィットを最適化する必要がある。

例えば、ある電子商品を開発している最中に小型化のブームがやってきた。当然、デザインからは小型化という付加的な要求が持ち上がる。しかし、小型化をすればコストが上がるし、また、開発要素があり、発売時期そのものに影響がでそうだ。

ここで開発はデザインされたものを実現するといった関係をつけてしまうと、最適な判断をするのは難しくなる。おおかた、市場やユーザをたてにしたデザインの主張に引っ張られる。いくらユーザが受け入れても、競合に先を越されては意味がない、価格が高ければ売れないなどの問題が出てくる。このあたりをトータルで考えるためには、市場、ユーザ受容性、コストなどをトータルで考えて、その意思決定を各プロジェクトの目標に落とし込む必要がある。

このようなケースに、検討に値するのが、プログラムマネジメントの適用である。一つのプロジェクトをサブプロジェクトに分解し、独立したプロジェクトとしてプロジェクト間の調整を取りながら進めていく。このようなマネジメント手法が有効である。

また、これにより、技術開発のような複数のプロジェクトにまたがるプロジェクトは全体最適を考慮した進行が可能になる。その意味でも、意味がある。

2006年9月10日 (日)

【補助線】「夜王」に学ぶマネジメント

僕の好きな倉科遼氏の書いたコミックスで、夜王というコミックスがある。テレビドラマでもやっていたが、新宿歌舞伎町を舞台に一人のホストの成長を描いた物語だ。

408876462509 倉科遼「夜王

このコミックスを読んで、ホストの行動規範、思考規範に興味を持った。

二つ三つ考えてみてほしい。

(1)あなたは顧客の満足を得るのにホストのような行動ができるか

(2)あなたは派閥の長として、ホストのリーダーのようにチームのパフォーマンスをあげるがことができるか

(3)あなたは組織をまとめ、組織を拡大にするためにホストクラブの店長のような行動ができるか

(1)。何でもお客の言いなりになるホストに顧客満足は生まれない。顧客をコントロールし、自分のイニシャティブの中に引き込んで、そこで素晴らしいサービスを提供して、初めて、顧客の満足は生まれる。これ、ビジネスでもまったく一緒。

(2)。チームのメンバーのココロを掌握ができないホストに、顧客を満足するサービスは提供できない。自分のロジックではなく、相手のロジックの中で、何を支援すれば相手のパフォーマンスが上がるかを考える。これ、チームマネジメントの基本中の基本。自分のロジックの中で一生懸命どうすれば相手が動きやすいかを考えてもパフォーマンスはあがらない。

(3)。リスクがあることを察知し、しかし、あきらめない。如何にそのリスクを小さくするを全知全能を絞って考える。リスクが見えた時点で、君子危きに近寄らずこそがリスクマネジメントだといっていたのでは、組織としての成功はない。

これらはまさしく、プロジェクトやプログラムのマネジメントのコアな部分である。

2006年9月 4日 (月)

【補助線】なぜ、プログラムマネジメントなのか?

◆ITにおけるプログラムマネジメントの適用事例

最近は企業統合が珍しくなくなっている。この際、たいてい問題になるのが、情報システムの統合である。例えば、東京三菱とUFJの経営統合ではまさに、情報システムの統合スケジュールが問題になり、監督官庁も絡んで経営統合のスケジュールそのものが二転三転したのは記憶に新しい。

この例からも分かるように、規模の大きなプロジェクトの情報システムを統合しようとすれば、数十の情報システムを統合しなくてはならないことは珍しくない。このようなときに、これを一つのプロジェクトとして行うと2~3年では到底完了しないだろう。それゆえに、このようなプロジェクトでは、全体をプログラムとして管理し、プログラムマネジメントを実施するのが当たり前になっている。

◆リードタイムの短縮を実現するプログラムマネジメント

このような話は、決して、経営統合の際の情報システムに限ったことではない。ライフサイクルがどんどん短くなっている最近のビジネスでは、工法やプロセスの工夫では思ったようなリードタイムの短縮ができず、課題をプログラムとして捉え、並列的に実行することにより、リードタイムの短縮を図ることは珍しくなくなってきた。

Juggle4_2 製品開発の世界では、従来よりコンカレントエンジニアリングという手法でリードタイムの短縮を図ってきた。コンカレントエンジニアリングは企画・開発から販売・廃棄にいたる製品ライフサイクルの全フェイズに関連する部門が、製品の企画や開発、設計などの段階に参加・協働し、同時にプロセスを進めていく開発手法である。これもある製品を開発するという一つのプロジェクトであるが、プログラムとして扱い、マネジメントを行っている。

◆プログラムマネジメントと分散マネジメント

企業の戦略があって、その戦略を実行するためにどのような課題があるかが決まる(戦略課題)。この戦略課題を実際のアクションに落とすものがプログラムであり、プロジェクトのコントロールの対象は戦略に対するベネフィットになる。そして、ベネフィットを最適化するために、複数のプロジェクトをデザインし、実行していく。

これが、P2Mなどで言われているプログラムのイメージであるが、プログラムはこのような形だけではなく、上のような形態が増えている。一方で、プログラムにすればスムーズに進むプロジェクトを強引にプロジェクトとして実行しようとして失敗している事例も目立つ。

SIプロジェクトでは何らかの形で並列開発をすることが多くなっているが、これをプロジェクトをみなして開発すると必ずといってよいくらい失敗している。スケジュール的に無理があり、タイムマネジメント、リソースマネジメントが破綻をきたしている。このようなケースはプログラムとしてマネジメントしていかないとうまく行かない。

その意味で、プログラムマネジメントはプロジェクトマネジャーにとっても現実的で重なマネジメント手法になってきている。大規模、納期の厳しいプロジェクトをマネジメントしなくてはならないプロジェクトマネジャーにとっては必須スキルだといってもよいだろう。

それだけではない。プログラムマネジメントはプロジェクトの分散型マネジメントという非常に興味深い枠組みも提供する。これについては次回!

2006年9月 3日 (日)

【補助線】PM研修に必要な条件

pmstyleでは、研修に必要な条件として

【条件1】経験を意味づけ、経験に弾みをつける

【条件2】研修をスタンドアロンで完結させず、プロジェクトマネージャーとしてのアサインに連動させる

【条件3】研修をトップマター(事業部)だと認識する

の3つを掲げ、これに基づいて研修をデザインしている。

条件2は制度上実現困難な企業が多いが、残りの2つの条件はやろうと思えばできる。特に、条件1は重要だ。

経験が重要だというのは多くの人が言うが、経験はしっぱなしでは意味がない。難しい言葉でいえば概念化ができて初めて経験の意味があるし、学習につながる。例えば、失敗したときになぜ失敗したのか、うまく行ったときになぜうまく行ったのかをきちんと分析し、概念化をする。これはレッスンズラーンドの一つであるが、ここで、単にノウハウとして蓄積するだけではなく、理論との結び付けをすることが重要である。プロジェクトマネジャーに対する研修ではこれが最も重要な事項であろう。

それができて初めて、応用力のあるノウハウになるし、また、次の新たな経験につながる。例えば、自分なりに行っている進捗管理が実はEVと同じ原理で行っているというのはよく見かける現象である。

その際に、自分のやり方がEVと結びつけばEVの世界で発見されていること(手法)やノウハウを纏めて使うことができるようになる。そして、それらの手法を自分のやり方に加えることによってさらに、自分のやり方が幅を持つようになる。これが経験を意味づけ、さらに、経験に弾みをつけることだ。

ちなみに上のような条件を考えた弊社のトレーニングはキャリア段階にあわせ、以下の4段階としている。

【ステップ1】
プロジェクトマネジメントの基礎知識を身に付ける

【ステップ2】
プロジェクトマネージャーとしての行動規範を身につける(PMコンピテンシーの獲得)

【ステップ3】
業務の中で遭遇した問題に立ち返り、経験を分析し、必要な知識を補給する

【ステップ4】
業務経験を振り返り、自分のプロジェクトマネージャーとしての特性を知り、自分のスタイルを作っていく

ステップ3、ステップ4の段階においては上に述べたような経験の意味づけと、弾み付けができて初めて研修としての意味が持つことを忘れてはならない。しかし、この指摘をすると、多くの人は、そんな理論を持ち出さなくても分かっているし、できているという態度を取る。もう少し、謙虚にありたいものだ。

2006年8月23日 (水)

【補助線】トヨタの品質問題とプロジェクトマネジメント

WEDGEの9月号に製造業の品質問題の記事が掲載されている。

「電子化偏重・人間軽視」開発現場から崩れる製造業

という記事だ。なかなか、興味深い記事なので、機会があれば目を通して見られるとよいだろう。

この中に、プロジェクトマネジメントの立場からは気になる指摘が書かれている。

トヨタでは、この1年くらい、過去に市場に送り出した商品の品質問題に頭を痛めている。マスコミでも何度も取り上げられているように信じられないようなリコールが多発しているのだ。それを受けて、品質担当の副社長を1名増やして2名にし、さらには担当専務まで設置したが、それでも思ったような効果がでない。なぜか?

これがこの記事の問題提起である。その上で効率とコストを追求するために起こっている「開発プロジェクトでのコミュニケーション不足」があると指摘している。これはトヨタに限らない。僕のコンサルティングをしたプロジェクトでもこの問題はよく直面する。

この種の問題は極めてやっかいである。プロジェクトスコープの中に現れてきにくいからだ。自動化された設計上の問題はない。品質基準も満たしている。そのような中でも、設計者同士が議論をしていると気づく問題も多い。しかし、効率追求・コスト優先の中ではその時間がままならない。

この問題は今に始まったことではない。僕が三菱重工で仕事をしていた頃に、CAEのシステムの自動設計の開発に携わっていたことがある。このときに多くの設計エンジニアにインタビューしたことがあるが、多くの人はこの問題を指摘していた。僕流に言えば次のようなことを言っていたように思う。「設計というのは形式化できない。ナレッジベースを作っても無理。コラボレーションの中で生まれてくる部分が多い」

さて、この問題、トヨタも気づいていなかったわけでも、手をこまねいていたわけではない。記事によると、早くから問題の所在に気がつき、手を打ってきた。2003年くらいから、開発段階における設計、生産、調達の横断的なすりあわせを強化してきたという。タラレバになるか、だから、この程度で済んでいるともいえよう。

この問題、プロジェクトマネジメント的にはどうすればよいのだろうか?

難しいのはコストと時間の制約が極めて大きいために起こっている問題で、コミュニケーションマネジメントをきちんとすればよいといった単純な問題ではない。かといって、いまさら、リードタイムや製品原価を緩くする方向に向かうというのはできない相談だろう。

このような状況で唯一の解になりうるのは、今まで真剣に考えてこなかったチームマネジメントではないかと思う。ただし、自動車メーカは製品アーキテクチャーから組織を作りこんでいるので、チームマネジメントを何とかしようといってもそう簡単にはいかないだろう。そこは悩ましい点だ。

一方で、他の業界ではこの矛盾に満ちた問題を解消できるようなチームマネジメントは比較的容易に実現できるように思うのだが、如何だろうか。

実は、この問題、マスプロダクションだけに限った話ではなく、受注生産製品でも起こっている。その典型がSIプロジェクトである。SIプロジェクトでは、顧客コミュニケーションの悪さは目に見える形で品質の問題として出てくる。しかし、システム内部の不適合はそう簡単には出てこない。そこで、要件定義や設計時のプロセスマネジメントで品質の作りこみを行うのだが、短納期化やエンジニアのスキルの問題などでコミュニケーションの品質が落ちてきて、それが製品の品質問題になっているケースが増えている。

SIの場合であれば、チームマネジメントを丁寧に行うことで、納期と品質のコンフリクトという問題は解消できる。

日本の現場の強さは、コミュニケーションの強さであるし、上流工程のさまざまな問題のバッファになってきた。実際に「現場あわせ」という言葉が象徴するように、上流工程のコミュニケーション不足を現場のコミュニケーションで解消してきた。

それができなくなってきたのだとすれば、ある意味で転機だといえる。製品開発プロセスにプロジェクトマネジメントを導入し、コミュニケーションマネジメント、リスクマネジメントなどをチームマネジメントで統合していくようなマネジメントが求められるようになってきたといえる。

2006年8月21日 (月)

【補助線】プロジェクトマネジャーは小泉的をめざせ!

自民党の総裁選挙が近づいてきて、マスコミがこぞって特集番組を放映し始めた。小泉という首相は非常に面白いことを見せてくれた。それは、議員内閣制でもここまでできるという限界である(本当に限界か、まだできるか、常識的限界を超えて属人的に許される限界かは分からない。おそらく次の首相が方向を決定付けることになるのだろう)。

なぜ、こんな話題を持ち出したかというと、これまでずっと述べてきた組織によるプロジェクトマネジメントのイメージは、ある意味で議員内閣制に似ているからだ。プロジェクトマネジャーは首相である。プロジェクトチームは内閣。スポンサーは与党。ステークホルダは野党や国民。

小泉以前の内閣は少なくともこのフォーメーションであった。ところが、小泉はこのフォーメーションをひっくり返した(と表面的には見える)。世論の支持を背景に、カリスマリーダーのごとく行動した。彼の行動がよいか悪いかはまだしばらく答えがでないと思うが、少なくとも、今までの首相ではフォーメーションをひっくり返すことにより今まではできなかったことをやってのけた。

プロジェクトマネジャーにはあまり権限がないと思っている人が多い。内閣総理大臣もそうだった。しかし、やればこれだけできた。問題はやり方と意志である。

大志あるプロジェクトマネジャーは小泉的を目指せ!

2006年8月13日 (日)

【補助線】プロジェクトマネジメントというギミック

PMコンピテンシーの仕事をしているうちに、だんだん、プロジェクトマネジャーに足らないと思われるものがはっきりしてきた。

 コアマネジメントスキル

である。

プロジェクトマネジメントというのはどちらかといえば、テクニカルな色彩の濃いマネジメントである。PMBOKはその象徴でもあるが、「ツール」や「技法」に依存する割合が多い。

確かに、建設の仕事だとかを考えてみると、このようなマネジメントは必要なのだと思う。延べ人数で数万~数十万人の人を動かして一つの目標を達成する。このような仕事では今のようなプロジェクトマネジメントの枠組みは不可欠だろう。

一方で、今、盛んにコミュニケーションやネゴシエーションといったヒューマンスキルが注目されるようになってきている。これらに注目が集まる理由をよくよく聞いていると、マネジメントスキルの欠如をヒューマンスキルでカバーしようとしているようだ。正しいかどうかは別にして、この感覚はちょっと違う。

家を建てることに例えてみると、以下のような比喩ができる。

 基礎:コアマネジメントスキル

 デザイン(機能性):プロジェクトマネジメントスキル

 デザイン(快適性):ヒューマンマネジメントスキル

今、行われていることは、基礎工事が悪くて、ドアの立て付けが悪くなったときに、ドア枠をフレックスな構造にしておくことにより隙間風が入らないようにする仕掛けを作っているようなものだ。要するに、「ギミック」なのだ。

もっといえば、コアなマネジメントスキルを持たない人材がもつプロジェクトマネジメントスキルというのもギミックだという気もしなくもない。これは少し言いすぎかな、、、

「ギミック」が悪いどうかは別問題だ。

組織としての評価のポイントは2つある。一つは、その家にどれだけ住み続けるかだ。仮住まいで10年ほど住んだら取り壊してしまうのであれば、それも一つの選択だ。

その際のもう一つのポイントは、コスト。基礎をしっかりするのと、このような「ギミック」を施すためのコストを比較し、「ギミック」の方が安いとすればそれでもいいのかもしれない。

個人のとして評価は言うまでもない。その会社が潰れても生きていかなくてはならない。基礎が大切だ。基礎がしっかりとしていれば、「ギミック」など必要ない。

「ギミック」を身につける前に、本物のマネジメントスキルを身に付けたいものですね。

新・PMコンピテンシー強化術(スキル編)~プロジェクトマネジメント実践を強化するマネジメントの原理原則(リンクあり)

2006年8月12日 (土)

【補助線】エンジニアはマネジメントの資質なしには良い仕事はできない

プロジェクトマネジメントのあり方について

プロジェクトマネジャーにとって技術や分野の専門知識は必要である

という命題がある。

この命題が真だという人は、プロジェクトの成功が技術リスクに強く依存しているため、技術の素養がないとプロジェクトはうまくマネジメントできないという意見が多い。特に、管理職とは違うという言い方をする人が多い。

逆に偽だという人は、プロジェクトは専門家を集めて、彼らに権限委譲して行うのだから、マネジメントスキルがあればよいという意見の人が多い。

この議論はキャリアの議論としては意味があると思うが、プロジェクトマネジャーの任命やプロジェクトマネジメントの中ではほとんど無意味な議論だと思う。神学論争である。

この命題よりもはるかに重要なのは、

一人の技術者が技術者としていい仕事をするためにはマネジメントの資質が必要

だという命題である。

僕自身のコンサルタントとしてのキャリアの中で15年間、多くのエンジニアに出会ってきたが、この命題を否定するような人材に出会っていない。この命題は明らかに真だと思う。

この理由は2つある。

一つは最近、エンジニアにもプロジェクトマネジメントのスキルが必要だという指摘の根拠になっている組織で仕事をしているからである。ただ、これはそんなに大きな問題ではないように思う。

もう一つは、自分が満足すればよい仕事だという人は別にして、はやり、自分が満足し、人からも評価されるためには、マネジメントの資質が必要になるという事実である。これは、組織に認められるからとかいったレベルではない。エンジニアの取り組む仕事で絶対的に価値のある仕事は残念ながら少ない。プロジェクトXのような大きな仕事を見ていてもそんな数はない。

すると、すばらしい発見やアイディアを出す以前の問題として、分野の選定が極めて重要である。シーズにさえならないような分野で何をやってもそんなに認められるものではない。ニーズだけではなく、シーズもある意味で市場である。つまり、市場の認めない仕事をしても意味がないということになる。

ここでいう市場を商品市場のような狭い意味で捉えないでほしい。例えば、社内で技術開発をする場合には、自分の所属する組織なり、企業なりが市場を持っている。この市場に適応できなくては話にならない。

もう一つ、僕が持っている命題がある。それは、マネジメントの資質がある人はセルフマネジメントがきちんとできる。自らの目標発見、動機の維持、タイムマネジメントなど。これはいずれも、マネジメントの基本である。

この命題は逆も真である。セルフマネジメントができている人はマネジメントの資質もある。

このように考えていくと、画期的な仕事をできる人は市場を見つける活動と、セルフマネジメントにおいて、マネジメントの資質を持った人であるといえる。

さすがに15年くらいの仕事をしているだけでは、イノベータに出会う機会はそんなになく、事例は少ない。それでも10人程度はイノベーッティブな仕事をしたと評価されている人に出会ったことがある。最近の例で言えば、ウィルコムのW-ZEROシリーズを開発したエンジニアは長い付き合いだが、抜群のマネジメントセンスを持っていた。

エンジニアがプロジェクトマネジメントのスキルが必要だから身につけるというよりは、エンジニアとして自らの仕事を大きく花を咲かせるためにどのようなマネジメントスキルが必要かを考えてほしい。

それがプロジェクトの成功にもつながるし、エンジニア自身の成功にもつながる。

PMstyle 2025年9月~12月Zoom公開セミナー(★:開催決定)

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。