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2006年8月23日 (水)

【補助線】トヨタの品質問題とプロジェクトマネジメント

WEDGEの9月号に製造業の品質問題の記事が掲載されている。

「電子化偏重・人間軽視」開発現場から崩れる製造業

という記事だ。なかなか、興味深い記事なので、機会があれば目を通して見られるとよいだろう。

この中に、プロジェクトマネジメントの立場からは気になる指摘が書かれている。

トヨタでは、この1年くらい、過去に市場に送り出した商品の品質問題に頭を痛めている。マスコミでも何度も取り上げられているように信じられないようなリコールが多発しているのだ。それを受けて、品質担当の副社長を1名増やして2名にし、さらには担当専務まで設置したが、それでも思ったような効果がでない。なぜか?

これがこの記事の問題提起である。その上で効率とコストを追求するために起こっている「開発プロジェクトでのコミュニケーション不足」があると指摘している。これはトヨタに限らない。僕のコンサルティングをしたプロジェクトでもこの問題はよく直面する。

この種の問題は極めてやっかいである。プロジェクトスコープの中に現れてきにくいからだ。自動化された設計上の問題はない。品質基準も満たしている。そのような中でも、設計者同士が議論をしていると気づく問題も多い。しかし、効率追求・コスト優先の中ではその時間がままならない。

この問題は今に始まったことではない。僕が三菱重工で仕事をしていた頃に、CAEのシステムの自動設計の開発に携わっていたことがある。このときに多くの設計エンジニアにインタビューしたことがあるが、多くの人はこの問題を指摘していた。僕流に言えば次のようなことを言っていたように思う。「設計というのは形式化できない。ナレッジベースを作っても無理。コラボレーションの中で生まれてくる部分が多い」

さて、この問題、トヨタも気づいていなかったわけでも、手をこまねいていたわけではない。記事によると、早くから問題の所在に気がつき、手を打ってきた。2003年くらいから、開発段階における設計、生産、調達の横断的なすりあわせを強化してきたという。タラレバになるか、だから、この程度で済んでいるともいえよう。

この問題、プロジェクトマネジメント的にはどうすればよいのだろうか?

難しいのはコストと時間の制約が極めて大きいために起こっている問題で、コミュニケーションマネジメントをきちんとすればよいといった単純な問題ではない。かといって、いまさら、リードタイムや製品原価を緩くする方向に向かうというのはできない相談だろう。

このような状況で唯一の解になりうるのは、今まで真剣に考えてこなかったチームマネジメントではないかと思う。ただし、自動車メーカは製品アーキテクチャーから組織を作りこんでいるので、チームマネジメントを何とかしようといってもそう簡単にはいかないだろう。そこは悩ましい点だ。

一方で、他の業界ではこの矛盾に満ちた問題を解消できるようなチームマネジメントは比較的容易に実現できるように思うのだが、如何だろうか。

実は、この問題、マスプロダクションだけに限った話ではなく、受注生産製品でも起こっている。その典型がSIプロジェクトである。SIプロジェクトでは、顧客コミュニケーションの悪さは目に見える形で品質の問題として出てくる。しかし、システム内部の不適合はそう簡単には出てこない。そこで、要件定義や設計時のプロセスマネジメントで品質の作りこみを行うのだが、短納期化やエンジニアのスキルの問題などでコミュニケーションの品質が落ちてきて、それが製品の品質問題になっているケースが増えている。

SIの場合であれば、チームマネジメントを丁寧に行うことで、納期と品質のコンフリクトという問題は解消できる。

日本の現場の強さは、コミュニケーションの強さであるし、上流工程のさまざまな問題のバッファになってきた。実際に「現場あわせ」という言葉が象徴するように、上流工程のコミュニケーション不足を現場のコミュニケーションで解消してきた。

それができなくなってきたのだとすれば、ある意味で転機だといえる。製品開発プロセスにプロジェクトマネジメントを導入し、コミュニケーションマネジメント、リスクマネジメントなどをチームマネジメントで統合していくようなマネジメントが求められるようになってきたといえる。

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。