【コンセプチュアル講座コラム】心理的安全性とコンセプチュアルスキル
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あるところから、心理的安全性に関心はありませんかという問合せを頂きました。心理的安全性は最近日本でも注目を浴びるようになった概念で、書籍も何冊か出版され始めました。
中でも、ハーバードビジネススクールのエイミー・エドモンドソン教授の「The Fearless Organization」の翻訳「恐れのない組織」(野津智子訳、英治出版)が出版され、ティール組織のようなブームになるのではないかと感じています。
エドモンドソン教授の言葉を借りれば、心理的安全性は、
「みんなが気兼ねなく意見を述べることができ、自分らしくいられる文化」
です。
よく組織やチームの中で考えていることが言えないという悩みを持つ人がいますが、これは心理的安全性のないためで、恥ずかしい思いをするのではないかとか、仕返しをされるのではないかといった不安がついて回るからです。
◆心理的安全性がない!
森さんの女性蔑視発言から五輪組織委員会の会長問題が注目されていますが、著者は森さんの「女性が多いと会議が長くなる」発言の気持ちの悪さは、女性を蔑視しているよりも、性別に関係なく、誰もが森さんの前では思ったことが言えないと感じさせることです。まさに、組織委員会には心理的安全性がないのでしょう。
実は、コンサルタントとしていろいろなミーティングに入っていると、メンバーの態度として普段している発言ができないという光景を見かけることがよくあります。そこでマネジャーに「メンバーの人は言いたいことがあるんじゃないですか」と指摘すると、「ミーティングでは言いたいことがあれば自由に発言してください」、「個別に話をするようにしている」といった理由で心理的安全性を作っているという反論を受けることがよくあります。これはある意味でパラドックスで、本当に心理的な安全性がある組織であれば、心理的な安全性をいう必要はありません。
これは大切なポイントで、心理的安定性は場の属性ではありません。組織やチームのカルチャーなのです。従って、そのようなカルチャーのない組織で、いくら「自由に発言してください」といっても、逆に心理的安全性を低くするだけなのです。
◆心理的安全性という考え方の起源は、、、
こういう話をすると日本の組織の特徴のように思われるかもしれませんが、実は米国でもそうでした。
実は、考え方自体は古くからあるもので、主に組織変革の研究の中で認識されていました。
例えば、エドガー・シャインたちは1965年に「Organization Change through Group Methods」という著書の中で、
「組織を変革する際に生じる不確実さと不安に対処できるようになるためには、心理的安全性が必要だ」
と指摘しています。そして、後年、組織的安全性も含めて、組織文化の重要性に注目し、組織文化を構築するのはリーダーの役割であると主張しています。
ただ、米国では心理的安全性により、ビジネス上の問題が起こったときに、カルチャーの問題として改善を試み、組織を変革していき、心理的安全性の高い組織は増えてきていきました。しかし、日本では五輪組織委員会の騒動からも分かるようにこれからです。
◆なぜ、心理的安全性が低いのか
その一因として組織を超える文化の問題があります。五輪組織委員会の問題がまさにその典型です。女性云々の発言は別にして、会議で自由に意見を出し、物事を決めていくべきだと考えている人はそんなに多くないでしょう。この騒動で、委員会では周囲の人も笑っていて、女性蔑視の巣窟だというイメージが語られていますが、森さんのいうことは受け入れなくてはならないという前提の元での、賛同行動だったとも考えられます。
ある問題に対して、誰か上位者が形成した組織的な方向性があれば、よほどのことがない限り、それに反対すると出世に響くと思っている人が多いでしょう。森さんによれば、それを男性は踏まえて会議で発言するけど、女性はしないということになるわけです。
余談になりますが、この問題はもう一つの側面があるように思います。それは、女性はキャリアについてハンディーキャップを負わされているのが普通だということです。
以前、どこかの医科大学で、入試の際に男性受験者に下駄をはかせるという事件がありましたが、企業でも珍しいことではありません。もちろん、この大学のようにシステムとしてやっているケースは企業では皆無でしょうが、個々の評価者と話をしているとそれを感じることは珍しくありません。中には、男性を育てたいと公言しているようなマネジャーもいます。
◆心理的安全性はグループレベルでも存在する
ただ、組織文化なので組織全体の問題かというと必ずしもそうではありません。エドモンドソン教授が指摘しているように
「心理的安全性はグループレベルで存在する」
のです。また、日本で、心理的安全性という考え方を知らしめるきっかけになった、フ゜ロノイア・グループ株式会社代表取締役のピョートル・フェリクス・グジバチさんはチームの問題として議論しています。
少なくとも、組織全体というよりも、グループやチームの文化の議論です。ただ、同質性が高い日本で、チームマネジメントもうまくできないケースが多いことを考えると、心理的安全性を高めていくには、どういう単位で考えていくのがよいかは難しいところです。
◆目標設定との関係
心理的安全性の問題で、まだ誤解が多いなと感じる点の一つは、目標設定との関係です。この点について、プロジェクトチームを例に考えてみましょう。
最近、時々、プロジェクトにも心理的安全性が必要かどうかという議論をすることがあります。このような議論を通じて心理的安全はは誤解されていることがあるなと思うのは、心理的安全性のあるプロジェクトは高い目標も納期を守る必要もないチームだで、「勝手気ままな」環境だというものです。「気楽に過ごす」チームだと思われていると言ってもよいかもしれません。
この誤解があると、プロジェクトでは心理的安全性は敵だということになります。しかし、心理的安全性は目標達成の基準を下げるものではなく、むしろ、挑戦的な目標を設定し、その目標に向かって協働するのに有効なものです。いうまでもなく、プロジェクトにとって有益なものです。
つまり、イノベーティブな成果を出したいなら、チームの心理的安全性を高めることが不可欠で、これがチームリーダーの最大の役割です。
◆心理的安全性を高めるためのコンセプチュアルスキル
では、心理的安全性を高めるためにどのようなリーダーシップが必要なのでしょうか。一言でいえば、リーダーシップの高いリーダーということになるのでしょうが、もう少し、掘り下げていくと、その一つの柱はコンセプチュアルスキルだと考えられます。
心理的安全性というのは、誤解を見れば分かるように、ある意味でコンフリクトを内在しているものです。実際に、組織の心理的安全性を目指した施策を取っている組織では、どうしても目標設定を下げることだと考えるメンバーが多いことも事実です。
このようなコンフリクト解消していくには、コンセプチュアル思考の一つの形である、統合的な思考が不可欠です。
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◆心理的安全性について書かれた本
ピョートル・フェリクス・グジバチ「世界最高のチーム グーグル流「最少の人数」で「最大の成果」を生み出す方法」、朝日新聞出版(2018)
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レイ・ダリオ(斎藤 聖美訳)「PRINCIPLES(プリンシプルズ) 人生と仕事の原則」、日本経済新聞出版(2019)
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エイミー・C・エドモンドソン(村瀬俊朗解説、野津智子訳)「恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす」、英治出版(2021)
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