【コンセプチュアル講座コラム】パーパスはミッションを超える
日本でもパーパスという概念が徐々に浸透してきています。日本語でいえば、存在意義です。
パーパスの話をすると、雰囲気は分かるが、どんなメリットがあるのかということをきかれることが多いです。既にパーパスを導入している企業といえば、P&G、テスラ、ソニー、ユニリーバ、ネスレ、ナイキといった企業で、単に収益だけを追い求めているわけではない企業が並びますので、収益性とはあまり関係がないというイメージがあるようです。
2018年にIIRC(国際統合報告委員会)が「purpose beyond profit」というレポートを発表しました。
「purpose beyond profit」
https://integratedreporting.org/resource/purpose-beyond-profit/
https://integratedreporting.org/resource/purpose-beyond-profit/
このレポートでは、
「世界50カ国、CEO41名、CFO177名を含む経営幹部を対象とする調査結果として、79%の経営幹部が、経営戦略における長期の見通しが価値創造にプラスになるとしている。また長期の見通しを有する企業はより収益性が高く、より時価総額が大きい。」
と報告しています。さらに、調査対象の経営幹部の一人の意見として
「利益を成長の推進力とすることはサステナブルではないため、成長の推進力は利益ではないことを認識して、より大きな全体像を描く必要がある」
という意見を紹介しています。これから分かりますように、このレポートのタイトル通り、パーパスは収益を超えたものであるべきだという認識があります。
◆レベッカ・ヘンダーソン教授の指摘
日本でも同じような主張をされている人がいます。目的工学研究所の紺野 登先生です。紺野先生は書籍「利益や売上げばかり考える人は、なぜ失敗してしまうのか」(ダイヤモンド社、2013)の中で、「社会的な目的を実現し、社会、コミュニティ、個人のニーズを満たす」は「大目的」(パーパス)」と述べられています。
一方で、パーパスを導入することが収益性向上に役だっているかというと、疑問を持つ人が多いのも事実です。
この疑問に答える研究が出てきました。ハーバード・ビジネススクールのレベッカ・ヘンダーソン教授です。ヘンダーソン教授は著書「Reimagining Capitalism in a World on Fire」において、
「高生産性企業は、「パーパス」を戦略の中心に位置付け、長期的な価値に最大の投資を行っている。それが組織のさまざまな面で新しい価値を生み出し、結果的に生産性のさらなる向上を実現している」
と指摘しています。ここでいう生産性は経済学の用語で、投入量(労働や原材料などのインプット)に対する産出量(製品やサービスなどのアウトプット)の比率、もしくは従業員1人あたりが上げる利益のことを指しています。要するに、収益率が高いということです。
◆パーパスには2種類ある
この指摘自体は、IIRCのレポートと同様なものですが、ヘンダーソン教授の指摘で興味深いのは、パーパスには2種類あり、うち生産性を高めるのは、ミッションに向かって組織を一つにまとめるパーパスだとしている点です。
ヘンダーソン教授は、パーパスは
(1)従業員の間に仲間意識を育み、家族的な雰囲気を醸成するために用いられるパーパス
(2)従業員1人ひとりが「なぜ」この仕事に取り組むのかという意義を示し、組織のミッションと合致させるために用いられるパーパス
の2種類があるとしています。
このように分類すると、(1)のためにパーパスを導入している組織では、パーパスが収益に与えている影響はほとんどなかったそうです。これに対して、(2)では競合を上回る収益を上げているそうです。
これらの結果から、
「競合の先を行きたいと本当に思うのなら、パーパスを戦略に組み込むこと」
としています。そして、このようになるためには
「常に改善を重ね、従業員に敬意を持って誠実に向き合い、協力してチームを運営し、単に定量的な評価基準ではなく、真の意味での成果に基づいた評価を推進する」
ことが必要だとしています。これは、おそらく、上に上げたパーパス導入の先進企業に共通していると考えられます。
◆終わりに
つまり、パーパスは分かりやすいという理由で、表面的で定量的なものであってはならないのです。そうではなく、パーパスに対して、本質的な成果は何かを見極め、その実現度に基づいて評価しなくてはならないのです。これが、
「purpose beyond profit」(パーパスは収益を超える)
の意味するところだといえます。
これはプロジェクトにおいても同じです。つまり、プロジェクトの評価は初期に設定された目標という形式的なものではなく、真の意味での成果に基づいて評価しなくてはなりませんが、これについては別の記事で、書きたいと思います。
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