【コンセプチュアル講座探訪】現場力を高める~「本質に注目したコンセプチュアルな問題解決」講座
かつて日本の企業には「現場は宝の山である」という考え方がありました。ものづくりの原点は製造現場ある、営業の原点はお客様との接点にあるなど、現場を重視し、問題が起こったときには、まず何よりもその現場に立ち戻り、考えようとしました。
その背景には、現場を離れて机上でいくら理論や理屈をこね回しても、決して問題解決にはならないという信念がありました。絶えず現場に足を運ぶことによって、問題解決の糸口、生産性や品質の向上、新規受注などにつながる思わぬヒントを見つけ出すことができると考えていたのです。
これらを支えていたのは、いわゆる「現場力」です。現場力とは、
現場が自発的にやり方を考え、自分たちの製品やサービスに付加価値を与える力
のことです。欧米の現場にはマニュアルワーカーしかいませんが、日本の現場にはピーター・ドラッカーのいうナレッジ・ワーカーがいたのです。
◆現場力が下がってきた
しかしこの、20年くらいの間に、日本企業の現場力はどんどん低下してきています。この問題に最初に気がついて、解決策を提言しようとしたのは、ローランド・ベルガー会長の遠藤功さんでした。遠藤さんは2004年にこの問題を指摘し、解決策を示した書籍
遠藤功「現場力を鍛える 「強い現場」をつくる7つの条件」、東洋経済新報社(2004)
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4492531718/opc-22/ref=nosim
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を出版され、現場力という言葉を定着させるとともに、世の中の現場力への関心を高められました。その後も熱心に活動されていましすが、残念ながら現場力はどんどん下がっています。
遠藤さんのいう現場力は一言でいえば、「問題解決力」です。現場力が落ちているとは、問題解決力が落ちているということに他なりません。
なぜ、現場力が下がってきたのでしょうか。
◆現場力が下がる理由(1)~経営の問題
大きな背景としては、戦略経営が行われるようになり、経営が強くなったという現実があります。経営力が強くなったのであればおそらくこうなっていなかったと思いますが、経営力はそんなに変わらないにも拘わらず、経営システムが出来上がっていきました。
中でも、企業統治のために強化されてきた各種のガバナンスの影響が大きいと考えられます。ガバナンスが整備されることにより、従来のように現場が自由に発想し、行動することが難しくなっています。経営力が低い組織がガバナンスを強化すると、ほぼ例外なく現場力が落ちて行っています。
経営力が低いと経営システムを整備したとき、現場との溝ができます。結果として、ガバナンスの名のもとに、現場は現場を知らない経営が作ったルールに従わざるを得なくなってしまうからです。
余談になりますが、一部の海外企業は日本の現場力に注目し、そこから学びとろうとしています。例えばGoogleやAmazonです。また、日本発の考え方である「アジャイル」も広く受け入れられています。こういった海外の動きを見ていると、皮肉なもんだと感じざるを得ません。
◆現場力が下がる理由(2)~現場の問題
もう一つの大きな理由は、現場のマネジメントの問題です。
これまで現場は改善を意識したナレッジワークをしていました。つまり、数%でいいのでコスト削減や品質アップを実現することを自発的に実践してきました。しかし、今、現場に求められているのは、改善ではありません。例えば数十%のコスト削減や生産性向上をしていく必要があります。いわば破壊です
破壊は改善の発想ではできません。破壊を引き起こすプロセスイノベーションが不可欠です。つまり、現場にもイノベーションが求められているのです。
このため、製造ラインや加工機を短縮化、小型化、デジタル化などのさまざまな工夫が必要ですし、これからは人工知能によるイノベーションも求められるでしょう。現に、日本でも進んでいる製造業はこのようなプロセスイノベーションを実現し始めています。
◆デジタル化やAIの導入によって目指す方向性
さて、では現場力を向上させるにはどうすればよいのでしょうか。この問題を考える前に、大きな方向性の議論をしておきたいと思います。それは、デジタル化やAIの導入によって目指すところです。
欧米や中国は完全自動化を目指しています。これは、経営が付加価値を考え、現場労働者にマニュアルワークさせていることを考えれば当たり前なことです。では、日本はどこを目指すべきなのでしょうか。これによって現場力の行く末も決まってきます。
これについては、欧米や中国とは違う道を行くべきだと考えています。もちろん、マニュアルワークできる部分はITやAIを活用すればよいのですが、新しい付加価値を継続的に考えていく部分は現場力が競争力になると考えられるからです。
今、日本の企業が提供できる製品の付加価値はだんだん減少してきていますが、この一因は経営が付加価値を定義しようとしているところにあるように見えます。さらにいえばこれも現場力が弱っている一因になっています。
このような前提の上で、現場力を如何に復興するかという議論したいと思います。
◆現場力を高めるためには付加価値がポイントになる
遠藤さんは「現場力を鍛える」で成功の方程式として以下の7つの条件を上げられています。
第1の条件:企業哲学としての現場力
第2の条件:脱・事なかれ主義
第3の条件:主権在現
第4の条件:自律的サイクルを埋め込む
第5の条件:見える仕組み
第6の条件:オルガナイズ・スモール
第7の条件:継続する力
第2の条件:脱・事なかれ主義
第3の条件:主権在現
第4の条件:自律的サイクルを埋め込む
第5の条件:見える仕組み
第6の条件:オルガナイズ・スモール
第7の条件:継続する力
この20年間はインターネットで現場は大きく変わりました。そして、これから20年はAIで現場が変わると思われます。しかし、この7つの条件のレベルで強さの源泉が変わるということはないと思われます。
問題はプロセスイノベーションを実現していくためには、どういう現場力が必要かという点に集約されます。ここでポイントになるのは付加価値です。
現場力の高い現場は生産性の本質をよく理解しています。現場の指標には生産性と効率性があり、改善の対象になるのは効率性ですが、イノベーションは付加価値を高めることにより、生産性を高めるために行うべきものだということです。
詳しくはこちらをお読みください。
【PMスタイル考】第132話:生産性と効率性
https://mat.lekumo.biz/pmstyle/2018/03/post-2dba.html
https://mat.lekumo.biz/pmstyle/2018/03/post-2dba.html
◆破壊を引き起こすプロセスイノベーションの方向性
これを考えるとプロセスイノベーションの方向性が見えてきます。いくら効率性を求めてプロセスイノベーションに取り組んでも生産性は上がりません。生産性を上げるためには、付加価値の高い製品を創ることが不可欠です。
付加価値を生み出すのは経営の企画の仕事だと考えるのが欧米・中国流ですが、日本では現場力の活用としての可能性があります。つまり、付加価値の高い製品やサービスを提供できるようにプロセスを革新していくことができるのが現場力です。
もちろん、これを実現しようとすれば、経営と現場の間の溝を埋めていくことが不可欠ですが、ポイントはさまざまな問題解決の方向性にあると考えられます。
ちょっと脱線しますが、現場力を職人のスキルのような力だと考えている人が少なくありませんが、そうではありません。日本の現場力はチームの力です。チームの力である限り、どこのスタッフかは関係がありません。現場の問題を、現場スタッフだけではなく、経営スタッフも入ったチームで考えて行けばよいわけです。
◆経営と現場の溝の正体
ところが、現実には溝があり、うまく行きません。コミュニケーションを取ろうとしてもうまく行きません。この溝の正体は何でしょうか?
ここに「コンセプチュアルスキル」の低さがあると思われます。経営は経営、現場は現場で違う専門性を持っていますので、お互いの言っていることが理解できないのは仕方のないことですが、これが溝になっています。
これは具体的にしか物事をみることができないから理解できないと思われます。このため、相手に自分たちを理解してもらおうとし、できるだけ容易に、具体的に説明しようとするのが普通です。しかし、これは間違いです。
では、どうすれば伝えることができるか。
自分の言いたいことを抽象化して話をすれば、言いたいことを相手に伝えるのはそんなに難しいことではありません。相手もそれを自分たちの専門との比喩で理解することが可能だからです。もちろん、これで専門的なことを理解してもらえるわけではありませんが、「雰囲気(概要)」が分かれば問題解決をするには十分です。
◆問題解決の例
こういう例を考えてみましょう。AIスピーカーの新製品開発のプロジェクトが実施されています。言語理解の新しい技術を適用して画期的な機能を実現し、ライバル製品に差をつけることを目的にしたプロジェクトですが、これは事業部で策定しているすべての製品でトップ3のシェアを取るという戦略に対応するプロジェクトになっています。
しかし、新技術を巡るトラブルで、スケジュールが遅れて、製品のリリースを延ばすか、新技術をあきらめ従来の技術で、新機能も従来機能の改善レベルにとどめるという2つのいずれかを選ばざるを得ない状況になってきました。
事業部スタッフは技術的なことはよく分からないが、事業としての目標達成には当初計画の新機能を実現することは不可欠だと主張しています。これに対して、プロジェクトは新技術の適用のどこに問題があり、それを解決する方法を易しく説明して、事業部スタッフを説得しようとしています。
両者の溝は、今陥っている技術的問題を解決する難しさが理解できないことです。
そこでプロジェクトは技術的な説明をあきらめ、技術適用の現状と将来的な見通しの数値的な提示を試みました。残課題の率:20%、残課題の実現可能性:10%といった感じです。
これを提示された事業部スタッフは自分の経験業務の中で似たような数字の業務を思い浮かべ、その経験をベースにして判断をしました。その上で、プロジェクトと協議を重ね、結局、プロジェクトは一旦中断し(プログラム化し)、より高いレベルの技術適用の研究プロジェクトを起こし、進めていくことにしました。
このように「雰囲気」を掴んで、問題解決ができるわけです。
◆本質を共有する
特に「雰囲気」として重要なのは本質です。本質を共有できれば、チームとして考えることができます。チームとして考えられれば、詳細なとことは専門家が考え、それを本質に統合していけば問題解決ができます。
上の例でいえば、問題の本質は技術の内容そものではなく、成功の可能性です。従って、プロジェクトの状況を数値で共有することによって、本質を共有したことになります。
今、現場で起こっている問題、これから発生するだろう問題は、現場だけで解決できるものではありません。経営と現場の協働が不可欠な問題ばかりです。生産性の向上などはその典型といえるでしょう。
このような問題解決のアプローチをすることにより、溝を埋めるコミュニケーションが可能になるだけではなく、現場と経営の共感が生まれ、問題解決策が生まれれば、現場は現場の具体策に、経営は経営の具体策に落として実行し、現場の問題を解決していくことができます。
ところが、現実にはこれがなかなかできないわけですが、その理由は、コンセプチュアルスキルが低いことに尽きるのではないかと思われます。
◆セミナーの目的と構成
セミナー「本質に注目したコンセプチュアルな問題解決」では、本質を考え、問題発見の中では
・目的を実現するために本質的な問題を見つける
として活用し、問題解決の中では
・目的を実現するために本質に注目した創造的な問題解決の方法を見つける
として活用する方法を学びます。
その上で、これらの問題の取り扱いをスムーズに進めていくためのポイントについて整理します。
最後に、現場の問題に遭遇したときに、コンセプチュアルな問題解決を進めていくエクスサイズを行います。
━【開催概要】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆本質に注目したコンセプチュアルな問題解決 ◆(7PDU's)
日時:2021年 06月 16日(水) 13:30-17:00、
06月 17日(木) 13:30-17:00
形態:ZOOMによるオンライン開催です。
講師:好川哲人(エム・アンド・ティ コンサルティング代表)
詳細・お申込 http://pmstyle.biz/smn/conceptual_solve.htm
主催 プロジェクトマネジメントオフィス、PMAJ共催
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【カリキュラム】
1.なぜ、コンセプチュアルであるべきか
2.コンセプチュアルな問題解決の流れ
3.本質的問題の発見
【エクスサイズ】問題の本質を見極める
4.本質に注目した創造的問題解決の方法
【エクスサイズ】本質に注目した問題解決
5.問題解決をコンセプチュアルにするポイント
【エクスサイズ】各ポイントのエクスサイズ
6.うまく行かないときの対応
7.コンセプチュアルな問題解決エクスサイズ
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