【イノベーション戦略ノート:089】ハイプ・サイクルによりイノベーションのタイミングを考える
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◆ハイプ・サイクルとは
ハイプ・サイクル(hype cycle)は、2008年にガートナー社のアナリストであるジャッキー・フェンとマーク・ラスキノが著書「Mastering the Hype Cycle: How to Adopt the Right Innovation at the Right Time」で提唱した特定の技術の成熟度、採用度、社会への適用度を示すサイクルである。目的は、誇大な宣伝(ハイプ)に踊らされることのない新技術採用を行うことだ。
残念ながらこの書籍は日本語に翻訳されていないので、日本ではあまり知られていないが、社会への適用の方法やタイミングで失敗しているイノベーションは多く、その意味で重要な概念である。
◆ハイプ・サイクルの5つのステップ
ハイプ・サイクルは黎明期、「過度な期待」のピーク期、幻滅期、啓蒙活動期、生産性の安定期の5つのステップからなっている。
まず、最初は黎明期で、「技術のトリガー」や「ブレークスルー」から始まる。新製品発表やイベントが行われ、技術に対する関心が高まる。
このサイクルが面白いのは、次に流行期として「過度な期待」のピーク期を置いていることだ。流行期は過剰期待の時期で、世間の注目が大きくなり、過度の期待や非現実的な期待が生じることがある。そのため、成功事例が出ることもあるが、多くは失敗に終わる。
三番目に幻滅期を迎える。技術は過度な期待に応えられず急速に関心が失われ、「幻滅のくぼ地」に入る。メディアはその技術を取り上げなくなる。
そして、幻滅期を経て、啓蒙活動期に変わる。メディアでその技術が取り上げられなくなった一方、いくつかの事業は継続し、その利点と適用方法を理解するようになる。新しいテクノロジが企業にもたらすメリットについての実例が増え、具体化していくとともに理解が広がっていく。ベンダーは、第二世代、第三世代の製品を提供するようになる。
やがて、成功事例も増え、生産性の安定期を迎える。安定期では、広く宣伝され受け入れられるようになり、主流の採用が始まり、ベンダーの実行能力を評価する基準がより明確に定義される。市場に対する技術の広範な適用性と関連性により、明確な見返りが得られるようになる。
◆ハイプ・サイクルの例
以上がハイプ・サイクルだが、簡単にいえば、技術に対する注目が、最初、急速に立ち上がるが、その後、減少し、再び復活し、どこかのレベルで安定するというサイクルで、社会への適用度を示す指標になるというものだ。
たとえば、モバイル、ソーシャル、クラウドのビジネス活用を考えてみるとどうだろう。これらは、これから重要になるという理解が広がったものの、成功事例以上に、取り組みにおける困難さや想像との違いに直面することが多くなってきているため、多くのキーワードが「過度な期待」のピーク期を越え、幻滅期に入っているのではないかと思われる。
たとえば、この1~2年、イノベーションの中で特に注目されている人工知能はどうだろうか。今、非常に重要だという理解が広まりつつあるが、成功事例はほどんどない。おそらく、黎明期から「過度な期待」のピーク期に移っているようなところだろう。あるいは、自動運転の自動車はどうだろう。これもおそらく、黎明期から流行期に移りつつあるところだろう。
◆イノベーションのタイミングを管理する
このように考えてみると、自社の戦略を考慮し、どういうテーマで、どのタイミングでその分野に着手するかを決めるのにハイプ・サイクルは非常に役立つことが分かると思う。
ただし、技術ライフサイクルのように技術の進展をベースにしているわけではなく、その点が問題だという指摘もあることは認識しておく必要がある。このような指摘は、技術と社会の適合の関係を背景にするものであり、まだまだ、不明確な点である。
なお、ガートナーはハイプ・サイクルで2,000を超えるテクノロジを112の分野にグループ化し、市場のハイプ (市場での経験や実証基盤のない過度な宣伝)、成熟度、ビジネス・メリット、今後の方向性に関する分析情報を、企業の戦略/プランニング担当者に提供している。興味があれば、確認してみてほしい。
【参考資料】
Jackie Fenn、Mark Raskino「Mastering the Hype Cycle: How to Choose the Right Innovation at the Right Time」、Harvard Business School Pr(2008)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/1422121100/opc-22/ref=nosim
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