【イノベーション戦略ノート:013】20%ドクトリン
バックナンバー https://mat.lekumo.biz/ppf/cat9922971/
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆3Mの15%ルール
ライアン・テイトというアワードのライターが「20%ドクトリン」と名付けた方法がある。勘のいい人はお気づきだと思うが、この命名は今ではすっかりと有名になった、勤務時間の20%は自由に使ってもよいというグーグルの20%に由来するものだ。イノベーティブな企業であり続けるための方策である。
ライアン・テイトの書いた本で紹介されているように、今や、大きな組織で20%ルールはそんなに奇異なものではなくなってきているし、スタートアップに20%ルールを使っている企業さえある。
グーグルが20%ルールをシリコンバレーに持ち込んだのだが、その元祖はポストイットで有名な3Mという会社である。3Mのポストイットと並ぶ代表商品の一つにスコッチマスキングテープがある。
この商品は副社長が中止を指示した開発を、一人のエンジニアが命令に抵抗して行ったものだ。このため、この商品は密造テープと呼ばれたそうだ。
◆15%ルールとその本質
そして、この事件が契機になり、15%の時間を自由に使えるという15%ルールが生まれるきっかけにな り、15%ルールはしばらく、ブートレッギング(密造酒作り)と呼ばれていたらしい。いずれがにしても、この制度(正確には文化)は3Mがイノベーティブ な会社であり続けている一因になっていることは間違いない。
以前、3Mの開発マネジャーとお話する機会があって、15%ルールの話になった。そこで言われていたのは、15%の時間を自由に使えばイノベーションが生まれるといった単純なものではないということだった。時間を与えるだけだと遊ばしているようなものだということらしい。
3Mはもちろん、グーグルにしても大きな成果を上げている。ライアン・テイトの20%ドクトリンというのは、20%ルールをうまく進めるにはどうすればよいかを事例に基づきまとめたものである。
◆20%ドクトリン
具体的には
(1)創造性を発揮する自由を与える
(2)情熱を理解する
(3)製品は悪い方がよい
(4)再利用する
(5)すばやいイテレーションを繰り返す
(6)学んだ教訓を伝える
(7)部外者を取り込む
といった項目が並ぶ。それぞれの項目の解説は本を読んでいただくとして、コメントを加えておきいたい。
◆すべては情熱から始まる
(1)はルールである。
20% ルールは広い意味でいえば権限移譲であるが、権限移譲でポイントになるのは権限を委譲すること事態ではなく、権限を委譲した後、どういう対応をするか、た とえば、むやみに口出しをしないとか、心配そうにしないといったことであるが、(2)はある意味でこれに似ている。その最大のポイントは情熱を持っている ことを認め、情熱の源泉を理解することだ。
すべては情熱から始まる。
◆リーンスタートアップ
(3)~ (5)はリーンスタートアップの原理である。20%ルールは十分なリソースがないことを前提にしている。十分なリソースがないときに、何が重要なといえ ば、多くの人を巻き込むことである。そのためには、完璧な製品など必要がない。悪い製品であればあるほど、多くの人がアドバイスをくれる。リーンスタート アップはこれを逆手にとって、ユーザからアドバイスを受けようとする。20%ルールの場合にはこれは難しいかもしれないが、同僚からアドバイスを受けるこ とができる。
アドバイスとして期待できるのが、ソフトウエアはもちろん、さまざまな部品の再利用である。リソースがないのだから、自前でどうにかしようとは考えないほうがよい。使えるものは何でも使う。これが重要だ。
そして、それによって素早いリリースをする。
◆人を巻き込む
もう一つ大切なのが、部外者を取り込むことである。20%ルールで行うプロジェクトはプロジェクト自体は社内でも承認されていないことが多い。そこに外部の人は巻き込めないだろうと考えてしまうかもしれない。
こ れは思い込みである。ライアン・テイトの紹介している例でいえば、ハックデイという方法がある。これは、グーグルの20%ルールのイメージではなく、お祭 りだ。ヤフーが実施して有名になったが、たとえば24時間のうちに好きなものを作って、プレゼンを行う。そこから生まれてきたものを経営に活かすという活 動だ。
ハックデイなら比較的容易に外部者を巻き込むことができる。実際にヤフーのハックデイでは、外部の人からの参加を実現している。
通常の20%ルールプロジェクトでも、SNSなどの機能をうまく使えば、実現できるのではないかと思う。要は情熱だ。
【参考文献】ライアン・テイト(田口未和訳)「20%ドクトリン サイドプロジェクトで革新的ビジネスを生みだす法」、阪急コミュニケーションズ (2013)
コメント