【イノベーション戦略ノート:005】イノベーションを分類する(1)
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イノベーションという言葉に関しては、イメージが独り歩きしているような感じになってきた。いろいろなところにイノベーションという言葉がみられるようになってきた。戦略ノートで議論を進めていくにあたって、少し概念の整理をしておきたい。
整理に当たっては
(1)イノベーションの目的
(2)イノベーションのリソース範囲
(3)イノベーションの推進力
(4)イノベーションのスパン
(5)イノベーションのタイプ
の5つの軸について考える。
◆イノベーションのスパン
イノベーションというと、短期集中型の活動のイメージが強いが、実際には長期間かけて行うイノベーションもある。長期のイノベーションでよく引き合いに出される事例にコカコーラのイノベーションがある。
コ カコーラは長期間、高い成長率を維持していたが、1990年代の終盤から成長に陰りが見え、収益が落ち込んできた。もっとも深刻な問題は、世界的なコーラ の需要の落ち込みだった。飲料業界全体で、水分をとれればいいというものから、商品の新規性に重点が置かれ、また、ニーズが多様化してきた。
こ のような中でコカコーラは、コーラを中心にした飲料メーカから、総合飲料メーカになることを目指した。そして、1999年から2004年にかけて技術とビ ジネスモデルの両方でイノベーションの展開を始めると同時に、イノベーションセンターを作り、イノベーション文化の普及と、イノベーションプロセスの開発 にも取り組んた。
そして、経営の分散化を行い、「シンク・ローカル、アクト・ローカル」を徹底した。その結果として今のコカコーラがあ る。日本では、コーラはもちろんだが、水、お茶など、ほとんどのジャンルでベスト3に入る商品を展開している。まさに、総合飲料メーカに生まれ変わったわ けだ。
このようにイノベーションには長期にわたって成長することを目的とするイノベーションもある。
◆目的からみた区分
イノベーションというと、競争に勝つということが目的だと思うことが多いが、実際には最近イノベーションのキャッチフレームになっている「生き残り」という考え方があるように、競争だけが目的だとは限らない。イノベーションは
・勝つことが目的のイノベーション
・負けないことが目的のイノベーション
の2つがあることをよく理解しておく必要がある。製品イノベーションでいえば、前者はシェアを増やしたり、売り上げを増やすことを目的にした製品を投入することである。後者は競合が投入したイノベーティブな製品にシェアをとられないために、自身もイノベーションしなくてはならないようなケースだ。
この区別を明確にしてイノベーションに取り組む必要がある。技術やリソースの位置づけが違ってくるし、製品として必要な要件も変わってくる。基本的には競合対策だが、あわよくば競合のシェアを奪うなどと考えていると、ステークホルダーに混乱が起こり、失敗する確率が高くなる。
◆イノベーションのリソース範囲による区分
次に、大きな区分はオープンイノベーションとクローズなイノベーションである。オープンイノベーションという概念は本来、イノベーションのリソースを自社に限らず、企業の範囲を超えて幅広く求めようとするものだった。
たとえば、新しい製品を作る場合、従来は自社の保有する技術やアイデアでできるもの、あるいは、多少の技術開発を伴う範囲でイノベーションを行っていた。ところが、このような考え方だと市場や顧客の要求の変化の激しい環境では対応できなくなってきた。そこで、どのような製品と作るかという目標は市場のニーズに基づいて設定し、提携などで他社の持つ技術やアイデアを使って目標となる製品を開発するという考え方をするようになってきた。これがオープンイノベーションである。
これに加えて最近では、「エコシステム」のイノベーションもオープンイノベーションだと認識されることが多い。エコシステムは、複数の企業が製品開発や事業活動などでパートナーシップを組み、相互の技術や資本を生かしながら、共存共栄していく仕組みのことである。実際には、メーカ、サプライヤー、代理店、販売店などから構成されることが多い。たとえば、マイクロソフトという会社はゲーム機は作ってもPCは作らなかった。ゆえに、Surfaceを発売したことは波紋や憶測を投げかけた。自社のOSを中心にして、デベロッパー、ベンダー、サードパーティー、ユーザーが有機的に結びつき、共に成長していくエコシステムの収益モデルが提唱され、実際に成果を上げてきた。
エコシステムではイノベーションを起こすには、エコシステム全体でイノベーションを起こさなくてはならない。最近、ついにマイクロソフトがWindows XPのフェードアウトを表明して話題になったが、XPからVistaへのイノベーションはエコシステムで失敗している。ベンダーやサードバーティーがついていくことができず、結果として、Vistaに切り替えが行われなかった。
◆イノベーションの推進力
イノベーションは個人に依存した活動だと思われることが多い。第1回に述べたように日本の経営者には、イノベーションは特に経営資源を割かず、個人がやってくれればよいと考えている人が少なくない。
確かにそういう一面もある。個人が何か閃き、それを頑張って組織にアピールしながら製品やサービスとして世に出していくようなイノベーションも決して少なくない。
しかし、本来イノベーションは戦略実現のために行われるものである。この20年、低成長が続いているがそれでも企業の経営計画には毎年、成長が盛り込まれている。企業が成長する手段は、
・M&A
・商材の増加(製品数を増やす)
・イノベーション
の3つしかない。分野にもよるが、市場が成熟してくると、ラインナップとして似たような商品を増やしたり、サービス要員を増やしても売り上げの増加を期待できない。したがって、M&Aか、イノベーションが現実的な方法となってくる。
このような戦略に基づくイノベーションは個人に任せておいても進展は期待できない。もう一つの日本的な展開は、ミドルが自らやってくれることである。これは、また機会を見て議論したいが、ミドルのパワーが推進力の一つになることは間違いない。
もう一つは、組織による推進である。戦略実行であるので、組織としてイノベーションのプロセスを確立し、失敗することも含めて組織として管理をして進めていくことが必要になるケースが多い。
(4)のスパン以降は次回。
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