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2012年9月 4日 (火)

【戦略ノート293】顧客価値を実現するプロジェクトマネジメント(1)~方向性

Value◆顧客価値を実現するのが難しい理由

顧客価値を実現するのは、難しい。理由は2つある。一つは顧客自身が自分の求めている価値を必ずしも明確にできていないこと。もう一つは、顧客においては価値は明確になっていたとしても、それをプロジェクトの価値にうまく変換できないこと。

もう少し、詳しく説明しておこう。

顧客価値のベースになるのは、顧客のニーズ、あるいは要求である。そこで、価値を実現するために、顧客の要求を明確にし、その要求を実現していくのが一般的なアプローチである。プロジェクトの成果物が顧客価値になるのは、要求が正しく把握できたという前提での話しであり、現実にはで難しい。そのため、プロジェクトの生産物は、顧客にとって期待通りの価値を持たないことが少なくない。

もう一つの問題は、メトリクスの問題である。プロジェクトマネジメントにはアーンドバリューという考え方があるように、基本的にはプロジェクトの進捗は生産量からマッピングされるメトリクスを使って測ることが多い。アジャイル開発などで、機能の実現を進捗としてとっても同じことである。

つまり、これらのメトリクスは、顧客価値とプロジェクトで生産された価値がうまくマッピングされていることを前提としているわけだが、現実はそんなに単純ではない。顧客価値にはプライオリティがあるので、生産の価値はプライオリティを反映したものである必要がある。

顧客価値を実現するには、この2つの問題を乗り越えていかなくてはならない。


◆要求の問題をどうクリアするか

最初の問題については、要求分析の方法を考え直す必要がある。要求が明確でない理由は、主に技術的な問題であるケースが多い。簡単にいえば、何か自分たちの問題解決ができそうだけど、何ができるのかよく分からないというケースだ。スティーブ・ジョブズは

私たちには、多くの顧客がいる。それなりの顧客調査も行っている。だが、最終的には理解しづらい点があって、フォーカス・グループを当てにして製品をデザインするのはかなり難しい。ほどんどの場合、実物を見せない限り、人というのは自分が何をしてほしいのか、分からないものだ。

といっている。フォーカス・グループを当てにしてデザインできないという指摘は、ITプロジェクトで要求分析が難しいことを端的に表現しているといえる。また、リーン・スタートアップで知られるエリック・リースは、自ら起業したIMVUの経験の中で、

早期についてくれた顧客もそれなりにいたので、彼らにたびたび意見を求めた。でも、ユーザの意見は断固として取り入れなかった。製品や全体的なビジョンに対する情報源の一つという位置づけてユーザの意見を聞いていたからだ。それどころか、ユーザの希望を満足するより、ユーザで実験をしてみることの方が多かった

とし、これをリーンスタートアップの考え方の中核に据えている。

これらのコンシューマ向けの製品やシステムの開発はつまるところ、開発の責任を自らが負うことになるので、ITプロジェクトとは違うと考えることもできるだろう。それは、顧客に責任の転嫁ができることだ。つまり、この仕様はお客様自身の要求に基づくものですといえることだ。

ただ、こういう対応をしていたので、ITベンダーは市場を小さくしたともいえるだろう。この点をどう考えるかが一つのポイントである。システムを作ることに責任を持つのであれば、別のアプローチが必要だ。それは、デザイン思考やアジャイルのように、顧客と一体化して顧客の要求を開発しながら、前に進んでいく方法である。


◆メトリクスの問題

もう一つの問題は、メトリクスの問題だ。

EVは、プロジェクトスポンサーの立場で、進捗管理をするのに非常に適しているが、スケジュール効率は成果物の生産量を管理する以外の使い方もできる。顧客価値の生産量をスケジュール効率として管理できるようなメトリクスを定義すればよいのだ。

プロジェクトである限り、コストを無視した進行というのは考えにくい。この意味で、顧客価値とコストの二元管理というのは魅力的である。

ただし、アーンドバリューは基本的には線形である。しかし、現実の顧客価値を考えると非線形なケースが多い。たとえば、ある機能だけだと1の価値しかないが、別の1の価値を持つ機能が追加されることによって3の価値が生まれるといったケースだ。

これをどのようなレベルの問題でとらえるかは結構難しい問題である。あくまでも線形でとらえようとすると、組み合わせの価値を定義しなくてはならず、かなり複雑になる。メトリクスとしては非線形なメトリクスを考えるとよいが、今度はモデリングが複雑になるというジレンマに悩まされることになる。

今後、顧客価値を実現するプロジェクトマネジメントの方法をこの2つの視点から考えてみたい。

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。