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2009年5月19日 (火)

新型インフルエンザに学ぶリスクマネジメント

◆「世間さま」というモラル感とリスクマネジメント

岡本薫さんという方が、

岡本 薫『世間さまが許さない!―「日本的モラリズム」対「自由と民主主義」』、筑摩書房(2009)
https://mat.lekumo.biz/books/2009/05/post-9761.html

の中で、日本人にはルールに勝る「世間さま」というモラリズムがあるという指摘をされ、その事例の一つとして、リスクマネジメントの欠如について書かれている。

いわく、日本人には「縁起でもないことを言わない」というモラル感があり、このモラル感がリスクを考えずに行動するという行動規範を生み出しているというのだ。

しかし、内部統制の強化、プロジェクトマネジメントの導入などにより、このようなモラル感は薄れ、リスクを考えながら行動することこそ望ましいというモラル感が生まれてきた。

と思いたいところだが、どうも、そうことは簡単ではない。リスクマネジメントの導入をしている企業を50社くらいは知っていると思うが、共通的にいえることは、事前のリスク回避を目指していることだ。実はこれがくせ者だ。

◆新型インフルエンザはなぜ、拡大したか

話は変わるが、著者の住む関西では新型インフルエンザが猛威をふるっている。水際対策として、空港で莫大なコストと時間をかけて、なんとか海外からのウィルスの侵入を防ごうとした。しかし、網の目を漏れるように、関西地区で流行してしまった。

ここまでは仕方ないと思う。問題はこのあとだ。新型インフルエンザの感染者が出た高校などの責任者がインタビューで、季節型のインフルエンザだと思ったと言っている。この感覚もどうかと思わないでもないが、これも「世間さま」のことを考えるとわからないでもない。もっと問題なのは、水際対策を行う上で、それをくぐり抜けて発症者が出ていたらどうするかという検討が十分になされていないように見えることだ。

実際に高校によっては100人規模で症状の出ている生徒がいるというのだから、対策をしていたら、ここまでの拡大は防げていたのではないだろうか(よくわからないけど)。

うがった見方をすれば、水際対策で国内感染が防げると思っていた節がある。

これと同じ構図がプロジェクトリスクマネジメントでも見受けられる。事前に問題(リスク)を取り除いたので大丈夫だろうという話が多すぎる。

◆リスク対策より、リスク戦略が重要

リスク戦略という言葉がある。研修などでは聞かれたことがあると思うが、回避する、緩和する、受容する、転嫁するというあれだ。リスク戦略というのはリスクに対応する方針であり、ある意味でリスク対応策自体よりもっと重要なものである。にも関わらず、軽く扱い過ぎている機雷がある。またぞろ、戦略より、現場・現実というわけだ。

たとえば、あるリスク対策を打つのに、それを回避策として打つのか、緩和策として打つのかで、話は全然変わってくる。回避策であればそのリスクは施策以降「心配する必要がない」ということになる。ところが、緩和策であればもし起こったらどうすればよいかを考えておく必要がある。

ややこしいのは、戦略というのは主観が混ざるものだ。極論すれば、あるリスク対策を回避策と考えるか、緩和策と考えるかはリスクオーナーなり、プロジェクトマネジャーが決めることである。

たとえば、作業者のスキル的な問題が発生するというリスクを見込んだときに、問題のありそうな作業者にサポートをつけるという策を考えたとする。これを回避策だと捉える人もいれば、緩和策だと捉える人もいる。要はリスク感度の問題なのだ。

ところが、多くの人はリスク戦略をあまり真剣に考えずに、策だけ考えて、それで何とかなるだろうと思ってしまう。インフルエンザの水際対策はまさにそうではないかと思う。回避策だと考えていたということでもないようだし、かといって、緩和策として考え、もし、すり抜けたらどうしようとあらかじめ決めていたわけでもない。

◆なぜ、戦略的アプローチをしないのか

このような発想をする背景には、結局のところ、以前と変わらぬ、リスクへの認識があるように思う。以前は「リスクなど縁起でもない」ことと考えるなというモラルだったわけだが、そこからは少し進歩して、「みんなで考えた策に不備があるなどと考えてはならない」というのがあるように思う。プロジェクトが始まる前に事業部長まで入って一緒に検討したのだから、その策をすり抜けてリスクが起こっては「ならない」のだ。

プロジェクトが大きな失敗をしている陰には、必ずこのような不適切なリスク戦略があるように思える。リスクを回避したにも関わらず、リスクは残っていて、それが大暴れするというケースだ。問題が深刻化し、動き出したときにはもう遅い。

リスクマネジメントには大きな柱がある。一つは事前の計画。回避できるものは回避し、回避できないものは、対応を計画する。もうひとつある。それは、実際にリスクが発生したときのアクション。ここでモラルがアクションバイアスになっていることが多い。

結局のところ、モラルの重視からルールの重視に切り替え、現実を正視しない限り、この問題は解決しないのだろうと思う。

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。