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2007年11月

2007年11月12日 (月)

【補助線】PMOリーダーに求められるリーダーシップ

◆PMOリーダーの定義

PMstyleでは、数年前から「PMOリーダー」という言葉を使っている。ご承知のように、昨年からはPMOリーダー養成講座という連続講座を始めた。PMOブームと相俟って、多くの方に受講して頂いているが、以前として、PMOは本当にリーダーシップを持つ必要があるのかという質問をいまだに受ける。

プロジェクトマネジメントの導入、実施、成熟という一連のミッションに対してリーダーシップを発揮するのがPMOリーダー

というのが答えなのだが、なかなか、理解していただけない。

◆PMOリーダーのリーダーシップ

プロジェクトマネジャー、あるいは組織とPMOの関係からすると、PMOが決めたようにプロジェクトマネジメントを行うことを命令することはもちろん、PMOがプロジェクトの中に入って率先してプロジェクトマネジメントをする、あるいはするように仕向けて行くことは、PMOとしての本務の範囲を逸脱していると考えている人が多いからだ。

実は、このようなリーダーシップをPMOに求めているわけではない。PMOリーダーが発揮すべきリーダーシップはリーダーシップである。サーバントリーダーシップはリーダーとしてフォロワーに奉仕することを基本とするリーダーシップである。ただし、サーバントになるわけではない。

◆PMOの仕事はプロジェクトに奉仕すること?!

仕事がら、PMOの人との付き合いは多いが、PMOがプロジェクトに奉仕すべきだという人は多い(支援という言い方をする人が多い)。しかし、奉仕といった場合に、微妙な、しかし、決定的な温度差がある。プロジェクトマネジャーやプロジェクトが困っていればとりあえず支援しなくてはならないと思っているPMOもいれば、もう少し、支援の目的を明確にして支援しようとしているPMOもいる。

トラブルプロジェクトのサポートという同じ活動を行う2つのPMOを考えてみよう。ひとつのPMOは、プロジェクトでトラブルが発生したときに、経緯はともかくサポートをし、そのプロジェクトを予定通りに終わらせることに全力を尽くして支援する。

これに対して、自分たちが定着させようとしているプロジェクトマネジメントの進め方をしているプロジェクトに対してのみ、トラブルの場合にサポートするPMOがある。こちらはプロジェクトに奉仕するのではなく、「プロジェクトマネジメントに奉仕」しているのだ。

◆PMOの影響力

みなさんのPMOはどちらのタイプだろうか?PMOにリーダーシップはいらないと思っているPMOは前者であることが多い。この場合、如何に尽くせるかというのが問題になる。ちょっと、言葉が過ぎるかもしれないが、このタイプのPMOはなくなってもその組織のプロジェクトマネジメントへの影響は小さい。

ところが後者のPMOの場合、仮にそのPMOがなくなれば、組織のプロジェクトマネジメントは崩壊してしまう可能性すらある。なぜか?

仮に、PMOのミッションが導入、実施、成熟だとしたとすれば、後者のPMOは自ら(あるいは組織としての)ミッションを達成するために支援をしている。これに対して前者のPMOはお助けPMOである。

あえていえば、前者のPMOは、組織としてプロジェクトをきちんと終わらせるというミッションがあって動いているといえなくもないが、このミッションはどちらかというとプロジェクトスポンサーのミッションである。

◆PMOリーダーのリーダーシップはサーバント型リーダーシップ

話を元に戻そう。PMOリーダーは

プロジェクトマネジメントの導入、実施、成熟というミッションに達成のために、プロジェクトやプロジェクトマネジャーの支援を行う

人である。そして、このような奉仕活動はリーダーシップに他ならないことをよく認識しておく必要がある。

リーダーシップには「俺についてこい」型だけではなく、このようにリーダーが考えるミッションを達成するためにフォロワーに奉仕するというタイプのリーダーシップもある。一般的にはこのようなリーダーシップはサーバントリーダーシップと呼ばれる。

サーバントリーダーシップの詳細は、PM養成マガジンの「戦略ノート」に2002年に書いているので、こちらを参考にして頂きたい。

リーダーシップ考(4)~サーバントリーダーシップ
http://pmstyle.jp/honpo/note/note25.htm

2007年11月11日 (日)

【補助線】逆ピラミッドのプロジェクトマネジメント

◆資生堂のビューティーコンサルタント

僕がいつも泊っている汐留のホテルは、資生堂から近いこともあって、資生堂のビューティコンサルタント(BC)が研修などので本社を訪れる際の宿泊先になっているようだ。このホテルではニューヨークスタイルの朝食のサービスがあるのだが、同じような雰囲気の服装の女性 数十名と遭遇すると圧倒されてしまう(笑)。

資生堂の中では、BCは最前線で顧客と接する。単に化粧品を売るだけではなく、文字通り、「美」についてのコンサルティングをする存在である。資生堂の興味深いのは、池田守男前社長の時代に、逆ピラミッド型組織というのを社長が自ら提唱し、その実現に力を尽くしていることだ。

◆資生堂の逆ピラミッドは店頭起点

資生堂の逆ピラミッドは

お客様>店頭>BC>営業担当>支社長>本社/研究所/工場>社長

であり、「店頭起点」という、企業としての活動はすべて店頭に集約されるというコンセプトを実現すべく、組織上、上の立場の人が下に対して献身的に奉仕し、彼らの活動をスムーズに進めるという考え方である。

池田社長がこのような感がけかを持ち出したのは、経営改革が必要だったためで、店頭起点を実現することによって経営を変えようとしたわけだ。

このような考え方はそんなに特別なものではない。軍隊のように平時は極めてピラミッド型の組織ですら、いざ、戦争となると如何に現場が作戦を実行できるかという視点から組織の機能が組み替えられ、作戦を実行するために上位組織が前線に尽くしていくのが普通である。

ビジネスの組織も改革や革新にような非常時には現場を中心にした動きが求められるわけで、資生堂のやり方はその意味で合理的だと言える。

◆逆ピラミッドの2つのポイント

このやり方には2つのポイントがある。まず、一つ目はビジョン(あるいは組織のミッション)が明確になっていることである。これがない限り、絶対にこんなやり方はできない。このやり方はある意味で現場にすべてを託すやり方であり、上位組織が自分たちはどこを目指したいということが明確になっている必要がある。

ここがなければ、多くのIT企業にみられるように単なる現場の暴走になってしまう。

次に、そのミッションの達成をすべて現場にゆだねてしまうことだ。ただし、一般的にいえば、上位組織が持っている権限をすべて現場に委譲することはできないし、無理にやるのは統制上の問題もある。何を委譲しているかというと、ミッションを達成するための方法である。その方法を現場に委譲した上で彼らに尽くし、ミッション達成を実現していく。この中には、当然、現場でもできないこともあるが、そのような意志決定もあくまでも現場の動きに合わせて行っていく。

口でいうほどやさしいことではないが、このようなやり方をすれば、ミッションの達成のためには何をすべきかを一番よく知っている現場に主導権を委ねながらも、組織のリーダーとしてリーダーシップを発揮しながら進めていくことができる。これが逆ピラミッド型組織の基本的な発想である。

◆逆ピラミッドのプロジェクトマネジメント

Photo_2この逆ピラミッド組織こそ、組織のプロジェクトマネジメントに必要な組織ではないだろうか?

プロジェクトマネジャーはプロジェクトミッションをプロジェクト目標に落とし込み、メンバーにその達成をゆだねる。その際には、メンバーに奉仕する。もちろん、メンバーは顧客に対して奉仕する。プロジェクトスポンサーはプロジェクトミッションをプロジェクトマネジャーにきちんと伝えた上で、プロジェクトマネジャーに奉仕する。シニアマネジャーはプロジェクトスポンサーに奉仕する。エグゼクティブはミッションを決めるとともに、シニアマネジャーに奉仕する。このような逆ピラミッドの関係があって初めて、プロジェクトによって成果をあげることができるのでないだろうか?

今、なぜ、うまくいかないかということを考えてみると、ピラミッド構造になっているために、顧客とメンバーの間の成果に対する合意が、組織の中で減退してしまうのだ。

つまり、ちょっと頑張ればできるようなことに対して、組織は収益性だとかリスクだとかいろいろな理屈をつけて、梯子を外して言うからできない。そんなことはしていないという人も多いと思うので、もっとはっきり言っておくが不作為という梯子のはずし方をしている。

月並みなことばで言えば、プロジェクトマネジャーが前線で苦労しているのに、上位組織は内向きで対応すべきかどうかの意思決定をしている。組織の論理を優先すれば、プロジェクトが始ってから出てくる顧客の要求など対応するいわれのないものばかりだそう。

これがすべてだ。これをひっくり返すための逆ピラミッドは有効な方法である。プロジェクト起点の逆ピラミッドのプロジェクトマネジメントを組立てよう!

逆ピラミッド型組織

◆資生堂のビューティーコンサルタント

僕がいつも泊っている汐留のホテルは、資生堂から近いこともあって、資生堂のビューティコンサルタント(BC)が研修などので本社を訪れる際の宿泊先になっているようだ。このホテルではニューヨークスタイルの朝食のサービスがあるのだが、同じような雰囲気の服装の女性 数十名と遭遇すると圧倒されてしまう(笑)。

資生堂の中では、BCは最前線で顧客と接する。単に化粧品を売るだけではなく、文字通り、「美」についてのコンサルティングをする存在である。資生堂の興味深いのは、池田守男前社長の時代に、逆ピラミッド型組織というのを社長が自ら提唱し、その実現に力を尽くしていることだ。

◆資生堂の逆ピラミッドは店頭起点

資生堂の逆ピラミッドは

お客様>店頭>BC>営業担当>支社長>本社/研究所/工場>社長

であり、「店頭起点」という、企業としての活動はすべて店頭に集約されるというコンセプトを実現すべく、組織上、上の立場の人が下に対して献身的に奉仕し、彼らの活動をスムーズに進めるという考え方である。

池田社長がこのような感がけかを持ち出したのは、経営改革が必要だったためで、店頭起点を実現することによって経営を変えようとしたわけだ。

このような考え方はそんなに特別なものではない。軍隊のように平時は極めてピラミッド型の組織ですら、いざ、戦争となると如何に現場が作戦を実行できるかという視点から組織の機能が組み替えられ、作戦を実行するために上位組織が前線に尽くしていくのが普通である。

ビジネスの組織も改革や革新にような非常時には現場を中心にした動きが求められるわけで、資生堂のやり方はその意味で合理的だと言える。

◆逆ピラミッドの2つのポイント

このやり方には2つのポイントがある。まず、一つ目はビジョン(あるいは組織のミッション)が明確になっていることである。これがない限り、絶対にこんなやり方はできない。このやり方はある意味で現場にすべてを託すやり方であり、上位組織が自分たちはどこを目指したいということが明確になっている必要がある。

ここがなければ、多くのIT企業にみられるように単なる現場の暴走になってしまう。

次に、そのミッションの達成をすべて現場にゆだねてしまうことだ。ただし、一般的にいえば、上位組織が持っている権限をすべて現場に委譲することはできないし、無理にやるのは統制上の問題もある。何を委譲しているかというと、ミッションを達成するための方法である。その方法を現場に委譲した上で彼らに尽くし、ミッション達成を実現していく。この中には、当然、現場でもできないこともあるが、そのような意志決定もあくまでも現場の動きに合わせて行っていく。

口でいうほどやさしいことではないが、このようなやり方をすれば、ミッションの達成のためには何をすべきかを一番よく知っている現場に主導権を委ねながらも、組織のリーダーとしてリーダーシップを発揮しながら進めていくことができる。これが逆ピラミッド型組織の基本的な発想である。

◆逆ピラミッドのプロジェクトマネジメント

この逆ピラミッド組織こそ、組織のプロジェクトマネジメントに必要な組織ではないだろうか?

プロジェクトマネジャーはプロジェクトミッションをプロジェクト目標に落とし込み、メンバーにその達成をゆだねる。その際には、メンバーに奉仕する。もちろん、メンバーは顧客に対して奉仕する。プロジェクトスポンサーはプロジェクトミッションをプロジェクトマネジャーにきちんと伝えた上で、プロジェクトマネジャーに奉仕する。シニアマネジャーはプロジェクトスポンサーに奉仕する。エグゼクティブはミッションを決めるとともに、シニアマネジャーに奉仕する。このような逆ピラミッドの関係があって初めて、プロジェクトによって成果をあげることができるのでないだろうか?

今、なぜ、うまくいかないかということを考えてみると、ピラミッド構造になっているために、顧客とメンバーの間の成果に対する合意が、組織の中で減退してしまうのだ。

つまり、ちょっと頑張ればできるようなことに対して、組織は収益性だとかリスクだとかいろいろな理屈をつけて、梯子を外して言うからできない。そんなことはしていないという人も多いと思うので、もっとはっきり言っておくが不作為という梯子のはずし方をしている。

月並みなことばで言えば、プロジェクトマネジャーが前線で苦労しているのに、上位組織は内向きで対応すべきかどうかの意思決定をしている。組織の論理を優先すれば、プロジェクトが始ってから出てくる顧客の要求など対応するいわれのないものばかりだそう。

これがすべてだ。これをひっくり返すための逆ピラミッドは有効な方法である。プロジェクト起点の逆ピラミッドのプロジェクトマネジメントを組立てよう!

デジカメのドミナントデザインを築いた「QV-10」開発プロジェクトのスポンサーシップ

◆デジカメのドミナントデザインを築いたカシオ「QV-10」

現在ではデジカメというと、

 ・デジタルデータでの記憶
 ・ファインダーをビューアを兼ねた液晶画面

の2点において、従来のカメラとは異なる商品としてドミナントデザイン(市場の支配を達成したデザイン)が確立されている。このドミナントデザインを作ったのが世界中で大ヒットしたカシオのデジカメ「QV-10」である。

◆役員への直談判~しかし大失敗に終わる

カシオのデジカメ事業の中心にいたのはエンジニア末高弘之である。末高は好奇心とものづくり魂に富んだエンジニアで、カシオに入社後、カシオの70年代の代表商品の一つであるデジタル時計の開発で活躍をし、次のターゲットに電子カメラ(デジタルカメラ)を選び、役員である樫尾和雄に直談判し、開発を認められる。

こうして日本で最初のコンシューマ向け電子カメラの開発プロジェクトとして「Kプロジェクト」が立ち上がる。Kプロジェクトはまったくの素人の集まりだったが、徐々に学習していき、何とか、初代の電子カメラ「VS-101」の商品化にこぎつける。ところが、VS-101のマスコミ向けのレクチャーでは、なんと実機が動かなかった。マスコミ向けレクチャーを担当した樫尾和雄は、末高に猶予を与え、結局10か月後にやっと発売にこぎつけた。

にも関わらず、「VS-101」は全く売れず、大失敗に終わる。「VS-101」を開発したKプロジェクトは解散し、解散に際しては全メンバーが在庫処分のために、販売店での販売を手伝うという屈辱的な経験もした。

◆スカンクワークから、カメラ付き液晶テレビへ

Kプロジェクト解散の後は、メンバーはいろいろな部門に異動した。末高は研究部門に異動する。ここで上司だった松岡毅は、デジタルカメラ向けの研究開発を認めるわけにはいかないと言いながらも、スカンクワーク(組織から正式に承認されていない仕事)として、要素技術の開発活動を勧める。松岡の勧めにより、末高と一緒に残った富田成明は少しずつ、将来のデジタルカメラの開発に必要な技術的な課題を解決していく。

いよいよ、本格的な試作が可能になったあたりで、スカンクワークとして予算のないままでやる限界が来た。そこで、新しいデジタルカメラの開発を提案するが、「VS-101」の失敗は依然としてなまなましく、却下される。

そこに、「VS-101」の時代からデジタルカメラに興味を持っていた商品企画担当である中山仁が参画してくる。中山はデジタルカメラの開発ではなく、主力商品になることが期待されていた小型の液晶テレビの差別化オプションとしてテレビに映すものを撮影できるデジタルカメラという位置づけで、デジタルカメラの開発を提案する。商品はカメラ付き液晶テレビである。

このときの社長は「VS-101」で煮え湯を飲んだ樫尾和雄だった。樫尾は中山の思惑に気付きながら、開発を認める。

◆決断と成功

しばらくその形での開発が続くが、カメラ付き液晶テレビには価格見合いの決定的な用途が見つからない。そこで、末高と中山はカメラ単体として開発することに腹をくくる。社内にまだ、「VS-101」の失敗のトラウマがある中で、新しいデジタルカメラ「QV-10」の開発を提案する。

社長の樫尾は半ば呆れつつも、結局、社会的なインパクトがある商品の開発として開発を認める。今度はうまくものになるが、社内のトラウマはまだ残り、商品として期待されず、生産台数も少なく、また、プロモーション費用ももらえない。意を決した末高は米国のショーに乗り込んでPRをする。米国での評価は高く、マスコミに取り上げらた。これが日本にも飛び火し、日本でも口コミでその存在が知れ渡ることになる。

こうして、「QV-10」は成功し、初年度20万台を売り上げる。デジカメのドミナントデザインが誕生した瞬間であった。

後日、末高や中山はアワードで社長表彰を受ける。この表彰を誰よりも喜んだのは、社長の樫尾和雄自身だったかもしれない。

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2007年11月 9日 (金)

PMサプリ99:リーダーとはフォロワーに認められた人

リーダーとは潜在的にフォロワーからリーダーシップを帰属される可能性のある人物である(金井壽宏・神戸大学教授)

【効用】
・PM体質改善
  リーダーシップ発揮問題解決能力向上
・PM力向上
  ピープルマネジメント力向上、チームをまとめる力の向上、リスク対応力向上
・トラブル緩和
  モチベーション向上、チームの士気向上

【成分】

◆リーダーはフォロワーが認めるもの
◆リーダーシップは持つものではなく、生まれるもの。
◆引っ張り型では認められなくなってきた
◆メンバーの活躍の場をいかに作るか
◆プロジェクトコンシェルジュ

このサプリを服用したい方はこちら

2007年11月 8日 (木)

誰が誰のために存在するのか?

 メンバーはプロマネのために存在する
 プロマネはメンバーのために存在する

あなたはどちらがしっくりきますか?

もうひとつ、プロジェクトマネジャーとプロジェクトスポンサー(プロジェクトオーナー)。

 プロマネははプロジェクトスポンサーのために存在する
 プロジェクトスポンサーはプロマネのために存在する

これはどちらがしっくりきますか?

コメントをお待ちしています。

2007年11月 5日 (月)

【補助線】PMBOKではプロジェクトXはできない

仮説「プロジェクトXにはプロジェクトマネジメントはないが、スポンサーシップがあった」

メルマガで少し、触れたが、日経BP社の谷島さんにプライベートセミナーの講演をして頂いた後でお話をしているときにこんな話になった。PM業界では、「プロジェクトXになりたくなければ、プロジェクトマネジメントをやれ」という話をみんながしていたが、谷島さんの話によると、この話はプロシードの西野さんが言い出して、谷島さんがこれを記事で書いたので、あっという間に広まってしまったのだという。

 プロジェクトXになりたくなければプロジェクトマネジメントをやれ

という指摘は極めて正しいと思う。

ただし、プロジェクトXというのは本当に悪いのか?言い出した人たちは、プロジェクトXに取り上げられたプロジェクトなど、苦境の連続で、最後に何とか成功したのは、偶然にすぎないという思いがあるのだと思う。

実は、メルマガをはじめて2~3年目くらいに10回くらいメルマガの読者とのコミュニティセミナーを行ったが、このときに、好川はこの指摘をしていた。

プロジェクトXになりたくなければプロジェクトマネジメントをやれというが、PMBOKプロジェクトマネジメントをやるとプロジェクトXになれないというべきではないか

と何回か言っている。その頃は、何となくそのように感じていて、コミュニティセミナーの気楽さからそのような発言をしていたのだが、今、改めて考えてみると、その時に思っていたものが何だったかよくわかる。

プロジェクトXを支える一貫したマネジメントはプロジェクトスポンサーシップである。もちろん、スポンサーシップとは付随的なものである。スポンサーシップだけでプロジェクトが進められるわけではない。また、PMBOKにはPMBOKのプロセスを前提にしたスポンサーシップがある。

しかし、プロジェクトXのスポンサーシップは明らかにそのようなスポンサーシップとは異質なものである。PMBOKの世界のスポンサーシップはいかにすれば失敗プロジェクトをなくすことができるかという考え方で組み立てられている。失敗プロジェクトをなくすというのは、「如何に失敗しないプロジェクト目標を掲げるか」という意味である。プロジェクト要求(Project requirement)からすればそれは、100%の要求実現にならなくてもかまわないという考え方が背景にある。ビジネスプロジェクトというのはそういうものだ。

これに対して、プロジェクトXのスポンサーシップは、如何にプロジェクト要求を100%実現するかという考え方で組み立てられている。プロジェクトXで取り上げらている多くのプロジェクトは、PMBOKのような卓越したマネジメント手法ではなく、卓越したスポンサーシップでプロジェクト要求を完全実現しているのだ。

そして、これはPMBOK的なプロジェクトマネジメントでは正しい考えとはいえない。上に述べたようにあくまでも失敗しないような目標やスコープの設定をすることこそが正しいのだ。

ゆえに、PMBOKではプロジェクトXは実現できない。

【補助線】カップヌードルの開発で「ラーメンの父」安藤百福の果した役割

◆82億食の奇跡

今年のお正月早々に即席ラーメンの生みの親である日清食品創業者会長である安藤百福氏が96歳で人生の幕を閉じたというニュースが流れた。安藤氏は1948年に日清食品の前身、中交総社を設立。即席ラーメン第一号である「チキンラーメン」を58年に発売、爆発的なヒットをさせた。その後、即席ラーメンは市場が厳しくなり、チキンラーメンの地位も安泰ではなくなる。併せて、チキンラーメンを主力商品としていた日清食品の経営も苦しくなる。安藤は海外展開を試みるが、器の問題で躓き、失敗する。

この状況で、安藤が次に目論んだのは、「丼」のない諸外国でのラーメンの普及だった。プロジェクトX「82億食の奇跡」はここから始まるカップヌードルの開発ストーリーを描いたものである。

◆容器と麺の開発

当時社長だった安藤氏は、ラーメンではなく食品化学の知識を活かした仕事をしたいと言って入社し、社内で問題児扱いをされていた大野一夫研究員(32歳)と新入社員だった佐々木雅弘氏(23歳)に白羽の矢を立てた。安藤に課題を与えられた大野は、容器の問題から着手する。さまざまな容器を考案するが、いずれも安藤の厳しい意見の前にボツ。ある日、出社すると安藤からのヒントが机に置いてあった。大野はそのヒントで、「ラーメンを食べるための器」という既成概念から脱却でき、安藤の満足するものを作りあげる。
麺でも同じような試行錯誤を繰り返す。麺ではいかに中まで火が通るように揚げるかというのが最大の課題になった。ここでも、安藤の「天ぷらはどうやって揚げるか知っているか」という一言がヒントになり、なんとか、クリアする。

◆海老と高級感

次は具だ。大野は大学の時に学んだフリーズドライの知識を活用し、この課題をクリアしたかに見えたが、またしても安藤から「高級感を出すためにどうしても赤い海老」がほしいという難題を吹っ掛けられた。この問題に絡んだのがプライシングの問題。安藤はどうしても100円という価格に固執した(チキンラーメンは30円)。また、どうしても「赤い」海老が見つからず、諦めかけ、海老を入れずに値段を下げることを考えていた大野に対して、「世界中にいる海老の種類の中で、君はどれだけ試したのか。買いかぶりすぎていた」と挑発し、大野に粘り強い挑戦をさせる。大野は四六時中海老のことを考えていた大野は偶然入ったバーで注文したシュリンプカクテルに使われていたインド洋でとれるプーラハンという海老に遭遇する。そして、見事に赤い海老を具にすることに成功し、高級感を実現した。

◆販売での苦戦と銀座歩行者天国キャンペーン

営業の結果が好ましくないことでみんながあきらめ感が漂ってきたときに、安藤は営業の秋山是久に「忙しい現代人に時間を売る」というコンセプトに立ち返り、その対価として100円をぶらすなと激励する。

販路にも試行錯誤したが、あるとき、大野の提案で賭けにでる。銀座の歩行者天国でカップヌードルを売って、コンセプトを広めようとする。このときに、安藤は陣頭指揮をとって、自ら販売員になり、熱く思いを語る。銀座キャンペーンも徐々に効果を奏し、ついには長蛇の列ができるまでになる。そして、カップヌードルは一挙に全国区に知られる商品となる。賭けに勝ったのだ。

◆大成功

そして、2000年。カップヌードルは全世界で年間82億食を売るフードになった。阪神大震災のときに、大活躍したことも記憶に新しいし、また、スペースシャトルでの食事として実験されたことも記憶に新しい。忙しい現代人に時間を売る商品としてコンセプトされたが、このような社会的に意味のある用途がどんどん開発されていくことは、まさにラーメン王の安藤百福の真骨頂だと言えよう。

【安藤百福の5つのスポンサーシップ】

このカップヌードル開発プロジェクトの中で、プロジェクトスポンサーである安藤百福氏が果たした役割の中から重要なものを5つあげてみる。

(1)覚悟をもったメンバーアサイン
まず、人選である。初期のメンバーは問題児の社員と新入社員である。当時、チキンラーメンが頭打ちになり、会社の業績自体が停滞している中で、この2人に託した。特に大野氏に託したのは、人を見る目を背景にした、適材適所だといえる。
ただし、適材適所だけではこのようなメンバーアサインはできない。適材適所だけを考えてみたところで、「人材がいない」で終わるのが関の山だ。人材のいない中で、伸びシロを考えて、人を選ぶ。そして、彼らに任せて、直接の手しをしない。このような覚悟を決めて、初めて適材適所が可能になる。

(2)タイミングのよいアドバイス
安藤氏は大野氏や営業の秋山氏に実によいタイミングで、彼らの思考を加速するすばらしいアイディアを与えている。プロジェクトXの物語からははっきりしないが、これは、手の平で遊ばせているというのではなく、おそらく安藤氏も彼らと一緒に考えることによって、その答えを導き出したのだと思う。そのために、安藤氏はコミュニケーションを欠かさなかった。これが一つのポイントだろう。
また、安藤氏は「タイミングよく」アドバイをすることによって、次の世代を担う大野や佐々木、秋山という人材を育てていることも見逃せない。

(3)コンセプトをぶらさない
中間成果物に対して厳しい目を持ち続けていたことは、どうしても譲れないものがあったのだ。それが100円という価格で表現される高級感。安藤氏が狙っていたのは、この価格戦略によるラーメンの既成概念の打破。日清はその後、「ら王」で同じ戦略をとったことがあるのだが、その原点がここにあった。

(4)成功を大きくする
それまでは決して腰を上げることはなく、大野や秋山に任せていた安藤氏は銀座キャンペーンで自らが陣頭指揮を執る。この背景には自分の思いを顧客に伝えたいという思いがあると思うが、プロジェクトの成功を加速するために必要だと思ったのではないだろうか?プロジェクトスポンサーが表にでるときは、トラブルのときではない。成功を確実なものに、かつ大きくしたいときだ。その原則を貫いた行動だと言える。

(5)卓越した戦略眼
カップヌードルの一番の成功は、82億食という驚異の数字もさることながら、阪神大震災の時の非常食での活躍や、宇宙食への可能性が開けたことではないかと思う。58年に開発されたということなので、来年で50年である。一般に食品の商品寿命は長いが、用途が社会環境の変化に合わせてどんどん変化していくことは究極の商品である。その背景に、安藤氏の戦略眼があることは間違いないだろう。
そのような戦略眼があるので、信念を貫くことができる。これからの50年使われる商品だからコンセプトは譲らない。戦略上の目的を決してぶらさない。ここにプロジェクトスポンサーとしての真骨頂があるといえる。

【参考資料】
プロジェクトX 挑戦者たち 第4期 Vol.2 魔法のラーメン 82億食の奇跡 ― カップめん・どん底からの逆襲劇(2002)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B000068WJL/opc-22/ref=nosim

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2007年11月 2日 (金)

PMサプリ98:サルマネをしても勝てない

アメリカ人のサルマネをしても、アメリカ人に勝てるわけがない(早稲田大学客員教授 榊原英資)

【効用】
・PM体質改善
  顧客説得力アップ、創造力アップ、リーダーシップ発揮
・PM力向上
  プロ意識の向上、チームをまとめる力の向上
・トラブル緩和
  モチベーション向上、弱気克服

【成分】

◆日本的なよさをグローバル環境で行かす
◆プロジェクトマネジメントにおける「サルマネ」
◆手法に併せて組織を変える愚
◆組織の中に手法を組み込む「プロジェクトX」の世界

このサプリを服用したい方はこちら

PMstyle 2024年4月~7月Zoom公開セミナー(★:開催決定)

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。