2007年11月30日 (金)

イノベーションをマネジメントする

4270002719 ジェームズ・アンドリュー、ハロルド・サーキン(重竹尚基、遠藤真美、小池仁訳)「BCG流 成長へのイノベーション戦略」、ランダムハウス講談社(2007)

お薦め度:★★★★

この本が指摘し、かつ、答えを準備している問題は非常に重要な部分である。

日本ではイノベーションはマネジメントするものではなく、言い方は悪いが、「アイディア」と「運」だと思っている人が多い。この議論でよく引き合いに出されるのが、20年前にウォークマンを作ったソニーはなぜ、iPodを作り得なかったかという話だ。実は、本書にもこの話は触れられているので、興味ある人は読んでみてほしい。

日本ではと書いたが、この傾向は欧米でも同じような傾向があった。あまりにも、説明できない(不確実な)ことが多く、体系的にマネジメントできるものではないと考えられてきた。

この傾向が変わる契機になったのが「クリステンセンのイノベーションのジレンマ」ではないかと思う。このあたりから、日本でも著名なものでも、クリステンセンの「破壊的イノベーション」、ムーアの「キャズム」、キム氏&モボルニュは「ブルーオーシャン」など、ロジャースが提示したイノベーションモデルでは説明できないような現象を説明するモデルが多くでてきた。

そのような中で、この本はボスコンの体系的なイノベーションマネジメントの手法を紹介するものである。投資マネジメントをキャッシュカーブというフレームワークで合理的に行っていくことによって、不確実性に対処し、最適なゴールを見つけ出し、到達することができるというものだ。

商品開発を担当している人にはぜひ読んでほしいと思うが、この本は単にイノベーションにとどまらず、「マネジメントの価値」を考えさせられる本である。その意味で、すべてのマネジャーにお薦めしたい1冊である。

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2007年11月28日 (水)

文章を書いて考える

4798111228 ジェラルド・M・ワインバーグ(伊豆原弓訳)「ワインバーグの文章読本」、翔泳社(2007)

お薦め度:★★★★1/2

(原題:Weinberg on Writing: The Fieldstone Method)

メルマガを発行し始めて6年になる。かなりの頻度で書いているし、最近はブログも書いている。最初のうちは、移動のときとかに予め何を書こうかというあらすじを考えておき、机に座って一気にかくという方法を取っていた。ところが2~3年前から明らかにスタイルが変わってきた。予め考えておくのはテーマくらいで、書きながら考えるようになってきた。そして、最近、感じるのが、書くことによって考えることができるようになった。

普段、あまり文章を書きなれていない人はこの微妙な感覚の違いはぴんとこないかもしれないが、書くことによって考えるというのは、文章をあれこれいじることで頭の整理ができたり、発想ができたりすることができるようになってきた。

さて、前置きが長くなったが、ワインバーグに憧れる人は多いと思う。ソフトウエアサイエンスでは、マネジメントのトム・ピーターズのような存在である。ワインバーグの何がすごいかと改めて考えてみると、やはり、文章である。非常に深い思考を短い文章の中に凝縮する文章術は本当にすごいと思う。若いころからずっとあんな文章が書けないかと思っている。

そのワインバーグの文章術をまとめた本がでた。これだ。とりあえず、レッスンがあるので、やってみた。書いていることをきちんと理解できていると、びっくりするくらい、ワーンバーグみたいな文章が書ける。

ぜひ、読んで、試してみてほしい。

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2007年11月26日 (月)

そのときエンジニアは何をすべきか

4627973217 Alastair S Gunn/P Aarne Vesilind(藤本 温、松尾 秀樹訳)「そのとき、エンジニアは何をするべきなのか - 物語で読む技術者の倫理と社会的責任」、森北出版(2007)

お薦め度:★★★★1/2

(原題:The Engineer's Responsibility to Society)

アメリカとニュージーランドで流通している技術倫理の教科書の邦訳。建築士によるマンションの安全偽装問題以来、技術倫理への関心が高まってきているが、学習するのにあまり適切な本がない。この本も、教科書として作られているので、基本は先生が教材として使うものだが、
・基幹部分が小説になっている
・その中で、ポイントになるところが、囲みコラムで分かりやすく書いてある
・議論すべきポイントを課題としてかなり具体的に提示してある
の3つの特徴があるので、独学のテキストとしても十分に使える内容である。

=====

エンジニアとして順調にキャリアをのばすクリス。クライアントからの贈り物、東南アジアでのリゾート開発、海外で仕事をするうえでの職業文化の違い、ヘッドハンティングなど、さまざまな経験を積んでいた。充実した日々を送り、確実に業績を上げていたかにみえたある日、構造的な欠陥の疑いを、クリスがその完成前に指摘していたホテルが、重大な問題を引き起こすことに…。岐路に立たされたエンジニア、そのとき彼は何を優先するのか。

=====

日本の企業に勤務する人が読むのであれば、エンジニアが遭遇する問題というよりも、プロジェクトマネジャー(特に、プレイングマネジャー、リーダー)がよく遭遇する問題が多い。その意味で、エンジニアはもちろんだが、プロジェクトリーダーの人、あるいはすべてのプロフェッショナルに読んでほしいと思う。

プロジェクトマネジャーに関していえば、PMIでもプロフェッショナルの倫理規定を定めている。この内容を見て、なぜ、そのような規定があるのか理解できない人は、この本を読んでみることをお勧めする。

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2007年11月21日 (水)

人間力を鍛える本

4569694446 岡本呻也「 「超」人間力」、PHP(2007)

お薦め度:★★★★

人間力を認識レベル、行動レベル、自己とのかかわり、他者とのかかわりの4つに分け、それぞれについて、エピソードを示すことによって、人間力を学ぶことをコンセプトにした一冊。

エピソードは、ビジネス界のエピソードから、歴史上の著名人、フィクションの主人公など幅広く、できるだけよいエピソードを取り上げる工夫がされている。

エピソードから学ぶべきことの解説も簡潔で分かりやすく、気楽に読みながら、人間力強化に役立つのは非常によい。一冊買っておいて、繰り返し、眺めるとよいだろう。

取り上げているエピソードは以下のようなものだ。

落語「岸流島」戦わずして勝つ方法を考えよ
自動車トップセールスマンの「心をつかむワザ」
新規開業医院が狙う看板の意外な効果
四面楚歌 史上最大の心理戦
相手の懐に飛び込むアイデア営業術/ナポレオンの演説術
営業現場で起きている会社崩壊
意表をつく一言で不安を鎮めた大山巌
松下幸之助の腰の低さ
キスカ撤退作戦で5000人以上の命を救った木村少将
シャーロック・ホームズの観察眼
美人を口説く凄腕スカウトの目線
田中角栄  知より情の人心掌握術
戦闘機パイロットの「クロスチェック」
曹操「梅を望んで渇きを止む」
『米百俵』常在戦場

4408395501同じ著者のこの本もよい。同じようなテーストだが、こちらはインタビューなどを中心に人間力の抽出をしている。その意味で、「超」人間力の原点はこの本にあるのかもしれない。

岡本呻也「 「人間力」のプロになる―誰もここまで教えてくれなかった仕事ができる人の基本メソッド」、実業之日本社(2004)

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2007年11月20日 (火)

プロジェクトマネジャーの人間術

4872686721 Steven W. Flannes、Ginger Levin(PMI東京支部/吉沢 正文監訳)「プロジェクト・マネジャーの人間術」、アイテック(2007)

2005年に米国で発刊された「Essentail People Skills for Project Management」の翻訳。PMI東京支部の有志が翻訳している。

プロジェクトマネジャーの役割を
 ・リーダー
 ・マネジャー
 ・ファシリテータ
 ・メンター
の4つとし、これらの役割を果たすのに必要なピープルスキル(人間術と訳している)を
 ・対人コミュニケーション
 ・動機付け
 ・コンフリクトマネジメント
 ・ストレスマネジメント
 ・トラブル
の視点から、ツールとして解説している。また、最後にキャリアとそれに伴う人間観という視点でどういう心構えでキャリア形成していくべきかを論じている。
本書の特徴は
(1)プロジェクトマネジメントプロセスに人間術を対応させている
(2)キャリアステージを強く意識した手法を提案している
の2つだろう。書かれている内容は、簡潔ではあるが、独自性が強く、非常に本質をついているように思える。その意味で、ハウツーものというよりも、教科書としてプロジェクトマネジャーが内省のインプットとして使うとか、あるいは、組織でプロジェクトマネジャーの教育やワークショップの教材として使うといった使い方が適しているように思える。

また、明確に書かれていないが、この本に書かれていることはプロジェクトマネジメントのスキルがあることを前提にしているように見える。その点でも、初心者がハウツーものとして読む本ではないように思う。典型的な対象読者を一つ上げると、「PMPを取って、実践しようとしてもなかなかうまくいかなくて困っている人」だ。日本ではPMPホルダーのマジョリティだと言われてるが、米国でこのような本が出版されていることは興味深い。

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2007年11月19日 (月)

プロジェクトは大義と共感

4828413510 小池百合子「小池式コンセプト・ノート―プロジェクトは「大義と共感」で決まる!」、ビジネス社(2007)

お薦め度:★★★★

小池百合子議員がクールビスプロジェクトをどのように進めていったかを、コンセプトづくり、「大義と共感」をキーワードに振り返っている。副題になっているとおり、「大義と共感」が問題だったと振り返り、小泉郵政解散の際の刺客騒動についても、同じ発想が成功をもたらしたと振り返る。

クールビスについては、膨大なプロモーション費用が問題になったが、急速に広まっていったのは事実である。仕事がら、顧客企業にいくことは多いが、最初の年は行く先々でネクタイをしたり外したりしていたが、2年目になると、ほとんどネクタイをすることはなくなった。商品のプロモーションと違い、コストをかければ成果に直結するという類の問題ではないように思うので、本当にコンセプトの勝利だといえるだろう。

そのコンセプトを作った舞台裏をかなり詳細に書いているので、興味深いし、また、参考にもなる。

ステークホルダが多く、複雑なプロジェクトの企画やマネジメントを担当している方にはぜひ、読んでほしい。

タイトルから「大義」というは政治ならではの話だと感じる人も少なくないと思う。しかし、大義というのはビジネスでも非常に効果がある。本質的にも、現実的にも、大義のないプロジェクトに協力する人もいないし、特にプロジェクトが苦境に陥ったときには大義は重要である。

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2007年11月16日 (金)

日本における合理的経営の追求

4492501762 西尾久美子「京都花街の経営学」、東洋経済新報社(2007)

お薦め度:★★★

経営学者である著者が、5年にわたるフィールドワークを経て、京都の花街のビジネスシステムを分析し、まとめた一冊。内容は非常に面白いし、置屋のシステムを中心にして全体を分析しているのも納得できる。ただし、フィールドワークが中心で、現在のシステムについての分析が中心であるためか、置屋の話も読み物レベルで、本質がえぐりだされていないのではないかという感想を持った。

それはそうとして、花街のビジネスシステムをうまく、ベストプラクティスとして切り出しているので、ベストプラクティスとしては参考になる点が多い。置屋というと日本的なものだと思われているかもしれないが、実態は違う。最も大きな違いはリスクマネジメントである。

高いレベルの顧客満足を実現しようとした場合に、いろいろな面でリスクを取る必要がある。取引もそうだし、人材育成もそうである。花街のビジネスシステムは、リスクを取ることを前提にして、リスク管理を徹底する点に特徴がある。これは、欧米のマネジメントの考え方に近い。

それを日本の人間関係の中でいかに行うかに置屋システムの秘密があることまでは、よくわかる本である。

シニアマネジャー、経営者、プロジェクトスポンサーなどのお薦めしたい一冊である。

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2007年11月14日 (水)

現場中心のマネジメントに必要なリーダーシップ

476126473x 金井 壽宏、池田 守男「サーバントリーダーシップ入門」、かんき出版(2007)

お薦め度:★★★★★

神戸大学の金井先生が近年ずっと重要性を主張されているサーバントリーダーシップを、その実践者としての資生堂前会長の池田守男相談役とコラボレーションをした一冊。

第1章で最初に金井先生がサーバントリーダーシップの基本的な解説をされている。次に、第2章で池田さんがご自身の社長時代の店頭起点、逆ピラミッド型組織の施策について述べられ、それを支えてきたのが、サーバントリーダーシップであることを述べられている。

これを基調にて、第3章では金井先生と池田さんのサーバントリーダーシップをテーマにした対談が掲載されている。内容はビジネスはもちろんだが、社会におけるサーバントリーダーシップの議論までに及んでいる。

そして、最後に、4章で再び金井先生がサーバントリーダーシップの実践へのアプローチについてご自身の意見をまとめられている。

第1章のサーバントリーダーシップの体系的な解説については、まず、リーダーシップとは何かという問題から、金井先生の主張を述べた上で、提唱者といわれるロバート・グリーンリーフの理論を紹介されている。そして、従来のリーダーシップとサーバントリーダーシップがどう異なるかを解説するととにも、サーバントリーダーシップに関するよくある誤解に触れ、誤解の内容に理解することを求めている。

もっと、そこで書かれている誤解は、第2章の池田さんの話を読めばほとんど陥ることはないと思われる。池田さんはご自身が社長の時に、逆ピラミッド型の組織を提唱され、組織全体が前線で顧客に対応するBC(ビューティコンサルタント)を支えていく。そのためにミドルマネジャーは何をすればよいか、シニアマネジャーは何をすればよいか、そしてエグゼクティブや社長は何をすればよいかを明確にし、実践していくという施策を紹介されている。まさに、サーバントリーダーシップの実践である。

そこで疑問に思ったことは、第3章の対談で解決する。ここまでが、サーバントリーダーシップの理解であり、そのあと、サーバントリーダーを目指したいと思った人のために、アドバイスやガイドを4章で与えているので、盛り上がって読了できるだろう。

ビジネスの中でサーバントリーダーシップが効果的な局面は実に多いと思う。特に、金井先生や、金井先生の話を聞いた人が感じているように、変革型リーダーシップとしてサーバントリーダーシップは重要だ。その意味で、変革をプロジェクトで遂行していくことを考えると、プロジェクトスポンサーやプロジェクトマネジャーが身につけるべきリーダーシップの一つだと言えよう。

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2007年11月12日 (月)

愚かな決定を回避する

4062723506 クリスチャン・モレル(横山 研二訳)「愚かな決定を回避する方法―何故リーダーの判断ミスは起きるのか」、講談社プラスアルファ新書(2005)

お薦め度:★★★★1/2

失敗学という言葉は定着してきて、多くの本が出版されている。マネジメント上の意思決定の失敗ケースを扱った本はあまり多くない。本書はリーダーが犯しやすい意思決定の失敗を取り上げ、そのような失敗を犯す原因やメカニズムを分析した本である。

この本の中に取り上げられている例で比較的、誰にでもわかる例を一つ上げよう。あるグローバル企業のシニアマネジャーがグループ企業向けに経営管理のグローバル研修を立ち上げた。研修の目的やターゲットをあまり明確にしないままで開始したので、「お経のような研修だ」というあまりよくない評価が多く、プログラムの改善をしながら進めていった。そうしているうちに、予算の関係で、グループ外の企業にも研修を提供しようということになった。そのため、研修の内容を多様化したり、カタログを作ったりしているうちに、いつの間にか、グループ内企業向けの提供は付け足しのようになり、受講の希望があっても、定員に余裕がなくて受け入れることができないということが起こるようになってきた。

この問題は組織が意思決定する際にもっとも起こりやすいやっかいな状況の典型であるが、こんな問題はマネジメントの中では山ほどある。

この本では、このような組織の「愚かな決定」を避ける方法を事例分析の形で、行動心理学、組織行動論の視点から分析し、提唱している。この本で扱っている「愚かな意思決定」はプロジェクトのように有期性の強い仕事で起こりやすいものが多いので、プロジェクトマネジャーの人に一読をお勧めしたい。

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2007年11月 9日 (金)

トヨタの闇

4828413995 渡邉 正裕、林 克明「トヨタの闇」、ビジネス社(2007)

お薦め度:★★★1/2

このブログで取り上げた本は500冊を超えるが、企業もので圧倒的に多いのはトヨタである(というよりも、出版点数が多いので、ある意味、当たり前だが)。

トヨタの分析はベストプラクティスとして行われることが多い。理由は2つあり、90年代は主に、日本流のエクセレントな現場であったが、2000年以降、業績の飛躍的な向上により、経営的なベストプラクティスとして取り上げられることが多くなった。

ただ、光があれば、影がある。影の部分に焦点を当てた本はあまりなかったが、珍しくそんな本が出てきた。いわゆる暴露本、スキャンダル本の類ではない。著者たちが、自社Webで展開している「企業ミシュラン」の作成の際の取材に基づきかかれた本のようである。ちなみに、著者の一人の渡辺さんは以前から企業ミシュランの活動をされており、書籍になっているものもある。

4344010949 渡邉 正裕「企業ミシュラン〈06年版〉IT・サービス業編―これが働きたい会社だ」、幻冬舎(2005)

タイトルや帯は過激というか、スキャンダル本の匂いがぷんぷんだが、内容を読んでみると、確かにトヨタのやり方だとそれはあるなと思える内容が多いし、また、取材インタビューなどがそのまま掲載されているので、信憑性もある。

ということで、トヨタ信者であれば、一度、読んでみてほしい本である。

ただし、この本の作られているスタンスには賛同できない。上に書いたように光があれば、影がある。問題は影をいかに少なくしようと努力しているかだ。実は、この本の中に書かれている1項目をトヨタに勤める友人から聞いたことがあり、会社はずいぶん、努力をしているようだ。

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2007年11月 7日 (水)

寓話で読む変革型リーダーシップ

4478000344 ジョン・コッター(藤原和博訳)「カモメになったペンギン」、ダイヤモンド社(2007)

変革リーダーシップのグル、ジョン・コッターが自らの説くチェンジマネジメントを寓話として描いた一冊。

ペンギンたちの住むコロニーが氷山の内部の融解により、崩壊の危機にあることを1人のペンギンが発見する。相手にされないままに何人かに伝えるが、やっと聞いてくれる人に出会う。そのペンギンはボスに窮状を訴える。ボスは抵抗勢力の抵抗をかわしながらも、問題解決に取り組む。

最初はみんな真剣だったが、よいアイディアが出てこず、だんだん、士気が低くなる。そうしたある日、カモメが飛んでいるのを発見する。何をしているのかと尋ねたところ、次に住む場所を偵察しているのだという。

これに刺激され、遊牧構想が生まれてくる。そこで、カモメにならい、次に住む場所を探す偵察を出すことにするのだが、大きな問題に直面する。ペンギンは自分の子供以外に餌をとってやらない。これでは偵察に出たペンギンの子供は飢えてしまう。

このような問題に対して、ほかの子供ペンギンが、偵察にいくペンギンをたたえるイベントを企画する。イベントにはみんなが餌を持ってくることになった。

こうして偵察隊を出すことができ、安全な住処を見つけ、難を逃れる。その後、ペンギンたちは、この制度をどんどん、改善していく。偵察への報償は大きくなり、その分、より条件のよい住処を探してくるようになる。

ざっとまとめるとこんな話だが、8つのプロセスのチェンジマネジメントで出てくるかなり多くのポイントが寓話の形で盛り込まれており、たいへん、役に立つ。

変革をする際の大きな問題に、多くの人が変革プロセスそのもののイメージができないという問題がある。このため、抵抗勢力とならなくても、変革の足を引っ張ることが多い。この問題に対して、寓話の形で変革ストーリーを共有するというのはよいアイディアではないだろうか?

コッターの考え方で変革に取り組む企業は多い。そんな企業のすべての人にお薦めしたい一冊である。

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2007年11月 5日 (月)

プロジェクト・ブック

4395241018 阿部仁史、本江 正茂、小野田泰明、堀口徹「プロジェクト・ブック」、彰国社(2005)

クリエイティブなプロジェクトのマネジメントについて書かれた本というと、まっ先にトム・ピーターズの「セクシープロジェクト」

トム・ピーターズ(仁平和夫訳)「トム・ピーターズのサラリーマン大逆襲作戦〈2〉セクシープロジェクトで差をつけろ!」、阪急コミュニケーションズ(2000)

が思う浮かぶ。この本は素晴らしい本だと思うが、トム・ピーターズに負けない本があった!

それがこの本。

さぁ場所をつくろう
キャラ立ちしたチームメンバーを集めよう
ワークスタイル
スケーリング
デザインツール
地図を語れ
キャスティングしてみよう
ライフスタイル
ミーティングは30分×4セット

など、クリエイティブなスタイルにこだわり抜いた創造の極意が63個、書かれている。効能は

コラボレーションしたいとき、行き詰ったとき、ひまなとき、プロジェクトを始める前、プロジェクトを終えてから、人を使うとき、課題が出たら、卒業設計のとき、独立して事務所を開いたら、所長に怒られたとき、人間関係が辛いとき

など。

創造的なプロジェクトなど、ほかの世界の話と思っているIT系の人にもお薦め。プロジェクト感が変わること間違いなし!

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2007年10月28日 (日)

一体感をめぐる冒険

4862760120 ジョセフ・ジャウォースキー(金井壽宏監修、野津智子訳)「シンクロニシティ 未来をつくるリーダーシップ」、英治出版(2007)

お奨め度:★★★★1/2

この記事で500エントリーになる。500エントリー目に残しておいた本を紹介しよう。「シンクロニシティ 未来をつくるリーダーシップ」。

ジョセフ・ジャウォースキーという「アメリカンリーダーシップフォーラム(ALF)」というリーダーシップ開発の団体を立ち上げた人物が、自叙伝の形で述べているリーダーシップの旅についてかいた本。

もともと、弁護士で、若くして法律事務所を立上げ、成功した著者は、リーダーシップの状況に問題意識を持ち、社会的起業家としてALFの立上げを決意する。それに集中していく中で、どんどん、離婚をし、ALFを立ち上げるまで、シンクロニシティに身を任せ、紆余曲折の中を進んでいく。その中で、自身、リーダーシップをめぐる旅をし、いろいろな人と出会い、いろいろなことを学び、仲間に巻き込んでいく。その中に、この本と一緒に英治出版が翻訳を出版したデヴィッド・ボームがいる。

デヴィッド・ボーム(金井真弓訳)「ダイアローグ 対立から共生へ、議論から対話へ」、英治出版(2007)

ALFが軌道に乗ったころ、シナリオプラニングと出会い、請われて、シェルグループのシナリオプラニングのリーダーとなる。その後、この本には出てこないが、金井先生の解説によるとMITの組織学習でコアメンバーとしての役割を果たし、現在はジェネロンコンサルティングを率いて、U理論を世に知らしめることに尽くしているとのこと。

この本の後の活動は、こちらの本を読めばよいだろう(超・難解!)

ピーター・センゲ、オットー・シャーマー、ジョセフ・ジャウォースキー、ベティ・フラワーズ(野中郁次郎, 高遠 裕子訳)「出現する未来」、講談社(2006)

非常に不思議な読後感の残る本である。僕は、この本は金井先生が話題にされているのを何度かお聞きしたし、ジョセフ・ジャウォースキー氏のリーダーシップの旅の根幹を成している、サーバントリーダーシップ、ダイアローグ、U理論という概念を齧っていたので、リーダーシップの本として読んだ。難しい本なので、どれだけ、ジョセフ・ジャウォースキー氏がこの本に託したメッセージが読めているかはよくわからないが、感じるものは多々あった。

ただ、これを前提なしに読めば、副題にある「未来を作るリーダーシップ」というのはきっとピンと来ないのではないかと思う(もちろん、僕なんかに較べるとはるかに洞察力に優れた人はそんなことはないだろうが)。そんなときに、リーダーになりたいと思うあなたが、偶然、このブログ記事を読んだことの意味をかんがえてみて欲しい。ここにも、この本でいうところのシンクロニシティ(共時性;因果関係では説明できない、偶然にもほぼ、時を同じくして生じる事象があること)があるのかもしれない。

併せて、お奨めした本が2冊ある。1冊は、この本で金井先生が紹介されているが、野田さんという方がリーダーシップの旅について書かれた本。

野田 智義、金井 壽宏「リーダーシップの旅 見えないものを見る」、光文社(2007)

もう1冊は、表現の手法は違うが、同じような視点から大規模な調査をした結果をまとめたこの本。

ビル・ジョージ、ピーター・シムズ(梅津祐良訳)「リーダーへの旅路―本当の自分、キャリア、価値観の探求」、社会経済生産性本部(2007)

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2007年10月26日 (金)

禁断のコミュニケーション技術

4894512807 三浦博史「神様に選ばれるただひとつの法則~人生を勝利に導くコミュニケーション術「プロパガンダ」 」、フォレスト出版(2007)

お奨め度:★★★★1/2

プロパガンダとは

 自ら働きかけて自らの思う方向に他人や集団を動かすこと

である。もともと、布教活動をさす言葉だったが、プロパガンダという言葉を有名にし、同時に、世の中から葬ったのは、ナチスの大衆扇動をプロパガンダと呼んだことだろう。それまでの言葉の使い方を考えてみると非常に不遜な使い方であるが、プロパガンダという言葉はいまだにこの言葉を引きずっているし、悪いイメージがある。

そのプロパガンダが欧米のハイクラスのビジネスマンに注目されるスキルになっているという。

・仕事やプライベートでの「人間関係」を良くしたい!
・カリスマ的な「リーダーシップ」が欲しい!
・「広告」「PR」「マーケティング」に関わっている!
・「セールス」関係の仕事をしている!
・上司、部下、お客様、同僚に好かれ、「仕事」で結果を出したい!
・本当の「自分の魅力・実力」を認めてもらいたい!
・転職や就職の「面接」を成功させたい!
・まったく新しいコミュニケーション術の本が読みたい!

などの思いを持つ人が注目しているそうだ。実際にこの本を読んでみると、コミュニケーションをまったく別の体系でまとめており、非常に面白いと思う。

特に面白いのは、コミュニケーションと情報という本来は別のものを結びつけ、情報というのをどのようにコミュニケーションの中で位置づければよいかというビジネスコミュニケーションにとってとても重要な問題をうまく整理している点。

欧米では禁断のコミュニケーションスキルと呼ばれているが、禁断に手を出してみませんか?

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2007年10月24日 (水)

生産WBS

4274204634 林 謙三「生産WBS入門―個別設計生産のマネジメント」、オーム社(2007)

生産活動のすべての事象を生産WBSにより一元的に把捉し、生産マネジメントを行う考え方を提案している。

WBSに注目している人は少なくないが、この本ほど、WBSをうまく利用しているのは稀ではないかと思う。WBSは本来、プロジェクトスコープマネジメントのツールであるが、この本で提案しているプロダクトWBSは、生産マネジメント、事業管理、開発フェーズのプロジェクト運営、受注フェーズのプロジェクト運営といったプロジェクトマネジメントのツールとして以外にも、生産マネジメントの改善・改革、個別設計生産情報システムなどを統合するツールとして実にうまく使っている。

生産マネジメントにおいてはかなり実践的な手法だと思わせ、また、本として具体的な事例を中心に書いているので、使える内容である。

問題は、この手法を生産マネジメント以外に使えるかどうかだ。この手法は小さなシステムのシステムインテグレーションにはばっちり使えるように思う。ぜひ、チャレンジしてみて欲しい。

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2007年10月22日 (月)

CCPM+Lean+PMBOK=?

4947627794 ラリー・リーチ(小林英三(監訳)、岡野智加、酒井昌昭、津曲公二、平鍋伸忠、藤川博巳(訳))「リーンプロジェクトマネジメント―リーン・クリティカルチェーン・PMBOK Guideを統合した、プロジェクトマネジメントのバイブル」、ラッセル社(2007)

お奨め度:★★★1/2

クリティカルチェーンプロジェクトマネジメントの名づけの親といわれているラリー・リーチの新しいプロジェクトマネジメント論。

現在、プロジェクトマネジメントの流れとしては、

・プロアクティブに計画を作り、計画実行によりプロジェクトを進めていくことを目指すPMBOK

・プロジェクトの目標を設定し、目標達成のための問題解決とプロセス改善を中心にプロジェクトを進めていくCCPM

・チームとプロトタイピングにより、創造性を追及するアジャイルプロジェクトマネジメント(リーンプロジェクトマネジメント)

の3つがあると考えてよい。現在のところ、プロジェクトマネジメントを適用したい目的としてはプロジェクトを失敗しないというのが多く、このため、PMBOKが圧倒的に進んでいるが、これらは本来、補完的に機能することが望まれるものだろう。

その中で、現在の普及の度合いもさることながら、この3つの中では最もフレーミングがしっかりしているPMBOKを中心にどのように他のプロジェクトマネジメントのよさを取り込んでいくかというのがポイントになる。

この問題に対して、ラリー・リーチ博士が書いた書籍がこれ。

人々を統率する
→プロジェクト憲章
→適切なソリューションの選択
→変動性を管理する
→プロジェクトのリスクの管理
→プロジェクト計画
→実行

というフレームの中で、3つの方法のツールをどう使っていくかを示している。これをPMBOKのフレームだというと、CCPM派からはクレームがつくかもしれないが、はやり、基本的にはPMBOKに見える。

ゆえに、PMBOKプロジェクトマネジメントをやっている人たちにもお奨めした1冊である。

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2007年10月19日 (金)

あなたは仕事何段?

4757304811 前田 隆敏「仕事の段位」、インデックス・コミュニケーションズ(2007)

お奨め度:★★★★

この本、どう評価するかは、結構、微妙であるが、個人的にははまった。

仕事の段位を

4級以下 : 仕事が嫌いな人

3級 : 普通の人

2級 : 努力の人

1級 : 仕事ができる人

初段 : エネルギーが強力な人

2段 : 初段5人に勝てる人

3段以上 : 天命のある人

という7クラスに分けて、アセスメント方法と段位をあげていく一般的な考え方を説明している。また、黒帯のスキルだとか、スペシャリストとジェネラリストの段位の違いだとかについても、触れており、その方法がQ&A方式になっていて、なんとなく、納得してしまう。

本としてはオモシロイ。ある程度、客観的な裏づけもあるようだ。でも、人様にご紹介するとなると、なんとなく、正規化されていない段位が気になるのだ。

まあ、それを気にしない人には大いにお奨めできる。そんなところにしておこう。

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2007年10月17日 (水)

トヨタ式でホワイトカラーの生産性を向上する

4532313554 金田 秀治、近藤 哲夫「トヨタ式ホワイトカラー革新」、日本経済新聞社(2007)

お奨め度:★★★★

まったくの偶然だが、これで3記事連続してトヨタものだ。これだけ、本が出るというのも驚きだし、切り口が違うというのもすごいなあと思う。

さて、この本は、古くて新しいテーマ、ホワイトカラーの生産性向上についての本である。

この課題に対して、トヨタ方式の導入のコンサルティングをやっている会社は少なくないが、この本は、スコラコンサルティングの金田秀治氏とケーズエンジニアリングの近藤哲夫氏による事例紹介を含めて、基本的な考え方、手法の概要を解説した一冊。

事例として紹介されているのは、岩手県庁、紀文などだが、この2社についてはかなり詳細に説明されている。

本書では、トヨタの方式を整理整頓などの5Sから始めるベンチマーク型と、部門の役割・機能を劇的に変えるシステム再構築型に分けて、それぞれについて、その進め方と本質がどこにあるかを解説している。

トヨタというと前者のイメージが強いが、後者(一般的にいうBPR)でも特徴のあるやり方をしていることが分かる。

いずれのタイプにしても、チェンジリーダーの存在と役割がもっとも重要だとしており、そのチェンジリーダーを如何に育てるかにポイントを置いている。実際に、ここがトヨタとトヨタ以外の企業の違いということになるのだろう。

トヨタにおけるチェンジリーダーの育成については、井上久男氏の「トヨタ 愚直なる人づくり」でも取り上げられているので、併せて読んでみるとよいだろう。

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2007年10月15日 (月)

トヨタの奇跡

4478000794 高木 晴夫「トヨタはどうやってレクサスを創ったのか―“日本発世界へ”を実現したトヨタの組織能力」、ダイヤモンド社(2007)

お奨め度:★★★★1/2

トヨタものは多いが、この高木先生の一冊は分析の切り口(仮説)が見事で、非常に読み応えのある一冊である。

この本では、レクサスの成功要因を分析している。レクサスについては、これまでのトヨタスタイルで本当にできるのだろうかと懐疑的だった人が多い。現に、LSが出てくるまでに出たレクサスに関する本は、どうして失敗したのかとか、挫折とかそんなテーマだった。

この背景にいくつかの理由があるようだが、何よりも、トヨタとブランド確立、それも、高級ブランドの確立というのはイメージが分からないという人が多いのではないだろうか?

この一冊はトヨタの成功をいずれも人がベースになる5つの組織能力に整理している。以下の5つである。

(1)人のつながりによって仕事を成し遂げる能力
(2)創造の革新を人々のつながりを行き来させる活動の中から形成する能力
(3)リーダーの洞察を情熱で人々のつながりのエネルギーレベルを上げる能力
(4)誰と誰がつながると仕事が成し遂げられるかを誰もが考える能力
(5)誰がつながっても仕事が成し遂げられるような問題解決の共通基盤を持つ能力

この本はこの5つをケースストーリーで説明されており、最後に、それぞれの論理的な分析を解説するという形態をとっている。そのケースストーリーを読めば分かるのだが、当事者もやはりためらっていた。ところが、カローラをどんどん進化させるのと同じ流儀でやり遂げてしまうのだ。

その背景にあるのが、上の5つの組織能力というわけだが、何よりも人の持つ可能性を強く感じさせる。それはトヨタマン独特のものかもしれないし、日本人全般に通じるものかもしれない。

トヨタというのは成功要因が非常に分かりにくい企業である。ホンダなどと比べると、なぜ、成功しているのかまったく分からないといってもよい。しいてあげるのであれば、「やれることはすべてしている」といえよう。日産やホンダの特色のある部分と比べても、決して遜色を取らない。ある意味で、マネジメントとはこうやるという鏡だともいえる。

その中で、人と組織能力に注目して見事に成功要因を整理した本書は一読の価値があろう。

もちろん、高木先生の専門分野の組織行動論のテキストとしても一級品である。

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2007年10月12日 (金)

人材開発は愚直に!

4478312192_3 井上久男「トヨタ 愚直なる人づくり―知られざる究極の「強み」を探る」、ダイヤモンド社(2007)

お奨め度:★★★★1/2

トヨタの競争優位源泉はひとにある。これは多くの人が認めていることだろう。実際にトヨタウェイの多くはひとの考え方、行動習慣などを示すものである。

トヨタ本は多く出版されており、ひとに何を求めるかはあるん程度、ぼんやりとした輪郭くらいは見えている。しかし、どうやってそのひとをどのように育てているかということになるとほとんど分からない。組織に文化があり、ひとはその文化に染まっていくことにより、トヨタウェイを身につけた人材が生まれていくという風に思われ勝ちであるが、そんなに単純ではない。

精神的な部分があまりにも語られるので、表に出ないが、トヨタ流を実行するためには、かなり、高いスキルレベルが必要である。心技体である。

この本は、朝日新聞の元記者が、深く組織に入り込み、50人以上の 取材により、トヨタの教育システムを克明に紹介している。この本を読んで分かるのは、ひとというのはコストをかけないと育たないということだ。タイトルに「愚直」とあるが、二兆円の利益を上げる企業グループでさえ、人材育成に王道はないということがいやというほどよく分かる。

トヨタの教育システムが他社の参考になるかは若干疑問だが、少なくとも人材開発は愚直にやらなくては効果がでない。何の信念も持たず、短期的な成果を求めるような企業では人材は育たないことはよく分かるだろう。

同時に、経営とは難しいものだなと思わせる一冊でもある。

その意味で、そのことを実感している人材開発担当者よりも、トップマネジャーに読んでほしい本だ。

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