トヨタの奇跡
高木 晴夫「トヨタはどうやってレクサスを創ったのか―“日本発世界へ”を実現したトヨタの組織能力」、ダイヤモンド社(2007)
お奨め度:★★★★1/2
トヨタものは多いが、この高木先生の一冊は分析の切り口(仮説)が見事で、非常に読み応えのある一冊である。
この本では、レクサスの成功要因を分析している。レクサスについては、これまでのトヨタスタイルで本当にできるのだろうかと懐疑的だった人が多い。現に、LSが出てくるまでに出たレクサスに関する本は、どうして失敗したのかとか、挫折とかそんなテーマだった。
この背景にいくつかの理由があるようだが、何よりも、トヨタとブランド確立、それも、高級ブランドの確立というのはイメージが分からないという人が多いのではないだろうか?
この一冊はトヨタの成功をいずれも人がベースになる5つの組織能力に整理している。以下の5つである。
(1)人のつながりによって仕事を成し遂げる能力
(2)創造の革新を人々のつながりを行き来させる活動の中から形成する能力
(3)リーダーの洞察を情熱で人々のつながりのエネルギーレベルを上げる能力
(4)誰と誰がつながると仕事が成し遂げられるかを誰もが考える能力
(5)誰がつながっても仕事が成し遂げられるような問題解決の共通基盤を持つ能力
この本はこの5つをケースストーリーで説明されており、最後に、それぞれの論理的な分析を解説するという形態をとっている。そのケースストーリーを読めば分かるのだが、当事者もやはりためらっていた。ところが、カローラをどんどん進化させるのと同じ流儀でやり遂げてしまうのだ。
その背景にあるのが、上の5つの組織能力というわけだが、何よりも人の持つ可能性を強く感じさせる。それはトヨタマン独特のものかもしれないし、日本人全般に通じるものかもしれない。
トヨタというのは成功要因が非常に分かりにくい企業である。ホンダなどと比べると、なぜ、成功しているのかまったく分からないといってもよい。しいてあげるのであれば、「やれることはすべてしている」といえよう。日産やホンダの特色のある部分と比べても、決して遜色を取らない。ある意味で、マネジメントとはこうやるという鏡だともいえる。
その中で、人と組織能力に注目して見事に成功要因を整理した本書は一読の価値があろう。
もちろん、高木先生の専門分野の組織行動論のテキストとしても一級品である。
【目次】
序章 レクサスとは何か-プレミアムブランドへの挑戦を可能にした組織能力
第1章 未来への危機感-トヨタには、なぜレクサスが必要だったのか
第2章 創造への挑戦-ものづくりカンパニーのブランド論
第3章 現実との葛藤-巨大組織トヨタの中の レクサス
第4章 夢へのこだわり-ブランド構築へのリーダーシップ
第5章 ビジョンと対話-プレミアムブランドを支える人づくり
第6章 トヨタのDNA-「日本発世界」に向けたマネジメントモデル
終章 未来への課題-グローバル企業へと継承するもの
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