2007年10月10日 (水)

プロマネ必読の人材マネジメント論!

4334934218 長野慶太「部下は育てるな! 取り替えろ! ! Try Not to Develop Your Staff」、光文社(2007)

お奨め度:★★★★

僕は成果主義の一番の問題は、若年層を飼い殺しにしてする組織が増えたことではないかと思っている。マネジャー自身が自分の目標に追われ、長期的な視点で部下を育成するような余裕がない。一方で、米国と根本的に違う点が、部下を「切り捨てででも、成果を挙げようとする」ほどの覚悟もない。

これは一見、温情のように見えるが、結果として、失敗しないようなことだけを部下にさせるというマネジメントをしているマネジャーが多い。これでは、部下はまったく成長しない。作業に熟練するだけである。

こんなことをやっているのであれば、部下を育てることを放棄した方がよい。この問題を正面から指摘した貴重な一冊。

適材適所、捨てる神あれば、拾う神あり。能動的にチャンスを与える。

そろそろ、真剣にこのような発想を持った方がよいのではないだろうか?

■態度の悪い部下はすぐに取り替えろ!
■もう職場に「協調性」なんかいらない
■「エグジット・インタビュー」で情報王になる
■「質問1000本ノック」の雨あられ
■部下がシビれる! 革命上司の「褒める技術」
■「ヘタクソな会議」を今すぐヤメさせろ!
■あなたを勝てるチームのボスにする人事戦略

など、過激な内容が並ぶこの本を読めば、背中を押されること間違いなし。

特にプロジェクトではメンバーを育てようなどを考えないこと。使えないメンバーは切り捨てる。使えると判断すれば、厳しく使う。これによってのみ、次の世代を支えていく人財が育つのではないだろうか?

まあ、非現実的だと思う部分も多々あるが、とりあえず、読んでみよう!プロジェクトマネジャー必見の人材マネジメント論!

2007年10月 5日 (金)

対話

4862760171 デヴィッド・ボーム(金井真弓訳)「ダイアローグ 対立から共生へ、議論から対話へ」、英治出版(2007)

お奨め度:★★★★★

日本語で「話せば分かる」という言い方がある。この場合の「話す」とはどういう意味であろうか?

北朝鮮拉致問題で「対話と圧力」ということが言われている。世界中の紛争のあるところで、政策対話というのが行われている。この場合の「対話」とはどんなものだろうか?

この問題に対して深い洞察をしたコミュニケーション論の名著、「On Dialogue」という本がある。著者は物理学者にして20世紀の偉大な思想家の一人だとも言われるデヴィッド・ボームである。1996年に出版されたこの本は、2004年に第二版が出版されたが、第2版の邦訳が今回、英治出版より出版された。

419860309x ダイアローグというと真っ先に思いつくのが、この本の前書きを書いているピーター・センゲの学習する組織である。ピーター・センゲは学習する組織には、「パーソナル・マスタリー」「メンタルモデル」「システム思考」「共有ビジョン」とともに、ダイアログが必要だといっている。少し、センゲの組織学習論を書いた「最強組織の法則」から抜粋する。

=====
ダイアログの目的は、探求のための「器」もしくは「場」を確立することによって新しい土台を築くことである。その中で参加者たちは、自分たちの経験の背景や、経験を生み出した「思考と感情のプロセス」をもっとよく知ることができるようになる。
=====

この本を読んだことのない人は、ちょっとよく分からないと思うだろう。ダイアログというのは、いわゆる「話し合い」ではないのだ。コミュニケーションそのものである。「On Dialogue」によると、

対話の目的は、物事の分析ではなく、議論に勝つことでも意見を交換することでもない。いわば、あなたの意見を目の前に掲げて、それを見ることなのである

となる。もっと分からないかもしれない。対話ではWin-Winの関係を作ることが目的ではなく、不毛な競争をしないこと、共生することが目的なのだ。

そんな発想がビジネスに必要かと思った人も多いだろう。日本のビジネス慣行というのはもともと、ダイアローグを礎にしている。ただし、価値観の変わってくる中でダイアローグが行われてこなかった。このため、談合だとか、おかしな問題が出てきている。そこをもう一度、再構築するためには、文字通り、ダイアローグが必要だ。

そんなことには興味がないという人。あなたのお客様や上司と「話せば分かる」関係になりたいと思いませんか?思うのであれば、この本を読んでみましょう!

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2007年10月 3日 (水)

上司とは理不尽な存在か?

4594054676 菊澤 研宗「なぜ上司とは、かくも理不尽なものなのか (扶桑社新書 16)」、扶桑社新書(2007)

お奨め度:★★★★1/2

著者は経済学(経済合理性)の視点から組織論を研究している学者である。2000年に

組織の不条理―なぜ企業は日本陸軍の轍を踏みつづけるのか

という本が出版されて、さらっと読んで面白いことを考える人だという印象を持っていたが、同じように、軍組織ねたで、最近、出版された

4334034136 「命令違反」が組織を伸ばす

はすごく大切なことのエッセンスが書かれているので、いずれ、ブログで紹介しようと思っていた。ただ、この本、事例が詳しすぎるので、ためらっていたのだが、ちょうどよい本が出た。今回紹介する本がそれ。今回の本は、ビジネスねたで書かれていて、上の2冊と同じように、人間が如何に合理的な判断ができないかというのをわかりやすく解説している。

すぐに読めて、読んだ後で、「う~ん」と考えさせられる一冊だ。日本の組織で、部下は文句は言うし、批判するが、最後の行動では上司に従うことが多い。このため、組織変革が至難の業になっている。そんなマインドを一掃するのに、最適な本でないかと思う。

この本に併せて、以前、何かの記事で紹介した記憶があるが、この問題を文化的な側面から論じた橋本治氏の

4087202402 橋本 治「上司は思いつきでものを言う (集英社新書) 」、集英社(2004)

と併せて読んでみると面白いだろう。

2007年10月 1日 (月)

プロジェクトマネジメントの取り扱い説明書

4534042876 西村克己「世界一やさしい プロジェクトマネジメントのトリセツ」、日本実業出版社(2007)

お奨め度:★★★★

以前、この本の出版社の方から日本で一番売れている本は、西村克己先生の

よくわかるプロジェクトマネジメント (入門マネジメント&ストラテジー)

だと聞いたことがある。日経BP社の人に、伊藤健太郎さんの

プロジェクトはなぜ失敗するのか―知っておきたいITプロジェクト成功の鍵

が一番売れているという話を聞いた後だったので、推理すると西村先生の本がもっとも売れている本かもしれない。

なぜ、唐突にこのようなことを書き始めたかというと、本の流通のしくみはよく知らないが、それぞれが1位というのは両方とも正しいのかもしれないと思ったからだ。この2冊の本は、プロジェクトマネジメントの本であるが、ジャンルが違うのではないかと思ったのだ。伊藤氏の本は現場マネジメントとしてのプロジェクトマネジメントの本であり、西村先生の本は経営管理の一環としてのプロジェクトマネジメントの本である。つまりはドメインが違う。

さて、この記事で紹介する西村先生の新刊は、同じ出版社から「トリセツ」シリーズで出版された書籍であり、経営管理としてのプロジェクトマネジメントというのがより、色濃く出た一冊である。その意味で、あまり、なかったタイプの本である。「よくわかるプロジェクトマネジメント」よりできは明らかによいし、だいぶ、進化している。

プロジェクトマネジャーのプロフェッショナルを目指す人ではなく、マネジメントの一分野としてプロジェクトマネジメントのスキルを身につけておきたいというビジネスマンの人に、やっと薦めることのできる本が出てきた。

マネジャーの方、必読の一冊。

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2007年9月24日 (月)

組織の心理的側面

4478001898_3DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編著「組織行動論の実学―心理学で経営課題を解明する」、ダイヤモンド社(2007)

お勧め度:★★★★

ハーバードビジネスレビューに掲載された組織行動論の論文の中で、実践的な論文を14編集めている。以下の14編である。

受動攻撃性:変化を拒む組織の病
信頼の敵
沈黙が組織を殺す
「不測の事態」の心理学
なぜ地位は人を堕落させるのか
楽観主義が意思決定を歪める
「意識の壁」が状況判断を曇らせる
リーダーシップの不条理
転移の力:フォロワーシップの心理学
卑屈な完全主義者の弊害
善意の会計士が不正監査を犯す理由
選択バイアスの罠
道徳家ほどおのれの偏見に気づかない
失敗に寛容な組織をつくる

それぞれ、著名な論文であり、経営学のテキストに取り入れられるようなものばかりである。このシリーズの中でも、すごい一冊である。

と同時に、組織行動論といえば、理屈ばかりだと思いがちであるが、心理的な側面に注目した論文(それも著名な論文)がこれだけあるというのは驚きである。

それだけ組織は深いということだろうか。

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日本組織の病巣「組織の<重さ>」

4532133378 沼上 幹、軽部 大、加藤 俊彦、田中一弘、島本実著「組織の〈重さ〉―日本的企業組織の再点検」、日本経済新聞社(2007)

お勧め度:★★★★1/2

日本企業の強さの源泉であると考えられてきた創発戦略の創出と実行が機能不全に陥っている。その原因は、「重い組織」にある。つまり、「重い組織」が経営政策を阻害し非合理的な戦略を創発していることにあるという。

この日本組織の病巣ともいえる仮説を沼上先生らしいフィールドスタディで徹底的に調査している価値のある一冊。

研究論文に基づいて書かれた本のようで、問題提起にとどまっているが、この本を読んで連想したのが、柴田昌治氏のこの本。

なぜ社員はやる気をなくしているのか~働きがいを生むスポンサーシップ」、日本経済新聞社(2007)

柴田氏がこの本で指摘していることを、膨大な調査で裏付けたような形になっている。ということは、この問題の解決策のひとつが柴田氏が必要だと指摘するスポンサーシップであることは間違いない。

日本組織がどのように変わってきているかということを考えてみたときに、はやり、スポンサーシップ(とは昔は言わなかったが)の欠如に行き着くように思う。その原因は柴田氏も指摘しているように業績主義にある。沼上先生の言われる重さは、業績主義と環境づくりのバランスの悪さゆえに出てきているように思う。

一方で、もう、おそらく昔に戻ることはできない。そう考えると、今すべきことは、重さの解消を仕組みとして実現していくことだ。そのひとつがスポンサーシップであることは間違いない。

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2007年9月22日 (土)

組織の失敗のプラクティス

4103054719 上杉隆「官邸崩壊 安倍政権迷走の一年」、新潮社(2007)

政治に詳しいわけではないが、2007年9月12日の、あのような職務放棄が簡単にできるのかに興味を持ってニュースを見ていると、本書の著者上杉隆氏がいろいろと本質的なことを言われていたので、読んでみた。

読んでみた感想は、9月12日は決して異常ではなかったということだ。事の重大さの違いはあれ、安部総理やチーム安部がこの1年間にとってきたスタンスと全く同じスタンスで今の局面打開を考えたときに、このような結論に行き着くのは、不自然でもないし、際立った無責任でもない。

参議院選挙の後で、好意的な論評をする評論家は、「政策的な実績はみるべきものがある、政策以外のところで足を引っ張られた」といっている人が何人かいた。

一般企業でいえば、経営戦略は適切、マーケティングも適切だったが、営業マンが一生懸命やらなかったから失敗した。といっているようなもので、ナンセンスだ。ただし、政治家は、組織人と異なり、一人ひとりが国民の代表という看板主であることを考えると、ある程度、安部首相は気の毒だという意見もわからなくはない。

ただ、この本を読んでみてはっきりわかったのは、安部首相が目指したのはチームによる政治の運営である。にもかかわらず、その点で決定的な失敗をし、数々の無様な結果を生み出したことはチームリーダーの責任以外の何もでもないだろう。

その失敗の本質は、日本型組織で、人心をかえることなく、欧米流の組織運営をしようとしたところにある。欧米の組織運営の特徴は明確なガバナンスにあり、日本の組織運営の特徴は自己責任と非公式組織による緩やかなガバナンスにある。その意味では、政界のあり方に近い。

ガバナンスというのは仕組みの問題だけではなく、それを受け入れる従業員側の問題でもある。つまり、一人ひとりの考え方を変えないと、ガバナンスの効いた組織はできない。

これを地で行って失敗したのが、チーム安部であるというのがこの本でよくわかる。

2007年9月21日 (金)

今、注目される「個を活かす組織」

4478001944 クリストファー・バートレット、スマントラ・ゴシャール(グロービス経営大学院訳)「【新装版】個を活かす企業」、ダイヤモンド社(2007)

お奨め度:★★★★1/2

クリストファー・バーレットとスマントラ・ゴシャールの「The Individualized Corporation」が新装版として出版された。ちょうど、原書が出版されて10年になる。

序文には今は亡き、スマントラ・ゴシャールへの追悼もこめて、現代的な「Individualized Corporation」の意味について述べている。また、今回、翻訳を担当したグロービス経営大学院の方があとがきで、組織変革をめぐる日本の状況の変化について述べられている。

旧版は組織行動論の名作「組織行動のマネジメント―入門から実践へ」と同じシリーズで出版されているが、この時期に改めてハードカバーの立派な本として出版した出版社の英断に拍手を送りたい。

内容的には上に述べた追加があるが、基本的に変わらない。訳はかなり、洗練されているように思う。

このブログを初めてから売れた本の中で、PMBOKとこのブログの家主である好川の本を除いて一番売れている本は、スマントラ・ゴシャールの、「意志力革命」である。意志力革命に至る思考プロセスを知る上でこの本の持つ意味は大きく、今回の企画は非常にうれしい。

なお、この後に旧版の書評(2005年8月2日)をつけているので、内容はそちらを参考にしてほしい。

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2007年9月19日 (水)

気の利いたほめ言葉を持とう

4569659233 本間正人、祐川 京子「ほめ言葉ハンドブック」、PHP研究所(2006)

お奨め度:★★★★

本屋さんで、たまたま、見つけた本だが、こんな本があるのかとびっくり。

ほめるというのがやさしいようで、さあ、やってみようといわれてもなかなかできるものではない。この本では、ほめ言葉の6原則と4つの心がけを述べた上で、それを実践するポイントと具体的なスキルとともに、「ほめ言葉」を例示いる。さらに、よい例だけではなく、「悪いほめ方」も例示しているので、参考になる。

[原則]
1.事実を細かく、具体的にほめる
2.相手にあわせてほめる
3.タイミングよくほめる
4.先手をとってほめる
5.こころをこめてほめる
6.おだてず、媚びずにほめる

[心がけ]
1.ほめる要素を探す
2.ほめ方のレパートリーを増やす
3.力加減をコントロールする
4.あらきらめずに実践する

具体的な言葉は本をお読みください!

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2007年9月14日 (金)

箱から脱出できましたか?

439665040x アービンジャー・インスティチュート(門田美鈴訳)「2日で人生が変わる「箱」の法則」、祥伝社(2007)

お奨め度:★★★★1/2

世界的ベストセラー「自分の小さな箱から脱出する方法」の第2弾。第1弾と4479791779 同じく物語形式で、読者に気付きを与えていく。

今回の話は、前作でカリスマ経営者として登場するルー・ハーバートの20年前にさかのぼる。20年前に「奇跡のセミナー」で家庭生活と職場を変えることができる考え方を学び、自分を変えることができれば、まわりの人も正しい方向へ導くことを実践していくという話。

前作もそうだが、この話は箱というメタファがシンプルであるがゆえに、非常にインパクトがある。箱からでるという例えであるが、このシリーズはどんどん、人間の内面に踏み込んで行き、それを開放していこうという話である。

前作を紹介したときに、実行は難しいという話を何人かの人から聞いた。その人たちに特に、何か含みがあるわけではないが、結局、開放ができるかどうかがリーダーとしての資質ということなのだろうか?また、自分は自分の本性とは違う模様の箱を持っていると言い切った人もいた。これもよくわかる。このあたりの議論になると、人間観に関わる問題であり、宗教的な問題なのかもしれない。

いずれにもても前作より、インパクトがあると思う。前作ではまった人は、必読!

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2007年9月12日 (水)

ヒトデかクモか

4822246078 オリ・ブラフマン、ロッド・A・ベックストローム(糸井恵訳)「ヒトデはクモよりなぜ強い 21世紀はリーダーなき組織が勝つ」、日経BP社(2007)

お奨め度:★★★★

「本当に責任者のいない組織」が、どれだけ創造的で、従来の秩序を破壊し、経済的なインパクトを与えるのかについて述べた組織論。

著者は、このような組織をヒトデになぞらえ、その強さを事例としてeBayやSkypeなどのネット企業を通じて分析すると同時に、トヨタのマネジメントをその枠組みで分析し、日本型経営が目指す組織経営ではないかとしている。

日本型組織が責任のいない組織であり、ある意味でイノベーティブであるというのは経験的に正しいと思う。米国流の組織マネジメントのように、明確なガバナンスのもとに経営者から新入社員まで責任を分担するクモ的な組織運営は、実力のあるビジネスマンが集まる組織であれば合理性がある。それゆえに、自己責任による能力開発とセットになっている。

経営者は株主に対する短期のコミットメントが必要であり、社員も短期の業績評価が求められ、全ては経済的成果にベクトルが向けられる。しかし、これでは本当にイノベーティブなことはできない。もし、仮にこの本でいう「本当に責任者のいない組織」が存在可能であれば、イノベーションが生まれる可能性は多いだろう。一方で、この本で事例に書かれているトヨタを見ても、ガバナンスがないわけではない。どちらかというと、社員から見えない、あるいは意識しないようにされているだけだ。その意味で、この本に書かれているような単純な話でもないように思う。

その点も含めて示唆に富んだ一冊である。

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2007年9月10日 (月)

そのドキュメント、本当に必要ですか?

4839924287 石黒 由紀「ドキュメントハックス-書かない技術~ムダな文書を作り方からカイゼンする」、毎日コミュニケーションズ(2007)

お奨め度:★★★★

GTD(Getting Things Done、デジタル時代のストレスフリーな仕事術)本として作られた本のようだが、ドキュメントを書きながら仕事を進めることに関して、常識の枠を超えた本質的な指摘が多く、たいへん、「ため」になる本。

著者が指摘しているように、ドキュメントは何が必要かという点から必要性の分析がされ、作成されている。しかし、その作成プロセスに注目すれば不要な(他のコミュニケーションで代替できる)ドキュメントは多く、そこをうまく組み立てていることにより、「ドキュメントによるコミュニケーション」として本当に必要なドキュメントだけを作成するようにできる。それによって、作成するドキュメントの質も上がるし、情報共有の質もあがるというのがこの本の主張。特に、2章で、品質を上げるためにゴール共有をするという視点から、ドキュメントの必要性を分析している部分は共感できる。

デジタル時代の特徴のひとつは間違いなく、ドキュメントの量である。バーチャル組織、多様な人間の共同作業などで、間違いなく、ドキュメントがストレスになっている。この本はそのようなスタイルの仕事をしている人の救世主ではないかと思う。

GTD本としてTips集的な書き方になっていると感じるが、ぜひ、続編としてコミュニケーション全体を睨んだ体系的な本を書いてほしい。

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2007年9月 7日 (金)

赤字プロジェクトを立て直すコツ

4883732452 香村求「IT赤字プロジェクトの立て直し・火消し対策」ソフトリサーチセンター(2007)

お奨め度:★★★

プロジェクトマネジャー、品質管理マネジャーとして多くの経験を持つ著者が、ITの赤字プロジェクトのリカバリーマネジメントについて解説した一冊。

独特のものの見方により、かなり、抽象的なレベルでリカバリーの方針決定、考え方、体制作り、管理などについて述べている。ただし、プロセス的な部分は具体的に書かれており、また、事例が相当に紹介されている。

よいことがたくさん書いてあるので、講演を聴くつもりで読むのであれば、お奨めだ。解説の抽象度が高いので、特に経験の浅いプロジェクトマネジャーは腑に落ちるまでに何度か繰り返して読む必要があると思われるが、書いてあることの質は極めて高い。

特に、比喩的な表現が随所に出てくるが、著者がなぜ、そのような比喩を使っているのかを考えながら読むとよいだろう。おそらく、もう少し、簡単に書こうと思えばかけるのだろうが、あえて書いていないところにインプリケーションがあると思われる。

頑張って読んでみよう!ただ、機会があれば、講演を聴かれることがよりお奨め。

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2007年9月 5日 (水)

デマルコの真髄

4798016993 吉平健治「トム・デマルコの「プロジェクト管理」がわかる本―ポケット図解」、秀和システム(2007)

お奨め度:★★★1/2

トム・デマルコというと、

4822280535デッドライン―ソフト開発を成功に導く101の法則」、日経BP社(1999)

4822281108ピープルウエア 第2版 - ヤル気こそプロジェクト成功の鍵」、日経BP社(2001)

4822281116ゆとりの法則 - 誰も書かなかったプロジェクト管理の誤解」、日経BP社(2001)

4822281868熊とワルツを - リスクを愉しむプロジェクト管理」、日経BP社(2003)

などの、人間に焦点を当てた、独自のソフトウエアプロジェクトマネジメント論を展開するプロジェクトマネジメントのグルの一人である。

そのデマルコのプロジェクトマネジメントを解説した本が本書。この本は2つの要素があり、前半は、著者がデマルコのプロジェクトマネジメント理論を解釈してどのように実践すべきかを述べている。後半はデマルコの理論のポイントになる部分を解説している。

デマルコのプロジェクトマネジメントは人間を中心においているため、PMBOKのように体系的ではない。著書も、すばらしいTipsが並んでいるし、また、大局的なものの見方が素晴らしい。

そのため、この本もどちらかというと体系的にまとめた本というよりは、数多くのTipsをまとめてあり、GTD本的な趣の本である。

その意味で、デマルコの主張を手っ取り早く読むにはよい本だ。ただし、デマルコの本は、行間に多くの情報があるので、この本を読んだ後で、やはり、一度は、オリジナルの本を読んで見られることをお奨めする。

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2007年9月 3日 (月)

要件を中心にしたプロジェクトマネジメント

4822283216 スザンヌ・ロバートソン、ジェームズ・ロバート( 河野正幸訳)「ソフトウエアの要求「発明」学 誰も書かなかった要求仕様の勘違い」、日経BP社(2007)

お奨め度:★★★★1/2

SIプロジェクトでは、プロジェクトマネジメントの導入が一段落して、開発プロセスの問題がはっきりしてきた。一つは古くて新しい話題である見積もりの問題であり、もう一つが要求分析・要件定義の問題である。

本書は後者に対して、有効な一つのアプローチを解説した本である。この本では、要求はユーザが持っているものをうまく定型化するのはなく、ぼんやりとしかないものを「発明」するものだとしてそのために有用な考え方や手法を紹介している。

また、要求に対して「マネジメントする」という考え方をとり、測定や測定に基づくマネジメントの方法を述べている。

同様のアプローチとして最近注目されているのが、マインドマップを使ったアプローチであるが、マインドマップを使ったアプローチも含めて、本書で示されている枠組みの中で、今までの要求分析の活動を体系化することができるのではないかと思われるし、それは大変意義のあることだろう。

ちなみに、この本の邦訳はソフトウエアがついているが、原題は「Requirements-Led Project Management」である。全般的に書かれていることは、顧客中心プロジェクトマネジメントに近く、基本的にどのような分野のプロジェクトでも使うことができるのではないかと思う。本書でも指摘されているように、この本で主張しているやり方は「iPod」やアマゾンもやっているやり方だとしているように、特に、商品やサービス開発のプロジェクトに取り入れるとよいのではないかと思われる。

その意味で、使われている例にソフトウエア分野でしかわからないものがあるが、他の分野のプロジェクトマネジャーにも読んでほしい一冊だ。特に、コンセプトデザインの仕事に従事している人に読んでほしい。

また、本書に併せて本でほしいのが、この本

4822283232 エレン・ゴッテスディーナー(成田光彰訳)「要求開発ワークショップの進め方 ユーザー要求を引き出すファシリテーション」、日経BP社(2007)

実際に要求の「発明」をしようとすれば、何らかの機会が必要である。その機会としては従来行われていたような要求分析の方法だけでは十分ではなく、創発的な場が必要だと思われる。その点において、こちらの本に書かれている要求開発ワークショップは現実的な方法だし、書籍そのものもワークショップの進め方を細かな注意点まで含めて実践的に書いている良書だ。発明に役に立つこと間違いなしの一冊である。

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2007年8月31日 (金)

なぜ、あなたは、自ら「重責」を負うのか

4569692311 田坂 広志「なぜ、我々はマネジメントの道を歩むのか 人間の出会いが生み出す「最高のアート」」、PHP研究所(2007)

お奨め度:★★★★1/2

すべてのマネジャーに呼んでほしい素晴らしい本。田坂ワールドの集大成ともいえる一冊。

僕はビジネス書を読むときに、感情移入せずに読むように心がけているが、この本は、はやり、知識や意見として参考になるだけではなく、やはり、共感を覚える部分が極めて多い。

内容もさることながら、まずはタイトルが素晴らしい。田坂先生は自身著書で言霊のことを書かれていることからもわかるように、言葉をとても大切にされている方だ。

4492554718 田坂 広志「経営者が語るべき「言霊」とは何か」、東洋経済新報社(2003)

この本のタイトルは、田坂流のマネジメントへの賛美だろう。むかし、細腕繁盛記という連続ドラマがあった。このドラマのオープニングのナレーションは「銭の花の色は清らかに白い。だが蕾は血がにじんだように赤く、その香りは汗の匂いがする」というナレーション。これも商売というものに対する賛美だと思うが、この田坂先生の言葉も同じようなニュアンスを感じる。

さて、この本では、「マネジメントの道を歩む方々へ」として、まず、以下のような問いかけから始まる。

「なぜ、あなたは、自ら「重責」を負うのか」

という問いかけから始まる。田坂先生の言われる重責とは「部下や社員の人生」であり、「部下の成長を支える覚悟」である。こんな苦しいのに、どうして、人はマネジメントの道を歩むかという問題提起で、マネジメントの素晴らしさを伝えようとしている一冊だ。

内容については先入観なくじっくり読んでほしいので、あまり書かない。一言でいえば、自分のキャリアを明確に意識し、キャリア発達を実現するためのマネジャーの道を歩む。そして、それは、コミュニケーションを通じて、部下の自立を促すことにより実現できるものだ。

非常によい言葉がちりばめられた本であるので、隙間時間で読むのではなく、まとまった時間をとって、噛みしめながら読んでほしい本だ。

この本を読んで、思い出した本がある。このブログでも紹介したことがあるが、ジョセフ・バダラッコの「決定的瞬間の思考法」だ。

4492531793 ジョセフ・バダラッコ(金井寿宏、福嶋俊造訳)「「決定的瞬間」の思考法―キャリアとリーダーシップを磨くために」、東洋経済新報社(2004)

この本も、マネジャーが重責を担う中で、キャリアを変えかねない瞬間にどのような意思決定をすべきかをかいた本。この本も併せて読まれることをお奨めしたい。

2007年8月29日 (水)

ヒューマンスキルの基本としての人間関係づくりをマスターしよう

4760830251 星野欣生「人間関係づくりトレーニング」、金子書房(2002)

お奨め度:★★★★

人間関係作りのポイントを取り上げ、エクスサイズを通じて、気付きを得ながらポイントを掴んでいくスタイルのトレーニングブック。

ポイントとしてあげているのは

・つきあい
・好き、嫌い
・思い込み
・わかちあう、こたえる
・話す、きく
・みる
・感じる
・わかる
・トラブル
・ひらく

の10個。それぞれについて、含蓄のある簡単な講義、エクスサイズ、エクスサイズの振り返りのプロセスシートという構成になっている。

これらに対して、アプローチの視点として

つきあい―人が持っている「枠組み」
好き、嫌い―価値観とは
思い込み―日常生活は「思い込み」でいっぱい
わかちあう、こたえる―コミュニケーションって何だろう
話す、きく―コミュニケーションの実際
みる―サインとしてのからだ
感じる―感情表出のさまざまな形
わかる―人が人を理解すること
トラブル―葛藤とのつきあい方
ひらく―自己開示とフィードバック

の視点を持ち込み、気付きを与えている。

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2007年8月27日 (月)

楽しくないプロジェクトは成功しない

4584130078 米光一成「仕事を100倍楽しくするプロジェクト攻略本」、KKベストセラーズ(2007)

お奨め度:★★★1/2

「ぷよぷよ」のクリエーターが書いたプロジェクト論。どうすれば、クリエーターの仕事が楽しくできるかをロールプレイゲーム風に書いている。

内容的には、トム・ピーターズの「セクシープロジェクト」に近い。

4484003120 トム・ピーターズ(仁平和夫訳)「セクシープロジェクトで差をつけろ! (トム・ピーターズのサラリーマン大逆襲作戦 <2>) 」、阪急コミュニケーションズ(2000)

クリエーター向けだが、書いてあることは全てのプロジェクトに共通することではないかと思う。

・チーム編成の考え方と運用

・ミーティングを使ったパフォーマンスの向上

・アイディアの引き出し方と、マネジメント

・リーダーシップのあり方

など、特に、チームマネジメント分野の話が多いが、非常に参考になることが多い。

トム・ピーターズの本を読んでも同じことを感じるのだが、プロジェクトというのは仕事である。仕事を楽しくやるということを考えないで、動機を高めるといったプロジェクトマネジメントの考え方はナンセンスだろう。

そんなことを改めて考えさせてくれる一冊である。プロジェクトリーダーに限らず、楽しく仕事をしたいと思っている人はぜひ読んでみてほしい。

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2007年8月24日 (金)

組織学習の全てがわかる!

4478001561_2 DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー編集部編訳「組織能力の経営論~学び続ける企業のベスト・プラクティス」、ダイヤモンド社(2007)

お奨め度:★★★★★

30年前にアージリスが学習する組織を提唱し、その後、さまざまな研究が行われてきた。そして、90年代になり、ピーター・センゲが「学習する組織」の概念を体系化したのをきっかけに、学習する組織がマネジメントの中心課題の一つになってきた。

この本はこの問題に対して、さまざまな角度から出てきた理論をまとめた本である。ダブル・ループ学習、ディープ・スマート、T型マネジャー、知識創造企業、場などの誰でも知っている理論のオリジナルの著作がずらっと並んでいる。興味のある人は一度は読んでおくとよいだろう。

また、ピーター・センゲの「最強組織の法則」を読んでいない人は、併せて読むと、それぞれの位置づけが明確になってよいと思う。ぜひ、併読をお奨めしたい。

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2007年8月22日 (水)

アイディアを実行に移す思考法

4887595751_2 ポール・スローン(ディスカバー・クリエイティブ訳)「イノベーション・シンキング」、ディスカヴァー・トゥエンティワン(2007)

お奨め度:★★★★1/2

著者のポール・スローンは日本では水平思考のゲーム学習書「ウミガメのスープシリーズで著名なコンサルタントだ。

4767803322 ポール・スローン、デス・マクヘール(クリストファー・ルイス訳)「ポール・スローンのウミガメのスープ―水平思考推理ゲーム」、エクスナレッジ(2004)

4767804647 ポール・スローン、デス・マクヘール(大須賀典子訳)「ウミガメのスープ(2)~腕を送る男」、エクスナレッジ(2005)

4767805112 ポール・スローン、デス・マクヘール(大須賀典子訳)「ウミガメのスープ(3)~札束を燃やす強盗」、エクスナレッジ(2006)

4767805708 ポール・スローン、デス・マクヘール(西尾 香猫訳)「ウミガメのスープ(4)~借金を踏み倒せ」、エクスナレッジ(2007)

水平思考は論理的な段階を踏むことにより、問題に対する新しい見方を発見することで、日本語でいえば、視野が広いといわれる人が身に付けているような思考方法だ。ポール・スローンのウミガメのスープはこれをドリル形式で身につけようとするシリーズで、自分に必要だと思う人はぜひ取り組んで見られるとよい。

さて、そのポール・スローンが新機軸として提唱しているのが、イノベーション・シンキングである。単純にいえば、水平思考を活用することによって、新しいアイディアを採用し、実行に移していく方法がイノベーションシンキングである。

この本では、まず、パート1で、イノベーションシンキングのために必要な水平思考のスキルを10個に整理している。以下の10個だ。そして、それぞれについて、そのようなスキルを養うためのゲームを示している。

スキル1 前提を疑う
スキル2 探り出す質問をする
スキル3 見方を変える
スキル4 奇抜な組み合わせをしてみる
スキル5 アイデアを採用し、応用し、さらに改良する
スキル6 ルールを変える
スキル7 アイデアの量を増やす
スキル8 試してみて、評価する
スキル9 失敗を歓迎する
スキル10 チームを活用する

次にパート2では、イノベーションシンキングを行うことのできるチーム構築のためにビジョンを描き、伝える方法を具体的に述べている。また、その仮定でありがちな誤ちについて指摘し、その解消方法を示している。

1冊よめば、イノベーション・シンキングのトレーニングができるような構成になっているので、イノベーションの必要性を感じている人にはお奨めした一冊だ。

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