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2010年3月23日 (火)

【補助線】失敗が「恥」と結びつく文化を克服しよう

◆「21世紀枠に負けたことは末代までの恥です」

第82回選抜高校野球大会で監督が騒動を巻き起こしている。騒動を起こしたのは、開星(島根)の野々村直通監督(58)。新聞によると、3月22日、第1試合で「21世紀枠」の向陽(和歌山)に1―2で敗れたあとのインタビューで、「21世紀枠に負けたことは末代までの恥です」などと発言したらしい。

スタンフォード大学のアントレプレナー・センターでエグゼクティブ・ディレクターを務めるティナ・シーリグ氏が自身の集中講義の内容を紹介した書籍「What I Wish I Knew When I Was 20(邦訳「20歳のときに知っておきたかったこと」(阪急コミュニケーションズ、2010)」で面白い指摘をしている。



◆シリコンバレーはなぜ強いのか

シリコンバレーがなぜ、強いのかという議論の中で、

リスクを取ろうとする意欲と、失敗に対する反応は、国によって大きなばらつきがあります。失敗をしたときの悪い面が多すぎて、個人がリスクに対して過敏になり、どんなリスクも取ろうとしない文化があります。こうした文化では、失敗が「恥」と結びついていて、若い頃から、成功の確率が高い決まった道を歩くように教育されます。失敗したら恥をかくようなことには、挑戦しようとしません。タイのように、失敗をすると、人生をやりなおすために、名前を変える社会もあります(同書、91ページ)
(中略)
こうした文化の対極にあるのがシリコンバレーです。

と指摘している。


◆失敗と恥を結びつける文化を持つ国 日本

シーリグ氏の指摘の中に、日本の話は出てこなかったが、日本も失敗が「恥」を結びつけた文化を持つ国であることは明らかだ。野々村直通監督の発言はまさにそうだ。

日本人の行動基準の中で、「恥」をかくかどうかは大きなものである。「恥」をかくかどうかによって、行動するかどうかを決める。これは幼いころから刷り込まれている。親は「そんなことをしたら恥ずかしいでしょ」と子供をしつける。

さらにいえば、失敗したときに下のものが、自分を指導する上のものに「恥をかかした」として責任をとるといった恥文化さえある。

いろいろな「正当化」をしているが、失敗したくない本当の理由の大半は「恥」だと思える。

たとえば、会社の中を考えてみよう。主任、課長、部長と役職が上がっていくにつれて、だんだん、失敗を恐れるようになる。これは、失敗を「恥」と結びつけて考えているからだ。もちろん、本人たちの言い分は違う。「失敗の影響が大きく、責任が重くなるから」なのだが、本当にそう思うのであれば、不作為(機会損失)による失敗についてもっと敏感であるべきだからこの理屈はおかしい。


◆失敗と人格を結びつける「恥」

この議論の中で昔からよく言われるのが、行為と人格の混乱である。行為と人格というのは本来別ものである。行為に至った事情、環境があるからだ。犯罪のような極限の行為でも、罪を憎んで人を憎まずという。ところが、行為と人格を結びつけているものがある。それが「恥」を重んじる文化だ。

「恥」というのはあくまでも個人に帰属する感情である。従って、失敗が恥に結びつけられると、「あの人は失敗して、恥ずかしい人だ」という人格攻撃になる。

ここに会社の中で職位が絡むともっと話は複雑になる。「部長という立場にありながら、そんな失敗をするようでは、部下に恥ずかしいだろう」となる。これ、実は、親が「そんなことをしたらみんなに笑われますよ」としつけするのと同じ原理だ。

失敗を、恥を介して、人格の問題にされてしまうと、もう立ち直れない。再チャレンジ可能な社会を作るためには、この問題に取り組んでいく必要がある。

きっとここまで読んで、自分の会社では失敗に対してそんな扱いはしていないと違和感を感じていらっしゃる方もいると思う。それは僕も認識している。しかし、改めて考えてみてほしいのは、では、不作為による機会損失はないのか、あるいは、リスクを恐れて機会損失をしていることはないのかということだ。さらには、大きな失敗をした人が、その後に大きな成功をしたケースがどのくらいあるかだ。

不作為はなく、また、失敗した人が失敗を挽回するような仕事をしていれば、僕の勘違いである。そうであれば、このあとの部分は読む必要はないだろう。


◆負け方を知る

では、どうすれば恥と失敗を切り離すことができるのか?

興味深いのは、アスリートの世界である。外人のコーチや、海外で学んできたコーチに指導される選手が国際的な舞台でよい成績を上げている。共通して見られるのは失敗に対する対処である。試合の直後に、もう失敗を冷静に受け止め、原因を分析し、次の機会へのチャンスに変えている。優勝候補で敗れても、そのように振舞っているのはすごい。要するに、常に自分を客観化し、もう一人の自分がどうすれば最大のパフォーマンスを発揮できるかを常に考えている。程度はスポーツによると思うが、試合中もである。

もうひとつ、アスリートといえるかどうかわからないが、競馬の世界で第一人者である武豊騎手がスポーツバラエティ番組で面白いことを言っていた。競馬は馬8騎手2で、騎手の立場でみれば乗る馬によって成績が大きく左右される。トップの騎手でも勝率2割、つまり、5回に4回は負けている。さらに、強い馬に乗ってまけたようなケースは、負けるという結果だけではなく、馬券に投票した人に大損をさせているという事実も受け止めることになる。そこで、どのように負けるか、負けを引きずらないかが勝ち方よりも大切で、そのためには、勝ち負けにこだわらず、納得できる騎乗をすることが大切だという。

これは、トップアスリートを見ていても感じることだ。


◆「立場」を考えるのではなく、「役割」を考える

ビジネスでも同じだ。失敗するか成功するかにこだわらず、何をすべきかをよく考え、決断をすることだ。その際に常に問題になるのが、「立場」である。「立場」というともっともらしく聞こえるが、別の言葉に置き換えると「面子」である。ビジネスで「面子」の源泉になっているのは、「役職」である。さらに、企業レベルの話になってくると、社会的地位というのも問題になる。

役職とは本来、経験により、組織の中である「役割」であって、「立場」ではない。同じように社会的地位も社会の中の役割であって、立場ではない。これを勘違いすると、派遣切りのような行動をするようになる。失敗できないからだ。

もし、役職や社会的地位を立場だと考えているのであれば、「役割」だと認識すれば、明日からでも行動はがらりと変わるだろう。失敗と恥が切り離され、行為と人格がきちんと切り分けられるからだ。

 

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。