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2010年3月24日 (水)

【PMスタイル考】第8話:責任を明確にするということ

◆プロジェクトマネジメントで変わったもの、変わらないもの

プロジェクトマネジメントが日本で注目されるようになってきたのは、21世紀になってからですが、それでもかれこれ、10年近くになります。この間に変わってきたものと、相変わらず変わっていないものを一つずつあげるとすれば、みなさんは何を取り上げられますか?

変わってきたものは仕事のスタイルです。

・計画をたてて仕事をする
・進捗を管理しながら仕事をする

というワークスタイルは定着してきましたし、定着したと言えるかどうかは微妙ですが、

・ドキュメントによるコミュニケーションを行う

というスタイルもかなり浸透してきたようです。

これに対して、あまり変化がないと思うのは、「責任」を明確にして、責任を果たしながら仕事をするという点です。

この議論はプロジェクトマネジメントの前提とする組織観と、日本流の組織観の根本的な違いがあり、相当に難しい問題です。


◆上司に電話があったらどうする?

日本メーカから、米国のメーカに転職したマネジャーから、こんな話を聞いたことがあります。お客様から、自分の直属の上司である課長のところに電話があった場合には、日本メーカでは

○○はあいにく外出しております。よろしければご用件をお伝えした上で、帰社次第、お電話をさせて戴きますので、ご用件と、お名前、ご連絡先をお教えいただけますか。

が適切な対応だったそうです。ところが、今の企業でこれをやったらクビになってもおかしくないそうです。理由は以下の2つだとのこと。

(1)上司にかかってきた電話の内容を聞こうとするのは明らかなコンプライアンス違反
(2)自分の上司の行動を部下が誰かにコミットするというのは、職務規程上、そのような権限を持つアシスタント以外にはあり得ない

もっとも、今の会社では各人にアシスタントがいるので、社員が自分のボスにかかってきた電話を取ることはないそうですが、それはさておき、万が一とった場合の、正しい対応は

○○様から電話があったことを申し伝えます

だそうです。

ところが、日本企業でこの対応をすると、「気が利かない」といわれるのがオチではないかと思います。それどころか、課長の下で自分が担当しているお客様であれば、課長への問い合わせを自分が返事をし、課長には伝えておきますといった対応がセーフな組織すらあります。

これは責任に対するとらえ方の違いです。僕が最初に入ったメーカで、新入社員教育のときに、「新入社員であっても、社外の相手はみなさんを会社の代表だと考えます。その自覚をもって、責任を持った言動に努めてください」と教えられます。今でも言っている会社が多いそうです。

これは新入社員に責任をとれと言っているわけではなく、責任というものは個人に帰属せず、「組織に帰属する」ものだと教えているわけです。

日本人の責任観はこれに集約されていると思います。


◆なかなか変わらない責任観

プロジェクトマネジメントは定着していますが、このような責任観からから抜けきれません。プロジェクトマネジメントの中にRAMというツールがあります。Responsibility Assignment Matrixの略です。本来であればRAMを定義するということは各作業の仕事の実行責任を決めるということです。ところが、作っても実際には、責任者は責任者としての行動を(形式的にしか)とらず、実態は担当者が責任を持っているような状況は決して珍しくありません。課長への電話や、新入社員の話と同じ理屈です。誰かがきちんとやって、プロジェクトとして責任が持てればよいと考えるのです。

もっといえば、RAMに個人ではなく、サブチームやグループを書いてはダメなのかという相談を受けることすらあります。技術的なことをいえば、これはRAMではなく、OBS(Organization breakdown structure)になります。


◆もう一つの側面

一方で、こんな話もよく聞きます。「最近の若い社員は、自分の担当しかやらない」。電話にまつわる別の話をしましょう。あるメーカの課長の話です。課長が担当している得意先から、至急の調達の依頼の連絡がありました。

課長は研修中で僻地にある研修センターに行っており、戻りは2日後です。電話を受けた入社2年目の社員は、課長の動静を確認せず、「戻り次第連絡します」といったそうです。当然、その日はそのままで、次の日に大騒ぎになり、騒ぎを収めるために課長は研修の受講を中断して戻ってきました。この社員の対応が欧米的に褒められるかどうかは別にして、一理はあります。

さて、この騒動の問題点は何でしょうか?研修でこの議論をすると、最近、増えてきた答えは
・課長にアシスタントがいないこと
なのですが、多い答えは
・課内の責任分担の仕方
・コミュニケーションの仕方
の2つです。

プロジェクトマネジメント的には、責任分担の仕方は問題ありません。上の事例と比べるとむしろ、よいくらいです。だから、コミュニケーションに問題があるのかとなると、そうも断言できません。課長に言わせれば、「自分がいなくても対応できる問題だろう、そんなことで貴重な能力開発の機会を奪わないでくれ」ということかもしれません。


◆責任とコミュニケーションはパッケージ

もう、おわかりいただけたでしょう。責任分担の仕方と、コミュニケーションはパッケージなのです。

さて、同じような混乱がプロジェクトにおいても起こっています。コミュニケーションの問題をいうときに、プロジェクトチーム内のコミュニケーションはうまくできているが、外部、特に顧客と上位組織とのコミュニケーションがうまくできていないという人が多いようです。

上位組織とのコミュニケーションの問題、広い意味での顧客コミュニケーションの問題の原因は、責任の曖昧さにあります。責任分担が曖昧なところでコミュニケーションがスムーズにいくことはあり得ません。コミュニケーションは各自の責任を実現するための手段だからです。最近、対話のような目的をゴールを明確にしないコミュニケーションが注目されています。とても大切なことです。ただし、対話が意味を持つのは、自分の立場がはっきりしているからです。自分の立場がはっきりしていなければ、発言がぶれ、単なる井戸端会議に終わります。

プロジェクトにおける自分の立場とは責任に他なりません。


◆責任はプロジェクトの最大の基盤

このように考えたときに、プロジェクトにおける責任とは、プロジェクトの最大の基盤です。責任を明確にしないままでプロジェクトを進めてもうまくいきませんし、プロジェクトの遂行とは責任の遂行です。そして、プロジェクトマネジメントは、責任を遂行を管理する活動です。

ここでいう責任とは、RAMで定義されるプロジェクトチーム内の実行責任だけではなく、プロジェクト活動全体での責任です。プロジェクト実施決定の責任、プロジェクトデザインの責任、目的設定の責任、目標設定の責任、顧客対応の責任、ステークホルダ対応の責任など、プロジェクトチームやプロジェクトマネジャー以外が果たさなくてはならない責任がたくさん、あります。

このような責任をプロジェクトガバナンスと言います。

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。