自分自身に許可を与える
ティナ・シーリグ(高遠裕子訳、三ツ松新解説)「20歳のときに知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義」、 阪急コミュニケーションズ(2010)
お奨め度:★★★★★
この本は、スタンフォード大学アントレプレナー・センターのエグゼクティブディレクターであるティナ・シーリングが、自身の体験、創造性開発プログラムでの受講者のパフォーマンス、自分でみた企業の事例など、極めて豊富な事例に基づき、自分への許可をどのように与えるかについて体系的に述べたものである。
実は、プロデュースブームの火付け役になった「プロデュース能力」の著者・佐々木直彦さんは、「やってはだめだと思っていることをやってもいいんですよ」といって呪縛を解いてあげるとすばらしいパフォーマンスをする人がたくさんいるとよく言われている。
この1年間佐々木さんのセミナーを売ろうと、10社以上の会社でプロデュースの話をした。相手は、人材開発部門の人もいれば、事業部門の人もいる。しかし、なかなか、しっくり来なかった。その理由がこの本を読んでよく分かった。この本では、佐々木さんの言われていることを「あなた自身に許可を与える」といっているのだが、許可を与えるものが単に「行動」だけではないのだ。というよりも、多くの企業が多重多層にまとっているものを一枚一枚はがすように許可を与えていく必要がある。
これを「やってはだめだと思っていることをやってもいい」というだけでは、クリエイター系のようにリーダーシップの中で活動している人たちはともかく、ものを作ったり、あるいは、サービスをしたりといった、マネジメントの中で活動している人たちはぴんと来ないことに気付いた。
著者が自分自身に許可を与える対象としているのは
・常識を疑う許可
・世の中を新鮮な目で見る許可
・実験する許可
・失敗する許可
・自分自身で進路を描く許可
・自分自身の限界を試す許可
の6つである。
この本では、最初の章が自分の殻を破るというある意味で総論的な章になっている。その冒頭に以下のようなエクスサイズが出てくる。エクスサイズのグループに封筒に入れた5ドルを与え、それを2時間でできるだけ増やすというシンプルなエクスサイズ。そして、時間は水曜日午後から日曜の夕方まで。計画にどれだけの時間を使っても構わないが、一旦、封筒を開けたら2時間で活動は終了するというルールだ。レストランの予約代行や、車のタイヤの無料検査と有料の空気入れなど、いろいろと工夫した。その中で、あるグループは、クラスの学生を採用したいと思っている会社にその時間を売り、会社のコマーシャルを作成してエクスサイズのプレゼンテーションで発表することによって650ドルという最高額を稼いだ。
これは、「自分たちが持つ資源は何か」という問題に対して、他のグループが気付かなかったことに気付いたから可能になったというのが著者の指摘である。
もうひとつ、最初の許可である、常識を破る許可について紹介しておこう。著者が推奨するのは、まずは、常識をすべて洗い出して、それが妥当か、可能だとされている範囲が本当に正しいのか、限界をもっと広げられないかという風に考えていく方法である。
この方法でシルク・ドゥ・ソレイユができると説明している。まず、伝統的なサーカスの特徴をすべて挙げる。「大きなテント」、「動物による曲芸」、「安いチケット」、「ピエロ」、、、などで、次にその特徴を逆にする。「動物は登場しない」、「高いチケット」、「ピエロは登場しない」、、、そして、最後に伝統的なサーカスの中で残したいもの、変えたいものを選ぶ。すると、サーカスはシルク・ドゥ・ソレイユ風になる。
これはラテラル・シンキングで、常識を疑う、前提を疑うという思考法として提唱されているものだ。
そして、このような思考がスムーズに、自然にできるようになると、問題をチャンスに変えることができるというメリットが生まれる。つまり、誰もが、常識のとらわれて、解決できない問題を、自分だけは常識を破ることによって問題を解消すれば、競争力になるということだ。
このように、プロデュースやイノベーションを妨げる自分自身の壁を1枚1枚、破がしていけば、大きな成果に結びつく。これが、この本が教えてくれることだ。
この本を特にお薦めしたいのは、佐々木直彦さんの本を読んで、自分なりにプロデュースやイノベーションに取り組もうとしてみたが、うまく行かなかった人である。ティナ・シーリング先生の本と佐々木さんの考えはそんなに違和感がなくつながる。そして、佐々木さんの本を概論編だと位置づけるのであれば、ティナ・シーリング先生の本は実践編と位置づけることができる。
本格的にプロデュースやビジネスプロデュース活動に取り組みたい人にはお勧めの一冊である。
コメントありがとうございます。僕も自分の息子に勧めました。
投稿: 家主 | 2010年5月 1日 (土) 21:22
久し振りに刺激を受けました。発想の殻を破る事例が率直に語ってあり、読むうちに前頭葉がジンジンと活性化していることに気づきました。自分も読み返しますが、18歳で経営を仕事にしたいといっている息子に読むことを奨めます。
投稿: 植村哲也 | 2010年5月 1日 (土) 21:06