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2010年3月17日 (水)

リーダーシップとマネジメントはどう違うのか~リーダーシップの原理原則

4478372896 ジョン・コッター(黒田 由貴子監訳)「リーダーシップ論―いま何をすべきか」、ダイヤモンド社(1999)


お奨め度:★★★★1/2


B0030C5E56 もう1ヶ月くらい前であるが、新幹線の中で、Harvard Business Review 2010-2を眺めていたら、リーダーシップに対する認識は退化しているのではないかという錯覚に駆られた。
Harvard Business Review2010年 02月号、ダイヤモンド社(2010)

それでこの際なので、多くの人にこの本を読んで、リーダーシップの原理原則、マネジメントとリーダーシップの統合などについて、きちんとした知識を持ってほしいなと思ってこの本を紹介することにした。

リーダーシップの本質について誰よりも考えつくし、知り尽くしているハーバードビジネススクール教授のジョン・コッター先生がリーダーシップについて、Harvard Business Reviewに投稿してきた論文5編に加えて、序章に、自らの研究、コンサルティングの経験に基づく、組織を動かす10の教訓をまとめて1冊の本にしたもの。

特に、コッター先生のリーダーシップ論はプロジェクト型の経営と非常に相性がよい。その意味で、今後、いままでにもまして注目されるようになるのではないかと思う本だ。

もちろん、リーダーシップへの認識が退化しているというのは錯覚である。たとえば、僕が会社に入った頃には、「リーダーシップ」という概念そのものが、特別なものだった。今は、新入社員でも知っているし、なにがしかのイメージを持っている。本も自己啓発や経営分野ではもっと多いテーマではないかと思う。

一方で、マネジメントとリーダーシップはどう違うのかという質問に答えられる人がどれだけいるか?あるいは、マネジャーで、自分の立場でリーダーシップを発揮するとはどういうことかを明確に答えられる人はどれだけいるだろうか?という疑問を持った。

これは、リーダーシップの位置づけそのものに依る部分が大きい。組織の中で、人を動かして仕事をしなくてはならない人は、例外なく、リーダーシップとマネジメントの両方を求められる。

一つ目の論文はマネジメントとリーダーシップが混乱しているという指摘と、マネジメントとリーダーシップの違いについて整理したもの。コッター先生によると、マネジメントは既存のシステムをさまざまな環境に如何に適応していくかに活動の主眼があり、リーダーシップはシステムを新しくすることに主眼がある。マネジメントもリーダーシップも

(1)課題の特定
(2)課題達成を可能にする人的ネットワークの構築
(3)実際に課題を達成させる

という3つの仕事は共通している。これに対して、マネジメントは計画と予算を目標として定め、その達成に向けて詳細なステップを決め、計画を完遂するために経営資源を割り当てる。これに対して、リーダーシップは、針路を設定し、ビジョンを示すことにより、メンバーの心を統合する。このような流儀の違いがある。

また、マネジメントが計画を確実に行うための手法はコントロールと問題解決であり、リーダーシップは動機づけを啓発である。

二つ目は、パワーの問題である。マネジメントはフォーマルな権限と、説得という方法で相手を動かすことが基本である。現実には、これだけでは人は動かない。そこで、パワーを獲得し、使っていく(パワーダイナミックスを作っていく)必要がある。有能なマネジャーは4つのパワーを生み出す。

・恩義を感じさせる
・経験や知識に対する信頼を得る
・マネジャーとの一体感を作り出す
・マネジャーに依存していることを自覚させる

の4つで、これらのパワーを獲得し、組み合わせて使っていくことによって相手を動かして行かなくてはならない。パワーの行使の仕方は2つある。直接的な行使と、間接的な行使である。

三つ目の問題は、フォロワーシップである。これをコッター博士は「上司のマネジメント」と呼んでいる。マネジャーの仕事は依存関係の中で成り立っている。そして、お互いに不完全な人間の相互依存関係において、その関係をマネジメントするには

・相手と自分について十分に理解すること
・理解に基づき、健全な仕事上の関係を築き、マネジメントする

ことが不可欠である。つまり、上司と部下は依存関係という意味において、対等な関係にあり、ゆえにマネジメントは上司が部下に対してだけではなく、部下が上司に対しても行わなくてはならない。

4つ目と5つ目の論文は、変革マネジメントに対するものである。コッター博士は、日本ではリーダーシップより、変革マネジメントで有名である。特に、8つのステップの変革と、8つの落とし穴は、変革マネジメントについて書かれた本では、たいてい紹介されているくらい、有名である。この本に掲載されている論文でもある程度説明されているし、もう少し詳しい説明を読みたければ、この本を読めばよい。

4822242749ジョン・ コッター(梅津 祐良訳)「企業変革力」、日経BP社(2002)


6つ目はゼネラル・マネジャーの行動について述べている。エスノグラフィー的なアプローチで、ジェネラルマネジャーの行動の特徴を分析し、マネジャーの仕事である、検討課題の設定と人的ネットワークの構築をマネジャーとは全く異なる方法で行っていることを述べている。なお、ゼネラル・マネジャーの問題については、1冊の本になっている。

4478005796 ジョン・コッター(金井 壽宏、加護野 忠男、谷光 太郎、宇田川 富秋訳)「J. P. コッター ビジネス・リーダー論」、ダイヤモンド社(2009)


ちょっと話が脱線するが、Harvard Business Reviewは学会誌のように思っている人が多い。たとえば、日本だと大学名を冠した雑誌に「一橋ビジネスレビュー」があるが、比較すると、遥かにHarvard Business Reviewの方が実践的である。「一橋ビジネスレビュー」は大学研究者の研究発表雑誌のイメージが強いか、Harvard Business Reviewは経営者やマネジャー、ビジネスリーダーのためのマネジメント実務情報誌である。たとえば、僕の専門分野だと、「人材教育」という雑誌がある。質はともかく、実践性はこのレベルである。

ただし、経営とオペレーションを比べると、情報の抽象性がまったく違う。経営は概念的な思考である。その意味で、概念的な思考になれない人は、学会誌との区別がつきにくいのだと思う。

たとえば、この本に含まれるジョン・コッター先生の本には、数十の企業に調査やコンサルティングで関わり、その知見をまとめたものが多い。つまりは、ベストプラクティスなのだ。そのような感覚で読むと実に気づきが多いと思う。

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