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2009年4月12日 (日)

タックマンモデルをベースにしたプロジェクトマネジメント

◆チームダイナミックスとタックマンモデル

「チーム(グループ)ダイナミックス」という概念がある。

PMstyleでは、PMOの役割の一つにプロジェクトチームの形成支援というのを入れており、チームダイナミックスのマネジメントをPMOの業務の一つだとしているのだが、うまく理解して貰えないことが多い。抽象的な話なので、結構、難しいのかもしれない。

チームダイナミックスも特定のモデルの話をすると少し易しくなる。チームダイナミックスでもっとも有名なモデルはタックマンモデルというモデルでる。心理学者であるタックマンは、チームがチームとして活動するようになるまでには4つのステップがあるといい、それを如何に効率よく進めていくかがチームビルディングの課題であることを指摘した。

(1)形成(Froming)
メンバーはお互いのことを知らない。また共通の目的等も分からず模索している状態。
(2)混乱(Storming)
目的、各自の役割と責任等について意見を発するようになり対立が生まれる。
(3)統一(Norming)
行動規範が確立。他人の考え方を受容し、目的、役割期待等が一致しチーム内の関係性が安定する。
(4)機能(Performing)
チームに結束力と一体感が生まれ、チームの力が目標達成に向けられる。

以前はチームというと、ライン評価とは別の視点で評価したいような仕事を行うために設置されることが多く、常設されるケースが多かった。しかし、最近ではプロジェクトという業務スタイルが急速に普及して時限のチーム、つまり、プロジェクトチームを意味することが多くなってきた。

そこで、タックマンモデルも拡張され、5つ目のステップとして

(5)解散(Adjourning)
時間的な制約、事態の急変、目的の達成等の理由によりメンバー間の相互関係を終結させる。

を含め、5段階のモデルとして使うことが普通になっている。

さて、この後は、プロジェクト、つまり、時限のチームに限定して話を進めていく。

◆チームが機能している状態とは

タックマンのモデルに従うと、チームマネジメントとはチームとして機能している状態へできるだけ早く進んでいくことになる。では、機能している状態とはどういう状態なのか。

チームマネジメントのバイブルになっている書籍「高業績チーム」の知恵を書いたジョン・カッチェンバック博士はこの状態のチームを好業績チームと呼び、以下の5つの特徴を持つとしている。

・お互いの信頼関係ができている
・メンバーの意見に対して自然な対立が起る
・メンバーは決定事項や行動計画に対するコミットする姿勢ができている
・一人ひとりが計画の実行に対して責任を負っている
・チーム全体の結果の達成に注意が払われる

ジョン・R. カッツェンバック、ダグラス・K. スミス「 「高業績チーム」の知恵―企業を革新する自己実現型組織」、ダイヤモンド社 (1994)

◆チームマネジメントとプロジェクトマネジメントの接点

プロジェクトとチーム、あるいはプロジェクトマネジメントとチームマネジメントというのは、非常に相性がよいように見えるのだが、結構、微妙な関係にある。その原因は、そもそも、PMBOKに代表されるシステム工学的なアプローチのプロジェクトマネジメントでチームの目的というのは非常に限定的に取り扱われているためだ。

極端なことを言えばチームというのは必要ない。WBSでワークパッケージを個人の作業レベルまでに落とし込んでしまえば、プロジェクトチームという名称こそあるが、それより細かいチームは不要だ。これは、ジョン・カッチェンバーグによると、ワーキンググループという形であって、チームではないとされる。

しかし、プロジェクトの規模が大きくなってくると、そのような粒度の詳細化は現実的ではなく、何人かのチームで作業を共同で行うことが必要になってきた。つまり、チームの目的はワークパッケージを遂行することであって、それ以上でもそれ以下でもない。これが限定的だという意味である。

限定的ではあるのだが、チームマネジメントは必要であり、チーム育成という考え方がされている。

ただし、これはあくまでも、ワークパッケージを如何に効率よく遂行するかという課題であって、パフォーマンスマネジメントの課題である。つまり、チームとして機能することによって、生産性が上がるというところに重点が置かれている。

◆チームワークをベースとするプロジェクトもある

しかし、プロジェクトマネジメントのアプローチというのは、システム工学的なアプローチがすべてではない。

「プロジェクトマネジメントをする」vs「プロジェクトをマネジメントする」
https://mat.lekumo.biz/ppf/2009/03/post-921d.html

この記事で述べたように、少なくとももう一つの考え方として、チームワークをベースにしたアプローチがあるのは明らかだ。

チームワークをベースにしたプロジェクトマネジメントでは、プロジェクトの成果の質がチームマネジメントによって左右される。システム工学的アプローチでは生産性に焦点を絞っていればよかった。チームワークアプローチにおいても生産性はもちろん重要であるが、それ以外に、創造性が極めて重要になる。チームで行うプロジェクトワークの範囲が、スコープ定義のあとからではなく、スコープ定義そのもの、場合によってはプロジェクトの目的やビジョンの定義までに及ぶからだ。

◆チームワークをベースとするプロジェクトマネジメントが重要な例

例えば、商品開発のプロジェクトを例にとってみた場合に、商品コンセプトが決まっていて、プロジェクトに課題が渡されるような場合であれば、プロジェクトマネジャー(と、何名かのリーダークラス)がプロダクトスコープとプロジェクトスコープを決めて、チームを編成すればよい。これはシステム工学的なアプローチでできる。

ところが、課題が「1年以内に競合A社を出し抜く商品を創る」といった形で与えられると、最初から、マーケティング、営業、技術、生産などのメンバーが集まるチームを作って進めていかないと、できない。これは商品開発のようなプロジェクトに特有の問題ではなく、今、「与えられた要求」でプロジェクトが進んでいるSIプロジェクトなども本質的に抱える問題であることに注意しておいてほしい。

チームをベースにしてプロジェクトを進めていくと、プロセスがはっきりしなくなる。少なくともPMBOK流で、プロジェクト業務に注目したプロセスはあまり意味がなくなる。

◆チームマネジメントとプロジェクトマネジメントの統合

一方で、上で紹介したカッチェンバック博士の高業績チームの定義を借りると、実は、高業績チームを作るためにはプロジェクトマネジメントのいくつかのアクティビティはかなり本質的な意味を持ち、それがベストの方法であると考えてもよいようなものもある。

この2つのポイントから考えられるアプローチは、チームダイナミックスをフレームワーク化してプロジェクトをコントロールして行く方法がチームワークをベースとするプロジェクトマネジメントには適しているのではないかということだ。。

ここで注意を要するのは、こういう議論をすると、じゃあ、計画は要らないのかという議論になる。プロジェクト進行のフレームワークをプロジェクト(マネジメント)ワークから、チームワークに変えるといっているだけであって、計画はもちろん必要だ。

では、具体的にどうするか?

ここでも、やはり、タックマンだ。タックマンの発達過程を使って、そこにPMBOKなどで考えられているマネジメントの方法を割り当てていく。幸いに、PMBOKというフレームワークは非常に良くできていて、プロセス(手順)と手法を分けてある。実際にはすべてのプロセスはつながっていて、そのプロセスのインプットとアウトプットの間に手法が位置づけられているので、そんなことはないという意見を持つPMPの人もいるが、それは極論だ。普通にみれば、マネジメントの流れがあって、「このあたり」でこんな分析をするとか、こんな方法の意志決定をするという方が現実的だ。

◆チームワークをベースにしたプロジェクトマネジメントの基本的な方法

このマネジメントの流れをチームマネジメントの流れに変えていけばよい。これは、おおよそ以下のようなものになる。

(1)形成(Froming)
メンバーはお互いのことを知らない。また共通の目的等も分からず模索している状態。
<課題>
・チームリーダーを中心にしたチームの構想
・メンバーの確保
・友好的関係の構築
<アクション>
・キーマンの選定
・メンバーのリクルーティング
・メンバー間のコミュニケーションの促進(キックオフミーティング)
・チームイニシエーションの実施

(2)混乱(Storming)
目的、各自の役割と責任等について意見を発するようになり対立が生まれる。
<課題>
・プロジェクトのビジョン(成功基準)へのコミットメントの形成
・成功への道のり(シナリオ)作り
・チームの議論と共通認識の場作り
<アクション>
・チーム全体での目的、目標の議論
・プロジェクトの進行シナリオに対する議論
・ステークホルダの期待に対する共通認識
・プロジェクトの存続に関わるリスクに関する共通認識
・コミュニケーションの計画
・相互理解
・プロジェクト憲章の作成

(3)秩序(Norming)
行動規範が確立し、他人の考え方を受容し、目的、役割期待等が一致しチーム内の関係性が安定している状態。
<課題>
・目的、目標の議論に対するチームメンバーのコミットメントの形成
・計画へのコミットメントの形成
・プロジェクト運営に対する共通認識作り
<アクション>
・チーム運営の計画作成
 作業範囲の明確化と、分担の決定
 スケジュールの決定
・プロジェクト運営に対する共通認識
 目標のプライオリティへの共通認識(スコープマネジメント計画)
 リスクとリスク対応への共通認識(リスクマネジメント計画)
・チームへの巻き込みへの共通認識(ステークホルダマネジメント計画)

(4)機能(Performing)
チームに結束力と一体感が生まれ、チームの力が成果目標達成に向けて機能している状態。<課題>
・高いレベルでのチームパフォーマンスの安定化
・チームと外部ステークホルダとの良好な関係の維持
<アクション>
・パフォーマンス管理(進捗管理、品質管理)
・課題管理
・リスク管理
・ステークホルダのチームとの良好なコミュニケーションと巻き込み

(5)解散(Adjourning)
時間的な制約、事態の急変、目的の達成等の理由によりメンバー間の相互関係を終結させる。
<課題>
・次のフェーズに向けての成果と残課題の整理
<アクション>
・ポストプロジェクトレビュー

このようなやり方によって、チームワークをベースにしたプロジェクトマネジメントが可能になり、プロジェクトマネジメントの適用範囲は大幅に広くなると考えられる。

◆セミナーのお知らせ

このようなアプローチのプロジェクトマネジメントセミナーを行います。興味をお持ちの方はふるってご参加ください。

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 ◆MBAプロジェクトマネジメント◆3PDU取得可能
  日時:2009年05月13日(水) 13:30-16:30
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1.プロジェクトを成功させる5つの要因
2.チームの発展過程とプロジェクトマネジメント
【形成期の活動】
3.プロジェクトのゴールを明確にし、実現シナリオを考える
【混乱期の活動】
4.ステークホルダを見極め、理解する
5.ステークホルダの期待をマネジメントし、成功を定義するドキュメントを作成する
【秩序期の活動】
6.プロジェクトの成果物とすべき仕事を明確にする
7.スケジュールを決める
8.プロジェクトを取り巻く脅威を最小化する
9.コストとスケジュールと品質のトレードオフを調整する
10.プロジェクトプランをドキュメント化する
【機能期の活動】
11.基準を決め、進捗を計測する
12.パフォーマンスの高いチームを創る
13.ステークホルダとのコミュニケーションを良好に保つ
【解散期の活動】
13.プロジェクトで学んだことを整理する
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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。