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2009年3月31日 (火)

【補助線】「プロジェクトマネジメントをする」vs「プロジェクトをマネジメントする」

◆プロジェクトマネジメントの2つのスタイル

プロジェクトマネジメントには2つのスタイルがある。

一つは、「システム工学」によるプロジェクトマネジメントである。システム工学というのは、「システム論」、「数理計画法」、「オペレーションズリサーチ(意志決定論)」、「ネットワーク論」、「制御工学」、「情報処理や計算」などを含む学問の体系であり、PMBOKに代表されるようなこれらの理論を使ったプロジェクトマネジメントの手法がこの記事でいう「システム工学」によるプロジェクトマネジメントである。ここでは、これをシステム工学型プロジェクトマネジメントと呼ぶことにする。

プロジェクトマネジメントという場合、一般的にはこれを意味している。

もうひとつは、「チームワーク」によるプロジェクトマネジメントである。こちらのスタイルは、そもそも手法として明確になっているわけでもなく、言ってしまえば、今までのマネジメントに対する知見を総動員して、「プロジェクトをマネジメントする」という感覚である。その中で、比較的、体系化された手法としてはアジャイルプロジェクトマネジメントがある。ここでは、チームワーク型プロジェクトマネジメントと呼ぶ。

専門性ということでいえば、システム工学型プロジェクトマネジメントはかなり、専門性の高いものである。これに対して、チームワーク型プロジェクトは、一般的なマネジメントの方法を「プロジェクト」に適用しようとするところに原点があり、マネジメント手法に対する専門性はあるとしても、マネジャーにとってそんなに専門性が要求されるものではない。

◆ジェネラリストとスペシャリストのプロジェクトマネジメント

この議論は、ジェネラリストとスペシャリストの議論と関連がある。

さしむき、チームワークによるプロジェクトマネジメントはジェネラリストが必要とするプロジェクトマネジメントとして位置づけられ、システム工学によるプロジェクトマネジメントはスペシャリストが必要とするプロジェクトマネジメントだと位置づけてもよいだろう。

なぜ、そうなるのか?

スペシャリストが必要とするプロジェクトマネジメントは多くの場合、専門性の統合が目的である。技術をはじめとしていろいろな分野の専門家を集め、その叡智を統合してプロジェクトを進めていく場合、どのような考え方で統合するのかという問題が出てくる。

極論すれば、専門性を持っている人間を統合するのか、人間的要素を取り除いて計画化を徹底的に行い、その計画の実行と状況の徹底的な定量化により結果として専門性を統合を目標を達成していく、という2つの考え方がある。これが、チームワークによるプロジェクトマネジメントとシステム工学によるプロジェクトマネジメントである。

スペシャリストの行うプロジェクトの場合、専門性の高さが成功の決め手になるケースが多く、したがって後者の方がよい。これに対して、ジェネラリストの行うプロジェクトでは、人間的要素がプロジェクト成功の決め手になる場合が多く、前者の方がよい。

これがそれぞれのプロジェクトマネジメントが、スペシャリストとジェネラリストに向いていると言っている理由である。

「プロジェクトマネジメント」の世界的標準であるPMBOKの動向を見ていると興味深いのは、最初はシステム工学によるプロジェクトマネジメントだけに徹していたが、第3版あたりから、わずかだがチームワーク的な要素を取り込みだしている。

PMBOKは基本的にナレッジベース(辞典)なのでそれでいいと思うが、現実にはこの2つを融合するというのは不可能に近い。というか、融合しようなどと考えるべきではないだろう。

◆システム工学型プロジェクトマネジメントの前提

上にも述べたように、スペシャリストの行うプロジェクトの特徴は専門分野が非常に広いことである。このため、

専門性の間口の広い大規模なプロジェクトで、関連する技術にすべて通じ、プロジェクトの全体像を見通せるマネジャーはほとんどいない

という前提がある。これが、システム工学型プロジェクトマネジメントの前提でもあり、だから、多くの専門家の力を集結し、綿密に計画を作ることによって全体をまとめていくという方法をとる。

ここで注意すべきことは、専門性の広さ(複雑性)とか、プロジェクトの規模というのはスペシャリストの仕事に対する属性であって、これがすべての仕事に共通する属性ではないことだ。

◆チームワークによるプロジェクトマネジメントの前提

ジェネラリストの仕事にはこのような属性では特徴づけることが難しい仕事が多く存在する。

例えば、企画のように専門性の広さや規模でみれば小さいが、発想やセンスなどのメンバーの能力、あるいはステークホルダの多さによる複雑性に対する対処がプロジェクトの成否の分かれ目になるようなプロジェクトがある。

このようなプロジェクトでは、

人間的要素に活路があり、如何に人間的要素を統合するかにプロジェクトの成否がかかっている

ということが前提になっている。

◆2つのスタイルを統合する

このように、ジェネラリストの扱うプロジェクトとスペシャリストの扱うプロジェクトはそもそも、プロジェクトとして異なるタイプのものであることが多く、故にプロジェクトマネジメントとして異なる手法を求められる。

プロジェクトマネジメントブームの中で、システム工学型プロジェクトマネジメントがずっと注目を浴びてきた。おかげで、スペシャリストのためのプロジェクトマネジメントの手法はかなり整備されてきたと思うし、また、普及もしてきた。

そこで、システム工学型プロジェクトマネジメントを、ジェネラリストのプロジェクトマネジメントとして適用することを考えるようになってきたが、これが成功する可能性は小さいように思う。上に述べたように前提も違うし、仕事の性格も異なるからだ。やはり、ジェネラリストの仕事の性格を考えた上で、システム工学とチームワークを統合したプロジェクトマネジメントが必要だろう。

実は、すでにシステム工学によるアプローチとチームワークによるアプローチを折衷したプロジェクトマネジメントの手法はある。クリティカルチェーンプロジェクトマネジメントである。

このような手法を使うのもよいと思うし、もう少し、一般的なマネジメントの手法を使って、プロジェクトのマネジメントを行うというのも一案だと思う。それこそ、マネジメントであるので、正解はないし、システム工学型プロジェクトマネジメントのように定型的(プロセス的な)方向性を模索する必要もない。

重要なことは、

「プロジェクトマネジメントをする」のではなく、「プロジェクトをマネジメントする」

という発想を持つことである。

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12.ステークホルダとのコミュニケーションを良好に保つ
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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。