【コンセプチュアル講座コラム】成果と成果物~労働制度の観点から
バックナンバーはこちら https://mat.lekumo.biz/ppf/conceputual_col/
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前回、成果物と成果を分ける時代だという話を書いたところ、ある方から成果とは何かという質問を頂きました。
【コンセプチュアル講座コラム】仕事の成果物と成果を分けて、働き方を変える
https://mat.lekumo.biz/ppf/2020/03/post-23d9.html
今回はこの点を踏まえて、もう一度、別の観点から整理しなおします。その観点とは、労働制度です。
労働制度には、時間型労働制と成果型労働制があります。この記事では、少し、乱暴ですが、時間型労働制は工場型パラダイム、成果型労働制はアート型パラダイムに基づくものだと考えて議論していきます。
工場パラダイムとアートパラダイムの違いはこちらをお読みください。
【PMスタイル考】第164話 プロジェクトは工場かアートか
https://mat.lekumo.biz/pmstyle/2020/02/post-d201.html
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◆成果型労働制の紆余曲折
まず最初に、労働制度を巡って、これまでのどういう動きがあったかを簡単に整理しておきたいと思います。一言でいえば、経営は成果型にしたいが、組合は時間型に拘り、紆余曲折をしてきたといえます。今でも、この紆余曲折は続いています。今回は触れませんが、この議論は終身雇用制との関係もあると思われます。
2018年に「特定高度専門業務・成果型労働制」と呼ばれる制度が法制化されました。いわゆる「高度プロフェッショナル制度」です。これは、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」として策定されたもので、働き方改革の前提になっている法律でもあります。
この法制化は紆余曲折ありました。事の始まりは、2005年に日本経団連がホワイトカラーエグゼンプション制度を提案したことです。それ以前からあった裁量労働制では、成果型労働制の疑似的な形態で、労働時間と成果が連動しない職種においてあらかじめ労使間で定めた時間分を労働時間とみなして(みなし労働時間)賃金を払うものでした。
しかし、裁量労働制では、基本になるのはあくまでも労働時間で、労働管理は時間で行われ、成果型労働制とはかけ離れた非常に不自由なものでした。ここに問題意識を持っていた経団連がより柔軟に対応可能な労働時間制度としてホワイトカラーエグゼンプション制度を提案しました。
さらに、2006年には日米投資イニシアチブ報告書で、米国がグローバル戦略の一環として日本にもホワイトカラーエグゼンプション制度を導入することを要請し、限定的ではあります。そして2014年に法制化されようとしましたが、労働組合を初め、世間には反対の声が多く、結局、国会に提出できないままで終わりました。
このような経緯を経て、労働を時間で評価するのではなく、成果で評価する制度として法制化されたのが「特定高度専門業務・成果型労働制」、いわゆる高度プロフェッショナル制度でした。
◆高度プロフェッショナル制度
高度プロフェショナル制度は、「高度の専門的知識等を要する」とともに「業務に従事した時間と成果との関連性が強くない」業務を対象として、成果労働を認めるものです。法制化されたた2018年の時点で例として挙げられていたのは、
・金融商品の開発業務、ディーリング業務
・アナリストの業務(企業・市場などの高度な分析業務)
・コンサルタントの業務(事業・業務の企画運営に関する高度な考案または助言の業務)
・研究開発業務
・アナリストの業務(企業・市場などの高度な分析業務)
・コンサルタントの業務(事業・業務の企画運営に関する高度な考案または助言の業務)
・研究開発業務
などでした。
ちょっと考えればわかりますように、対象業務とされる2つの条件を満たす業務は名称の通り、専門業務です。そして、この制度が狙っているのは、高い専門知識と経験に基づいて、成果物を速く生み出すことができる人材の育成です。
その意味で、この制度はみなし時間もなく時間をベースにした労働制度ではないものの、成果物の量で管理する労働制度だといえます。
◆工場からアートへ
高度プロフェッショナル制度が働き方改革の前提になっていることはあまり周知されていませんし、高度プロフェッショナル自体、定着しているわけではありません。働き方改革が効果的に進まない一因になっており、重要な課題です。
その一方で、実態に合わなくなってきているという現実もあります。世界はVUCAの時代に突入して、経験が役に立たなくなっていますが、高度プロフェッショナルは未知の領域で創造的な成果物を生み出せる人材ではないためです。
高度プロフェッショナル制度の前提には、問題には正解があることがあります。従って扱う情報の量、出せる答えの精度や量が問題になります。これは工場パラダイムで行う業務であり、未知の領域で創造的な成果物を生み出せるアートパラダイムで行う業務ではありません。
そもそもを言えば、米国の要求したホワイトカラーエグゼプションのイメージ自体が、専門スキルに基づき、速いスピードで仕事ができる19世紀に活躍していた米国のエリートのホワイトカラーのイメージでした。
しかし、20世紀になるとこのような能力が事業の成長に貢献できなくなり、別のタイプの人材が活躍するようになっています。例えば、スティーブ・ジョブズを見ると、明らかに異なる軸の才能で事業を成功させています。GAFAのいずれの企業をみても、同じことが言えるでしょう。
◆正解がある世界では成果物、ない世界では成果が求められる
彼らの軸になっているのは、成果物ではなく、成果です。
成果物を生み出すことが成果だという考え方は工場パラダイム、すなわち、時間労働制の考え方です。これは、正解があることを前提とした考え方です。
正解がある問題でしたら、基本的にかけた時間に比例する成果物が得られ、顧客がの得られる成果も提供できる成果も大きくなります。そして、成果物を生み出す効率や成果物の品質が競争要因になります。顧客は効率がよく、品質が高い企業を選ぶわけです。
ところが、正解がない場合はそうはいきません、正しいものはないので、成果物が好むかどうかが問題なります。好まれるためには、何が役に立つか分からない中で何が意味があるかが問題になりましす。言い換えると、顧客にとっては成果物ではなく、成果そのものが問題になるのです。
成果と成果物の関係づけ方はこちらの記事をお読み頂ければと思います。
【PMスタイル考】第158話:プロジェクトの成果と成果物
https://mat.lekumo.biz/pmstyle/2019/10/post-f682.html
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◆求められるものの変化してきた例
例えば、コンサルティングというサービスを例にとれば、従来だと、顧客は問題を説明し、コンサルティングファームは経験に基づき、その問題解決にかかる時間を想定し、それをベースにして費用を見積もります。
そこに、コンサルティングファームやコンサルタント個人の持つシステムやノウハウ、効率が加わり、差別化が行われますが、時間をベースにすることには違いはありません。顧客の立場からいえば、同じ費用で、より高品質のソリューションをより多く得ることができ、選択の幅が広がる企業と取引します。
しかし、ソリューションがなくなってきた今、このようなやり方は通用しません。
顧客の求める成果物(調査、分析)ではなく、成果を実現することが重要になります。そのためには、顧客がコンサルティングファームの提言を気に入り、それを使って自分たちの新しい事業を作っていく動機になるようにしていく提言が必要なのです。
このようにVUCAという正解がない時代には、成果物は成果という目的を実現するための手段で、成果を実現することにフォーカスした働き方にしていく必要があります。
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