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2015年6月11日 (木)

【戦略ノート319】プロジェクトマネジメントの実践力はどこから生まれるのか

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Jissen

◆スキルとコンピテンシー

プロジェクトマネジメントの知識は身についたが、実践できないという悩みは多い。今回の戦略ノートはこの問題について考えてみたい。

実はこの問題、別に新しい問題ではない。プロジェクトマネジメントの実践力を上げるのに多くの企業はテンプレートやフレームワークを準備しているし、さかのぼればPMBOK(R)という偉大なフレームワークもある。

しかし、このようなフレームワークを準備することによってプロジェクトマネジメントを実践できるようになるのはおそらく2~30%のプロジェクトマネジャーであろう。何が足らないのかと考えたときに、まず思い当たるのがコンピテンシーである。

たとえば、スケジュールを作るとしよう。プロジェクトマネジメントの手法を学んだり、見積もりのフレームワークが準備されることにより、必要なすべての情報があれば見積もりはできるだろう。ところが、プロジェクトはルーティンワークではないので、そんなケースはめったにない。そこで、不十分な情報から如何に意味のある見積もりをするかという問題になってくる。

ここでコンピテンシーが低い人は必要な情報が集まるまで立ち止まってしまうが、コンピテンシーの高い人はプロジェクトでは段階的詳細化が必要だと考え、動きながら情報を集め、プロジェクトを進めていく。ここで重要なことは、計画を実行するものだと考えていることである。これがコンピテンシーの違いの本質である。



◆ヒューマンスキルが足らない

次に出てくるのは、ヒューマンスキルである。コミュニケーションスキル、ネゴシエーションスキルなど、相手に影響を与えるスキルがヒューマンスキルであり、さまざまなものがある。

たとえば、上の計画の例でいえば、計画を実行するにはあるステークホルダーの協力が必要だったとする。そのときコミュニケーションにより協力を引き出すといったことがヒューマンスキルの役割である。

計画自体もそうだし、特に計画を実行するときにはヒューマンスキルのレベルによって実践力に大きな差が出てくる。したがって、プロジェクトマネジメントのトレーニングではヒューマンスキルのトレーニングが必ず入っている。


◆知識、コンピテンシー、ヒューマンスキルで十分か

プロジェクトマネジメントの知識、コンピテンシー、ヒューマンスキルと揃えば、怖いものなしのように見える。この3つを完璧に備えている人は珍しいので、証明するのはなかなか難しいのだが、これだけで不十分であることが多い。

たとえば、協力の必要なステークホルダーをコミュニケーションによって巻き込んでいくとする。このようなときにヒューマンスキルは情に訴えるという機能をする。もちろん、これで協力してくれるステークホルダーもいるだろう。しかし、そうでない人も多い。

そのようなときには交渉ごとになる。これもヒューマンスキルなのだが、コミュニケーションとは本質的に違う点は、相手への接し方だけではなく、考えることが必要になることだ。つまり、相手はどのようなベネフィットがあれば協力してくれるかを考えなくてはならない。相手の言い分を全面的に呑むことはできず、落としどころになる提案を考えなくてはならない。外注のように金で済めば話は早いが、組織内のステークホルダーや顧客だと金ではまず済まない。

このときには相手のベネフィットを考える力が必要である。一般的にいえば、ヒューマンスキルを発揮するためには、考える力が重要であることが多い。


◆チームによる思考の前提は個人が考えること

ヒューマンスキル的にいえば、この問題をチームで議論することで解消しようという向きがある。

しかし、ブレーンストーミングでめったなことでは一人で考えた以上のアイデアが出てこないことを鑑みると単純に人が集まって考えれば解決するという問題ではないことは明らかだ。三本の矢になるか、烏合の衆になるかはわからない。その分岐点はそこに集まる個人がどれだけ考えられるかだ。

もちろん、チームで考えることは重要なのだが、その前に個人が考えることができないとチームとしていいアイデアは出てこない。1の力を持つ人が3人集まれば4にも5にもなるかもしれないが、0.8の人が3人集まってもなかなか1にはならない。チームで考えるというのはそういうものだ。


◆四本目の柱はコンセプチュアルスキル

この考える力はプロジェクトのさまざまな局面で必要になってくる。これがコンセプチュアルスキルである。たとえば、見積もりでいえば、やり方の大枠を決めて見積もりをする。そしてその見積もりの中に入るような具体的な作業方法を見つける。これはコンセプチュアルスキルに他ならない。

プロジェクトが大規模になればなるほど、複雑になればなるほど、コンセプチュアルスキルは重要性を増してくる。コンセプチュアルスキルがなくてはプロジェクトマネジメントはできなくなるといっても過言ではない。

プロジェクトマネジメントの実践力は

・プロジェクトマネジメントスキル
・コンピテンシー
・ヒューマンスキル
・コンセプチュアルスキル

の4つの柱が揃って初めて生まれるといえる。4本目のコンセプチュアルスキルのレベルが高いのが前回述べたタレントに他ならない。


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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。