【戦略ノート318】タレントとしてのプロジェクトマネジャー
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プロジェクトマネジャーは与えられた課題をきちんとやり遂げる仕事である。そこでは期待される価値(計画上の利益)を生み出すことは求められるが、それ以上は期待されていない。
そんな人材イメージを持っている人は少なくないだろう。だが、本当にそれでいいのだろうか?
この議論、実は、PM養成マガジンを創刊したときから持っている問題意識である。PM養成マガジンの中でもプロフェッショナルとか、プロジェティスタとかいろいろと提案してきたが、本質的な問題である新しい価値を生み出すべきかどうかについてはモヤモヤしたものがある。
最近、酒井 崇男さんという方の書かれた「タレントの時代」という本を読んでいてプロフェッショナルという概念への視座が少しずれていたことに気がついた。
「「タレント」の時代 世界で勝ち続ける企業の人材戦略論 (講談社現代新書) 」
この本ではタレントとは、
「チームのプロフェッショナルやスペシャリストの力を引き出しながら、顧客が「これしかない。欲しい」と思うような、使ってみて満足するような新しい製品やサービスを生み出すことができる人、知識や才能を利益に変えることができる人」
だとしている。要するにプロフェッショナルは自分で新しい価値を生み出すものではなく、タレントのもとで自分の持つ力を発揮する存在だというのだ。確かにそうかもしれない。
◆プロフェショナルなプロジェクトマネジャー
もともと、プロフェッショナルという概念にもっとも影響を与えているのはドラッカーである。ドラッカーのプロフェッショナル論はエグゼクティブという概念に基づいている。すなわちエグゼクティブには「自らの知識や地位のゆえに組織の活動と業績に実質的な貢献を果たす」(経営者の条件)ことを期待されているわけだ。プロフェッショナルはエグゼクティブであり、したがって新しい価値を生み出す必要があると考えていた。
が、これは拡大解釈であり、組織への貢献というのはよく考えてみれば期待される価値を生み出すことであるということに気がついた。つまり、プロフェッショナルなプロジェクトマネジャーとは、計画された価値(予定された価値)を生み出せばよい。
言い換えれば、プロジェクトマネジャーの仕事は与えられたリソース(ヒト、モノ、カネ)を活用して、予定されている利益を上げることである。新しい価値を生み出すことはあくまでも二次的な役割に過ぎない。
ただ、この仕事は誰からやらなくてはならない。
◆タレントの役割
問題になるのは、誰が新しい価値を生み出すかということだ。
新しい価値を生み出すとは、新しい技術を開発するとか、新しいビジネスモデルを生み出すとか、いずれにしてもプロジェクトとして明確な計画があって行う活動ではない活動だ。イノベーションと言ってもよい。
一般的に組織で行う業務に対して、これらの業務は不確実性が高いため、組織とは別にプロジェクトを立てて行うことが一般的である。ところが上に述べたように、このような役割はプロフェッショナルなプロジェクトマネジャーの役割とはいえない。
そこで新しいロールが必要になってくる。それが、「タレント」である。
実はこの定義は、プロジェティスタの役割に近い。マネジャー+エンジニアである。
◆プロジェクトのタイプとタレント
我々はプロジェクトのタイプを新規性と複雑性(規模)の2つの軸で考えている。すると以下の4つの領域ができる。
(A)新規性が小さく、複雑性も低い
(B)新規性が小さく、複雑性が高い
(C)新規性が高いが、複雑性は低い
(D)新規性が高く、複雑性も高い
計画された価値を生み出すことを期待されているのは、主に、(A)と(B)の2つのタイプである。これはプロフェッショナル型のプロジェクトマネジャーが必要になる。
また、いい悪いは別にして、(C)の場合は個人の活躍に期待することが多い。そこで、タレントが必要になるのは、まずは(D)ということになる。
(D)のプロジェクトは製品開発やITに多いが、多くの場合、それは回避するか、あるいは新規性を落として(B)のプロジェクトにしてしまっていることが多いが、これは大きな機会損失である。
また、(C)の領域もタレントがいた方が斬新なアイデアが生まれ、価値が大きくなるケースが多い。
このように、新規性の高いプロジェクトはこれからどんどん増えていくと思われるので、人材価値としてはプロフェッショナル型からタレント型のプロジェクトマネジャーの方が価値がある。そのようなタレント型のプロジェクトマネジャーをめざしてみてはどうだろう。
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