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2014年11月 6日 (木)

【イノベーション戦略ノート:060】イノベーションの起こる交差点をつくる

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◆あるブレークスルーの事例

水平思考やシックスハットで知られるエドワード・デ・ノボ博士がイノベーションは既存の知識の組み合せである主張のために紹介している事例がある。事例は、人の腎臓の特性に関わるもので、以下のようなものだ。

生理学者は長年腎細管の長いループが何のためにあるのか突き止められないでおり、おそらく特別な機能はないのだろうと考えていた。ところがあるとき一人のエンジニアにループを見せると「対向流増幅誌システム」の一部だろうと即座に指摘された。「対向流増幅システム」は溶液の濃縮のための一般的なエンジニアリングシステムだ。これによって、腎細管の謎が解けた。


◆イノベーションは組み合せである

この事例はイノベーションの本質を示している。このエンジニアは生理学の知識は全くないし、医学の教育を受けたこともなかった。一言でいえば生理学者の抱える問題に対して、まったくの素人だった。

また、「対向流増幅誌システム」もエンジニアリグの教科書に出てくるような知識であり、このエンジニアが創造的であったかどうかは別にして、この場面で創造性を発揮したわけではないし、洞察したわけでもない。その場に居合わせただけだといってもいいかもしれない。おそらく、同様の専門知識を持つ別のエンジニアにループを見せても同じことが起こったであろう。

さらにいえば、生理学者も創造的な思考をしたわけでもない。自分たちの抱えている問題をエンジニアに伝えただけだ。


◆創造的な場

この事例で考えたことは2つある。一つは、誰も創造性が発揮しないところで、イノベーションが起きたということだ。ブレークスルーは創造性がもたらすと考えがちであるが、それがすべてとは限らない。

もう一つは、場を作ることの重要さである。この事例を敢えて創造性という観点から分析すると、多様性のある場自体が創造性を持っているということができる。つまり、創造的な場があれば、イノベーションが起こる。

むしろ、人が創造性のある人が中心になってイノベーションを起こしている場合にも、それは人ではなく、その人も含めた場が創造的であると考えた方がしっくりくる。


◆イノベーションマネジメントの本質は「交差点」

この事例のもう一つの側面は、創造的な場を創る活動は創造的であるということだ。

この事例のもっとも創造的な活動は、エンジニアに問題を伝えたことだ。結果として問題解決が可能な場を作っている。これは極めて創造的な活動であり、イノベーションにおいて、マネジャーが行うべき活動である。

イノベーションのコンサルティング会社を経営しているフランス・ヨハンソンはこのような場を「交差点」と呼び、異なる人々や視点が交差したときに新しいアイデアが生まれてくると述べている。詳しくは「The Medici Effect」という本が復刊されたので読んでみてほしい。

イノベーションがいかに効率的にできるかは、よい交差点をつくれるかによる。腎細管の事例はセレンディピティの例としても語ることができそうな事例であるが、この出会いを意図的に行うことがイノベーションマネジメントの一つのポイントであり、創造性の必要な活動である。


【参考資料】
パディ・ミラー、トーマス・ウェデル=ウェデルスボルグ(平林 祥訳)「イノベーションは日々の仕事のなかに――価値ある変化のしかけ方」、英治出版(2014)

フランス・ヨハンソン(幾島幸子訳)「アイデアは交差点から生まれる」、阪急コミュニケーションズ(2014)

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。