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2014年11月 4日 (火)

【イノベーション戦略ノート:059】イノベーションを「基本的仮定」にする

バックナンバー https://mat.lekumo.biz/ppf/cat9922971/━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

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◆トヨタのイノベーション

「トヨタ式のリーダー育成法」という本を読んでいて、ふと、思ったことがある。それは、イノベーションを当たり前にするというやり方もあるということだ。以前、PMスタイル考に

第91話:日常業務の一環としてイノベーションを実現する
https://mat.lekumo.biz/pmstyle/2014/10/post-9d3c.html

という記事を書いたが、その一つの方法だといえる。

トヨタ自動車の創業者ともいえる豊田喜一郎は1931年にガソリンエンジンの試作を行う。これがトヨタ自動車の実質的なスタートになる。このとき、自動車において日本は米国に数十年の遅れをとっていたそうだ。つまり、国産で自動車を作るには数十年かかると考えられていた。ここで、豊田喜一郎は数十年を埋める決心をする。イノベーションに舵を切ったわけだ。

そして、一つ一つ、課題に取り組んでいく。まず、最初に取り組んだのがエンジンの国産化だった。このような状況の中で60馬力のエンジンを1935年5月までに作るを中心にした4W1Hを決める。そして、1年前の時点では30馬力のエンジンしかできていないかったにもかかわらず、ギャップを見える化して、目標を達成。

ここを足掛かりにして、なんと1936年にはトヨタ初の生産型乗用車「トヨダ・AA型乗用車」の生産を始める。エンジンの試作から5年後のことだ。

 


◆「豊田綱領」

なぜ、このようなことが実現できたのだろうと考えてみたときに、創業するとはそういうことだという意見を持つ人が多いと思う。それはそのとおりだと思う。実際に、大手の財閥が国産化は難しいと言っている中で、豊田喜一郎は吹けば飛ぶよな豊田だからできるといったという。

興味深いのは、多くの企業が成長するとチャレンジしなくなる中で、トヨタは米国で大成功をおさめ、また世界に先駆けてハイブリッド車を展開し、今度は燃料電池自動車も展開しようとしている。順風満帆ではなく、何度となく大きな失敗をしている。なぜ、このようにイノベーティブであり続けることができるのか。

冒頭に紹介した本を読んでいると、継続的にイノベーションを起こす仕組みを作っていることと、それを実践していくリーダーを育てていること。その中核にあるのが、トヨタの原点である「豊田綱領」である。これはトヨタの創業者である豊田佐吉のえを豊田喜一郎らが中心になってまとめ、1935年に発表されたもので、以下のよ
うなものである。

一、上下一致、至誠業務に服し、産業報国の実を拳ぐべし
一、研究と創造に心を致し、常に時流に先んずべし
一、華美を戒め、質実剛健たるべし
一、温情友愛の精神を発揮し、家庭的美風を作興すべし
一、神仏を尊崇し、報恩感謝の生活を為すべし

※トヨタ自動車ホームページより引用
http://www.toyota.co.jp/jpn/company/history/75years/data/conditions/precepts/


◆トヨタウェイと「豊田綱領」

トヨタに限らず、ウェイを決めている企業が増えてきた。中でもトヨタはジェフリー・ライカーという米国の研究者の手で分析され、ウェイ経営のブームを起こした企業でもある。そして、トヨタウェイに基づいて、WHYを5回繰り返すで知られる「トヨタの問題解決」がある。

意外と知られていないが、トヨタウェイの基盤になるのが「豊田綱領」だ。「豊田綱領」は行動指針である。問題の設定、つまり、あるべき姿(目標)はウェイで決まる。そして、その上位にある目的は「豊田綱領」を照らして決まる。


◆そもそもを2回繰り返す

トヨタにはWHYを5回繰り返す以外にも

「そもそもを2回繰り返す」

というウェイがあるそうだ。

よく考えられているなと思うのは2回ということだ。おそらく2回、そもそもを繰り返して、「豊田綱領」に整合しなければそれは行動の目的としておかしいということなのだろう。これはかなり行動規範に適した行動を要求されることになる。

逆にいえば、そもそもを2回繰り返して「豊田綱領」と整合する活動はイノベーティブな事業を要求する目的だともいえる。

重要なことは、トヨタはこのような方法で、イノベーションを当たり前の活動にしているということだ。多くの大企業がイノベーションができないというのは、そもそも行動規範にそのような精神が入っていないか、入っていても実践されていない。


◆イノベーションを基本的仮定とする文化

トヨタでは、「豊田綱領」が実践されることにより、イノベーション文化が定着しているように感じる。エド・シャインが組織文化の3つのレベルがあると指摘した。これをトヨタに当てはめると

「豊田綱領」:基本的仮定
トヨタウェイ:価値
トヨタの問題解決:人工物

となっていると思われる。

つまり、トヨタのように持続的にイノベーションを起こせる企業はイノベーションが基本的仮定になっていなくてはならないということだろう。


【参考文献】

「ザ・トヨタウェイ」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4822244156/opc-22/ref=nosim
「トヨタの問題解決」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/404600312X/opc-22/ref=nosim
「組織文化とリーダーシップ」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4561235612/opc-22/ref=nosim

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。