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2014年10月20日 (月)

【ブックレビュー】イノベーションは日々の仕事のなかに――価値ある変化のしかけ方

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パディ・ミラー、トーマス・ウェデル=ウェデルスボルグ(平林 祥訳)「イノベーションは日々の仕事のなかに――価値ある変化のしかけ方」、英治出版(2014)

イノベーションはその重要性は古くから言われているが、なかなか、うまく実現できない課題である。そのため、偶発性(セレンディピティ)の産物だとか、組織ではなく卓越した個人が実現するものだといった説さえある。

この本は、イノベーションは特別なことではなく、奇をてらってもうまくいかない。日常業務の一環として行うことが成功させる方法であるということを前提に、世界最高峰ビジネススクールIESEのイノベーション実践法を解説した一冊である。

この本の現実的な点は、イノベーションのリーダーとイノベーターの役割を明確に分離していることである。そして、日常業務の一環としてイノベーションを実現するには、イノベーションのリーダーの役割が重要であると考えている。

イノベーションのリーダーは設計者(アーキテクト)になることで、日常業務の一環として革新的な行動を実践できる職場環境を整えることである。

そこで、この本では3つの重要概念(前提)をベースにしている。

(1)イノベーション・リーダーになるのと自らがイノベーターになるのは異なる
(2)イノベーションは日常業務の一環として実現するものである
(3)イノベーション・リーダーにとって重要なのはいかにしてイノベーションの実現を支援するかである

(1)はしばしば混乱が見られるところだが、大前提である(2)を実現するには、イノベーション・リーダーはイノベーターではなくイノベーターを支援する役割になることだというもの。

(3)で重要なことはイノベーションリーダーは部下を変えようとしてはならないということだ。部下を変えずに環境を変えることが求められる。

その上で、このような重要な概念のもとで、アイデアを引き出し、育て、実現させる「5つの行動+1」を示している。

5つの行動とは

1.フォーカス
2.外の世界とつながる
3.アイデアをひねる
4.アイデアを選ぶ
5.ひそかに進める

の5つである。それぞれについて

1.真に重要なことに焦点を絞るには?
2.影響力のあるアイデアを生み出すには?
3.アイデアに磨きをかけるには?
4.本当に価値のあるアイデアを選別するには?
5.社内政治をかいくぐるには?

といった問いに事例を示しながら答えている。そして残りの+1がよくて

+1 あきらめない

こと。これには、イノベーション追求のモチベーションを持ち続けるにはどうすればよいかを述べている。

この本が興味深いのは、日常業務の中でのイノベーションというコンセプトそのものはもちろんだが、このコンセプトから始まっているので、事例も理論も通常のイノベーション本には見られないようなものが多く取り上げられていることである。

イノベーションという発想はもう古いという話をよく耳にする。イノベーションを技術革新だとみている人からはそのように見えるのかもしれない。

ただ、現状認識としては、イノベーションが古いというよりは、ドラッカーのいうようにイノベーションは当たり前の行為であるという方が正しいように思う。事実、戦略経営はイノベーションなしでは成り立たないし、それは戦略実行の業務の中で行っていかなくてはならない。そこには、イノベーションとオペレーションを明確に区別するのは難しい。

まさにこの本が想定している世界で、それに対して本書はイノベーションリーダーとなるマネジャーにとって貴重な知見を与えてくれる。

このような考え方の中で、マネジャーはある種のサーバントリーダーシップを求められる。その意味で、この本はサーバントリーダーシップを発揮する方法を解説しているといってもよい。

マネジャーの人にはぜひ本書を読んで、自分のマネジメントをイノベーティブなものに舵を切って戴きたい。

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。