【イノベーション戦略ノート:032】良い失敗と悪い失敗
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◆組織における3種の失敗
イノベーションにおける失敗について語られるときに、良い失敗(意味のある失敗)と悪い失敗(意味のない失敗)という言葉が出てくる。今回の戦略ノートは、失敗の意味について考えてみた。
失敗の区分についてはいろいろな言及があるが、「最も影響力のある経営思想家」50人に選ばれた組織学習の専門家であるハーバードビジネススクールのエイミー・エドモンドソン教授は、組織における失敗には
(1)予防できる失敗
(2)複雑さに起因する失敗
(3)「知的な失敗」
の3つがあると指摘している。この区分がもっともしっくりくる。
※「安心して失敗できる組織をつくる 失敗に学ぶ経営」(ダイヤモンド・ハーバードビジネスレビュー、2011年7月号)
予防できる失敗とは、不注意や不勉強による失敗である。複雑さに起因する失敗とは、業務プロセスやタスクの複雑さ、難しさに起因する失敗である。このような失敗は(1)の失敗とは異なり、避けることは難しい。
イノベーションにおいて重要なのは、(3)の知的な失敗である。知的な失敗というのは、デューク大学のシム・シトキン教授の造った言葉だ。
◆知的な失敗
知的な失敗としてイメージしやすいのはリーン開発である。通常の開発では失敗はコストに比例し、代替案を増やせばコストがかかるので、抑制せざるを得ない。つまり、失敗(採用されない代替案)は不可避だと思いつつも、できるだけ避けようとする。
これに対してリーン開発では、開発の初期段階で低コストでアイデアや技術の代替案の検討を行う方法を考え、できるだけ多くの代替案を試す。言い換えると、できるだけ多くの失敗をする。そして、その失敗で得られた情報や知識は他の開発でも活かす。これによって、他の開発ではすでにある知見を使うことができ、スピードアップが図られるとともに、失敗コストが減るので、開発コストを抑えることができる。
このように知的な失敗は、アイデアや技術がうまくことを証明するための実験や、イノベーティブな方法の可能性を探るための実験における失敗である。このような失敗はイノベーションにおいては不可欠であるし、如何に上手に失敗するかがイノベーションの成果を左右するといっても過言ではない。
◆失敗とは結果とは限らない
ここで失敗について考えるときに、我々は失敗は結果であると考えがちであるが、実は知的な失敗というのは手段でもあることに気づく。結果としての失敗は、成果を小さくする。手段としての失敗は成果を大きくする。
たとえば、iPhoneを語るときに、欠かすことのできない製品にアップル・ニュートンという製品がある。1990年代の前半に開発された世界初の個人情報端末で、大失敗をした。
この製品はアップルにとってビジョンそのものだといってもよい製品で、アラン・ケイが構想した「ダイナブック」というパーソナルコンピューティング環境を具現化したものだったのだ。現在のPCはアップルのMacintoshが原型になっているが、ダイナブックはそのPCを再発明するものだったのだ。
Newtonは失敗し、ジョブズはアップルを去り、再び、復帰し、そののちに電話の再発明としてiPhoneが生まれるが、iPhoneのデザインはNewtonの失敗から多くを学んでいるように見える。iPhoneはNewtonにテクノロジーの進歩を加えたものだという人もいるが、Newton(とiPod)がなければ、全世界の人々の生活を変えたといわれるiPhoneは別の姿のものになっていたかもしれない。
◆失敗を意味のあるものにするには、レジリエンスが必要
このように失敗することによって、元々の構想(目的)をよりインパクトのある形で実現することを「レジリエンス」という。イノベーションやイノベーターには、レジリエンスが不可欠である。
イノベーターのレジリエンスについては、戦略ノートの第21話に
【イノベーション戦略ノート:021】イノベーターのレジリエンス
という記事を書いているので、読んでみてほしい。
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