【イノベーション戦略ノート:031】自分の使いたいものを作る
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◆イノベーションをめぐる2つの考え方
イノベーションは生活者の観察から見とれるニーズから生まれる
という考え方をする人が増えてきた一方で、
イノベーションは市場ニーズを知り、顧客ニーズを知るところからは起こらない
と考える人もいる。どちらが正しいのだろうか。
たとえば、アップルで世紀初頭にして、世紀のイノベーション「スマートフォン」を実現したスティーブ・ジョブズは
・顧客は自分たちが何をほしいか知らない
・自分が使いたいものを作る
といった発言をしている。つまり、後者の立場をとっている。
もう一つ例を上げると、ソニーの伝説の開発者でエアボードを開発した前田悟氏は自著「ソニーの伝説の技術者が教えるイノベーションの起こしかた」(中経出版、2014)において、
ソニーには自分がほしくなる商品を作れという文化がある
と言っている。この2つのイノベーションに共通するのはコンセプトの斬新さである。
◆シンプルが唯一の解か
ところが、iPhoneは大ヒットしたが、エアボードは残念ながら成功とは言い難い結果に終わった(ただ、エアボードのコンセプトであるロケーションフリーは今でも追いかけられている)。この違いはどこで生まれたのだろうか?
ここで出てくる議論が「ガラパゴス」である。
ガラパゴスとは日本の主に電子製品で、技術主導で一般ユーザが使わないような機能を作っていき、グローバルな市場では非常に特殊な位置づけになる製品を開発していることをガラパゴス諸島の生態系になぞらえた言葉である。
この対比として、アップルの特徴は「シンプル」だといわれている。実施に、iPhoneは恐ろしくシンプルである。では、機能が多いことが問題なのだろうか。
そうではなく、使われない機能が多いことが問題なのだ。そこで、顧客の声を聞こうということになるが、実はここに落とし穴がある。
◆顧客はニーズを求めているわけではない。何かいいものを求めている
すでにある機能を改善していくことに対しては、顧客の声は唯一のよりどころだといっても過言ではないくらい重要だ。新しい機能についても結局のところユーザが使ってくれないと意味がなく、その意味で重要性は変わるものではない。ただし、考えるべきことがある。
これまでの延長線上ではない新しい機能を提示されてこの機能を使いますかといわれても適切な答えは得られないだろう。ジョブズのいう顧客は自分のほしいものを知らないという指摘は今、概念がないものを顧客はほしがらないという意味だが、実は、このレベルでも分からないというの現実だと思われる。
シーズという言葉があるが、顧客は必ずしもシーズを求めているわけではない。ニーズではなく、「何かいいもの」を求めているのだ。そして、その答えは開発者が持っているし、ある意味で技術スキル以上にこのセンスが重要なものだといえる。
◆何かいいものを与えられるのあセンスの問題
このように考えていくと、上のスマートフォンとエアボートの違いは、ジョブズと前田氏の生活者としてのセンスとか、洞察力の違いというあたりが妥当なところだろう。これは前田氏の問題というより、日本のエンジニアの共通的な問題ではないかと思う。
ではどうすればよいのか。
基本的には、「自分たちがほしいものを作り、プロダクトアウトをする」というスタンスが望ましいと思う。ただ、ジョブズのように洞察力のある人は珍しく自分たちを多様化することが重要ではないだろうか。
そのための一つの手法として注目されるのがフューチャーセッションのように、いろいろな人の意見が混ざる場を作ることだ。
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