【イノベーション戦略ノート:019】日本型イノベーションの方向性
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◆小型化と詰め合わせ
前回、「借りる」をやめるという話をしたが、では、日本の独自のイノベーションの方法というのはあるのだろうか?
日本的なイノベーションというと、真っ先に思い浮かぶのが、小型化である。一説によると日本人の小型化思考は奈良時代の折り畳み式のセンスから始まっているという。最近でいえば、ウォークマンから始まって、ビデオカメラ、デジカメ、携帯電話といくらでも例はある。
小型化とセットなのが、つめこみである。ガー・レイノルズはプレゼンテーションZenの中で、日本の幕の内弁当のつめこみを芸術的だと称したが、このようなつめこみが日本の製品の特長の一つになっていることは間違いない。代表は携帯電話である。欧米のフューチャーホーンに対して、恐ろしく、多機能である。おそらく、欧米のメーカではこんなつめこみはできない。まさに芸術だ。
この詰め合わせの背後にあるのが、摺合せというやり方である。摺合せが小型化を可能にし、詰め合わせを可能にする。
◆デジタル化が小型化と詰め合わせを無意味なものに
ところが、小型化にしろ、詰め合わせにしろ、評価されなくなった。ガラパゴスと揶揄されるようにすらなっていった。これが日本の電子産業の衰退につながっていると思うのだが、その原因になっているのがデジタル(ソフトウエア)技術の発達である。
ハードウエアを主体にして製品を構成する場合には、小型化や組み合わせは革新的な技術である。その技術の中核になっていたのが半導体であるが、ソフトウエアが中心になると組み合わせ自体は革新的な技術にはならない。この流れで、最初に流れが変わったのが携帯型のオーディオである。デジタル化によってサイズを自由にできるようになり、小さいことより、使いやすいことの方が優先されるようになってきた。
そして決定的だったのは電話である。アップルが電話を再発明したと言われるが、電話機の機能とともも大きな変化であったのが、製品の構成方法である。iPhoneではファームウエアによる構成をやめ、ソフトウエアによる構成に切り替えた。このインパクトは大きく、ハードウエアの形状に制約をうけなくなり、デザインを競争力にすることが可能になった。そこで、ハードを中心に製品構成を考えていた日本のメーカは太刀打ちできなくなった。
◆ソフトウエアで競争できるか
であれば、日本企業もソフトウエアで革新すればいいという話になるが、これがなかなか、難しい。ソフトウエアの競争力というのは、文化に裏打ちされたアイデアの世界である。日本のソフトウエアは品質レベルは高いと思うが、ソフトウエアの文化が未成熟の日本ではなかなか、アイデアが出てこない。
スマートフォンのソフトウエアを考えても、欧米には恐ろしくクリエイティブなソフトウエアがあり、それがアップルの成功要因の一つになっている。残念ながら、日本の企業が作った革新的なソフトウエアは少ない。
スマートフォンよりもっと顕著なのは、ITである。日本では、ITイノベーションと呼べるような事例はほとんどないように思う。
◆広い意味のソフトウエアでサービスイノベーションを
ということで、つらつらと日本的なイノベーションの問題を述べてきたが、どうすればよいのか。ソフトウエアベースや、ITベースのイノベーションではなく、サービスベースのイノベーションを追求すべきではないかと思う。
日本がソフトウエアやITの分野で遅れととっているからといって、広い意味でのソフトウエアが弱いわけではない。むしろ、日本人の特徴は柔軟性にあり、古くから独自のソフトウエアを持っている。たとえば、おもてなしというのは素晴らしいソフトウエアであり、このソフトウエアを活用したサービスイノベーションを企てている人は少なくない。
こういう日本独自のソフトウエアを使ってサービスのイノベーションをしていくときに考えた方がよいのは、サービスの意味である。
サービスの中にはマクドナルドのように提供側がコントロールしているような例外もあるが、基本的にはサービスは顧客と提供者が一緒に作るものである。もてなしの考え方もそうである。
ところがモノづくりからサービスに移行して、新しいサービスを生み出していくときに、ここがうまくできていないことが多い。つまり、サービス形態としては革新性があるのだが、提供者側が一方的に与えるものになっている。
まずはここをうまくまとめて、その上で日本的なソフトウエアを組み込んだサービスにしていく必要がある。そして、サービスに必要な製品(ハードウエア)イノベーションを起こす。そういう流れが必要だろう。
そして、そのための有力なツールとなりそうなのが、デザイン思考である。デザイン思考については、これからイノベーション・リーダーシップの連載で取り扱っていきたい。
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